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魔法は思考で使う。  作者: ひなぶり
2章

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26話 クレールの守り木


(あれは何だったんだ?)


テントを片付けながら、俺は昨日見た夢について考えていた。


昨日の夢は異質だった。


いや、夢だったのか?


夢の中で、現実じゃないことに気づくなんて可能なのか?


それに、あいつの声が今も耳に残っている。


「―――」


俺は声に出してみる。


「―――? 誰かの名前か?」


ラグナが聞いてきた。


「あぁ、俺の親友の名前だと思うんだが、認識できないんだ」


「認識? 今、名前言ってたじゃん」


「音としての記憶はできてるんだよ」


「そんなこと、ありえるの?」


シエルが寝具をしまいながら聞いてくる。


「ありえない、と思うけどな。今、起こっちゃってるから、ありえるんだろうな」


(考えても結論は出ないだろうし、今必要なことじゃない)


「よし、もう行くか!」


「了解!」


「行きますか」


そして俺達はクレールに向かって、足を進めた。


―――


12時。


俺は歩数を確認する。


(24300歩……15キロくらいか)


「ちょっと休憩するか」


「結構進めたんじゃねぇの?」


ラグナが伸びをしながら言う。


「昨日みたいに魔物に遭ってないからね」


シエルが安心したように言う。


(街からクレールまで40キロ。昨日と今日で27キロ進んだ)


「頑張ってあと23キロ進んだら、街だけどどうする?」


俺は2人に尋ねた。


「行っちゃうか!」


「結果的にその方が楽かもしれないし、いいかもね」


2人とも賛成だったので、先を急ぐことにする。


―――


それからしばらく進むと、景色が一変した。


「いい景色だなぁ」


ラグナが呟く。


樹木がまばらになり、平原と川が広がっていて、よく見渡せる。


「牛とか鳥とか、色々いるね」


シエルも辺りを見回して言う。


「デカいし、形もちょっと変わってるけどな」


「……そうか?」


2人とも首を傾げる。


「この世界だと、これが普通なのか」


「そうだな。あの猪とかは流石に違うけどな」


ラグナが苦笑しながら言う。


「グウゥゥゥ」


その時、とんでもない腹の虫が鳴る。


「……すまん」


腹に怪物でも住んでいそうな音だ。


「どうせ、猪で昨日の肉を思い出したんだろ」


シエルがラグナの図星を突く。


「別にいいだろ。なんか狩って食べようぜ」


「いや、昨日の燻製があるし、それで我慢しよう」


(現在時刻は15時。まだ、あと9キロもある)


「……分かった」


渋々返事するラグナを連れて、先に進む。


燻製肉を食べながら歩く。


「美味いな!」


ラグナがそう言った、その時だった。


「グワァァア!」


鳥がラグナの肉に向かって飛んできた。


「やらねぇよ」


ラグナは肉を持った手を、鳥から遠ざける。


その手が、地面の近くまで下がった。


「ガシッ!」


「え?」


ウサギがラグナの手から燻製肉を奪い去っていった。


「食うか食われるかってやつか?」


シエルが少し笑いながら、ラグナの肩を叩く。


「そうだな」


そう言ってラグナは、シエルの肉を奪い取った。


「食うか食われるかだな」


「ヒナタ、こいつひどくないか?」


「今のはシエルが悪いと思うよ」


「……そうだな」


俺は燻製肉を少し、シエルに分けた。


―――


適当に視線を走らせていると、奇妙なことに気がついた。


「川が上に流れてない?」


なだらかで気づかなかったが、よく見ると上に向かって流れていることが分かる。


「誰かが吸い込んでるんじゃねぇの?」


「そんなわけないだろ。クレールの方角に向かって伸びてるし、誰かが集めてるんだと思う」


シエルの言い分もあり得るが、わざわざ川を逆流させる必要なんてあるのだろうか。


しばらく進んでいると、原因らしきものは意外と早くに見つかった。


「あれ何?」


「世界最大級であることは分かる」


シエルがラグナに返す。


(木の根元に向かって水が動いてる)


「吸い寄せられてるとか?」


「というか木の下の街、あれクレールじゃねぇか?」


ラグナが木の方角を指差す。


「ちょっと待ってな」


俺は地図を確認する。


「……あれで間違いないな」


「アーカイブスもそうだったけど、この街にもでかい木が生えてるんだな」


「水が自然と近づいてくるから便利なのかもね」


「じゃあ先を急ごうぜ」


そして俺達は巨大樹の下にあるクレールに向かって歩き始めた。


―――


「着いたぜ! 最初の街!」


ラグナがはしゃいでいる。


俺達はクレールの入り口に立っていた。


「街というか、ほぼ村だな」


アーカイブスよりは控えめな大きさだ。


「まぁ、ちゃんと休めるならどこでもいいよ」


シエルはそう言って、俺達は宿屋を探し始めた。


しばらく、街の大通りを歩く。


「危ないぞ!」


ラグナが俺を掴んで引き寄せる。


すると、すぐ横を馬車のようなものが通り過ぎていった。


「ありがと」


「それほどでもある」


「人の往来が激しいな。気をつけよう」


シエルが俺達に呼びかける。


「アーカイブスとルミナっていう、でかい街に挟まれてるから、補給拠点としての役割が大きいのかな」


「確かにそうかもね。売ってるものも旅に必要なものや消耗品が多い気がする」


シエルが店を眺めながら言った。


「おっ、あれ宿屋じゃねぇか?」


和風の建物に大きな看板が付いている。


そこには『宿屋』という意味の言葉が書いてある。


「じゃあここに荷物置いて、飯でも食いに行こうか」


「飯飯〜」


そう言うラグナと共に宿屋へ入った。


入って狭い廊下の正面にはカウンターがある。


(民家をそのまま宿にしてるのかな?)


すると、シエルがカウンターの店員に話しかけた。


「すいません、3名、今から泊まれますか?」


「3名様ですね。お部屋は1つでよろしいでしょうか?」


同意を求めるようにシエルがこちらを振り返る。


少し考えた後、俺は頷いた。


「同じ部屋で大丈夫です」


「承知しました。何泊されますか?」


「……2泊、でいいよな?」


(街も回るだろうし、明日出発は厳しいかな)


「うん、それでいいよ」


「じゃあ、2泊で」


「承りました。3名様、2泊3日ですね。お部屋をご案内します」


その女性店員は隣の男性店員と話した後、俺達についてくるよう促した。


しばらく進むと、女性店員は入り口から左に2部屋目で止まって言った。


「こちらがお部屋になります」


女性店員が開けた襖から中を見る。


(結構広いな)


そこは16畳ほどの和室になっている。


真ん中に机が置かれ、部屋の奥には縁側もあるようだ。


「浴場は部屋を出て、右手を奥側にございます。他にも何か聞きたいことがあればカウンターまでお越しください」


「それでは、ごゆっくりどうぞ」


女性店員はお辞儀をして、襖を閉じ去っていった。


俺は荷物を置き、一息ついた。


「あぁ、このまま寝そうだな」


「飯も風呂も済んでないだろ。早く行くぞ」


ラグナに急かされ、渋々宿屋を出た。


「飯、飯、飯〜」


「宿屋で食うのは駄目なの?」


俺は飯音頭を歌うラグナに聞いてみる。


「なんか聞いたけど、飯はやってないみたいだな」


「へぇ、珍し」


「あそこどう思う?」


シエルが店に向かって指を指す。


看板には『ごはん処』といった意味のことが書いてある。


「そこでいいよ。早く行こうぜ」


ラグナに急かされ、俺達は店に入った。


「いらっしゃいませ。3名様ですね」


そう言うと、若い男は俺達を案内し始めた。


「こちら、お席になります。何かありましたら、こちらのボタンでお呼びください。それでは失礼します」


「……呼び出しボタン、だと?」


まさかの呼び出しボタンがあることに驚きを隠せない。


「なんだヒナタ? 呼び出しボタン知らないのか?」


「いや、知ってるけど、こっちの世界にあると思わなかったんだよ」


「へぇ、そっちの世界にも呼び出しボタンはあったんだな」


「魔法がないのにどうやって鳴らすんだ?」


シエルが疑問に思い、聞いてくる。


「詳しくは知らないが……まず、電気っていうエネルギーがあるんだ」


俺は呼び出しボタンの説明を始めた。


「ほうほう」


「それは電子っていう粒の流れで、それがスピーカーっていうものに流れるんだ」


「電子……」


「スピーカーに流れると、振動板が振動して空気が揺れて音が鳴るっていう仕組み」


「スピーカー……振動板……」


「スピーカーなら、多分これと同じだぞ?」


シエルはしばらく考えてから、呼び出しボタンを指差した。


「まぁ、動力は違えど、音が空気の振動なことは変わらないからな」


「なるほど、そっちの世界とも共通点があるのか」


シエルは面白そうに考察している。


「でも、振動させるイメージ魔法は俺には難しいかな」


「そうなのか? 俺はできるぞ」


そう言うと、シエルは机の上のコップを細かく振動させて見せた。


「……凄いな。俺は空気は動かせても、周波数的なイメージができないんだよな」


「そうなのか?」


「じゃあ、俺も……」


ラグナもコップに向かって手をかざす。


「ラグナはやめとけ。多分割れるぞ」


シエルが釘を刺す。


「確かに、やめとくか」


「宿に帰ったら、別のもので試したらいいよ」


「分かった。というか、先に注文しようぜ」


「そうだな」


そう言ってシエルは、メニュー表らしき物を机の端から取り出した。


(猪、鳥、兎、魚……)


どうやら近くの動物の肉料理が多いらしい。


「俺これにする!」


そう言ってラグナはメニューを指差した。


『猪肉の旨辛煮』。


「このあいだ、食べたやつじゃないか?」


「別に前も美味かったんだからいいんだろ」


同じものを食べることに違和感を持つシエルに、ラグナは反論した。


「俺はこれかな」


『川魚の塩焼き』を俺は指差した。


「こっちに来てから魚食べてないしな」


「じゃあ俺はこれ」


シエルは『巨大樹の根菜煮』を指差す。


「……巨大樹の根菜って何?」


ラグナがシエルに訊ねる。


「知らないけど、名物みたいだよ?」


「じゃあ、とりあえずボタン押すぞ?」


俺は呼び出しボタンを押した。


「ビンバーン」


(変な音だな)


音を聞いた店員がやってくる。


「御注文お決まりでしょうか」


「猪肉の旨辛煮と巨大樹の根菜煮、あと川魚の塩焼き、以上でお願いします」


「承知しました」


そう言って、店員はメモを取って厨房に戻った。


そう思いながら料理を待つ。


―――


「お待たせしました」


店員は俺達の料理を机に並べていく。


「おぉ、美味そう!」


ラグナが自分の料理を見てテンションを上げている。


「早いな」


時計を見ると、料理は10分程度で提供されていた。


みんな、目の前の料理にウズウズしている。


「じゃあ食うか」


「「「いただきます」」」


俺は早速、川魚を口に運ぶ。


「旨っ」


この魚、白身のクセに肉汁が出てくる。


「こっちも美味いな。ただの根菜に見えるけど、巨大樹ってなんなんだろ?」


「店員に聞いてみようか?」


「別にいいよ」


「すいません、あのデカい木って何なんですか?」


ラグナがシエルを無視して店員に聞く。


「ああ、クレールの守り木ですね」


「守り木?」


「昔の人が作った木だと言われています。今も街に水を運んでくれているんですよ」


「その根菜は巨大樹の周りで育てたものですね」


見た目はサツマイモとカブの中間くらいで、表面が茶色い。


それを切って煮たもののようだ。


(普通の野菜と何が違うんだろ)


「へぇ、巨大樹の周りで育てるとなんかあるんですか?」


「土に水が多く含まれているので、よく育つんですよ」


「うん、確かに甘い。口に入れるとすぐ崩れる」


シエルが実際に食べて確かめている。


「また、なにかあったら遠慮なく聞いてください」


「はい、ありがとうございます」


シエルがそう言って店員に会釈すると、店員は厨房に戻っていった。


その後、俺達はモクモクと食べ進めた。


―――


「「「ごちそうさまでした」」」


3人でそう言って会計を済ませ、宿屋に向かった。


(150エルか……ちょっと高いけど、ちゃんとした料理だったし仕方ないか)


「風呂っ、風呂〜」


ラグナが変な歌を歌いながら部屋に戻る。


「いつもみたいに飛び込むなよ?」


俺は風呂支度をしながら、ラグナに釘を刺す。


「わかってるって」


―――


「とうっ!」


「ザパァン!」


風呂で身体を洗い終わった後、ラグナはすぐに飛び込んだ。


「ほらな」


シエルが予想通りというように、こちらを見てくる。


「まぁ、人もいないみたいだし、迷惑かけてないし、許容範囲じゃない?」


「俺にかかってる」


「許容範囲外だったようで何より」


「ヒナタ、シエル何してんだ? 早く入れよ」


何も知らないラグナが、風呂に入るよう促す。


「うん。入るよ」


そう言いながら、シエルは魔法を発動させた。


「えっ?」


ラグナの周りを円柱状にお湯が避けている。


「『俺』は入るよ」


「シエル大人気ないな」


「なっ、元はと言えばコイツが悪いだろ」


「寒いから戻して」


ラグナが懇願してくる。


「……すまん」


シエルはお湯を元に戻した。


その次の瞬間、


「オラァ! 仕返しじゃあ!」


ラグナがシエルにお湯をぶっかけた。


「………」


シエルがキレている。


俺にもかかったので、仕返ししておく。


「水淬」


そう言って、俺は空中に水を生成した。


できるだけ大きくする。


「待て待て、それ水だろ?」


ラグナが怯えている。


「ちょっと一工夫するか」


シエルが水球に手を突っ込んで魔法を使う。


「冷やしといた」


「待て待て」


ラグナを無視して、放つ。


「水吼」


「ザパァァァ」


ラグナの全身に冷水をかけた。


「ッッッ冷たっ!」


「あんまりフザけたら、次もこれな」


シエルがラグナに冷たく言い放つ。


「以後、気をつけます」


その後は無事に風呂を終え、部屋に戻れたとさ。


―――


「敷布団、初めてだな」


ラグナが布団を敷きながら言う。


「俺もだな」


シエルも同意する。


「俺は向こうでは敷布団で寝てたな」


俺は現世を思い返す。


「そうなのか。向こうと同じなら、楽に寝れそうだな」


「というか、ここ、向こうと結構似てるところが多いんだよな」


「向こうの人がここに来て、文化を作ったって考えるのが妥当じゃない?」


シエルが考えを言う。


「偶然一致することもないだろうし、そうかもな」


俺はそれに同意する。


「ほらほら、そんなこと考えてないで明日に備えて寝るぞ」


珍しくラグナが俺達に注意する。


俺は吊り下げ式の照明の紐を引いて、明かりを消した。

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