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無限ガチャの転生者 ~毎日引いてスキルを集め、育てて最強になる~  作者: わわわ


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第47話 旅立ちと、街道の格上

 革袋の重みを腰に確かめてから、俺はもう一度、台帳越しに官の顔を見た。


「だから、結局のところ、この街じゃ売れないってことですよね」

「売れない、というより、売る相手がいない」官は淡々と言って、手元の書付に何か書き加えた。氾濫の口に詰めていた痩せた官とは別の、ギルドの奥の机を預かっている男だ。「あれの値打ちは、うちの鑑定持ちが一度見て腰を抜かしてる。だが、あんたに釣り合う数字を出せる買い手は、ラドリスの市場には一人もいない。桁が、地方都市の懐の大きさを超えてるんだ」


 会社員のころ、現場の決裁権を超えた金額の見積もりが回ってきたときと、同じ理屈だった。値段が付かないんじゃなくて、ここでは責任を取って数字を書ける人間がいない。判子を押せる机が、もっと上にしかない。


「で、その上の机ってのが」

「ヴェルナだ」官はあっさり言った。「街道を北西に何日か行った、王都寄りの交易都市。うちより一回り大きくて、ギルドの支部も格が違う。本部圏の大支部で、本部級の素材も普通に扱う。あれを動かしたいなら、向こうへ持っていくしかない」


 ヴェルナ、と俺は頭の中で繰り返した。聞いたことのない街の名前が、急に、自分の旅程の終着点になった気がして、少しだけ妙な感じがした。地方都市の大穴で魔石を売っていただけの新人が、本部圏の市場に本部級の品を持ち込もうとしている。並べてみると、ずいぶん飛躍した話だった。


 とはいえ、寝かせておく理由は一つもなかった。

 こんな桁の品を腰の袋に入れたまま、街でちまちま日銭を稼いでいるほうが、よほど落ち着かない。価値があるうちに、価値の分かる場所へ運んで、いくらになるのか見届ける。そこまでやって、初めて拾った意味がある。底まで下りて持って上がった甲斐がある。それに正直、本部圏の市場であれにどこまで値が付くのか、純粋に見てみたい気持ちもあった。


「ちょうどいいと言っちゃ何だが」官は書付を閉じた。「あんたの推しの件も、似た方向を向いてる」

「推しの件、というと」

「Dからの飛び級だ。ラドリス支部が推す材料は、もう十分に揃った。だが格上げそのものは、本部圏の承認がいる。うちが推薦を上げて、向こうが受理して、初めて札が動く。その受理を扱う支部が、これもヴェルナだ」


 なるほど、と俺はうなずいた。

 売りたい品の買い手も、待っている札の手続きも、同じ街にある。偶然というには出来すぎているが、考えてみれば、本部圏の大支部に格の高いものが集まるのは当たり前で、別に運命でも何でもない。大きい机のあるところに、大きい用事が集まる。それだけのことだった。


「それと、向こうのギルドから広域の要請も来てる」官は付け足した。「街道の魔物の出が、このところ一段重い。氾濫で散った野生種が、そのへんの生態に紛れて、たちの悪い個体になってるらしい。間引きと、商隊の護衛がらみの人手を、本部圏が集めてる。ヴェルナへ向かうあんたらが、ついでに頭数に入ってくれるなら、向こうも助かるし、あんたの推しの後押しにもなる」


 話が、きれいに一方向へ流れていた。

 主の用事は核の素材を動かすこと。ついでに札の手続きと、道中の働き口がくっついてくる。社畜だったころ、出張の理由を上にどう通すか、いつもこんなふうに用事を束ねていたのを思い出して、俺は少し笑いそうになった。


「行きます」俺は言った。「どのみち、これは寝かせておけないので」


 ギルドの外に出ると、リタが石段に腰かけて、自分の短剣の柄を布で拭いていた。研ぎに出していた一本を、さっき受け取ってきたところだ。


「決まった?」

「決まった。ヴェルナってとこへ行く」俺は段を下りながら言った。「街道で魔物を間引きながら、何日か歩く旅になる」

「ヴェルナ」リタは聞き慣れない響きを口の中で転がして、それから、ぱっと立ち上がった。「ラドリスから出るの? 私たち」

「出る。あれを売るには、そこまで運ぶしかないらしい」

「へえ……」


 リタは胸当ての革紐を結び直しながら、街のほうを、少し名残惜しそうに見渡した。村を出てこの街に来て、登録して、大穴に潜って、ここまで来た。その全部が詰まった街だ。離れるとなれば、感慨の一つもあるんだろう。けれど、それを長く引きずる性格でもないのは、もう知っていた。


「行こう」リタはあっさり言って、こっちを振り返った。「外の街、見てみたかったし。それに札の手続きも向こうなんでしょ? なら行くしかないじゃん」

「お前は切り替えが早いな」

「悩んでてもお腹は減るからね」


 支度は半日で済んだ。

 替えの干し肉と水袋、薄い毛布、夜営の油。荷馬車を出す商隊が翌朝に発つというので、それに歩調を合わせて街道を行くことにした。荷台に荷を載せてもらう代わりに、護衛の頭数として勘定してもらう。ギルドの広域要請と、商隊の都合と、俺たちの旅程が、ここでもまた同じ方向を向いていた。


 発つ前に、二人だけ、顔を見ておきたい相手がいた。


 キサは、大穴の口の坂の途中で、装備の点検をしていた。これから深いところへ潜るらしい。氾濫の根が断たれて、荒れていた稼ぎ場が戻った。あいつの言うところの、食い扶持の場所だ。


「行くのか」キサは山刀の刃を陽に透かしたまま、顔も上げずに言った。

「ヴェルナってとこまで。あれを、売りに」

「ふうん」キサは刃をしまった。「深いとこが、やっと戻ったとこなのにね。あたしは、しばらくここで稼ぐ」

「そっちが本業ですもんね」

「そういうこと」


 それきり、キサは黙って、坂の下りのほうへ歩きかけた。引き止める言葉も、餞別の一言も、ないらしい。けど、二、三歩進んだところで、足を止めて、ちらりとこっちを振り向いた。


「あんたの読みと、その子の剣。よそでも通じるか、せいぜい確かめてきな」キサは鼻を鳴らした。「ま、通じなかったら通じなかったで、あたしには関わりないけど」

「励ましてくれてるんですか、それ」

「まさか」キサは今度こそ振り返らずに、深層への坂を下りていった。


 ダグは、ギルドの裏手で、知った顔のベテランと立ち話をしていた。俺たちに気づくと、相手に短く何か言って、こっちへ歩いてきた。


「聞いたぞ。出るんだってな」ダグは顎で街道のほうをしゃくった。「ヴェルナまで、間引きしながら歩くんだろ」

「歩きます。札の手続きも、向こうらしくて」

「だろうな。本部圏の用事は、みんな向こうに集まる」ダグはそれだけ言って、少し間を置いた。それから、俺の腰の革袋を、ちらりと見た。「妙なもん持って歩くんだ。寄り道はするな。さっさと売っちまえ」

「そのつもりです」

「街道の出が重いって話だ。気を抜くなよ」


 いつもの、短い言葉だった。

 欲をかくな、とも、領分がどうとも、こいつは今日は言わなかった。ただ、気を抜くな、と。それだけ落として、ダグは踵を返しかけ、思い出したように付け足した。


「外で困ったら、札を出しときゃ、どこの支部でも誰か来る。ヴェルナでもな。……ラドリスのギルドが、お前らを誰だと思ってるか、向こうの台帳にも、ちゃんと書いてある。心配すんな」

「ありがとうございます」

「礼を言うことか」ダグは肩越しに手を振って、そのまま中層通いの仲間のほうへ戻っていった。背中が、もう次の仕事の顔をしていた。


 翌朝、まだ薄暗いうちに、俺たちは門を抜けた。

 荷馬車が二台、護衛が俺たちを入れて五人。御者がのんびり手綱を握って、街道の轍を辿っていく。ラドリスの城壁が、後ろで少しずつ低くなっていった。




 街道は、大穴の底とは何もかもが逆だった。


 頭の上に、果てしなく空がある。閉じた岩肌も、上下の死角もない。風が真横から吹き抜けて、丈の高い草を一斉に倒していく。底にいたときは、感知をひたすら下へ、立体の奥へと落として、上から降ってくるものと、下で蠢くものを同時に読んでいた。ここでは、その立体がそっくり消えている。


 試しに広域感知を、地面と平行に、ぐっと遠くまで伸ばしてみた。

 最初は勝手が掴めなかった。深層なら、感知は岩に当たって跳ね返り、その反響で空間の形を読む。ここでは当たるものがない。感知はどこまでも平らに延びて、薄く広がっていくばかりで、像が結ばない。ああ、そうか、と腑に落ちた。これは底をなぞる目じゃ駄目だ。深さじゃなくて、遠さを読む目に、切り替えないといけない。


 二日目の午後、その感覚が、ようやく体に馴染んできた。

 平地では、魔物は岩の隙間に潜んだりしない。草原の起伏の陰や、街道沿いの林の縁に、ぽつぽつと点在する。感知の網に、その点が引っかかる。一匹、二匹。離れた林に、もう少しまとまった群れ。底の密集とは違う、まばらな散らばり方だった。読み方さえ切り替えれば、むしろ平地のほうが、一つ一つの輪郭はくっきり見える。


 三日目に、ヴェルナ側の探索者と一緒になった。


 別の方角から街道を北上してきた一団で、こっちと同じ広域要請を受けていた。商隊が二つ、街道の宿場で合流して、護衛も一緒に動くことになったのだ。向こうは四人。先頭を歩いていたのが、背の低い、肩幅の広い男だった。ドワーフだ、と一目で分かった。短い顎髭の下で、口元が引き締まっている。鍛冶場の親父みたいな見た目を勝手に想像していたが、目つきは職人のそれじゃなかった。獲物の間合いを測る、探索者の目だった。


 男は俺とリタを一度、上から下まで眺めて、それから御者に何か確認するように、ラドリスの紋を見た。


「ラドリスの大穴上がりか」男は、聞こえよがしでも、隠すでもない調子で言った。「あんたら、護衛の頭数に入ってるってな」

「入ってます」俺は答えた。「悠です。こっちはリタ」

「ガレン」男はそれだけ名乗って、また視線を街道の先へ戻した。「言っとくが、街道の魔物は、ダンジョンのとは勝手が違うぞ。竪穴の底で群れと向き合うのと、開けた平地で散ったやつを拾うのは、別もんだ。竪穴の勘でうろうろされると、横の見えてないところから喰われる」


 値踏みだった。

 ラドリスの田舎の新人が、本部圏の街道で足を引っ張るんじゃないか。そう思っている顔だ。腹は立たなかった。実際、二日前の俺は、平地の感知の読み方すら掴めていなかった。向こうから見れば、危なっかしい新顔が二人、護衛の数合わせに紛れ込んでいる、くらいの認識だろう。それで間違っていない。


「気をつけます」俺はそう言うだけにした。

 ガレンは「ふん」とだけ返して、それきり俺たちには構わなくなった。




 それが出たのは、その日の夕方近くだった。


 街道が浅い谷を抜けるあたりで、広域感知の網に、妙に重い反応が引っかかった。

 ほかの点と、明らかに質が違う。輪郭が大きくて、芯が硬い。草の陰を、低く速く、こっちへ寄ってくる。地を擦るような動きの中に、ときどき跳ねるような上下があった。


「来ます」俺は声を張った。「右の草むら、一匹。でかいやつだ」


 ガレンたちが反応するより一拍早く、それは草を割って飛び出してきた。

 牙猪に似ていたが、ひと回りどころじゃない。背丈は俺の胸まであって、肩のあたりが妙に膨れて、毛皮の下で筋肉が捻れている。氾濫の余波で散った野生種が、生態に紛れて育ったやつ、というのは、こういうことか。普通の牙猪の重さを、頭の中の物差しが何度も上書きさせられた。


 ガレンの仲間の一人が前へ出て、斧を構えた。手慣れた踏み込みだった。けれど、そいつの斧が振り下ろされる前に、格上は地を蹴って真横へ跳んだ。さっき見えた、跳ねるような上下。あれは助走だった。膨れた肩が、横っ飛びの推進力を生んでいる。斧は空を切り、探索者が体勢を崩したところへ、格上が肩から突っ込んだ。男が吹き飛ばされて、街道脇の溝に転がった。


「硬いぞ、こいつ!」斧の男が溝から怒鳴った。「皮がぶ厚い、刃が止まる!」

「囲め!」ガレンが指示を飛ばした。「正面に立つな、横に回れ、横っ飛びの起こりを潰せ!」


 ガレンたちの動きは、確かに手堅かった。

 四人がじわじわ半円に開いて、格上を囲もうとする。けれど、格上は囲みの薄いところを、横っ飛びで何度も突き破った。地面の起伏を使って、低く、速く、予測のつかない角度から跳ぶ。平地で散ったやつを拾うのには慣れていても、この一匹の機動には、向こうも手こずっていた。一人がまた弾き飛ばされる。囲みが、じりじり押し負けていく。


 俺は感知を、格上の足元に集中させた。


 こいつの強みは、横っ飛びの初速だ。膨れた肩の筋肉が捻れて、地面を蹴る。なら、蹴る方向を読めれば、跳ぶ先が分かる。網の中で、肩の捻れと後ろ脚の踏ん張りが、次に右へ跳ぶ予兆を作っていた。


「リタ、右だ!」俺は叫んだ。「右に跳ぶ。お前の正面に来る。来た瞬間、横っ腹に入れろ!」

「右ね!」


 リタが地を蹴って、格上の右側へ回り込んだ。

 同時に、俺は強化付与をリタの剣に乗せた。刃が、薄く熱を帯びる。皮が分厚くて刃が止まる、なら、止まらないだけの押し込む力を、最初から乗せておけばいい。

 格上が、読み通り右へ跳んだ。

 跳んだ先に、リタがいた。

 空中で無防備になった横っ腹へ、リタの剣が、強化を乗せたまま深く食い込んだ。普段なら皮で止まる刃が、ぶ厚い毛皮を裂いて、肉まで届く。格上が、地面に着地しきれずに、横へ崩れた。


 崩れた、けど、まだ死んでいない。

 よろめきながら、格上が向きを変える。次にどっちへ動くか、起伏の陰に入られたら、感知でも一瞬読みが遅れる。ここだけ、確かめておきたかった。

 俺はこめかみの奥に、ぐっと意識を集めた。予知。ごく短い先の、現象の輪郭。視た瞬間、こめかみの内側が、灼けた。

 左だ。格上は、左の溝のほうへ、最後の力で逃げ込もうとする。


「鈍化、入れる!」


 逃げようとした格上の足に、鈍化を被せた。地面に足が縫い止められたみたいに、動きが半拍、重くなる。逃げ込む足が、もつれた。

 その半拍を、リタは逃さなかった。崩れた格上の首の側面へ、もう一度、強化の乗った剣を叩き込む。今度は、深く通った。格上が低く呻いて、横倒しに沈んだ。それきり、動かなくなった。


 灼けたこめかみを、俺は手のひらで一度押さえた。予知の熱が、まだ薄く残っている。けど、一視で足りた。火を切るような相手じゃない。読んで、リタを正しく置いて、足を止めて、剣で終わらせる。それで届く格だった。


 谷に、風が吹き抜けた。

 倒れた格上の毛皮が、風で逆立っている。荷馬車の馬が落ち着かなげに鼻を鳴らし、御者がそれをなだめる声がした。リタが剣を振って、刃にこびりついた血を払い、肩で大きく息をついた。


「……入った」リタが、自分の剣を見下ろして言った。「皮、硬かったのに。ちゃんと、通った」

「強化、乗ってたからな」

「ううん」リタは首を振って、剣を鞘に戻した。「乗ってても、置く場所が違ったら、空振りしてた。悠さんが、右って言ったとこに、ちゃんといたから」声に、確かめるような響きがあった。底で芯に剣を入れた、あのときから続いている、何かを確かめている響きだ。「外でも、これ、通じるんだね」

「通じたな」


 ガレンが、倒れた格上のそばへ歩み寄ってきた。

 しゃがんで、毛皮の傷を、二か所、検めている。横っ腹の深い裂け目と、首の側面の致命傷。それから、無言で立ち上がって、街道の起伏を見渡した。さっき格上が逃げ込もうとした、左の溝のほうへ、視線を向ける。


「あんた」ガレンが、俺のほうを見ずに言った。「あれが最後、左へ逃げるって、どこで分かった。横っ飛びの起伏に紛れて、おれにも読めなかったぞ」

「足の踏ん張りが、左に傾いてたので」俺は本当のことだけ言った。予知の一視は、説明しなかった。「それと、囲みの薄いところが、ちょうど左の溝でしたから」

「囲みの薄いところ」ガレンは短く繰り返した。「……おれが半円を崩した、その薄いところを、お前は外から読んでたってことか」


 ガレンは、しばらく何も言わなかった。

 毛皮を眺め、街道の起伏を眺め、それから、溝から這い上がってきた斧の男を一瞥した。値踏みの目つきは、変わっていなかった。けど、その目が、最初に俺たちを見たときのような、頭数の数合わせを見る目では、もうなかった。何かを、もう一度測り直している目だった。


「素材は、山分けでいい」ガレンは立ち上がって、御者のほうへ歩きかけた。それから、思い直したように、肩越しに付け足した。「ラドリスの大穴上がりにしちゃ、横の見えてる動きだったな。竪穴の勘で、横から喰われると思ってたが」

「平地は、二日かけて慣れました」

「二日か」ガレンは「ふん」と鼻を鳴らした。今度のは、最初のと、少し温度が違った。「……ヴェルナまでは、まだある。せいぜい、その目で、横を見ててくれ。商隊が、無事に着くぶんには、おれの取り分も増える」


 それだけ言って、ガレンは前へ歩いていった。

 組もう、とも、認める、とも、こいつは言わなかった。ただ、横を見ててくれ、と。荷馬車が無事なら自分の得だ、という言い方の中に、俺たちを護衛の数合わせから、横を任せられる目へ、勘定し直した気配が、確かに混じっていた。


 リタが、隣で、こっそり俺の脇腹をつついた。


「ねえ、いまの。あの人、ちょっとだけ、見直したよね」

「ちょっとだけな」

「ちょっとでも、でしょ」リタは得意げに胸当ての紐を直した。「ラドリスの田舎冒険者、って顔してたのに」


 西の空が、街道の先で、赤く焼け始めていた。

 その先に、まだ見ぬヴェルナがある。本部級の品の買い手と、待っている札と、勝手の違う街がある。けれど今は、その遠さより、足元の手応えのほうが、ずっと確かだった。ラドリスを出て、よその街の連中の前で、俺の読みと、リタの剣が、格上に通じた。一日目の俺には掴めなかった平地の感知が、三日目には、ちゃんと一匹を仕留めるところまで届いていた。


「行くか」俺はリタに言った。「日が暮れる前に、次の宿場まで」

「うん」リタは倒れた格上の毛皮を、もう一度ぽんと足で確かめて、荷馬車のほうへ駆け出した。「ねえ、これ、ヴェルナで売ったらいくらになるかな。向こう、買取の格が違うんでしょ?」

「さあな。聞いてみるしかない」

「聞こ聞こ」


 前を行くガレンの背中が、夕日に黒く浮かんでいた。

 その肩越しに、街道は、まだ見ぬ街へ、ゆるやかに続いていた。


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