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魔法は思考で使う。  作者: ひなぶり
1章

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23話 旅立ち

「ラグナ、シエル買い物行くぞ」


俺達は修行を終え、旅立ちの準備を進めていた。


「了解!」


「ちょっと待ってね」


元気よく返事するラグナに対し、落ち着いたシエルは荷物の整理をしている。


「それヴェインのやつか?」


手入れはされているが、年季を感じさせるものが多いので聞いてみる。


「うん、何個か持ってこうと思ってて」


「形見だもんな、無くさないようにしないとな」


「わかってる、じゃあ行こうか」


そして俺達は市場に向かった。


「ちょっと二人とも、これ見て」


俺はエルじぃから貰った買い物メモを見せる。


「ラグナは食料全般。保存食とか調味料買ってきて」


「任せろ!」


ガシッ。


即座に走り出すラグナを、肩を掴んで止める。


「集合場所はヴェインの家への通路前、買うものは予算内に抑えること。いいな」


「任せろ!」


「考えてから走り出してくれ、頼んだぞ」


「任せろ!」


そう言って再度、ラグナは走り出した。


「シエルは医療道具と野営用品探しておいて。重いだろうから、後でラグナに運んでもらうか」


「わかった」


(さてと、じゃあ俺は……)


『武器、衣類、衛生用品』


これを買いに行けばいいらしい。


予算は1400エル。


それを確認して俺は市場を歩き始めた。


(結構元に戻ってるな)


襲撃から1週間程度しか経っていないが、もう街は以前の活気を取り戻している。


(あった、ここが武器屋かな?)


杖や剣、盾、短剣など様々なものが並んでいる。


奥には鍛冶場に何人かの人がいるのが見える。


「すいません、これ直せますか?」


俺は酷使されたラグナの剣を筋骨隆々な店主に見せる。


店主は剣を受け取り、品定めするようにそれを見る。


「……こりゃ酷ぇな、でも使い方が悪い訳じゃなさそうだな」


「どういうことですか?」


「曲がってもいないし、側面に傷もない。」


「最適な動きで受けて、斬ってる証拠だ」


「へぇ、よくわかりますね」


(後でラグナに言ったら喜ぶだろうか)


「ただの経験則だ。この程度なら直せるぞ」


「助かります、いくらですか?」


「そうだな……」


店主はしばらく剣を見つめてから言った。


「200エルでいいぞ」


「安いですね、ありがとうございます」


「どうってことねぇよ。1時間くらいしたら取りに来てくれ」


「わかりました」


(エルじぃから言われた価格より安く済んだな)


さてと、次は衣類だな。


俺は今までラグナの服を借りてたから買わねばなるまい。


しばらく歩いていると衣服が並んでいる店が目に入った。


(へぇ、こんなのあるんだ)


現世と違い、魔法使いのローブのようなものや、鉄の胸当てなども置いてある。


気になるが普通の服を先に買おう。


俺は気の強そうなおばさん店主に話しかけた。


「すみません、これとこれ下さい」


服は着れたらいい派なので適当に注文する。


「……正気か?」


「駄目なんですか?」


「あんたがいいならそれでいいんだが、青のズボンに赤の服は似合わんと思うぞ」


「すいません、センスなくて。適当に見繕って貰ったりできますか?」


「任せな」


(服のセンスかぁ)


現世よりは重視されないと思ってたが、そこまで酷いのだろうか。


―――


「ありがとうございました」


「あいよ、また来な」


店主に選んでもらい、良いものが買えた気がする。


(あとは衛生用品か……)


俺は再度買い物メモを見る。


「石鹸、歯ブラシ、布、それと……虫除けか」


それからしばらく俺は市場をまわった。


衛生用品は、特に現代との違いが目立つ。


(これが歯ブラシかぁ)


柔らかい繊維質の枝が置いてある。


先を噛んでほぐして使うらしい。


虫除けは塊状で置いてあった。


燃すと、ゆっくり煙が出る。


現代みたいに巻いたら効果時間が伸びるかもしれない。


次の買い物を済ませようと店主に尋ねた。


「この布下さい」


俺は2メートルくらいの細長い布を頼んだ。


巻いたら止血とかにも使えるし、あんまり使わない様だったらタオルとして使えばいい。


「700エルです」


「……は?」


1000エルで一ヶ月の食費分だぞ?


普通の布にしか見えないこれが?


思わず俺は聞き返した。


「700エルですか?」


「はい、そうですね」


聞き間違いではないらしい、ならばそれ相応の理由があるはずだ。


「理由をお聞きしても?」


「なんか別の街? から仕入れられたもので質がいいんですよね」


「それだけですか?」


店主の口角が少し上がる。


「それがですね…意識に応じて動く不思議な布なんですよ。更に傷1つ付かない。」


「……ほんとですか?」


胡散臭いにも程がある。


「どうぞ試してみて下さい」


俺はカバンから解体用のナイフを取り出した。


先に傷がつくか試してやろう。


「弁償はしませんよ?」


「はい」


俺は思いっ切りナイフで布を裂こうと力を込めた。


「クッ……」


しかし、傷1つつかない。


ならば次を試してみよう。


「意識に応じて動く…だったか?」


「はい、どうぞ念じてみてください」


「……動いた!」


手足のように先端を動かせる。


「……買います」


具体的に使いこなせるか分からないが、なんだか買いたくなってしまった。


「ありがとうございます」


「……それと普通の布もください」


「10エルですね」


よかった、こちらは普通の値段だ。


「3枚ください」


―――


そうして買い物を済ませ、待ち合わせ場所に向かった。


「シエル」


先に待ってるシエルがいたので声をかける。


「ん、あぁ」


どこか上の空だ。


シエルはヴェインの家の方向を見ている。


「大丈夫か?」


「あぁ、大丈夫。ちょっと感傷に浸ってただけ」


「無理してついてこなくてもいいんだぞ?」


「無理はしてない、と言えば嘘になるかな」


そう言って、シエルは俺の方を見る。


「俺は死にたくないし、痛い思いもしたくない」


「でも、それ以上にヴェインを助ける可能性があるならそれにかけたい」


「それに―」


シエルは少し笑って言った。


「お前らの手助けもしたい」


「…ありがと」


シエルの成長をしみじみと感じていると、何やらでかい声が聞こえてきた。


「お前ぇえ、いいやつだなぁぁ」


いつの間にか来ていた、ラグナが泣いている。


「見直したぜぇ」


「ックソ、くっつくな気持ち悪い」


泣きながら抱きつくラグナをシエルが拒否する。


「シエル、ありがとう。それで二人とも買い物はできたのか?」


「もちろん!」


自信満々にラグナが言う。


ラグナは食べ物のことなら詳しいし、問題ないだろう。


「医療用具は補充できた。野営用品に関しては、カバン自体がテントになるやつ買った」


シエルが少し大きいくらいのカバンのような物を持っている。


「すごいな、どんな仕組み?」


「広がるイメージをすると、カバンの中に入ってる骨組みが決められた形に戻るんだ。布もそれに合わせて展開する」


「どうやって決められた形になるの?」


「流石に分からないから店主に聞いてね」


「あと、寝袋とタープに、ロープとかその他もろもろ買い揃えたよ」


「オッケー、じゃあ修理に預けてたラグナの剣を取りに行くか」


「それよりヒナタ、その布切れなんだ?」


ラグナが俺が手に持っている細長い布に目線を向けている。


「あぁこれ? なんか丈夫で武器にもなる、操作できる布」


「すげぇ」


「高かったんじゃないか?」


シエルが少し怪訝な顔をする。


確かに必要かと言われれば、要らないかもしれない。


「700エルしました」


「高っ」


その通り、布にしては高すぎる。


「元取れるぐらい使うので勘弁してください」


「ヒナタにしては考えてないんだな」


「なんか凄く買いたくなったんだよな」


「まぁ予算内だしいいと思うよ」


シエルが認めてくれたので、とりあえずはセーフだ。


「じゃあ俺の剣取りに行こうぜ!」


「うん、走るなよ」


「わかってるって」


俺達は武器屋に向かった。


―――


「はいよ、兄ちゃんの剣か?」


「うん、俺のだ!」


そう言ってラグナは剣をしばらく見回す。


「刃こぼれ無くなってる! すげぇ」


店主が少し自慢げな顔をする。


「あんた相当な手練のようだが、もっと剣を大事にしてやんな」


「大事にはしてるぜ?」


「それは分かってる。ただ、力任せに受けることもあるんじゃないのか?」


「ギクッ」


そう言ってそうなくらい、ラグナの表情が変わる。


「もっと上手いやつの剣はな、傷がついてないんだ」


「多分全部受け流したり、傷がつくほどの攻撃は受けないんだろうな」


「おっさんよく知ってるな」


「俺は剣を振ったことはほとんどないぜ。客の傾向から言ってみただけだ」


「お節介だったか?」


「いや、参考になった。ありがとう」


ラグナが頭を下げる。


「いや、当然の接客をしただけだ」


「そうか、ありがとう。また会うことがあればよろしくな」


ラグナがそう言って、俺達は市場を去った。


―――


「お主らが行くのは此処じゃ」


俺達は家に戻り、エルじぃに詳しい旅のルートを聞いていた。


エルじぃの指したところを俺は見る。


「ルミナ、前言ってたとこですね」


「ひとまずはここを目指しなさい。2週間も歩けば着く」


「やった! 武器だ武器!」


「そうじゃ、ルミナには豊富な武器がある。ここでは資金を惜しまず使うといい」


「それでじゃな―」


エルじぃはそれぞれの街の特徴、するべきこと、自分の旅の経験などを話した。


そして、


「もし、魔王が生きていて、敵対したならば勇者を探しなさい」


エルじぃは魔王の話を始めた。


「でも勇者も年いってるだろ?」


ラグナの言うとおりだ。エルじぃが70歳ほどで負傷もしているのだから、勇者も老人のはずだ。


「あやつは、ほぼ不老じゃ」


「え? なんで?」


思わず口から疑問が漏れる。


「強い意志と具体的な想像で常に自分の全盛期の再現をしておる」


「それに、魔王に勝てるのはあやつしかおらんじゃろうて」


「わかりました」


「しかし、魔王を倒すのは目的ではないぞ? わかっておるか」


「わかってます」


エルじぃは俺達3人の目をそれぞれ見た。


「死ぬでないぞ」


「任せろ!」


ラグナが即座に元気よく返す。


根拠はないがラグナがいると、なんでもできそうな気がするから不思議だ。


「大丈夫です。全員あなたの弟子ですから」


「……そうじゃな、少し席を外す」


エルじぃは少し涙ぐみながら自室に行った。


「……いよいよだな」


今日準備して、明日出発。


前から決めていた流れだ。


思い返せば、ここに来たのも最近だったな。


でも色々なことがあった。


いきなり身体崩壊して転移して、


ラグナと出会って、


魔法に触れて、


転移された理由を知って、


修行をして、


初めてだれかのために戦った。


そしてこれから、大事な人を探すための旅に出る。


「ラグナ、シエル頼りにしてる」


「遠慮せず頼ってくれ!」


「善処はする」


「明日から旅だ、忘れ物はないか?」


「多分大丈夫」


ラグナから不安な応答が聞こえる。


「多分かよ」


「大丈夫だって!」


「お前のそこは頼りにできないんだよ」


シエルが猛烈に同意するように頷く。


「なんでだよ!」


いつものようなやり取り。


それを聞いて、少しだけ安心する。


明日からは、この場所を離れる。


もう、この三人でここに戻ってくることもないかもしれない。


そう考えると、不思議な気分だった。


「……じゃあ、今日は早く寝るか」


「そうだな」


「おやすみ!」


俺達はそれぞれの部屋へ戻った。


ベッドに入る。


もう見慣れた部屋。


もう見慣れた天井。


でも、明日にはここを出る。


「……旅か」


目を閉じる。


不安がないわけじゃない。


それでも――。


取り戻したいものがある。


俺は親友を探す。


ラグナは両親を探す。


シエルはヴェインを取り戻す方法を探す。


だから俺達は旅に出る。


そう考えているうちに、眠りについた。


―――


「ヒナタ! 起きろ!」


「ん……」


目を開ける。


「朝だぞ!」


「……早いな」


「旅に行くんだから当然だろ!」


ラグナがいつも通り元気に叫んでいる。


「うるせぇ……」


「ほら、シエルも待ってるぞ!」


「分かったよ」


俺はベッドから起き上がった。


荷物を確認する。


武器。


衣類。


食料。


野営用品。


そしてエルじぃから貰った図鑑。


忘れ物はない。


「……よし」


部屋を出る。


玄関には、ラグナとシエルがいた。


そして、その奥にはエルじぃがいる。


「準備はできたかの?」


「はい」


「もちろん!」


「俺も大丈夫」


エルじぃはしばらく俺達を見ていた。


「そうか」


少しだけ寂しそうに笑う。


「ヒナタ、これを」


エルじぃが何かを取り出す。


「本とペン?」


「儂が使っていたものじゃ。旅の全てと研究成果が書かれておる。それにその紙もペンも丈夫じゃ。ヒナタは研究者気質じゃからの、役に立つじゃろう」


「……ありがとうございます」


色々なことがあったが、結局はずっとこの人に世話になったのだ。


少し泣きそうになる。


「ほら、行くんじゃ!」


顔を背けてエルじぃが言う。


「はい」


「絶対帰ってくるからな!」


ラグナが笑う。


しかし、口元が少し引き攣っている。


シエルも小さく頷いた。


俺達は玄関を出る。


振り返る。


ここで過ごした時間は短かった。


それでも、俺にとっては大切な場所になっていた。


俺はエルじぃに手を振り、前を向いた。


「行こう」


「ああ」


「おう!」


俺達は歩き出した。


目指す場所は――ルミナ。


ここから、俺達の旅が始まる。

疲れた

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