19話 新技
あの出来事から数日。
俺達は、特に何事もなく過ごしていた。
(……杞憂だったのかな)
「ヒナタ、エルじぃが修行するってさ」
「分かった。今行く」
最近は基礎体術や魔法、体力作りを中心に修行を続けている。
「……シエルがいないな」
この家に一緒に住むことになったシエルが、今日は見当たらない。
「ヴェインのとこ行ったみたいだぜ」
「それならよかった」
「ヒナタ、行くぞ」
「分かってる」
俺達はエルじぃの元へ向かった。
「今日はいつもとは違うことをする」
「違うこと?」
「自分の技を見つけてもらう」
「自分の技なら、もう俺達使えるぞ?」
ラグナの言う通りだ。
何種類かの魔法なら、もう実戦でも使えるようになっている。
「それは、本当に自分の技と言えるものなのかの?」
「……どういう意味だ?」
(自分の技……自分だけの技……)
「誰とも違った技を作るってことですか?」
「その通りじゃ」
「お主らは、よく魔法を使えておる。実際、実戦でも十分使いこなしている」
「しかし、相手が人や魔族ならどうじゃ?」
「……読まれる?」
「大体合っておる。水魔法や剣技は似たようなものが多いからの。相手からすれば、対応もしやすい」
「そこで、自分だけの技を作ってもらう」
(自分だけの技……どんなだ?)
自分だけの技。
つまり、自分に最も合った技か。
「しばらくは自分で考えてみるといい。気になることがあれば儂に聞け」
「分かった」
「分かりました」
(俺に合った技。俺が得意とすること。他人がするには難しいものは?)
言語を使った思考と、現代知識。
考えて編み出すしかないだろう。
(まず、自分の戦闘スタイルから考えてみよう)
「聚星、水淬、水吼、白炎、風纏……」
水の強力な弾丸を撃つのは得意だ。
魔力を集めて威力を上げることもできる。
しかも、俺は近接戦闘もある程度はできる。
(万能型とか?)
器用貧乏とも言うが、大体のことは人並みか、それより少し上手くできる。
(すべてに対応できる魔法があれば、切り替えがなくなって、もっと早く攻撃できるんじゃ?)
例えば、風纏のまま遠距離攻撃ができれば、水のイメージを作る時間を大幅に省ける。
(でも、風の弾丸が撃てるわけじゃない)
なら、対応範囲の広いオリジナル魔法をイメージする必要がある。
(水も風も、俺が実際に触れたり、感じたりできるものだ)
俺は、それらを生成して攻撃している。
なら、同じように扱いやすくて、別の性質を持ったものを作ればいい。
(水は圧縮しやすく、エネルギーを溜めやすい。風は柔軟に動かしやすい)
これらの特性を含んだもの。
(……あるのか?)
いや、水や風と違って、触れたり、経験したことのないものなら、魔法にしても威力が落ちるんじゃないか?
(なら、現実で経験できるものに似ていて、新しいもの)
「エネルギー弾とか?」
アニメとかでよく出てくる、あれだ。
早速試してみよう。
(光っていて物を破壊する玉をイメージ)
手の上に、光の玉が浮いた。
淡い光を放つ小さな球体だ。
「発射!」
「パンッ」
光の玉は木の表面に当たり、僅かに木片を弾き飛ばした。
(威力、弱っ)
なんでだろう。
(……不要なイメージが多い?)
光る必要はない。
見える必要もない。
弾である必要もない。
破壊するイメージだけでいいはずだ。
(試してみよう)
俺は木に向かって手を伸ばし、イメージする。
「爆ぜろ!」
「パァン」
木の表面が先ほどより大きく弾けた。
少し威力は上がった。
だが、まだまだ弱い。
でも、分かったことはある。
(不要なものを抜くと、イメージが集中して強くなる)
極限まで不要な性質を抜き去る。
(破壊である必要もないな。ダメージがあればいい。吹っ飛ばすとか、弾くとかでもいい)
弾として飛ばすなら、光っていたほうが見やすい。
光らせよう。
大きさも必要ない。
威力を優先する。
つまり、まとめると……。
「小さくて、光ってる、弾くエネルギー」
(ん? それって……)
「斥力と引力、電子と陽子、磁石……」
現代にも似たようなものはある。
なら、それを参考にしてイメージすればいい。
(陽子とかがいいかな)
弾きそうだし、強そうだ。
色は赤色とかがいいかな。
強そうな色がいい。
いや、もっと強そうな色……鮮やかな赤。
赫だ。
(斥力を持った、赫いエネルギーの玉)
「ホワッ」
手のひらの上に、鮮烈な光を放つ赫い玉が浮かび上がった。
先ほどの光の玉よりも小さい。
それなのに、込められた力は明らかに違う。
(これを水淬のイメージで強く溜めて、水吼のイメージで強く放つ)
「発射!」
「パァァァン!」
赫い玉が一直線に飛び出す。
それは用意に大木を貫通した。
「……強くね?」
(使える)
まだ試すことはある。
近接に応用できるかだ。
(拳にさっきのエネルギーを纏う)
相手を弾く強力な粒子を、拳に纏うイメージ。
(風掌をイメージ!)
「ダァァァン!」
「痛ったぁ!」
拳は強く木に当たった。
だが、それ以上に強く、自分の拳が弾かれた。
身体が後ろへよろめく。
(工夫はいるけど、威力はあるな)
(プラスのエネルギーのイメージとして、赫色は直感的に分かりやすいな)
他の炎とかの技や、威力のある技のイメージにも応用できそうだ。
後は名前を決めて、練習だ。
激しくて、鮮烈で、強烈で、強力で、吹っ飛ばすような。
そんなイメージを表さないと。
「赫々《かっかく》」
太陽が輝くさまや、きらびやかなものを表す言葉だ。
(強そう)
そう思えることが重要だ。
魔法はイメージの世界なのだから。
そして、逆に言えば、すべてイメージだ。
陽子の色なんて知らない。
陽の電気を持つことくらいしか知らない。
つまり、陽子を生成したのではなく、
『陽子を参考にしたもの』を作ったのだ。
(だから、化学的に物質を考えるんじゃなくて、イメージの強さや鮮明さを優先しよう)
「ヒナタは早速、魔法を作ったみたいじゃな」
「はい。うまくいってよかったです」
「しかし、それは万能かの?」
「……多分、そうだと思いますけど?」
「試しに水吼のように、離れて儂に撃ってみるといい」
「手加減しませんよ?」
「安心せい、どうせ効かんよ」
(そこまで言うなら、ぶっ放してやろう)
さっきより、さらに強くイメージする。
「赫々!」
「ヒュッ」
赫い弾が高速で飛んでいく。
しかし――。
エルじぃの手前まで来た瞬間、まるで形を失うように消えてしまった。
「え?」
「やはりな」
「どういうことですか?」
「これが、魔法を作ることの難しさなんじゃ」
「お主、赫々の具体的な手触り、落とした時の音、変形する時の様子、弾力、味が分からんじゃろ」
「味? 音? 関係あるんですか?」
「では、お主は水についてはどうじゃ?」
「味も音も、手触りも知っていますね……」
「そうじゃ。つまり、具体的なイメージが、その魔法の再現性や形の維持に影響する」
「なるほど」
つまり、自分の魔法について知り尽くさないといけないわけだ。
「後は、触れて、見て、聞いて、練習するといい」
「分かりました!」
(魔法についての解像度、理解度を上げれば、強く再現できるのか)
これは他の技にも言えることだ。
今後は、もっと意識して魔法を使おう。
「難しいなぁ」
少し離れたところから、ラグナの声が聞こえてきた。
「どうした?」
「いや、ヒナタの風纏みたいなのなら俺に合うかなって思って、風のイメージしてるんだけど、上手くいかないんだよなぁ」
「ラグナは、もっと感覚的なものの方がいいんじゃない?」
「感覚的?」
「感覚……そうだなぁ」
「普段戦闘してて使う、身体の感覚とかどう?」
「身体の感覚はよく分かるけど、それをどう魔法にするの?」
「とりあえず、そこの木に向かって構えてみて」
「うん」
「それで、自分の身体をイメージして」
「うん」
「それで、目の前の木をイメージの中で思いっ切り殴る」
「……実際には動かないのは難しいな」
「なら、目を瞑ってみたらいい」
ラグナは目を瞑って、木に向かって構える。
「イメージの中で力をためて、思いっ切り木を殴るんだ」
「………」
ラグナの身体は微動だにしない。
それでも、次の瞬間――。
「……ダァン!」
木の幹が大きく揺れた。
拳の形に、木が凹んでいる。
「できた!」
「……すごいな」
(ここまで上手くできるのか)
それだけ、ラグナの身体操作のイメージは鮮明だということだろう。
「ヒナタ! できたぞ!」
「後は目を開けて、現実でも殴りながら使ったら強いんじゃないか?」
「やってみる!」
そう言って、ラグナはもう一度木に向かい合った。
拳を握る。
今度は目を開けたまま、木との距離を測るように構える。
「ダァァァン!」
拳が木にめり込み、幹が大きく震えた。
「できたぁ!」
(マジかよ)
感覚を掴むのが早すぎる。
ラグナの才能だな。
「すごいな……」
「すごいだろ!」
「後はそうだな……剣とか脚とか、別の部位でもできたら完璧だな」
「おうっ!」
(まぁ、ラグナならすぐにできるだろう)
「ヒナタ! 後は技名だろ?!」
「なんだ、また決めてほしいのか?」
「漢字? ってやつがかっこいいんだよ!」
「そうだな」
(イメージで攻撃して、同時に現実でも攻撃する技……重なった二つの衝撃……)
「双衝でいいんじゃないか?」
「どんな字?」
「ほら、これだ」
地面に指で文字を書いてやる。
「かっけぇ!」
「ありがと! 練習してくる!」
「うん、がんば」
(ラグナはすごいな)
見えない衝撃なんて、俺は作れない。
(さて、俺も頑張らないとな)
置いていかれてしまわないように。
俺は赫々の練習を始めた。
―――
あれから一時間。
ひたすら撃ったり、殴ったり、動かしてみたり、舐めようとして舌を痛めたり……。
色々なことを試して、理解を深めた。
赫々は弾く粒子をイメージしたものだから、地面に落とすと跳ね返ってくる。
手触りはなく、反発する力だけを感じる。
(俺の潜在的なイメージが強く反映されてるのか?)
この無意識的なイメージを、より具体的にイメージすることで再現性を上げられるのだろうか。
(赫々は反発するエネルギーの塊)
これが一番、自分にしっくりくる。
(一度、本気で使ってみよう)
俺は赫々の塊を手の上に出す。
小さな赫い光が、手のひらの上で浮遊する。
それを空中で八の字に動かしてみる。
(前より、操作もしやすい)
撃ってみよう。
今までの赫々の経験をイメージする。
そして――。
(溜めて、反発するエネルギー弾を打ち出す)
「おっ?」
赫々が、何だか少し大きくなった。
(溜めるイメージの影響?)
何だか、自分のイメージとの連携率のようなものが上がっているように感じる。
(再現性か……)
気を取り直し、撃つ準備を始める。
「聚星……」
ゆっくり、慎重に、強く、具体的に。
魔力を集めるイメージをする。
そして、次は放つ。
水吼のようなイメージだ。
今まで何回も使ってきたから、感覚は十分にイメージできる。
そして、赫々と閃めく光が、相手を貫くイメージ。
鮮烈な赫が一点に収束していく。
手のひらに集まった光が、徐々に細く、鋭くなっていく。
「赫閃!」
「パァァァン!!!」
空気が揺れる。
赫い光が尾を引いて、一瞬でいくつもの大木を貫いて飛んでいった。
「ドサッ」
木々が倒れる音が、少し遅れて響く。
俺は、その威力に思わず尻もちをついた。
「ヒナタ! なんだ今の!」
「……新技」
「めっちゃ強いじゃん!」
「俺もびっくりしてる」
(いつもより遥かに、鮮明に、強烈なイメージができた気がする)
「ヒナタ、15分くらい構えてたもんな」
「……そうなの?」
(集中していて気づかなかった)
「ハハッ、すごい集中だな!」
「今のは儂でも傷を負うレベルじゃよ」
近づいてきたエルじぃが俺に声をかける。
「……そうなんですか?」
「本当じゃ……もっとも、15分も溜める時間など与えんがな」
少し自慢気に言ってくる。
(こういうとこはラグナに似てるな)
「まぁ、強力な魔法には違いない。よく頑張った」
エルじぃが俺の頭を撫でた。
(褒められたの、ほぼ初めてだな)
少しは認められたということだろうか。
しかし、まだ改善点はいくらでもある。
「まだまだ頑張ります」
「その意気じゃ」
その時、誰かがこちらに走ってきているのが見えた。
「エルハルトさん!」
シエルが慌てた様子でエルハルトを呼んだ。
「どうしたんじゃ?!」
「ヴェインが! ヴェインが!」
シエルは息を切らしながら、必死に言葉を繋げる。
「落ち着いて話すんじゃ」
「ヴェインが……」
シエルが震える声で呟いた。
「ヴェインが、どうしたんじゃ?」
「攫われた!」




