24話 過酷な楽しさ
2章開始しました。
今後も一日2話、昼頃投稿していきます。
「まずは、クレールに行くのはどう?」
「中継地点としてちょうどいいし、いいんじゃない?」
「任せる!」
俺はシエルと話し合い、武器の街『ルミナ』へ向かう中継地点として、クレールという小さな街に寄ることにした。
「後は歩きながら話そう。ラグナは後ろから少し離れて着いてきてくれ」
「了解」
荷物はほとんどラグナに背負ってもらっている。
単純に、この中で一番力があるからだ。
気配を感じるのが得意なラグナを後ろに置き、俺とシエルで話し合いながら進む。
「魔物はどのくらいいるかな?」
俺はシエルに問い掛ける。
「さぁ? エルハルトさんは例外があるから、常に魔物がいる想定で動けとは言ってたね」
「エルじぃから貰った本に書いてるかな?」
俺は少し前に貰った本をペラペラとめくる。
「狼に、猪に、鹿に、鳥に、木とか色んなのがいるみたいだな」
「木? このバカでかい木に化けるのか?」
ラグナが聞いてくる。
「いや、クレールに行くにつれて樹木は小型になるらしい」
「へぇ、アーカイヴスから出たことないから分かんないな」
ラグナが好奇心と不安が混ざった表情をしている。
「ヒナタ、少し西にずれてるぞ」
シエルがコンパスを見ながら俺に指摘する。
「ごめん、気をつける」
―――
1時間ほど歩いただろうか。
植物や見かける動物の種類も変わってきた気がする。
2人の様子を見る。
シエルの息が上がっていた。
「少し休むか」
「俺はいけるぞ?」
「荷物持ってるお前が平気な理由は知らんが、シエルが疲れてるんだよ」
「面目ない……」
「シエルは普通だろ、ラグナがおかしいんだよ」
「鍛え方だな!」
「とりあえず休むぞ。ラグナ、カバン下ろして」
「何か出すのか?」
俺はシエルが買ってきた大きな布を出す。
「なんだこれ?」
「地面に敷く布だ。でかいし丈夫。服とか荷物が汚れても洗えるか分からないからな」
「考えることが多いんだな」
「考えなくなったやつから死ぬんじゃないか?」
「それもそうだな。俺は特に気をつけないと」
「………」
シエルは水を飲みながら無言で休んでいる。
疲れているのだろうか。
「あと10分くらいしたら行こうか」
俺は腕時計を見る。
「おっ、なんだそれ?」
「小さめの時計だよ。太陽の角度を教えてくれる」
「仕組みは店主に勿論聞いたんだけど、企業秘密らしい」
「ハハッ、ヒナタらしいな」
(さてと、これからどうするか)
俺は地図と現在地を確認する。
(歩き始めて7343歩。俺の歩幅から求めて5キロくらいだな)
「水場があと何キロか先にあるから、次はそこを目指そう」
「なんでわかるんだ?」
「歩数数えてる」
「えぇ、凄いな。俺なんて100が限界だぜ」
「流石にそれは酷くない?」
シエルが呆れたように言う。
「でも、難しくはないよ?」
俺はラグナに言う。
「なんで?」
「これ見て」
「うん」
俺は弱い結び目が何個か連なった紐を見せる。
「100歩ごとに、この紐を1つずつ解くんだ」
「へぇ、簡単なのに便利だな」
「知恵ってやつさ」
その時、シエルが声をかけてきた。
「ヒナタ、そろそろ行こう」
俺は時計を見た。
ちょうど10分経っていた。
「体内時計凄いな」
「考えてないけど、分かるんだよな」
「意外と感覚派なのか、シエル」
「ラグナと一緒かぁ……」
「嫌がんなよ。光栄に思えよ」
「不名誉極まりないわぁ」
(シエルは割と煽るのが上手いな)
そんなバカ話をしながら歩き始めた。
―――
「止まれ」
ラグナが言う。
「どうした? もう川に着くぞ?」
「川の周りになんかいるけど、見えない」
「大丈夫、俺が見る」
シエルはそう言うと、モノクルを着けた。
「……鹿が水飲んでるな」
「なんでわかるんだ?」
「このモノクルはヴェインが買ってくれたやつで、魔力に構造が影響されやすいガラスなんだよ」
「つまりイメージで、凸レンズの度合いを変えてるの?」
「そうだね」
(怖っ)
凸レンズの原子構造の組み換えなんて、俺はできない。
「で、あの鹿は大丈夫なのか?」
俺はラグナに聞かれて、エルじぃの本を開く。
「……気分によっては凶暴、近づかないが吉だってさ」
「でも、遠回りして水飲むのは面倒じゃないか?」
ラグナの言うとおりだ。
クレールまではまだ40キロもある。
食料は多い方がいい。
「よし、遠距離で撃ち抜く」
食料にもなるだろうし、ちょうどいいだろう。
「シエル、モノクル貸して」
「いいけど、ここから当てる気?」
距離は250メートルはある。
「モノクルの拡大だけ頼む。後は任せろ」
「聚星、水淬」
俺は慣れた様子で水を生成する。
それを腕の上に水を設置する。
(ここかな?)
俺は指の先を鹿に合わせる。
(このまま伸ばした腕のラインに沿って撃てば……)
「水吼」
(ヤベ、ズレた)
だが別の鹿に当たり、ほかの鹿は逃げていった。
「ほ、ほらな」
「ヒナタすげぇ!」
「多分、狙ったやつじゃないだろ?」
「はい、その通りでございます」
シエルには見抜かれている。
さすがだ。
俺はシエルにモノクルを返し、川に向かって歩いた。
「鹿どうする?」
ラグナが聞く。
俺は時計を見た。
時計の1本しかない針は、12時頃を指している。
「飯にするか」
「いや、食えるか分からない。一応調べてくれ」
シエルは用心深い。
旅においては非常に助かる。
「分かった。エルじぃの本によると、誠に美味だそうだ」
「肉、肉、肉ぅ~」
ラグナが慣れた手つきで、既に解体を始めている。
「どんな味だろなぁ」
そう俺が言った。
その時だった。
「ラグナ、避けろ!」
ラグナはシエルの声に咄嗟に反応し、攻撃を躱した。
ラグナは敵を見据えて言う。
「猪か!」
俺は気づかなかったが、猪が突進してきていたようだ。
(猪? エルじぃの本で調べる? いや、攻撃が優先だ)
猪なら牙を使った単純な突進だろう。
だが、その3メートルほどの巨体なら、まともに受ければただでは済まない。
「ラグナ、受け流すつもりで行け。真っ向勝負するなよ」
「了解!」
「ブオォォォォッ!」
俺達は思わず耳を塞ぐ。
(なんて、でかい咆哮なんだ!)
「風纏」
俺は風を纏い、ラグナの後ろで待機する。
「グオォォォォッ!!」
猪がすかさず突進してくる。
「カウンターを狙うぞ!」
「オラァ!」
ラグナが剣で左に流すが、まだ少し押されている。
「風掌!」
俺が更に左に向かって殴り、攻撃を逸らした。
猪は俺達の後方へ走っていく。
「飛閃!」
すぐさま、ラグナは斬りかかる。
「ガハッ!」
しかし、ラグナは後ろ脚で蹴り飛ばされた。
「シエル! ラグナを!」
シエルはすぐにラグナを抱え、移動させながら治療する。
(さて、どうする?)
猪は既にこちらに突進する準備を始めている。
(一人で風掌で留められるのか?)
否、無理だ。
(なら、あれしかない)
「聚星!」
集中して、魔力を溜める。
「ヒナタ! 来るぞっ!」
腹を押さえながらも、ラグナが俺に教えてくれる。
「グオォォォォッ!!」
「赫々」
手のひらに赫い玉が浮かぶ。
それを拳に纏う。
(これでも防げるか分からない)
猪はもう目前に来ている。
「風掌・赫々!」
突進してきた猪の右頬に、強力なフックを叩き込む。
「ブゲェッ!?」
猪は左に大きく飛んでいった。
(痛い……)
拳が腫れている。
併用は拳への負担が凄い。
赫々は弾くだけであって、拳を保護する訳じゃない。
「ダァン!」
ラグナは猪が立て直す前に地面を強く蹴った。
「怒髪天!」
強力な戦鎚が空から落ちる。
「グボォォッ!!?」
猪の背中は大きく凹み、血を吐いた。
(まだ動く。確実に仕留めないと)
「水淬吼」
俺はトドメとして、頭を3回貫く。
「………」
3人とも、猪が動かないことを確認するまで身構えている。
ラグナがしばらくして、頭をつついた。
動かない。
「倒したぞ!」
「ナイス! ヒナタ、シエル」
「そっちもな」
「2人ともお疲れ様」
互いに労いあった後、川周りは魔物が多いので移動することになった。
―――
「猪肉と鹿肉ウメェ」
結局、腐るのでほぼ全て食べて、一部を燻製にすることになった。
ラグナが一番喜んでいる。
「さっきの猪、グランボアって言うらしいな」
俺はエルじぃの本を開きながら言った。
「モゴッモゴモゴモゴ!」
「飲み込んでから喋れ」
シエルが辛辣にラグナに言った。
「結構強かったな」
「うん、ここらへんの大型獣らしいね」
俺は本を見ながら、口に肉を運ぶ。
「旨っ」
「獣臭いけど、脂が乗ってて美味いな」
「赤身は牛肉感があるな」
シエルが淡々と言った。
「なら、もっと美味そうにしろよ」
ラグナが怒る。
「わかってないな。口角がちょっと上がってるだろ。めっちゃ喜んでるんだよ」
「そうなのか?」
「うん、とても美味」
「俺、シエル表情検定1級持ってるから」
「俺も持ってるし」
俺の冗談にラグナが対抗してくる。
「お前は検定取得資格すら無いよ」
シエルご本人から取得権利を剥奪される。
「そんなぁ」
「……いい奴検定はやるから元気出せよ」
少し落ち込んだラグナにシエルが言う。
「ツンデレじゃん」
ラグナが余計なことを口走る。
「チッ、やっぱなし」
「図星かよ」
更に火に油を注ぐラグナにシエルがキレている内に、15時を回った。
「街からクレールまで40キロで、三日目の夜には着く予定だから、一日13キロは進むぞ」
「了解」
「分かった」
みんなご飯を食べて眠いのか、さっきの戦闘で警戒心が増したのか、道中はあまり会話は無く進んだ。
―――
13キロ地点。
「木が目に見えて小さくなってるな」
「すまん、ヒナタ。休憩させてくれ」
シエルがしんどそうにしている。
俺は時計を見る。
18時。
「じゃあ、ここで野宿しよう。暗くなる前にテント立てるぞ」
「テント? 便利だから魔法で行けるんじゃなかった?」
「ラグナ、テントは固定しないといけないんだよ」
「なんで?」
「風吹いて終わるぞ?」
「確かに!」
「……俺も手伝うよ」
疲れたシエルが俺に提案してくる。
「いや、ラグナと俺で十分だ。シエルは布団と枕の用意しててくれ」
「分かった」
(広げるイメージ)
「ボッ」
中の骨組みが勝手に広がり、テントになった。
サイズはギリギリ4人寝転べるくらいのサイズだ。
「ラグナ、杭打ち込んどいて」
「了解!」
まだまだ元気なラグナに感心しつつ、自分のできることをする。
俺は虫除けと、グランボアの糞を取り出した。
「白炎」
弱めに火をつける。
「ヒナタ何してんだ?」
杭を一瞬で打ち終わったラグナが聞いてきた。
「これは虫除けな。こっちは猪のうんこ」
「なんで燃やすの?」
「燃やすと臭いが広がるだろ?」
「それで、周りの魔物は強い魔物の臭いがしたらどうする?」
「……離れる?」
「正解。だからオスのグランボアの糞を燃やすんだよ」
「メスだったら?」
「オス猪が来て詰む」
「……それはヤバいな」
「準備出来たぞ」
シエルが寝具を設置したようだ。
俺は時間を確認する。
「21時だし、もう寝ようか」
俺達はテントに入り、寝袋に身を包んだ。
―――
「寝れねぇ!」
ラグナが叫ぶ。
「静かに。シエルはもう寝てるから」
「すまん、なんか寝れなくて」
「俺もだ。慣れない環境で寝づらいんだろう」
「そういうもんか」
「……なぁ、ヒナタ」
「なんだ?」
「ほんとに俺達の旅って上手くいくかな?」
「珍しく弱気だな」
「いや、今日の魔物も強かったし、明日勝てる保証もないのに、これを毎日続けるんだぜ?」
ラグナは昼間蹴られた腹をさする。
「そうだな……俺も正直怖かった」
「そうなのか?」
「そりゃ痛いし、死ぬ可能性もあった」
「でもさ、それより重要なものはあるんじゃないのか?」
「そうだな……」
少し間を置いて、ラグナが言った。
「俺も、この3人ならいけると思う」
「それは良かった」
「なんてったって、エルじぃの弟子だしな!」
ラグナは嬉しそうに言う。
「じゃあ、帰れるように頑張ろうな」
その後、安心したのか、俺達はすぐに眠りについた。
――――
(あれ? ここ、どこだ?)




