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魔法は思考で使う。  作者: ひなぶり
1章

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21話 決戦

 ラグナが男を睨みつけ、堂々と言い放つ。


「取られたものを、取り返しに来ただけだ」


「……まぁいい。この程度、誤差の範疇だ」


「……ッ、エルじぃ!」


 ラグナの視線が、男の後ろへ向く。


 そこには、石の手錠を嵌められたエルハルトが倒れていた。


「エルじぃ!」


 ラグナが駆け出そうとする。


「待て!」


 俺は咄嗟にラグナを止めた。


(あのエルハルトが?)


 エルハルトは歴戦の猛者だ。


 俺たちが知っている中でも、間違いなく最上位の強さを持っている。


 そんなエルハルトが、こんな短時間で倒された。


(何かある)


 単純な実力差だけじゃない。


 何かの仕掛けがある。


「お前……何なんだ。何回も俺達の邪魔をしやがって」


 ラグナが男を睨む。


「邪魔、だと……?」


 男の表情が歪んだ。


「ふざけるな! 元はといえば、俺の家族を殺したのはお前らの一族だろ?!」


「その通りだ」


 ラグナは静かに答える。


「でも、俺は何もしてない」


「何もしてないのが駄目なんだろうが!」


 男の声が森に響く。


「自分の一族の責任を取れ!」


「……じゃあ、今取ってやるよ」


 ラグナの声は冷静だった。


 怒鳴り返すこともない。


 ただ、男だけを真っ直ぐ見ている。


(もう、心配は要らないかな)


 さっきまでのラグナなら、感情のまま突っ込んでいたかもしれない。


 でも、今は違う。


 怒りを抱えたまま、冷静に立っている。


「その命を持って、償え!」


 男が手を上げた。


 次の瞬間。


「グラァァァア!」


 左右から2体のワイバーンが咆哮を上げ、飛び出してきた。


「ラグナ! シエルを!」


「分かってる!」


 ワイバーンの顎が迫る。


 俺は身体を右へ投げ出した。


 牙が、さっきまで俺のいた場所を噛み砕く。


「ガキィン!」


 地面が抉れる。


 ラグナはシエルを抱え、そのまま左へ跳ぶ。


「うおっ!」


 ワイバーンの爪が、ラグナのすぐ横を通り過ぎた。


(マズい……!)


 ワイバーンは2体だけじゃない。


 森の奥には、まだ複数の気配がある。


 男を相手にしながら、こいつらまで相手にする。


 そんなの無理だ。


(考えろ)


 時間がない。


 自分の記憶から必要な情報を正確に摘み取る。


 そして、1つの光景を思い出した。


(封界……?)


 以前、エルじぃがワイバーンたちに封界という技を使った時。


 あの時、ワイバーンを操っていた魔法が解除されていた。


(封界そのものじゃない)


 あの時、何が起きていた?


「ヒナタ! どうする?!」


 ラグナの声で我に返る。


 悠長に考えている時間はない。


「一旦逃げるぞ!」


「分かった!」


 ラグナはシエルを背負うと、ワイバーンから距離を取った。


「させるか!」


 男が腕を振る。


「追え!」


 ワイバーンが一斉にラグナを追い始めた。


(俺の方は手薄だ)


 ラグナに向けられた男の敵意。


 そのせいだろう。


(なら……今のうちに考える)


 俺は男から距離を取りながら、魔法の仕組みを考える。


 封界そのものを再現する必要はない。


 ワイバーンを操っていた仕組みを崩せばいい。


 魔法なら、魔力を使っている。


 これは間違いない。


(方法は分からない)


 なら、分かっている部分から考える。


(魔力を封じる?)


 俺は魔力そのものを封じることはできない。


 でも――。


(俺はいつも、魔力を集めている)


 なら。


 周囲にある魔力を、俺のところへ集めてしまえばいい。


 この場所に存在する魔力が薄くなれば。


 ワイバーンを操っている魔法にも、何かしらの影響を与えられるかもしれない。


「聚星!」


 意識を集中させる。


 周囲の魔力が、俺の身体へ吸い寄せられていく。


「おっ?」


 遠くから、ラグナの声が聞こえる。


 ワイバーンの動きが止まった。


「グル……?」


 ワイバーンたちは戸惑うように辺りを見回している。


「何だと……?」


 男の顔から余裕が消えた。


 そして、俺を見る。


「貴様か!」


 その瞬間。


 虚空から出現した石が、弾丸のように飛んでくる。


「飛閃!」


 ラグナが剣を振る。


「カァン!」


 石が弾き飛ばされた。


「させねぇよ」


 シエルを背負ったまま、ラグナが男を睨む。


 そのまま再びワイバーンから距離を取った。


「聚星!」


 俺はさらに魔力を集める。


 身体の内側へ、魔力が流れ込んでくる。


「まだだ! 奴を殺すのだ!」


 男がワイバーンへ命令する。


「グルルル……」


 しかし、ワイバーンは動かない。


 それどころか。


「グルル……」


 低い唸り声を男へ向けている。


「……もういい」


 男の声が変わった。


「俺がやる」


 低い。


 先ほどまでの怒鳴り声とは違う。


 だからこそ、不気味だった。


「ゾワッ」


 背中を何かが走ったような感覚。


 鳥肌が立つ。


(……殺意)


 大声を出しているわけじゃない。


 なのに、さっきよりも明確に感じる。


 目の前の男が、俺たちを殺そうとしている。


「轢弾(れきだん)」


 男が手を向ける。


 空中に岩が生まれた。


 それも、1つじゃない。


 複数の岩が浮かび上がり、一斉にこちらへ飛ぶ。


「風掌!」


 俺は手を振り払う。


 風が炸裂し、岩の軌道を逸らす。


「うらっ!」


 ラグナも剣で岩を弾き飛ばした。


「……!」


 岩が地面に突き刺さる。


(前より大きい?)


 明らかに以前の戦闘の時より威力が高い。


「ヒナタ! 攻めるぞ!」


「分かった!」


「シエルは下がってろ!」


「分かってる!」


 俺は意識を集中させる。


「水淬!」


 3つの水球が生まれ、俺の周囲を漂う。


 その横を、ラグナが駆け抜けた。


「飛閃!」


 男との距離が一瞬で縮まる。


 ラグナの剣が下から鋭く放たれる。


「カァァン!」


 男の手に石の剣が生まれ、ラグナの剣を受け止める。


(今、作ったのか?)


「穿岩(せんがん)」


「ッ、あぶねぇ!」


 男の足元から岩が突き出した。


 ラグナは瞬時に身体を捻って躱す。


 その直後。


「重撃!」


「グハッ!」


 男の右拳が、ラグナの腹へ突き刺さった。


 ラグナの身体が浮く。


 そのまま、こちらへ吹き飛んできた。


「ラグナ、大丈夫か? シエル、治せ!」


「分かってる!」


 ラグナは腹を押さえながら地面を転がった。


「グッ……!」


 シエルがすぐに駆け寄る。


 しかし。


「礫雨!」


 男が手を振った。


 無数の小石が、雨のように降り注ぐ。


 俺は咄嗟に2人の方へ移動した。


「風掌!」


 俺は風を叩きつける。


 小石が弾かれ、地面へ散らばっていく。


(今のは……)


 俺は男を見る。


(エルじぃの技だ)


「ラグナ!」


「なんだ!」


「仕組みは分からないが、あいつは他人の技が使えるらしい!」


「……俺も見た」


 治療を終えたラグナが立ち上がる。


「あれ、エルじぃの技だ」


「他の技も使えるかもしれない、気をつけろ」


「了解」


「追石(ついせき)」


 男が手を向け、唱える。


 地面に落ちていた石が、突然浮かび上がった。


「なっ……!」


 石がラグナへ向かって飛んでいく。


「効かねぇよ!」


 ラグナが剣で弾く。


「カンッ!」


 弾かれた石が地面へ落ちる。


 ――と思った。


「……ッ!」


 石が再び浮かび上がった。


「カンッ!」


 また弾く。


 だが。


 石は何度でも浮かび上がる。


「しつけぇ!」


 ラグナがさらに弾く。


 それでも石は、執拗にラグナを追い続ける。


(俺には来ない)


 なぜだ?


 男は他人の技を使う。


 なら、これは――。


(ヴェインの空間把握?)


 ヴェインは印を使って、ラグナの位置を把握していた。


 それを利用しているのなら。


 この追尾も説明できる。


(そういうことか?)


 考えているうちに、男がラグナへ剣を向けた。


 アイツはラグナに執着している。


(なら……)


 俺が意識を引きつける。


「人の技ばっか使って、芸が無いな!」


 男の動きが止まった。


 俺は更に言い放つ。


「パクリ野郎!」


「……何だと?」


 男の眉が動く。


「自分の力じゃ戦えないのかなぁ?」


「貴様ァッ!」


 男がこちらを向いた。


(上出来)


「水吼!」


 俺は水弾を放った。


 男が剣を高速で振る。


 水弾が弾かれた。


 その間に距離を詰める。


「風纏!」


 俺は身体へ風を纏わせる。


「穿岩!」


 地面から岩が突き出した。


 俺は身体を捻って躱す。


(真っ向からはやり合わない)


 そのまま男の懐へ潜り込む。


「風掌!」


「グッ!」


 掌から放った風が、男の腹を打ち付けた。


 男の身体が大きく吹き飛ぶ。


「うぜぇなぁ!」


 ラグナが追石を全て壊し終えた。


「飛閃三連!」


 一瞬。


 ラグナの姿が消えたように見えた。


 次の瞬間には、男の目の前。


「隼(はやぶさ)」


「痛ッ!」


 男がラグナより速く剣を振った。


 ラグナの胸から血が吹き出る。


 ラグナが後ろへ下がった。


「轢弾(れきだん)!」


 男は追撃を重ねる。


(もっと速く攻撃しないと!)


「水淬吼!」


 水の生成と射出を同時に行う。


 迫る岩を、正確に撃ち抜く。


「パァン!」


 岩が水圧に弾かれて砕けた。


「ラグナ! 一旦こっちへ!」


「分かった!」


「シエル! 治療を!」


「了解!」


 ラグナが戻ってくる。


 シエルがすぐに治療を始める。


(連携は上手くいっている)


 それでも。


 男には、決定的なダメージが入っていない。


(足りない)


 今まで通りじゃ駄目だ。


 少しずつ削るだけじゃ、こいつは倒せない。


(一度でいい)


 強い一撃を叩き込む。


「来ないなら、こちらから行くぞ!」


 男が両手を前へ突き出した。


「重甲弾(じゅうこうだん)」


「避けろ!」


 ラグナが叫ぶ。


 次の瞬間。


「――ッ!」


 視界を巨大な岩が地面を抉りながら横切った。


「ドゴォン!」


 背後の大木が、轟音と共に砕けた。


 太い幹に、巨大な穴が空いている。


(危なかった……)


 もしラグナが叫んでくれなかったら。


 今ごろ、俺は――。


 考えるだけで背筋が冷える。


(エルじぃの重力技の応用……?)


 威力が桁違いだ。


 しかし考えている暇は無い。


 男はすでに次の攻撃へ移っている。


(攻撃を防いでから反撃じゃ、間に合わない)


 真っ向からぶち抜く。


「ラグナ、しばらく耐えられるか?」


「大丈夫だ。任せろ」


 ラグナは笑う。


「シエルもいるしな」


「治せる範囲なら治す」


「ラグナが耐えている間に、俺が強力な技を撃つ」


「それが防がれたとしても、隙はできるはずだ」


「重甲弾!」


 男が再び巨大な岩を放つ。


「おらぁ!」


 ラグナが俺を蹴り飛ばした。


 身体が宙へ投げ出される。


 その直後。


「ゴォン!」


 巨大な岩が俺のいた場所を通過した。


 地面が抉れ、土煙が舞う。


(クソッ……また助けられた)


「ごめん、ありがと!」


「ヒナタ、作戦は知らないが頼んだぞ」


 そう言って、ラグナはシエルを背負った。


「俺の背中にずっと捕まっててくれ」


「まさか……」


「攻撃された瞬間に治してほしい」


「無茶だ」


「それでも俺は行く」


「……はぁ」


 シエルがため息を吐く。


「分かった」


「行くぞ!」


 ラグナが強く地面を蹴った。


 そのまま男へ一直線に突っ込んでいく。


(あいつを倒すなら――)


 俺は手のひらを見る。


(赫々を打ち出す)


 さっき編み出したばかりの赫閃(せきせん)を使う。


「聚星!」


 周囲の魔力を一気に集める。


 以前より速い。


 集中もできている。


「飛閃!」


「隼!」


 ラグナの剣が男へ迫る。


「その技はとうに見切った!」


「知ってる!」


 ラグナは剣を振る。


 しかし、やはり男はそれを防いだ。


 そしてさらにラグナに追撃を加えた。


「なんだと!」


 だが、ラグナは避けなかった。


 そのまま男の懐へ踏み込み、


「おらぁ!」


 ラグナは、男を上空へ弾き飛ばした。


「無茶するな!」


 シエルが治療する。


「しっかり捕まってろよぉ!」


 シエルの言葉を無視してラグナは、男に向かい、構える。


「ダンッ!」


 ラグナが跳んだ。


 地面を蹴った勢いだけで、男を追い抜いた。


 ラグナは重力に任せて、男に向かって落下する。


「怒髪天!」


 ラグナの剣が上から叩き付けるように男へ迫る。


 空中ならば避けられない。


 だが、


「風掌!」


 男が風を叩きつける。


「くっ!」


 男もラグナも体勢を崩した。


 2人が同時に落下した。


(ラグナ達は大丈夫か?)


 俺は手のひらを見る。


 魔力は十分。


(急がないと)


 俺は意識を加速させる。


「赫々!」


 手のひらに、鮮烈な赫い光が浮かび上がった。


 小さな赫い玉。


 だが、その内部には膨大な力が凝縮されている。


(後は――)


 水吼のように。


 真っ直ぐ放つだけだ。


 しかし、男の姿は土煙で見えない。


「痛ッ……!」


 ラグナが起き上がる。


「シエル、大丈夫か!」


「……下敷きにするな」


「悪い!」


 2人が立ち上がる。


 その正面。


 男は巨大な岩をラグナ達に向けていた。


(避けられない)


 ラグナは直感的に理解した。


「ラグナ!」


 俺は手を男へ向ける。


「信じて、突っ込め!」


 赫い光が収束する。


 空気が震えた。


 男の表情が変わる。


「……!」


 こちらの攻撃を察知した。


 男も腕を構える。


「赫閃!」


「重甲弾!」


 赫い光と巨大な岩が正面からぶつかった。


「パァァァン!」


 轟音。


 岩が砕け散る。


 だが――。


(止められた……!)


 赫閃も消えた。


 男も無傷。


 完全に相殺された。


 それでも。


(いや)


 男の身体が僅かに傾いている。


 体勢が崩れている。


 それだけで十分だった。


「おぉぉぉ!」


 ラグナが突っ込む。


「飛閃!」


「隼!」


「カァァン!」


 男の剣がラグナの剣を弾き飛ばした。


「何ッ!」


 ラグナは剣を既に手放していた。


 ラグナが姿勢を低くし、


 拳を構えている。


「双衝!」


「重撃!」


 男も拳を握った。


「ダァァァン!」


 拳と拳が正面から衝突する。


 空気が震えた。


 ラグナの拳が押し戻される。


 ――その直後。


 もう一度。


 拳の奥から、衝撃が叩き込まれた。


「何だと!?」


 男の腕が大きく押し戻される。


 ラグナはその隙を逃さない。


「うおおおお!」


 さらに一歩。


 踏み込む。


 そして。


「おらぁぁぁ!」


 拳を男の胸に叩き込んだ。


「ドゴォン!」


 男の身体が宙に舞う。


(まだだ!)


「水淬吼!」


 俺は両手を前へ突き出す。


 水弾が次々と生成される。


 男へ向かって一直線に飛んでいく。


「バン!」


「バン!」


「バン!」


 水弾が腕を


 胸を


 脚を貫く。


 男の身体が空中で大きく揺れた。


「ドサッ!」


 男が地面へ落下する。


「まだだ……」


 男が身体を起こす。


「まだだッ!」


 片腕をこちらへ向ける。


「重甲弾!」


(マズい!)


 巨大な岩が生まれる。


 逃げるには遅い。


(死ぬ――)


 そう思った。


 その瞬間。


「なっ……」


 男の声が聞こえた。


「……なんだ、これは……?」


 男の腕が震えている。


 いや。


 震えているんじゃない。


 変わっている。


 腕の皮膚が、石へと変質していく。


「うわぁぁぁあ!」


 男が叫ぶ。


 今度は脚。


 そこから下半身が、水になり崩れていく。


「た、助け……ッ!」


 男がこちらを見る。


「なんだ?」


 何が起きている?


 俺たちは何もしていない。


 攻撃もしていない。


 それなのに。


 男の身体が、次々と別の物質へ変わっていく。


「何なんだ……これ……!」


 俺が一歩踏み出した瞬間。


 風が吹いた。


「……ッ」


 男の頭部が消えた。


 後には、欠損した身体だったものだけが残っている。


 俺は呆然と立ち尽くした。


 ラグナも。


 シエルも。


 何も言わない。


(俺たちが、何かしたわけじゃない)


 なら。


 あの男の身体に、何が起きた?


 答えは出ない。


 ただ1つだけ分かる。


 「倒した……」

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