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魔法は思考で使う。  作者: ひなぶり
2章

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29話 違和感

「どこ行ってたんだよ、お前」


ラグナは俺達が風呂を済ませた頃に帰ってきた。


「すいません」


シエルが夜遅くに帰ってきたラグナを詰めている。


「もしかして太陽が見えないの?」


「……見えます」


「じゃあ、暮れる前に帰れるよね?」


「まぁまぁ、遅れた理由を聞いてからでいいんじゃない?」


割とブチギレているシエルをなだめる。


「そうだな。じゃあ、納得できる理由を聞かせてもらおうじゃないか」


「はい、分かりました」


そしてラグナは、巨大樹の麓まで登ったことを話した。


そこでエイドスとリュシアという2人に出会ったこと。


リュシアは昔、魔女と呼ばれて周囲から迫害されていたこと。


そんな2人を救った、ある人がいること。


そして、そのある人に言われて、2人とも俺たちと同じように旅をしているらしいこと。


「へぇ……そんな奴らがいたのか」


「うん。結構いい奴らだったぜ」


「それで?」


「話してたら、いつの間にか日が暮れててさ。急いで帰ってきた」


「……つまり?」


シエルが眉をひそめる。


「……時間を忘れて帰るのが遅くなりました」


「最初からそう言え」


「ごめんなさい」


「もういいけど、次からは気をつけろよ」


シエルがラグナを睨む。


「以後、気をつけます」


「よし。風呂入ってこい」


「はい」


叱られた犬のようになりながら、ラグナは部屋を出た。


「ある人、か……」


俺はラグナが言った2人のことを考えていた。


「ある人? ラグナが言ってた人か」


「ちょっと気がかりでな」


「なにが? 別に悪い人でもなさそうだっただろ?」


「いや、ある人……恩人の方なんだが」


「差別した人を全員殺して助けた人か?」


「うん、そっちの方」


「別に、やり方が正しいかは置いといて、不自然なことでもない気がするけどな」


「いや、不自然だと思う」


「そうか?」


「シエルは、その話を聞いたことがあるか?」


シエルは少し考えて言った。


「……いや、無いな」


「村人が全員死んで、話が広まらないのか?」


「……離れていたとしても、少しおかしいか」


「そうだよな」


俺達は異世界転移魔法を使いそうな地域を探すために、アーカイブスで事件や異変についてかなり調べていた。


それでも、そんな事件の話は聞いたことがない。


「隠蔽されたか、余程辺境の閉鎖的な村か……」


「それに、村人を全員殺すようなやつが探してる人って、どんなやつだと思う?」


「……少なくとも、普通のやつではないと思う」


「……後でラグナから詳しく聞くか」


(俺達に関わりの無いことだといいが……)


しばらくすると、ラグナが風呂から上がってきた。


「なぁ、ラグナ。話してた2人について詳しく聞いてもいいか?」


俺は早速尋ねる。


「詳しくって言っても、もう話すことないぜ?」


「何でもいいから、気になったこととか」


「う~ん、そうだなぁ」


しばらく首を傾げてから、ラグナは言った。


「そういえば、2人ともどこで知り合ったか覚えてないらしいな」


「覚えてない? 仲はいいんだろ?」


「そうだけど、昔のことだし忘れてるんじゃないか?」


「そうか……他にはあるか?」


「リュシアが凄く美人だった……」


「惚気はいらんぞ」


シエルが釘を刺す。


「いや、そうじゃなくて。何だろな……」


しばらく考えて、ラグナは言った。


「綺麗過ぎるんだよな」


「何だ、やっぱ惚気か?」


「いや、なんつーか……上手く言えねぇけど」


ラグナは少し考え込む。


「なんか、変なんだよ」


「変?」


「うん。上手く言えねぇけど……普通の綺麗さじゃないっていうか」


「でも、ラグナの勘が鋭いのも事実だろ?」


「そうだけどさぁ……」


シエルは腑に落ちないらしい。


「考えても分かんねぇんじゃねぇの?」


ラグナがあっけらかんと言う。


「関係あるかもしれないだろ?」


シエルがラグナに詰め寄る。


「関係無いかもしれない」


俺はシエルの肩を掴む。


「そうは言っても……」


「現時点でこれ以上の情報は無い。そして、関係がある確証も無いなら、気に留めるくらいでいいんじゃないかな」


「少々楽観的じゃないか?」


「だとしても、今、俺達にできることは無い」


「シエル、とりあえず飯食おうぜ」


「……そうだな」


一旦、話は落ち着いた。


「今日も昨日の飯屋行くか?」


「いいねぇ!」


ラグナの表情が緩む。


「違うのも食べてみたいしな」


―――


「それでさ、この布が凄いんだよ」


「へぇ、ヒナタなら使いこなせそうだな!」


俺達は昨日の食事処で、料理を待っていた。


「……にしても、その布なんなんだ?」


シエルが呟く。


確かに、防炎で、魔法での操作がしやすい布なんて、街に普通に売ってあるような代物なのだろうか。


「まぁ、便利なんだしいいじゃん! それより飯食おうぜ!」


キッチンを見ると、既に店員が料理を運び始めていた。


「お待たせしました。こちら、巨大樹の葉包み蒸しになります」


運ばれてきたのは、巨大樹の葉で包まれた蒸し料理だった。


葉を開くと、湯気と共に肉と野菜の香りが広がる。


巨大樹の葉の青い香りが、蒸された肉と野菜にほんのり移っている。


一口食べると、肉は柔らかく、野菜には肉の旨味が染み込んでいた。


「うまいな、これ」


ラグナが夢中になって食べ始める。


「クレールに来たなら、これ食っといて正解だったな」


「そうだな」


三人で料理を取り分けながら、食事を続けていく。


「……明日出発か」


俺はアーカイブスを出発してからのことを思い返す。


巨大な猪に襲われて、変な夢を見て、他愛もない会話をして。


見たことのない景色、見たことのない生き物を見て。


しんどいけど、割と楽しかったかもしれない。


「はふ、はふはふはふ!」


「ラグナ、食ってから喋れよ」


シエルがリスのような口になっているラグナに注意する。


「これからも俺に任せとけ!」


「なんだよ、それ」


少々根拠に欠けるが、何だかラグナが言うと元気が貰える。


多分、本気で思っていることが伝わってくるからだろう。


「じゃあ、よろしくな。2人とも」


「おうっ!」


「うん」


それからしばらくして、俺達は手を合わせる。


「「「ごちそうさまでした」」」


シエルが会計を済ませるのを、ラグナと2人で外で待つ。


「星がよく見えるな」


ラグナに言われて、俺も空を見上げる。


「そうだな」


アーカイブスと違い、街灯が少ないからか、星がよく見える。


「……あれ、秋の四角形?」


「なんだそれ?」


「いや、現世にある星の並びの名前なんだけど……」


俺は空に浮かぶ星を目で追っていく。


「……おかしい」


「どうした?」


「星の位置が、現世とほぼ一致してるんだよ」


会計を終えたシエルが店から出てくる。


「何の話だ?」


「星の位置が現世とほぼ一致してるんだよ」


「……空だけは、そっちの世界と同じってことか?」


「そうなるのかな」


俺はいくつか知っている星を確認していく。


「北斗七星に、夏の大三角……」


「それもそっちの世界にあるのか?」


「うん」


しばらく星空を眺めてから、シエルが言った。


「……もしかして、そっちの世界とこっちの世界には共通するところがあるのかもな」


「そうだな」


「寒っ」


夜の冷たい風が大通りを吹き抜ける。


「早く帰ろうぜ……」


「そうだな。明日は出発だしな。早く寝ないと」


そして俺達は宿に戻り、布団に包まった。


―――


そして、日が昇った。


「……ッ!」


朝起きると、ラグナの足裏が俺の頬に触れていた。


「寝相悪いな!」


俺はラグナの足を振り払い、頬を拭う。


「おぉ、ヒナタ。おはよう。今日は早いじゃねえか」


「お前が足で起こしたんだろうが」


「すまんすまん。それより、出発の準備しようぜ」


「……それもそうか」


今から本題の街、ルミナに向かう。


もしかしたら、親友がいるかもしれない。


心してかからないと。


「んごォ~」


ラグナは瞬時に二度寝して、いびきをかいている。


「………」


本当に、心してかからないと。

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