第41話 底を断つと決めて
大穴の口は、まだ、片づいていなかった。
地上へ戻ったときには、夜が、すっかり明けていた。縦穴の縁に立てた松明は、もう要らなくなっていて、誰かが、一本ずつ、踏み消して回っている。代わりに、白っぽい朝の光が、岩肌の凹凸を、容赦なく照らし出していた。明かりの中で見ると、ゆうべの戦いの跡は、思っていたより、ずっと、生々しかった。
縄から運び上げられた負傷者が、口の近くに、ずらりと寝かされている。脇腹を押さえた男、足を引きずる女、肩を吊った若いの。ギルドの連中が、革袋の水を回して、傷を、布で縛り直していた。呻き声が、あちこちで、低く、続いている。
俺は、岩に腰を下ろして、それを、ぼんやり眺めていた。腕が、まだ、上がらない。
爆炎を切った手のひらの奥は、夜どおし冷やしても、だるさが抜けていなかった。握り込もうとすると、骨のあたりが、鈍く軋む。これは、当分、撃てそうにない。
「悠さん。これ、飲んで」
リタが、水袋を、押しつけてきた。自分のぶんを、半分残してきたらしい。革の胸当ては、片側がぱっくり裂けたまま、紐で、無理やり縛り直してある。下の肌の、薄い血は、もう、乾いて、黒ずんでいた。
「お前、傷は」
「かすっただけ。それより、見て、これ」リタは、隣に、どさっと座って、自分の手の甲を、突き出してきた。指の節が、いくつも、紫色に腫れている。「短剣、握りすぎて、こうなった。腫れて、ぜんぜん、開かないの。情けない手」
情けない、と言う声に、力はなかった。けど、嫌な感じも、なかった。一晩、口を死守しきった手だ。腫れて当然だった。
俺は、水を、一口もらった。喉の奥が、濁流の臭いで、ずっとひりついていたのが、ぬるい水で、少しだけ、ましになる。
「片づくの、これ」リタが、寝かされた負傷者の列を見ながら、言った。
「片づくよ。時間は、かかるだろうけど」
大穴の口には、ギルドの官たちが、入れ替わりで、出入りしていた。縦穴のいちばん狭い縄のあたりに、新しく、見張りの組を据えるらしい。崩れかけた岩棚を、丸太で、補強している連中もいる。ゆうべ堰き止めた防衛線を、今度は、常駐の関所みたいに、組み直すつもりなんだろう。
戦いが終わったから、終わり、じゃなかった。終わったところから、後始末という、別の仕事が、延々と続いていく。会社員のころ、嫌というほど見た景色だ。火を消したあとのほうが、書類は多い。
痩せた官が、見張りの差配を一段落させて、こっちへ歩いてきた。
ゆうべ、受付の台で、費えがどうのと渋っていた、あの男だ。一晩で、目の下に、濃い隈ができていた。
「あんたか」官は、俺の前で、足を止めた。「縄を、回してたのは」
「いえ、回したのは、立ってくれた人たちで」
「その台詞は、もう、何人かから聞いた」官は、短く遮った。世辞を言う顔じゃない。事実を確認しに来た顔だ。「全員、口を揃えてる。岩棚の上の新入りが、口を一つずつ、指で潰していった、と。あんたがいなけりゃ、首根っこは、夜半に抜かれてた。そう言ってる」
俺は、何も言わなかった。否定するのも、認めるのも、違う気がした。
「礼は、ギルドからきちんとする」官は、続けた。「動員の報酬とは、別口だ。防衛の要を張った働きには、要の取り分が付く。受付で、追って渡す」
「助かります」
助かる、というのは、本音だった。装備は、二人とも、ぼろぼろだ。リタの胸当ては、買い替えがいる。俺の短剣も、刃こぼれがひどい。要の取り分、というのが、どれくらいの規模なのかは分からないけど、革袋が軽いままで、ここを乗り切れるとは、思っていなかった。
「それと、もう一つ」官が、声を、少し、落とした。「上に、あんたのことを、上げておいた」
「上、というと」
「ギルドの、格の話だ」官は、隈の浮いた目で、俺を見た。「氾濫の防衛で、要を張った冒険者を、Dの新人の棚に、置いておくわけにはいかん。これは、ギルドの体面の問題でもある。……今すぐ札がどうこう、という話じゃない。だが、推す材料は、揃った。上が、動き始めてる」
「……はあ」
「気の抜けた返事だな」
「いや」俺は、慌てて、座り直した。「ありがたいです。ただ、まだ、ぴんと、来てなくて」
Dに上がったのが、つい先月だ。それが、もう、その先の話が、動き始めている。順番が、おかしい気がした。けど、考えてみれば、これも、仕事と同じだった。手柄が、格に追いつかなくなると、上は、帳尻を合わせにくる。情でも、おだてでもない。釣り合いの問題だ。
「焦るな」官は、こっちの顔を読んだみたいに、言った。「飛び級ってのは、その分、見る目も、厳しくなる。今日のは、たまたま、底が読める目が、要る場面だっただけかもしれん。次が、それを証してから――そういう順番だ。だが、推されてる、ってことは、覚えておけ」
それだけ言って、官は、また、見張りの差配へ、戻っていった。
「悠さん」リタが、横から、俺の脇腹を、肘で、軽く突いた。「いま、すごいこと、言われてなかった?」
「言われたかもな」
「上がるかもしれないんでしょ。Dの、上に」
「かもしれない、だ。まだ、決まってない」
「私は?」
リタが、急に、心配そうな顔になった。
「あんたの、推し材料も、揃ってると思うぞ」俺は言った。「右の口、一晩、抜かせなかったろ。あれ、本隊が、上で見てた。お前が、いなかったら、右から、抜けてた」
リタは、自分の、腫れた手の甲を、じっと見た。
それから、少し、おかしそうに、笑った。
「私さ。前に、Dに上がったとき、まだ、実感、湧かないって、言ったでしょ」
「言ってたな」
「いまも、湧かないんだけど。でも、ゆうべは、ちょっと、違った」リタは、腫れた指を、ゆっくり、開こうとした。途中で、痛そうに、顔をしかめる。「悠さんが、岩棚の上から、右、抜くな、助けが行くって、怒鳴ったでしょ。あのとき、私、一回も、後ろを、振り向かなかったの。助けが来るって、信じて、ずっと、前だけ、見てた」
「ああ」
「F の頃の私だったら、無理だったと思う。怖くて、絶対、後ろ、気にしてた」リタは、開きかけた手を、また、握った。「信じて、前だけ見てられたのは、悠さんがいたからじゃなくて。私が、抜かせない、って、決めてたから。そう、思えたんだよね。なんか、初めて」
俺は、それに、何も足さなかった。
あの一晩、リタが、右の口で、どれだけ踏ん張ったかは、地図で、ずっと見ていた。けど、リタが、いま、自分の言葉で、それを、確かめている。その手応えは、リタのものだ。横から、俺が、お前は強くなったな、なんて、総括する筋合いの話じゃなかった。
「腫れた手で、よく言うよ」
「うるさいな」
リタは、ちょっと、頬を膨らませて、それから、また、自分の手を、まじまじと、見た。情けない手、と言いながら、その目は、悪くなさそうだった。
キサが、縦穴の縁のほうから、戻ってきた。
ゆうべは、最後まで、細い枝のあたりで、群れを削っていた。山刀を提げたまま、俺たちのところへ来て、近くの岩に、軽く、腰を下ろす。獣人の鼻先は、まだ、ときどき、下の暗がりのほうへ、向いていた。
「臭いは」俺は、訊いた。
「薄まった」キサは、短く言った。「上がってくる勢いは、抜けてる。けど」
「けど」
「奥のは、いる」キサは、こっちを見ずに言った。「ずっと、おんなじとこだ。群れが下がっても、そいつだけは、動かない。あたしの鼻が、ずっと、引っかかってる」
ゆうべ、二人で、同じものを指した。俺の地図と、キサの鼻が。群れの数のずっと下、底の底の一点に、読めない何かが、居座っている。群れを、そっちへ引き寄せている、何か。
「あれ、なんですかね」
「知らないよ」キサは、にべもなかった。「あたしは、形のあるものしか、嗅げない。あれは、形が、ぼやけてる。臭いの輪郭が、にじんでて、芯が、掴めない。あんな臭いは、深層を、何年潜っても、嗅いだことがない」
形がぼやけている、というのは、俺の地図と、同じだった。広く読もうとしても、表面で、感知が、はじかれる。輪郭が、像を結ばない。読めないのに、在る。そこだけは、はっきり、分かる。
うなじのあたりが、すっと、冷えた――そうじゃない。冷えたのは、もっと、奥のほうだ。胃の、上のあたり。あの読めなさを思い出すと、いつも、そこが、すぼまる感じがする。
「あんた」キサが、不意に、俺のほうを、向いた。「あれを、どうにかするつもりだろ。その顔だ」
俺は、すぐには、答えなかった。
ゆうべから、ずっと、頭の片隅で、その算段を、していた。していたのを、見抜かれた。
「……堰き止めるだけじゃ、終わらないんですよ」俺は、口を開いた。「ゆうべ、防衛線を、敷いた。今日、関所に組み直してる。それで、しばらくは、もつ。けど、底の数は、減ってない。あれが、奥にいて、群れを、引き寄せ続けてる限り。湧いたそばから、あれのほうへ寄って、また、嵩を増して、押し上がってくる。賽の河原です」
「賽の、なんだって」
「いや」現地に、その喩えは、通じない。「積んでも、積んでも、崩される、って意味です。崩してるのは、湧く速さじゃない。底の、あれだ。あれを、どうにかしない限り、この防衛線は、何度でも、敷き直すことになる」
言いながら、その先の言葉が、自分でも、重かった。
あれを、どうにかする。読めもしない、形も大きさも掴めないものを、断つ。冗談みたいな話だった。それでも、ほかに、終わらせ方が、思いつかなかった。
「下りる、ってことかい」キサが、低く言った。「あれの、いるとこまで」
「いずれ、そうなると思います」俺は言った。「今すぐじゃない。今の俺たちじゃ、底の底まで、たどり着けない。けど、いつかは、行かないと、終わらない」
キサは、しばらく、黙っていた。
それから、鼻から、ふっと、息を抜いた。
「物好きだね」
「キサさんは、関わらないほうが、いいですよ」俺は言った。「あれは、たぶん、深層の探索の、稼ぎの話じゃ、ない。割に、合わない」
「割に、合わないのは、こっちも同じだ」キサは、下の暗がりを、顎で示した。「あれが、奥にいる限り、あたしの稼ぎ場は、ずっと荒れたままだ。深いとこの、いい素材を、単独で採る。それが、あたしの食い扶持なんだよ。その狩り場が、丸ごと、あれに、食い荒らされてる。……あんたらのためじゃない。あたしは、あたしの稼ぎ場を、取り戻したいだけだ」
「分かってます」
「だから」キサは、立ち上がった。山刀を、肩に、担ぎ直す。「下りるとき、声くらいは、かけな。あたしの鼻は、あんたの目より、ちょっとだけ、先に、危ないのを嗅ぐ。役には、立つよ。……死んでも、助けないけどね」
最後の一言は、ゆうべの修羅場のあとでも、変わらなかった。馴れ合う気は、ないらしい。けど、俺の地図と、キサの鼻が、二度、同じ底の一点を指した。下りるなら、その鼻は、確かに、要る。それは、お互い、もう、分かっていた。
キサが、縦穴の縁を離れて、街のほうへ、歩いていったあと。
入れ替わるみたいに、ダグが、口のほうから、上がってきた。中層の三本目を、最後まで塞いでいた男だ。脇腹の布は、また、土で汚れている。剣を、鞘に納めたまま、俺の前まで来て、岩に、片足を、乗せた。
「下りる気か」
ダグも、見抜いていた。
「気が、早いですね」
「お前らの顔を見りゃ、分かる」ダグは、こともなげに言った。「ゆうべ、底に、妙なもんがいるって、本隊が言ってた。減らねえ大本だ、断つしかねえ、ってな。お前が、言ったんだろ」
「言いました」
「俺は、行かねえぞ」ダグは、先回りして、言った。突き放す調子じゃない。事実を、置いただけだ。「中層止まりだ。深いとこは、俺の領分じゃねえ。底の底なんざ、行ったところで、足手まといにしかならねえ」
「分かってます。ダグさんには、ダグさんの稼ぎ場が、ある」
「そういうこった」ダグは、軽く、肩をすくめた。それから、少しだけ、声を落とした。「だがな。お前らが、底へ下りてる間、上が、空くわけじゃねえ。ゆうべみてえに、また、漏れが来るかもしれねえ。そのとき、中層から上を、誰かが、抑えてなきゃならねえ」
「それ、ダグさんが」
「俺の、領分だ」ダグは、当たり前みたいに、言った。「お前らが、下で、大本を断ちにいくなら。上は、俺が、見ててやる。中層から、群れを、これ以上、上げさせねえ。それくらいは、できる。……まあ、欲かいて、底で死ぬんじゃねえぞ」
いつもの、それだった。
一緒には、行かない。けど、味方では、ある。先まで行く道は、自分たちで見つけろ、と言いながら、その背中を、後ろから、ちゃんと、守ってくれる。中層止まりの男に、できることと、できないこと。それを、こいつは、ずっと前から、はっきり、分かっていた。
「助かります」俺は言った。「上が、空っぽだと、安心して、下りられない」
「だろうな」ダグは、岩から足を下ろした。「お前らが、下を断ちゃ、俺の稼ぎ場も、平和になる。持ちつ持たれつだ」
それだけ言って、ダグは、負傷者の列のほうへ、歩いていった。知った顔が、何人か、寝かされているらしい。屈み込んで、何か、短く、声をかけている。
俺は、岩に腰を下ろしたまま、もう一度、目を、半分、閉じた。
立ち上がった地図が、足元の下を、まるごと見せてくる。縄。縦穴。その下の、深層。群れの密度は、ゆうべより、ずっと、薄い。押し上げる勢いは、抜けている。今日のところは、確かに、止めた。
止めた。それは、本物だ。
誰か一人の、一発の火じゃない。リタが、右を、一晩抜かせなかった。キサが、鼻で、群れの流れを、先に嗅いだ。ダグが、中層の枝を、塞ぎ続けた。後手で集まった連中が、置かれた口で、踏ん張った。官が、置き駒を、出し惜しまずに、回した。その全部を、俺が、上から、組んだ。
ばらばらの手が、噛み合って、底の押しに、追いついた。あれを、一晩で、やりきった。
Dに上がったばかりの新人が、十年に一度の氾濫の、本番を、読み切って、堰き止めた。札の格が、追いついていない、と官が言ったのは、たぶん、本当なんだろう。ゆうべの一晩で、俺たちは、ひとつ、確かに、上の段に、足を、かけた。それくらいの手応えは、腫れたリタの手と、だるい自分の腕の奥に、ちゃんと、あった。
その手応えの、ずっと下に。
奥の一点に、読めない何かが、いる。群れを、引き寄せ続けている、何か。地図の上で、薄まった群れが、それでも、ゆっくり、そっちへ、向きを揃えて、下りていく。
あれを、断たなきゃ、終わらない。
ゆうべ、本隊の男に、そう言った。言ったときは、まだ、半分、他人事みたいな響きが、あった。底に、でかいのがいる。だから、終わらない。そういう、報告の言葉だった。
いまは、違った。
あれを、断てるのは、たぶん、底まで読める俺たちくらいしか、いない。形が、ぼやけている。輪郭が、像を結ばない。そんなものを、相手にできるのは、地図で、その在処を掴める目と、それを嗅ぎ分ける鼻を、持った連中だけだ。ほかの誰も、あれを、見つけることすら、できない。
見つけられる者が、放っておいたら。
また、防衛線を、敷く。漏れて、誰かが、呑まれかける。駆け出しの誰かが、次は、間に合わないかもしれない。それが、何度でも、繰り返される。あれが、奥にいる限り。
知りたい、というのも、まだ、あった。あれが、何なのか。なぜ、群れを引くのか。初めて深層を覗いた日に、底の縦穴の奥に感じた、あの、輪郭にもならない気配。あれの、正体。
でも、今は、それより、先に、来るものが、あった。
あれを、放っておけない。止められるのが、俺たちだけなら、なおさらだ。
「悠さん」
リタが、腫れた手を、膝の上で、もてあそびながら、言った。
「下りるんでしょ。あれの、いるとこまで」
「いつかは、な」俺は、目を開けた。「今すぐじゃない。今の俺たちじゃ、底の底まで、届かない。装備も、これだ。お前の手も、当分、使いものにならない」
「治るよ、それくらい」リタは、腫れた指を、強がって、開いてみせた。痛そうに、また、しかめる。「それで、行けるようになったら、行くんでしょ」
「行くよ」俺は言った。迷いは、なかった。「集めて、育てて、底の底まで、届くようになったら。あれを、断ちに、下りる」
「怖くないの」
「怖いよ」正直に、言った。「読めもしないやつを、断つんだぞ。怖いに、決まってる」リタの顔を、見た。「でも、放っておくほうが、もっと、嫌だ。見えてるのに、見て見ぬふりするのは、性に、合わない」
リタは、少しのあいだ、俺を見ていた。
それから、腫れた手で、自分の、紐で縛り直した胸当てを、ぽん、と、軽く叩いた。
「私も、行く」リタは、言った。強がりでも、勢いでもなかった。「右の口、抜かせなかったし。次は、もっと、役に立つ。今度は、後ろじゃなくて、下りるんでしょ。なら、私の剣も、要るはずだよ」
「要るな」
「でしょ」
大穴の口で、官たちが、見張りの組を、縄のほうへ、送り出していた。
補強された岩棚に、新しい松明が、点される。負傷者の列が、街のほうへ、運ばれていく。後始末は、まだ、当分、続く。けど、今日、街道への決壊は、止まった。それは、もう、動かない事実だ。
俺は、立ち上がった。だるい腕を、ゆっくり、回す。手のひらの奥の、爆炎の重さは、まだ、抜けない。装備も、体も、ぼろぼろだ。底の底へ、届く日は、まだ、ずいぶん、先だろう。
それでも。
いつか、集めて、育てて、底まで届く力を、手にしたら。
あの、読めない何かを、断ちに、下りる。
堰を、何度も敷き直すんじゃない。元を、断つ。それが、いちばん、効く。回りくどいことを、一つずつ、潰していくより、根を、抜く。会社員だったころから、変わらない、俺の、判断の癖だ。
「帰るか」俺は、リタに、言った。「装備、見繕って、その手、休めて。それから、また、潜る」
「うん」
リタが、立ち上がって、腫れた手で、水袋の口を、縛り直した。
二人で、大穴の口を、背にして、街への道を、歩き出す。後ろで、見張りの松明の火が、縦穴の奥の暗がりを、また、照らし始めていた。その、ずっと下に、あれが、いる。動かずに、群れを、引き寄せながら。
いつか、そこへ、下りる。
その日のために、また、引いて、集めて、育てる。今夜も、いつもどおり、一回。何が出るかは、分からない。けど、底へ届く手は、一つでも多く、揃えておきたかった。
決めた、というには、まだ、力が足りない。
それでも、向かう先は、もう、はっきりしていた。




