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無限ガチャの転生者 ~毎日引いてスキルを集め、育てて最強になる~  作者: わわわ


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第6話 大穴通いと、無愛想な常連

 大穴に通い始めて、何日が過ぎたか、正直、数えるのをやめていた。

 朝、宿を出て北の門をくぐる。半刻ほど歩いて縁の梯子を降り、浅いところでゴブリンやスライムを片付ける。右耳と魔石を布に包んで、日が傾く前に地上へ戻る。ギルドで売って、汁を頼んで、宿の銅貨を払う。それでまた朝が来る。

 最初の一日は、賭けみたいな気分だった。空きっ腹を抱えて穴に飛び込んで、出てくれた魔石で全部ひっくり返した、あの日。けど、それを何度か繰り返すうちに、賭けは仕事に変わっていた。穴は、毎日きちんと稼がせてくれる。

 今は、宿代と飯代を払って、手元に銅貨が少しずつ残る。跳ねるほどじゃない。けど、減らない。前の会社で、給料日前に財布の中身を数えていた頃の、あのじりじりした感じが、今はない。屋根の下で寝て、二杯目の汁を頼める。それだけで、人としての足場が一段、しっかりした気がした。


 稼ぎが回り始めると、夜の楽しみも、ひとつ増えた。

 寝る前に、引く。これはもう、毎晩の習慣になっていた。

 ただ、ここ数日の引きは、地味だった。

 たいていは、もう持っているやつだ。火球とか、鋭敏感覚とか、すでに視界の隅の枠にある名前が、また出てくる。


『火球 Lv1(R)』


 最初にこれが出たときは、正直、肩透かしを食らった気分だった。同じものを引いてどうしろっていうんだ、と。すでにあるんだから、増えも何もしない。ハズレを引いたみたいなものだろう、と。

 ところが、念じた瞬間、ぱしっ、と乾いた音が頭の奥で弾けて、枠の表示が、書き換わった。


『火球 Lv2(R)』


 Lvが、上がっていた。

 は、と思わず声が出た。重複は、無駄じゃないらしい。同じものをもう一回引くと、増える代わりに、育つ。

 考えてみれば、これは前にも一度、片鱗があった。鋭敏感覚を使い込んでいるうちに、勝手にLv2へ上がっていたことがあった。あのときは「使えば伸びる」のかと思っていた。それに加えて、「同じものを引いても伸びる」わけだ。引いて増やす道と、引いて育てる道。両方ある。

 だとしたら、同じものが続くのも、悪くない。集めれば集めるほど、被ったぶんがまるまる育成に回る。引いた数だけ、無駄なく強くなれる勘定だ。


 育ったのは、火球だけじゃなかった。

 毎日、浅いところで石を投げ、感覚を四方へ伸ばしているうちに、礫も、いつの間にかLv2になっていた。一発の重さが、ほんの少し増した気がする。鋭敏感覚のほうは、Lv3まで来ていた。

 使い込んだぶんが、気づかないうちに積み上がって、ある朝ふと枠を見ると数字が一つ繰り上がっている。引いて増やすだけじゃ、こうはいかない。日々こき使った道具が、油を差さなくても勝手に研がれていくような、妙な得な感じがあった。

 ただ、鋭敏感覚だけは、少し勝手が違った。Lv3まで来て、その熟練度の伸びが、なんだか天井に近づいているような気配があった。枠の表示の、目盛りらしきものが、端のほうで詰まってきている。あと少しで、何かが変わりそうな。何が、とまでは分からない。気のせいかもしれない。けど、一番こき使ってきたやつだから、余計にそう感じるのかもしれなかった。


 火球がLv2になった効き目は、穴の中で、すぐに分かった。

 その日、浅層の通路を抜けた先の広間で、ゴブリンが四体、固まって何かを漁っていた。

 以前なら、四体は少し身構える数だ。一発で全部に届くかどうか、微妙なところだった。

 けど、手のひらに熱を集めて放った火球は、前より明らかに、ひと回り大きく膨れた。狙いも、つけやすい。固まった四体のど真ん中に飛び込んで弾けると、炎が以前より広く回って、四体まとめて巻き込んだ。三体がその場で焦げて崩れ、残る一体がよろけ出てきたところを、礫で足を止めて、貸し剣でとどめを刺す。

 被弾、なし。

 効く一発が、少しだけ、効く範囲を広げてきた。そういう手応えだった。

 もっとも、万能じゃないのは、相変わらずだ。撃った直後は手のひらの奥がじんと痺れて、次の一発までしばらく置かないといけない。固まってくれているからまとめて焼けるのであって、広い場所でばらけて散られたら、この一発はてんで役に立たない。遠くの一体を狙い撃つような器用な真似も、できない。

 あくまで、固まった相手を、一発で。それが、今の俺の効きどころだった。


 その火球を、横から見ていた男がいた。

 広間の反対側の壁際で、別のゴブリンを片付けていた、革鎧の男だ。胸板のあたりに、薄い金属の板を当てている。歳は、三十半ばか、四十手前か。浅層に通っていれば、何度か見かける顔だった。常連なんだろう。剣の振りが、無駄なく小さい。新人みたいに振り回さず、踏み込んで懐に入って、首の付け根を一突きで終わらせる。

 俺の火球が四体を焼くのを、男はちらりと見て、それから自分の獲物の魔石を回収しながら、ぼそりと言った。

「火、撃つのか」

「……ええ、まあ」

「ふうん」

 それきり、男は黙った。世辞でもなければ、説教でもない。ただ事実を一つ確かめて、興味の半分くらいを引っ込めた、という感じの「ふうん」だった。

 俺も、自分のゴブリンの右耳を切りにかかった。声をかけられたのが珍しくて、少しだけ手が止まったが、向こうはもう、こっちを見ていない。


 帰り道、同じ通路で、その男とまた行き合った。

 狭い一本道だから、自然と前後になる。気まずいといえば気まずいが、黙って歩くのも変な気がして、俺のほうから口を開いた。

「いつも、このあたりで稼いでるんですか」

「ああ」男は前を向いたまま答えた。「浅いとこは、確実だ。深く行きゃ出るもんはでかいが、その分、死ぬ」

 それから、ちらと俺の腰の貸し剣に目をやって、付け加えた。

「お前、一人だろ。火があるからって、欲かいて奥まで行くなよ。一発で焼けるのは、固まってる時だけだ。ばらけられたら終わる。新入りはそこで死ぬ」

 言われて、内心、少しだけ驚いた。横で一度見ただけで、俺の火球の弱点を、そっくり言い当てている。長く潜ってきた男の目には、見えるものが見えているらしい。

「……分かってます。浅いとこだけにします」

「ならいい」

 会話は、それで終わった。男は俺の名前も聞かなかったし、俺も男の名前を聞かなかった。ただ、同じ穴で稼ぐ顔見知りが、一人増えた。そういう距離感だった。


 その日、ギルドの受付台に布を広げると、女はいつものように、耳と魔石を一つずつ確かめていった。

 手が止まらない。慣れた客の、慣れた品、という扱いだ。最初の頃の、片眉を上げる感じは、もうない。

 硬貨を数えて寄越しながら、女がふと、手元の台帳に目を落とした。

「あんた、よく通うね。札の記録、見てみな。Fにしちゃ、討伐の数が溜まってる」

「そうですか」

「そうですよ」女は呆れたように鼻を鳴らした。「毎日のように耳と魔石を持ってくる新人なんて、そういないんだ。この調子なら、近いうちにEの話が出るよ。Fのまんま大穴に通い詰める変わり者も、たまにいるけどね」

「Eに、上がれるんですか」

「上がれば、解禁される階層が増える。報酬も、少し色がつく。もっとも――」

 女は硬貨を台の上で滑らせて、こっちへ押しやった。

「Eに上がったからって、奥がやさしくなるわけじゃない。それだけは、覚えときな」


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