36話 不測
「いくぞ!」
ラグナが剣を構え、俺たちは同時に踏み込んだ。
「カァァン!」
ラグナの剣とリュシアの拳が交わり、鮮烈な火花を散らす。
「風掌!」
俺はリュシアの身体に風をぶつけ、一度距離を取った。
「ラグナ、俺が合わせるから全力でいけ!」
「了解!」
俺は既に生成し終えた3つの赫星を操作する。
「飛閃!」
ラグナが鋭く地面を蹴り、それを赫い光が追従する。
鋭い剣撃がリュシアの身体に到達する。
その時、赫い光が剣を包み込んだ。
「ガン!」
赤い光が炸裂し、リュシアの拳を弾き飛ばした
さっきより明らかに鈍い金属音が鳴る。
(いける!)
その拳が、ほんの少しだが欠けていた。
「双衝!」
ラグナの声に合わせ、赫い光を再度剣に纏わせる。
リュシアは両腕を前に構え、防御姿勢を取った。
「ダン!」
その剣はリュシアの腕にめり込んだが、
身体には到達せずに止まる、
ように思えた。
しかし、双衝により再度発生した衝撃が剣をさらに奥へ押し込む。
剣は身体の奥まで突き抜けた。
切断された上半身が、そのまま地面に落ちる。
(勝った?)
勝利を確認しようと、リュシアの身体を注視した。
そこで異常な物を目にする。
「は……?」
その切断面には血が一切滲んでおらず、何やら光る物体が見えているだけだった。
しばらくして、リュシアは腕を使って下半身によじ登り、身体を接合させた。
(どういう仕組みだ? コイツは何……)
「ゴフッ!」
思わず考え始めた途端、腹に鋭い衝撃を感じた。
「ヒナタ!」
口から赤い液体が溢れる。
その強烈な痛みの信号によって、その赤い液体が自分のものであることが分かった。
(なにが、起こった?)
霞んだ視界で状況を確認しようと顔を上げる。
そこには人形のような顔があった。
「お前!」
その顔に、ラグナの蹴りが叩き込まれた。
「大丈夫か?!」
リュシアを蹴り飛ばして距離を取り、ラグナが声をかけてくる。
「大じょ……」
話そうとすると、胃から強烈な不快感がこみ上げる。
(血か? 内臓がやられてるのか?)
俺は助かるのか?
ここからどうすれば勝てる?
……あいつは何者なんだ?
様々な疑問を抱え、ヤツに視線を向ける。
あの一瞬で硬質化する身体、桁違いな身体能力、そして……
あの身体の断面。
人間でも魔族でも、ほかの生き物でもない。
意識に沿って瞬時に変質する物質。
それは一つの仮説を想起させた。
「……魔力か?」
掠れた自分の呟き、にわかに信じがたいと感じた。
しかし、身体能力を上げるにも、身体を硬めるにも、魔力が必要となる。
そしてあいつの身体は生物のものでは無かった。
切断された身体から一切の血すら零れず、さらには一瞬で接合し、俺を攻撃してきた。
ならば最も可能性の高いのは身体が魔力であるということだ。
もしそうなら普通に戦っても勝てるわけがない。
(これを伝えないと……)
「あいつの身体は、多分魔力でできてる!」
「ヒナタ!」
なんとか声を振り絞ると共に、血反吐が出る。
倒れた俺の視界にはラグナの顔が映る。
「……何だと?」
(この声は…エイドス?)
予想外にも一番早く反応したのは、少し離れたところで交戦しているエイドスだった。
「身体が? 魔力?」
エイドスは頭を抱え、後退る。
「余所見してんじゃねぇよ!」
レグルがその隙を逃すまいと剣を振り下ろす。
その瞬間、
「そんなわけないだろう!!」
エイドスの怒号に呼応して、周囲に衝撃波が走った。
レグルは吹き飛ばされたが、なんとか受け身を取っている。
「えっ……?」
俺はその光景に目を疑った。
唐突に、リュシアの頬の一部が地面に落ちたのだ。
(リュシアの身体が欠けている?)
そう思ったと同時に、リュシアの身体は連鎖的に崩れていく。
少しずつ崩れていく身体から、右目が落ちてきた。
「………」
その目には、わずかに水滴が浮かんでいた。
「うおぉぉぉおお!」
レグルが怒りに任せ、頭を抱えるエイドスに突進していく。
「煩い! 黙れぇ!」
エイドスの怒号に合わせ、いくつもの稲妻が空中を走る。
(まずい……)
確かに、リュシアがいなくなった今は絶好の機会と言えるかもしれない。
しかし、激昂したエイドスに勝てるとは到底思えなかった。
「……ラグナ、俺を抱えて動けるか?」
「勿論だ! どこに、どこに運べばいい!?」
ラグナはひどく動揺していた。
俺の身体の損傷は、そんなに酷いのだろうか。
「馬に乗って全員で逃げろ。いいか? 全員だぞ?」
「分かった、分かったからもう口を開くな!」
「全員で……」
段々と狭まる視界の中で、ラグナの横顔を見る。
そこからはいくつもの水滴がポタポタと、降ってきていた。
(逃げ、ない、と…)
―――そこで意識が途切れた。




