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魔法は思考で使う。  作者: ひなぶり
1章

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16話 依頼要請と再挑戦

「ワイバーンどうする?」


 俺はラグナに問いかける。


「面倒臭いし、頭と太腿だけもらっていこうぜ」


「なんで太腿なの?」


「太腿はなぁ……油が乗ってて美味いんだ」


「なるほど、シンプル」


「残りはヴェインに適当に処理してもらおう」


「またあの人か。大丈夫なのか?」


「ヘイキヘイキ」


「まぁ、大丈夫か」


 そうして俺たちは、ヴェインの元へ向かった。



―――



「ドンドンドンドン!」


 拳で壁を叩く。


「ッ、入れ!」


 ヴェインのアジトの入り口にあった壁が、音もなく消えた。


「ノックがうるせぇ」


「そうカリカリすんなって」


「いや、すまん。大丈夫だ」


「どうした? やけにしおらしいな」


「いや、ちょっとな……それより、何か用があって来たんだろ?」


「あぁ、なんとまたワイバーンだ!」


「ドン!」


 ラグナが勢いよく袋をカウンターへ置く。


 ずしり、と鈍い音が響いた。


 袋の中には、さっき倒したワイバーンの生首が入っている。


「……すげぇな」


 ヴェインは袋を見下ろした。


「それで、これの解体と売却をすればいいのか?」


「あぁ、そうだ」


「なら、手数料は全部要らない」


「え?」


「その代わり、一つ引き受けてほしいことがあるんだが、いいか?」


 ラグナがこちらを振り返る。


 俺は小さく頷いた。


 それを確認したラグナが、再びヴェインへ向き直る。


「いいぜ。内容は?」


「……シエルが行方不明なんだ」


「シエルが?!」


「すまん。シエルって誰のことだ?」


 知らない名前だった。


 ラグナが知っていることに疑問を覚え、思わず口を挟む。


「ヴェインの一人息子だよ。クソ合理主義の」


「息子と言っても、拾い子だがな……それより」


 ヴェインの表情から、さっきまでの軽さが消えた。


「探してくれないか?」


「勿論。でも、何で自分で探さないんだ?」


「それがな……探したんだ。場所も見当がついてる」


「なら自分で……」


「場所が問題なんだよ」


 ヴェインが地図を勢いよく広げた。


 紙がカウンターに叩きつけられる。


「ここなんだ」


「ん?」


 ラグナが地図を覗き込む。


「森の結構北だな。地図の端くらいだ」


 俺も横から覗き込む。


 どうやら、大樹の森の全容が描かれているらしい。


 その中でも、ヴェインが指を差している場所には――


『ワイバーンの巣』


 そう記されていた。


「ワイバーンの巣だぁ?!」


 ラグナの声が響く。


「ワイバーンって群れるのか? というか、何でこんなところに……俺も行ったことないぞ?」


「いや、シエルは自分の実力も弁えてる。そんな場所に自分から行くとは思えない」


「じゃあ、なんで……」


「森に行った後、帰ってきていない。そして、その地点以外のほぼ全てを探したんだ」


「だからって、そんなところにいるとは限らないし、いても死んでるんじゃないか?」


 思ったことを、そのまま口にする。


 ヴェインは少しだけ目を伏せた。


「シエルは治療のプロだ。自分の身体なら、かなりの傷でも治せるだろう。だが、戦闘に関してはからっきしだ」


 その言葉を聞いて、俺はもう一度地図を見る。


(なら、生きている可能性はある)


(それにシエルは無謀なタイプじゃない)


 自分からワイバーンの巣に向かったとは考えにくい。


(薬草を採りに行った。その途中で何かが起きて、そこへ行かざるを得なくなった?)


「そこに行かざるを得なくなった?」


「……俺もそう考えている」


 ヴェインは静かに頷いた。


「あいつは生粋の医者であり、薬師だ」


「日課の薬草の採集に出て行った時に居なくなった」


(日課の……)


 つまり、普段通りなら帰ってきているはずだった。


(何かイレギュラーが起こったから帰ってきていないわけだ)


「頼む! ワイバーン狩りは得意なんだろ?」


「引き受けはするが、無茶だぜ?」


 ラグナが冷静に告げる。


「ワイバーンは単騎でも強いから、普通は群れない。それが複数匹。しかも同時討伐に加えて、人探しときた」


(状況の分析は達者だな……)


 戦闘経験からくるものだろう。


 ヴェインは地図の上に置いた手を強く握った。


「頼む! 見てきてくれるだけでいいんだ。いなかったっていう報告だけでもいい!」


 ラグナが渋そうな顔で俺を見る。


 俺も少し迷った。


 ワイバーンの巣。


 昨日、1匹倒したばかりだ。


 それでも――。


 俺は了承の意味で頷いた。


「いいぜ。だけど期待はすんなよ!」


「恩に着る!」


 その後、ヴェインはワイバーンの生首すらも高額で買い取った。


 それだけシエルのことが気になっているのだろう。



―――



「いや~、参ったなぁ」


 家へ向かう道を歩きながら、ラグナが頭を掻く。


「ワイバーンの巣だもんなぁ」


「ヒナタはやれると思うか?」


「無理。不可能。無茶。無謀」


「だよなぁ。まともな奴なら、そういう判断するよなぁ」


 ラグナも無茶は承知で引き受けたようだ。


「シエルってどんなやつなの? 仲良かった?」


「いや、むしろ犬猿の仲だったな」


「なのに引き受けたの?」


「悪い奴じゃないんだ。むしろ、いいヤツだ」


「受けた恩は返すし、仕事も完璧にこなす」


「なるほど」


 ラグナらしい理由だ。


 いいヤツが、理由もなく不当な状況に置かれている。


 それが許せないのだろう。


「今から行っても、夜行性のワイバーンに襲われてヤバいからな。また明日だな」


「そうだなぁ。早く行ってやりたいんだがな」


「あぁ」


 焦って向かっても、危険が増えるだけだ。


 今は準備を整えるしかない。



―――



 家に着いた。


 中へ入ろうとしたところで、エルじぃに呼び止められた。


「じゃあ二人とも、準備はいいかの?」


「……あっ」


 そういえば――。


 エルじぃに勝つ。


 それが修行の目標だった。


(色々あって忘れてた)


「……」


 隣を見る。


 ラグナも同じことを思い出したらしい。


 見事に項垂れていた。


「とにかく、ついてくるんじゃ」


 俺たちは渋々、いつもの風呂場へ向かった。



 湯気の向こうで、エルじぃが構える。


「さぁ、修行の成果を見せてみるんじゃ」


 疲れたな……。


 そう思った。


 けれど、すぐに頭を振る。


(気持ちを切り替えろ)


 なんのために強くなるんだ。


 大事なものを見つけるためだろ。


「いきます!」


 まずはいつも通り、畳み掛ける。


(……いや)


 一瞬、考える。


(いつも通りじゃ駄目だ)


「ラグナ、待て。同時にいくぞ」


「あぁ」


 実戦と違い、エルじぃはこちらから仕掛けない限り攻撃してこない。


 なら、その性質を利用する。


 俺は一度、深く息を吸った。


「聚星……」


 いつもより集中する。


 自分の周囲にある魔力。


 目には見えない。


 けれど、そこにある。


 その全てを感じ取り、引き寄せる。


(いける……)


「風纏、水淬」


 風を身体に纏わせ、水淬を維持する。


 隣のラグナを見る。


 目が合った。


「いくぞ!」


「おうっ!」


 ラグナが勢いよく飛び出した。


 俺も、ほんの少し遅れて追う。


(これでいい)


 同時ではない。


 タイミングをズラす。


 エルじぃの意識を分散させる。


「飛閃三連!」


 ラグナの姿が、一瞬で消えたように見えた。


 次の瞬間には、エルじぃの懐へ潜り込んでいる。


「ガガガ!」


 3連撃。


 だが――。


 エルじぃは、その全てを腕で受け止めた。


 鈍い衝撃音が3度響く。


 そして、エルじぃは流れるように右拳を引いた。


(来る!)


 いつもの反撃。


 なら――ここだ!


「風掌!」


「ダンッ!」


 拳を、エルじぃの腹へ叩き込む。


 拳に追従していた風が、一気に弾けた。


 エルじぃの身体が、わずかに後ろへ流れる。


(ダメージは……やっぱりないか?)


 なら。


 続けて叩く。


「水吼!」


 水弾を3つ。


 それぞれ、喉。


 みぞおち。


 太腿。


「ビッ、ビッ、ビッ!」


 水弾が身体に当たり、服が破れる。


 肌が赤く腫れた。


(効果はあるか)


「ヒナタ! もう一回エルじぃを飛ばせ! 上にだ!」


「分かった!」


 意図は分からない。


 だが、ラグナがそう言うならやる。


「風纏!」


 身体に風を纏わせる。


 同時に――。


「飛閃!」


 ラグナがエルじぃへ突っ込んだ。


 しかし。


 エルじぃは、すでに拳を構えている。


「ブンッ!」


 空気を裂くような拳が振り抜かれる。


「カァァン!」


 ラグナの剣が拳を弾いた。


「ッシャおらぁぁあ!」


(いける!)


「風掌!」


 拳から風が爆ぜる。


 エルじぃの身体が浮いた。


「ダァン!」


 ラグナが地面を蹴る。


 そのまま、空中のエルじぃを追って飛び上がった。


 俺も次の攻撃を準備する。


 狙いは――下から。


「水淬!」


 魔力を込める。


 水弾に運動エネルギーを蓄える。


(ここで決める!)


 ラグナと目が合った。


 互いに、同じタイミングで攻撃を放つ。


「怒髪天!」


「水吼!」


「ガガガドォォン!」


 2つの攻撃がエルじぃを捉えた。


 身体が勢いよく地面へ叩きつけられる。


 土煙が舞い上がった。


(やったか?)


 いや。


 そんな簡単に終わるわけがない。


「ラグナ! もう一回だ!」


「わかってる!」


「もういい、もういい。十分じゃ」


「「え?」」


 俺たちは、間の抜けた声を出した。


 土煙の向こうから、エルじぃが立ち上がる。


「儂の評価では、もう十分じゃ」


「でも、勝ててませんよ?」


「もし本当に儂に勝てるなら、それは勇者か魔王レベルじゃろうて」


「だったら、なんでだ?」


 流石のラグナも問いかける。


 エルじぃは、俺たちを交互に見た。


「儂が鍛えたかったのは、技の威力でも種類でもない……」


 一拍。


「攻めを繋げる力じゃ」


「「繋げる?」」


「魔法使いの戦闘の多くは長引く。身体強化と、ある程度の回復魔法はみんな使うからじゃ」


 エルじぃは、ゆっくりと腕を下ろした。


「そこで重要なのは、攻撃が止まらないことじゃ」


(なるほど)


 今までも考えてはいた。


 けれど、俺たちの攻撃は一つ一つが独立していた。


 一手目が破られたら、そこで終わる。


 次の一手を考える前に、相手の攻撃が飛んでくる。


 そして――。


 勝つ可能性が、そこで潰える。


「おぬしらは儂の圧倒的な攻撃をいなし、または当たらない距離を取ったりして対策した」


「それは威力を上回ることもないし、決定打にもならない……」


 エルじぃが、俺たちを見る。


「だが、勝つ可能性を絶やさないことが一番重要なんじゃ」


(勝つための一手より――)


(勝つ可能性を絶やさない一手か……)


 今までとは、少し違う。


 強い一撃を作る。


 それだけが強さじゃない。


 一撃が防がれても、次の一撃へ繋げる。


 それを防がれても、その次へ。


 最後まで攻める可能性を残し続ける。


「それが分かれば、今回の修行はほぼ終わりじゃ」


「よっしゃぁぁあ!」


 ラグナが両手を上げる。


 修行を終えられることが嬉しいのか、そのまま俺へ飛びついてきた。


「やったな!」


「そうだな」


 俺も笑う。


(不十分なところも多いが、形にはなってきたかな)


「特にヒナタじゃ」


「はい!」


 油断していたところに声をかけられ、身体が一瞬強張る。


 エルじぃは真っ直ぐ俺を見る。


「ラグナを頼んだぞ」


「勿論です!」


「あと、喜んでるところ悪いんじゃが……」


「ん?」


「修行はまだするぞ?」


「……」


 空気が止まった。


(本題は終わったけど、基礎はまだまだ鍛えるってことか……)


 横を見る。


 ラグナが膝から崩れ落ちていた。


 さっきまでの喜びは、どこへやら。


(俺はいいけど、ラグナの修行ってほぼ格闘がメインだもんな)


「ラグナ、元気出せよ」


「……うん、そうだな!」


 ラグナは勢いよく立ち上がった。


「明日のこともあるしな!」


「お、おう」


 立ち直りが早い。


「さぁ、飯の支度じゃ。早く帰って着替えてくるんじゃ!」


「はい」


「えぇ」


 俺たちは家へ戻った。



―――



 ワイバーンのもも肉の唐揚げを堪能しながら、俺たちはシエルのことをエルじぃに話した。


「ワイバーンの巣じゃと?!」

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