27話 不思議な布切れ
「おい、ヒナタ。朝だぞ。」
ラグナが俺の身体を揺さぶる。
俺は仕方なく目を開ける。
(知らない天井だ)
白い木の天井。
現世とも、アーカイブスとも違う。
(そうだったな)
改めて旅をしていたことを認識して、俺は立ち上がる。
「今日は何するつもり?」
目を擦りながら、シエルが聞いてくる。
「今日は物資補給。それと……」
「街の散策だ。」
「いいねぇ! 新しい街! 昨日はあんま見れなかったからな」
ラグナが嬉しそうにしている。
「……俺とシエルで買い物してくるから、街の散歩してていいよ」
「マジ? 行ってくる!」
ガシッ。
すぐに行こうとするラグナを止める。
「日が暮れる前にはこの宿屋に帰ってくること。いいな」
「了解!」
「気をつけてな」
「ありがと! 行ってくる!」
ラグナはドタバタと準備をして、宿屋を後にした。
「あいつ、一人にしてよかったのか?」
シエルが不安そうにしている。
「まぁ、大丈夫じゃない? ラグナも問題起こしたりはしないだろ」
「……そうかなぁ」
「もう見送っちゃったし、心配せずに俺達も買い物行こ」
「それもそうだな」
そして、俺達も宿を後にした。
―――
宿を出ると、朝の大通りにはすでに多くの人が行き交っていた。
店先には色々な商品が並び、道端には簡素な屋台まで出ている。
俺達はそんな大通りの店を見て回っていた。
「道中は結局猪食べたし、食料も足りてるな」
補給が必要な物資をシエルが確認している。
「でもほら、あれとかいいんじゃない?」
俺は目に入った屋台の食材を指差す。
「干し魚に乾燥野菜か……」
屋台には、紐で吊るされた干し魚と、袋詰めされた乾燥野菜が並んでいる。
「食事にバリエーション欲しいし、ちょっとくらい買っていこ」
「いいね。栄養面から見ても、食材は豊富な方がいいし」
そう言ってシエルは店主に話しかけた。
「すいません、魚6匹と野菜何個かください」
「あいよ、野菜は袋二つでいいか?」
「はい」
「じゃあ、全部で100エルだ」
シエルは財布から通貨を取り出し、店主の手のひらに乗せる。
「毎度あり」
「別のとこも見てみよう」
会計を済ませた俺達は、大通りをまた進み始めた。
―――
「おっ……あれ便利じゃない?」
シエルが、ある店の商品を指差す。
「……ライトかな?」
店先に置かれているのは、上部に取っ手のついたランタンのような形状をした道具だった。
「でもシエル、光の玉の魔法使えるだろ?」
シエルはエルじぃから様々な魔法を教わって、そのほとんどを習得している。
「あれ面倒臭いし、使ってる間作業できないから不便なんだよな」
「そっか、じゃあ値段聞いてから決めよう」
「すいません、これいくらですか?」
俺は店主に尋ねる。
「本体で150エル、魔石は別売りだ」
「魔石がいるんですか?」
「そりゃそうだ、魔道具を使うなら魔石がいるだろ?」
どうやらこの世界だと常識のようだ。
ひとまず、その場では買わずにスルーする。
「魔石って交換とか必要ですか?」
「そうだな……月に一回くらいだな」
結構お得な気がする。
「じゃあ魔石とセットでお願いします」
「合わせて、200エルだ」
俺は店主の手のひらに通貨を乗せる。
「毎度あり、使い方はわかるか?」
「教えて欲しいです」
「持ち手を持って回したら蓋が開くから、その中に魔石を入れるだけでいい」
「簡単ですね。ありがとうございました」
満足できる買い物だったな、と思いながら俺達は店をあとにした。
「あとは、買うものもないけどどうする?」
俺はシエルに聞く。
「本とか魔道具とか見てみたいから、もう少し周るよ」
「そっか、俺ちょっとやりたいことあるから先に宿に戻ってるな」
「分かった」
そうして、俺は一足先に宿へと戻った。
―――
「さてと……」
俺は自分のカバンの中を漁り、あるものを取り出す。
そう、例の丈夫な布だ。
布を広げる。
手触りは普通の布と変わらない。
「使ってみたかったんだよな」
もしかしたら、攻撃や防御の補助として役に立つかもしれない。
(杖もいいけど、かさばるし、重いし、俺そもそも殴って攻撃もするからなぁ)
今回を機に、自分の武器を使えるようにしよう。
まずは、この布を動かしてみる。
畳んだり、
巻いたり、
先端を動かしたりしてみる。
これは可能だ。
布は俺の意思に合わせて、ある程度自由に形を変える。
次に、硬くしようとしてみる。
硬いとイメージしてから触るが、少しの抵抗が生まれる程度だ。
(防御は難しいのかな?)
次は攻撃を試してみる。
(布の先を丸める)
そして手前に引き寄せ、それを壁にぶつけてみる。
「ポスっ」
布の先端が壁に当たる。
しかし、ほとんど音もせず、威力も感じられない。
所詮布なので威力は出ないようだ。
(単体ではだいぶ弱いな)
使い方を工夫しなければならない。
殴る、硬める、なんかの単純なものは駄目だ。
(掴む、避ける、防ぐ、包む)
この辺りが妥当だろうか。
俺は布を完全に浮かすイメージをする。
布の先端が少しずつ持ち上がる。
しかし、途中で力を失ったように垂れ下がった。
(なんでだろ?)
俺は物を動かしたりするのは苦手だ。
シエルはエルじぃの魔法を見様見真似で出来ていたが、俺には出来なかった。
しかし、自分で生成した水や火、エネルギーなんかは簡単に動かせる。
「なんで?」
俺は自分の記憶から必要な情報を探してみる。
(魔法は具体的なイメージが、その魔法の再現性や形の維持に影響する)
俺はエルじぃの言葉を思い出した。
物と違い、自分の魔法は自分で作ってるから具体的なイメージがしやすいのだろうか。
なら、俺は魔法で作った物以外動かせないのか?
(いや、できないんじゃない。今の俺のイメージの作り方では、動かせないだけかもしれない)
具体的なイメージをする別の方法を考えればいいのだ。
具体的なイメージをすると言っても、しようと思ったらすぐにできるものでもない。
(なら、既にイメージできるものに近づける?)
例えば、赫閃なんかは水吼や水淬のイメージを応用して作った魔法だ。
既に感覚としてあるものを参考にする。
(攻撃、防御の感覚……)
例えば殴るとかの感覚は実際に身体を動かしてるから直感的にイメージできる。
(やってみるか)
俺は布を腕に巻き付け、先端を垂らす。
そして腕を曲げ伸ばししたり、上げたり下げたりする。
それと同じ動きを布にもさせる。
何度か繰り返しているうちに、布の動きが少しずつ滑らかになっていく。
(そろそろ慣れたかな)
俺は虚空に向かって拳を放つ。
それと同期して、布も動く。
ビュッ。
さっきと違い、空気を裂く音がした。
「よしっ!」
やはり工夫次第で、魔法の効果は上げられる。
可能性が見えてきた。
(他の使い方も試してみよう)
俺は布の先端を1.5メートルほど垂らす。
「あれでいいかな」
俺は適当な柱に目をつける。
そこへ向かって、勢いよく腕を伸ばす。
それに連動する布が柱に飛んでいく。
そして、
(掴む!)
そうイメージすると、布は柱に巻きついた。
「これ結構使えるんじゃないか?」
布が柱にしっかりと絡みついている。
単純に近距離戦闘の射程が伸びるし、拘束して、動きを一時的にでも防げれば、とても役立つだろう。
(よし!)
「後は、練習だ」
そして俺はひたすらに布を動かし始めた。
―――
「ただいま」
しばらくすると、シエルが帰ってきた。
「……何してんの?」
布を肩にかけて両端をくねくね動かしている俺に、シエルが問いかける。
「……強いて言うなら修行かな」
「その、くねくねが戦闘に役立つの?」
「あまり布を舐めない方がいいぞ」
そう言って俺は、シエルの手首を布で掴み、引き寄せた。
「おわッ」
シエルは体勢を崩し、情けない声を出す。
そこに拳を叩き込む――振りをした。
「参った、参った」
布に不意を突かれたシエルは、両手を挙げている。
「それ便利だな」
「だろ?」
俺は自慢気に言う。
「でも、燃やされたら終わりじゃないか?」
「………」
考えていなかった。
「耐火性とかあるのかな?」
俺は確かめるために縁側に布を持っていく。
縁側の外に布を垂らし、唱える。
「白炎」
軽く火種を放つ。
炎が布の端を包む。
しかし、布には何の変化もなかった。
「もうちょっと強くしてみたら? 燃えたら、水出して消せばいいし」
横で見ていたシエルが口を出す。
「……白炎」
バスケットボールほどの大きさの炎を放つ。
炎が布全体を包み込む。
しばらくして炎が消える。
「………燃えてないな」
布には焦げ跡すらない。
「その布なんなの?」
シエルが少し呆れたように聞いてくる。
「さぁ?」
当然、俺は答えを持ち合わせていない。
「……というかラグナまだ?」
シエルが傾く夕日を見ながら言う。
昼間は賑わっていた大通りも、少しずつ人が減っている。
俺は時計を確認する。
「6時半……探しに行くか?」
「……闇雲に探しても意味ないし、もう少し待ってるか」
「それもそうだな」
(心配だなぁ)
窓の外を見る。
夕日が街を赤く染めている。
そんな景色を眺めながら、俺はラグナの帰りを待った。
―――
「お前ら何してんの?」
俺は大樹の根元にいる二人に話しかけた。




