ガマンタイカイモーマンタイ
八代時雨。
我が愛しの君の名じゃ。
妾と同じ、真なる吸血鬼[ムロゥイ]の血脈ながら、地球出身の為に中途半端な能力覚醒しかしておらん。
妾達、真なる吸血鬼[ムロゥイ]が、数に勝る人間種に対して、圧倒的優位に立つ理由は、幾つもある。
それは、類稀なる魔力への親和性、魔眼、牙、人間を遥かに超えた身体能力、支配種の波動、引き裂く爪、個体進化能力……
数え上げるだけでも、かなりの数になるであろ。
が
我が愛しの君は、それら様々な能力を失っておった。
人間種に混ざって、尚、妾と同じ真なる吸血鬼[ムロゥイ]かと疑うほど、能力低下が酷かったのじゃ。
女子を蕩けさせる容姿も、話術もなければ、財貨も権力もない。
未来を見通す慧眼もなければ、戦場を支配する叡智も持ち合わせておらん。
牙も爪も無い。
魔眼どころか乱視近眼。
本来ならば、同族と言えど、傾国の君とまで呼ばれた妾が、愛するに値しない男子じゃ。
まさかのぅ。
自分でも信じれんのじゃが、一目惚れとはのぅ。
後にも先にも、この身をヴォータン以外の者が、好きにする日がこようとは思わなんだ。
妾自らが、身体を差し出しても良いと、想う者と出会えるとはのぅ。
くふふふ。
青天の霹靂じゃな。
例え、子を生す為に、種族維持本能が男子を求めさせたのだとしてもじゃ。
本来ならば、しかるべき地位にまで主様を押し上げて、子を生し、子孫繁栄の礎となるところじゃが……。
残念ながら、妾の身は不老。
老いる事のない呪いじゃ。
幼生のままの身体では、男にも女にもなれん。
子孫繁栄の手伝いはできんじゃろう。
なれば、妾の力を貸すまでじゃ。
手始めに妾がした事は、不活性状態じゃった個体進化能力に、魔力を注いで活性化させてやる事じゃったがの。
これだけは、主様が生まれ持っていた力じゃ。
少なくとも、コレを活性化させておいたのは、間違いではなかった。
そのおかげで、今がある。
そうじゃ。
昔から妾は、大事な所でミスをする。
今回もそうじゃ。
活性化以外にも、役立てる事がある。
そう思って、ラパ・ヌイに戻ってみれば……。
ぐぬぬぬぬ……。
何たる事じゃ。
思い出しただけでも、腸が煮えくり返るの。
もっとも安全と思うた我が城が、もっとも危険じゃった。
おのれ、おのれ。
妾の迂闊さに腹が立つのじゃ。
結局、ラパ・ヌイでの情報収集なぞ出来ず、とって返して、伊織の隠れ家に厄介になるとは……!
この屈辱!!
しかもヴォータン、彼奴めは、何やら主様と取引をしておった様じゃ。
ぐぬぬぬ……
見事に、ヴォータンに出し抜かれたわッ!
ジョフクを雇い、《テピト・オ・ヘヌア》の冒険者達に、情報収集の依頼を出したが、時間が足りんの。
妾らは、世界樹[ユグドラシル]の呪いの所為で、皇國代理天から動く事はできん。
なんとも、もどかしゅうて、もどかしゅうて……やるせないのぅ。
ふぅ。
溜息が出てしもうた。
「ちょろっと~ヴらえも~~ん。
さっきから箸が進んでないよ~~」
「……」
雲雀が妾を呼ぶ。
自らを、我が主様の正妻と言って、はばかる事のない奴隷……いや、牝狗じゃな。
「聞いてるぅ~~?
ロリっ娘ぉ~~」
「……」
我が名はヴラドじゃ。
祖竜喰らい[ドラコエド]にして、真なる吸血鬼[ムロゥイ]じゃ!
ギルド《テピト・オ・ヘヌア》の名誉ギルドマスターにして創始者[プロジェネター]。
反逆の魔女とか、悪魔城の魔人、殺戮のメリジェーヌ、血塗れの戦乙女、処刑人[エクスキューショナー]、串刺す者[ツェペシュ]などと妾を呼ぶ者も居るが、それらは全て妾の一部を勘違いして二つ名にしたものじゃ。
真実ではない。
ましてや、決してロリっ娘ではないのじゃ。
「おーい“ノックしてもしもし”すんぞぉ~~」
「……」
はぁ。
「五月蝿いのぅ、今が良いとこなのじゃ」
「あ、ゴメン……」
雲雀が下がった。
妾の前には今、アニメと呼ばれる音声付の絵巻物がある。
雲雀が家から持ってきた物(正確には、伊織配下の者によって、主様の屋敷から持って来た物)じゃ。
それを、壁の一面に投影して、炬燵を囲んで見ておるというわけじゃ。
炬燵の上には鍋や飲み物、肴に乾物。
鍋の中には、味噌煮込み。
3日3晩、味噌煮込み。
八丁味噌、赤くて辛い味噌煮込み。
うどんが投入されて、汁を吸っても、未だ味噌煮込みは終わっておらぬ。
炬燵や鍋、壁のテレビとやらも、全て主様の私物じゃ。
まるで雲雀が、自らの私物であるかの様に扱っておるが、この者と主様の繋がりを考えるならば、仕方あるまい。
妾が口出す事ではないしのぅ。
テレビや炬燵についておる、コンセントとやらのキカクについては、雲雀が驚いておったようじゃ。
何でも地球のキカクと同じらしいの。
まぁ伊織の事じゃ、このような場合を鑑みて、地球産の物品も使えるようにしておったのじゃろう。
さて、考えておる間に、またもう1本のアニメが終わった。
巻物の本体は、青版と呼ばれる、薄くて丸い板らしい。
それを専用の箱に食べさせる事によって、絵巻物はまるで生きておるかの如く、動き出すのじゃ。
ラパ・ヌイでも似た様な物があったのぅ。
過去見の水晶球に、見世物小屋の歌劇を記憶させた、魔法具[マジックアイテム]で、ラパ・ヌイでの娯楽の1つじゃった。
妾は、ここしばらく、伊織と雲雀の2人と一緒に、この部屋でアニメを観ている。
人ながら得体の知れぬ伊織に、その身に異形の力を宿した雲雀。
ただの人間風情と思うておったが、この者らも、妾と同じ男子を好きになるだけあって、一癖も二癖もある輩じゃ。
見る者が見れば、一騎当千の猛者と思うじゃろう。
じゃが、妾も含めて全員、愛しの君を守りぬく事はできんかった。
今、主様は伊織の言う、腕の確かな者と共に治療を受けている。
命に別状は無いじゃろう。
それは判っておる。
じゃが後遺症までは判らぬ。
例え魔法が万能であったとしても、恐怖に脅える心や、戦いの記憶を消すなどと言う事は、しないほうが良い。
いつどのような形で暴発するか判らぬ。
戻ってきた主様に、深刻な精神的な病巣が残っておらぬ事を、祈るのみじゃ。
ふぅ……。
再び溜息を吐く。
気になる主様の安否と、自己への後悔と怒りに、責め悩まされ続けるのは、あまり健全な状態と言えんのぅ。
かといって現在の状況では打つ手はない。
この部屋でアニメを観ているのは、そんな逃避も兼ねておる。
じゃが、少なくともアニメを観ている間は、不甲斐ない自分を忘れる事ができたのは確かじゃ。
ある日、魔砲に出会った少女が、その力で友を得て立身出世、後輩に教えを説く魔砲少女りりかれ!なのは。
ひょんな事から父の作ったゴーレムに乗り、軍隊の中で大人へと、大人から新型へと進化する企業戦士ガソダム。
ディスペルマジックの力を右手に宿した少年が、敵魔法師に肉体言語を使った辻説法をする、りある魔法の禁書目録
他にも武装年金、ジョジョの微妙な冒険など様々じゃ。
うむ。
内容はどれもこれも素晴らしい一級品の絵物語ばかりじゃ。
1つ1つが、吟遊詩人の詠うサーガに匹敵するの。
みな面白い。
面白いのじゃが……。
ふぅ。
ちと飽きてきたのぅ。
面白いのじゃが、どれもこれも戦いを主軸にした物ばかりじゃ。
さすがに、かれこれ5日以上ぶっ続けて似たような話ばかり見続けると、飽きもこようの。
それに加えて、内容うんぬんよりも主様、時雨の事が気にかかってしょうがない。
ただ天に祈るだけ、という状態はストレスが溜まるの。
ずるずるずるずるるるるる~~~っ。
麺をすする。
非常に、行儀の悪い行為じゃが“郷に入り手は郷に従え”という、言葉もあるからの。
以前、ラプラドルという異世界で覚えた言葉と文化じゃが、まさかココ日本でも役立つとはの。
いや、もしかしたらラプラドルの文化の起点が、ラプラドルの日本だったのやもしれんの。
しかし……
「雲雀……やはり、この味噌煮込みじゃがの、少しスープがきつすぎると思うのじゃ」
「あによ!
世界最高の食材、八丁味噌よ!?
文句ある!?」
「うぅむ、コレが世界最高という判断は、他の者に譲るとしての……」
「譲らなくても大丈夫!
八丁味噌ってのは、見ての通り赤味噌なのよ。
だから最高なの!」
「う、うむぅ?」
「例えば味噌ってのには、米や麦、白や赤などの種類があるけど、ヴラド達の様なファンタジー世界に出てくる味噌は、全て赤味噌よ!」
「それは偏見ではないかの?
妾がミソスープを飲んだのは、地球に来て初めてなのじゃが……」
「そんな事は無いわっ!!」
「む」
「転生物とか、転移物っていうジャンルのファンタジー小説があるんだけど、それに出てくる味噌は必ず赤味噌よ!」
「そ、そうかや……」
「いい!?
主人公達は、必ず旨い旨いと涙を流して、赤い味噌汁を飲むの。
例え出身が東海圏以外の、白味噌文化の人間でもね!!
不味いなんて、一言も言わないわ!」
「あ、う、うむ……」
どうやら妾は、かなりまずい話題を、選択してしまったようじゃ。
我が愛しの君ならば、地雷を踏んだとか言うであろ。
じゃが、気分良く話しておるならば、露骨な話題変更はまずいのぅ……。
「主人公達は懐かしがって、世界中に広めようとするのよ、赤味噌を!
豆味噌!ビバ八丁味噌ッ!!サイコーッ!!」
サイコなのは御主じゃとは、口が裂けても言えんの。
「最高なサイコ」
「伊織0点」
「―――――!!」
怖い物知らずが何か話しておったがスルーじゃ。
「あー。しかしじゃな、雲雀。
捜せば、白味噌を褒め称えるファンタジーとかいう小説もあるじゃろ?
のぅ?」
「ないわ!!
三千世界を捜しても、きっと見つからないわ!」
「そ、そうかや……」
なんじゃの、この娘の赤いミソスープにかける情熱は……。
一種、宗教じみた熱狂があるのぅ。
そういえば、ラプラドルに居た時にも、似たような者がおったな。
ドリルに異常な愛着を持っておったの。
魔導機人の両腕をドリルにすれば2倍強くなる、と言うワケの判らん屁理屈をこねて、ワザワザ遠距離武装を破棄させようとしおったわ。
なんじゃな、感情論が理論武装すると手におえんのぅ。
最初に結論ありきじゃ。
持論の正しさを証明する為に、都合の良い解釈にだけ耳を傾け、他は圧殺か無視か。
その上、論破されると怒り出す……。
少し主様の記憶を覗く事にする。
さてさて、ミソスープについての情報を引き出すかの。
「ちょっと聞いてる?ヴらえもん?」
「ああ、ああ、聞いておるのじゃ」はふぅ
「ほとんどの小説を読んだんだけどね。
豆から麹を作っていても、米麹を作っている描写のある作品は無いの!!
米麹を使わなければ、腐敗や促進魔法を使っても、出来上がるのは豆麹で作る赤味噌だけよ!!」
「……」
「そして、赤味噌を知った異世界の人々はこぞって感動して誰もが求めるのよ!
いわば赤味噌は、多次元な、ぐろーばるすたんだーど!!
地球のリアル日本だけが、白味噌を褒め称えるの!
まさに多次元なガラパゴスね!!」
「……」
「正義は赤味噌にあり!」
「いや、しかしの」
「あによ」
確かに、雲雀の言う様に主原料は大豆じゃな。
使用したコージによって、米味噌、麦味噌、豆味噌と呼称される、というわけかの。
じゃが、主様の記憶によると、米コージや麦コージを使用した赤味噌もあるようじゃし、色の違いは作成方法と熟成期間の問題の気もするのぅ。
色の分類では、白、淡色、赤の3種類、それに甘口、辛口といった味付けで細分化する様じゃの。
雲雀が神聖視しておる八丁味噌とやらは、豆味噌と呼ばれる味噌の一種で、非常に狭い地域でのみ食される発酵食品……。
ふむ。
狭い地域でのみ……かや。
正直に言うのなら、妾は味噌より豚骨スープが好きじゃ。
白湯や上湯スープ、コンソメも良いのぅ。
人の趣味嗜好は千差万別じゃ。
雲雀が、何をそこまでミソスープにこだわっておるのか、判らんが……
異世界人が、必ずミソスープを好きになるなんて、普通に考えてもおかしいじゃろ。
自分の好きな物を押し付けるのは、勘弁して欲しいのう。
……食事を作れん妾が言っても、ただのわがままじゃがの。
これは、あれかの。
重すぎる郷土愛という物かのぅ?
言った方が良いじゃろうか。
赤や白になるのは、熟成期間と作成方法で、どちらも同じ味噌なのだから比較するのは悪くないが、片方を神聖視するのは止めた方が良い……と。
いや。
妾達の中では、もっとも料理に詳しい雲雀じゃ。
判っていて、暴論にしておる可能性もあるやもしれん。
感情の理論武装ならば、正論なぞ必要あるまい。
適当に相槌を打ちつつ、こちらの要求だけを飲ませるのみじゃ。
「あー……っとじゃ。
確かに赤味噌とやらは、好みが別れるやもしれんが、不味くはないのぅ」
「そーでしょ!」
妾も成長したのぅ。
恋敵の機嫌取りもする日が来ようとは、思ってもみなかったのじゃ。
……うぬ?
少し気になる事があったので、少し深く主様の記憶の潜る。
地球には、妾の知らない知識が多い。
微細な物から、極大な物までを測り、観察できない物ですら予言する……
世界全てを計算式で導き出そうとする試み、科学という術式は、目から鱗が落ちる物ばかりじゃ。
先ほどの八丁味噌1つとっても、妾を引きつける要因があったのじゃ。
さて八丁味噌じゃが、先程調べた通り、これは豆味噌じゃ。
豆味噌は、大豆と豆コージを使用して発酵させる味噌で、先ほどの分類に従うならば、当然、白や赤といった熟成期間による色の違いが出る事になるのぅ。
ところが、それがない。
豆味噌には白味噌が存在しない。
赤味噌だけじゃ。
ふむ。
何故じゃろうな?
雲雀なら、その理由を知っているやもしれんのぅ。
聞いてみるとするかや。
妾に理解が難しい事ならば、地球人に判る様に教えを請うのが、一番早いしの。
「のう、雲雀よ」
「あによ?」
「質問じゃが、八丁味噌は豆味噌じゃな?」
「そそ、世界最高の調味料」
「白味噌は熟成期間の短い味噌で、赤味噌は熟成期間が長い味噌じゃな?」
「うん、そーだけど……?」
「豆味噌にも、熟成期間の短い白味噌が、あっても良いと思うのじゃが……?」
「なっ!!
バカな事を言わないで!!」
「そ、そうかや……
では、何で無いんじゃろうな?」
「当たり前でしょ」
「当たり前とは?」
「私が許さないからよ!!
白い豆味噌!?
そんな物、絶対に認めない!!
青い薔薇も黒鳥も、存在できたけど、白い豆味噌だけは許さないわ!!」
「いや、しかしのぅ……」
「もし有ったとしても、それはケフィアよ!!」
「そうかや……」
何もそこまで否定せんでもよかろう?
すでに宗教じゃな。
「ヴラド、あんた、白い味噌カツを見た時の、私の絶望と恐怖が判る!?
思わず海原ユーザンしちゃったわよ!?」
「あ、ああ……そ、そうじゃな。
なんじゃの、北海道の土産物で売っていそうな名前じゃの」
「赦せないわっ!!!
白い味噌カツ、白い味噌田楽、白い味噌煮込みうどん!!
八丁味噌以外を煮込むなんて、味噌の基本すら知らないのよ!?
普通の味噌を煮込んだら風味が飛ぶでしょーが!」
「「……」」
「ムキーーーーーッ!!!」
ちらっと、伊織が妾を睨んだ。
妾を見る目付きに、責めるものが入っておる。
今の雲雀は、アニメ鑑賞の邪魔以外の何者でもないのじゃ。
ぐぬぬ、正直すまなんだ。
思いっきり地雷じゃった。
ふむ。
じゃが、不思議じゃな。
なにゆえ白い豆味噌がないのじゃろうか?
あっても良さそうな話じゃが……。
今しばし、愛しの我が主様と繋がる。
知識共有と言っても、記憶共有の一種じゃ。
実体験と違い、主様が書物で学んだ知識は、妾にも書物を読んだ様に伝わる。
発酵といった物については、ラパ・ヌイで言う「酒の精が仕事をした」という話なので、妾でも充分に理解できるのじゃ。
じゃが、科学で簡単に出されておる答えは、妾には理解が追いつかぬ事も多い。
化学式や方程式とか言う、数字と文字と記号の計算式じゃな。
理解できぬが「酒の精が仕事をした」という話が、コージとかデンプン、発酵といった内容で論理的に語られると言うのは、面白い物じゃな。
妾は、異世界を訪れる度に、未だ知らぬ叡智を求めておるが、それらを理解した瞬間は、何ともいえぬ高揚感に包まれる。
何よりも楽しいと思える瞬間じゃな。
豆味噌の件も、主様に後で聞くよりも前に、妾なりの答えでも出しておくとしようかの。
味噌の作り方は、白味噌ならば煮て、赤味噌ならば蒸した大豆を使用するらしいの。
それに、塩とコージを混ぜ合わせて、ほかっておくだけみたいじゃ。
雲雀ならば、もっと詳しく知っておろうが、今は触れぬが得策じゃ。
すると、ほかっておいた大豆が腐るわけじゃ。
ここら辺は、あのおぞましい納豆とやらと良く似ておるのぅ。
腐ると発酵では、似て非なるものらしいが、ここでは気にせずとも良い。
妾も理解しておるわけではないしの。
まぁ、科学なる物の言葉で言うと、コージとやらがトーブンやタンパクシツなどと言った栄養素なる物を分解し、変質させて新たな能力を獲得させると思っておけば良いであろ。
なんじゃな、異世界の侵略と似たような物じゃな。
コージと言う世界法則[リアリティ]に攻め込まれ、変質していく大豆と言う異世界。
デンプンの法則は、甘みの法則に変わり、存在が否定されたタンパク質は旨味に変質するか、消滅を余儀なくされる。
ふむ。
妾にとっては、理解しやすい話となったの。
そこで最初に戻るのじゃが……
なにゆえ豆味噌には、熟成期間の短い白がなく、期間の長い赤味噌だけしか存在しないのかという話じゃ。
白の豆味噌が存在否定される理由じゃな。
まず赤味噌の赤味噌たる所以じゃが、大豆が赤くなる理由は、メイラード反応という物がその理由らしいの。
逆に言えば白味噌は、そのメイラード反応が起こっておらんと言う事じゃ。
このメイラード反応のおこる直接原因は、トーブンやタンパクシツを加熱したからと言う物らしいの。
それらを加熱すると、色々と変質する際に赤茶色になっていくという事かや。
では、白味噌では、メイラード反応が起こらないという事かや?
……。
いや違うの。
……小難しい事を言うたが、要するにメイラード反応とは、焼けて旨そうという事の様じゃな。
ならば、白味噌も蒸しておる辺り、それなりにメイラード反応が起こっているのじゃろう。
ならば、豆味噌に白味噌がない理由は、熟成期間を長く取らんと、味噌にならないと考えるべきじゃな。
うむ。
主様の知識に、だいたいの事はあった。
熟成期間を長く取る為の、直接的な原因は、旨くする為だそうじゃ。
そも、米や麦のコージと違い、豆コージにデンプンが少ない事が、問題みたいじゃな。
このデンプンとやらは変質して、トーブンに成るらしいのじゃ。
そうなる事で、コージが働き出して味噌になる……。
じゃが、大豆にはデンプンが少ない。
どうするかというと、味噌に変質させる大豆全てを豆コージ化させる。
足りないなら、ある所から持って来ようと言う事じゃな。
その分時間が掛かる、と言う事かや。
その為、メイラード反応が長く続いて1年で茶色に、3年で赤黒くなるという事じゃな。
ふむ、これで合っておるかは判らぬが、雲雀の言っておる豆味噌とやらの八丁味噌に、甘い白味噌とやらが無いのは判った。
さて、判った上で、反撃じゃ。
味噌の事が判ったなら、雲雀へのある程度の対処もできようぞ。
かれこれ、三日三晩は味噌鍋じゃ。
雲雀曰く、
「寝かした味噌鍋はおいしいのよ!
八丁味噌は、他の味噌と違って、煮込んでも風味が飛ばないから!」
じゃがの。
さすがに赤味噌ばかりというのは飽きるのじゃ。
アニメも面白いが、そろそろ飽いた。
刺激的な毎日が欲しいと思うのは、若者の特権じゃな。
妾も若いしの。
ピチピチの10歳じゃしな。
ココで折れる訳にはいかん。
次の食事は、味噌以外を!!
ココでは直球で行くかの。
「雲雀」
「あによ。銀髪ロリ」
「ミソスープについては、効用も素晴らしき味についても、良ぅ判った」
「そーでしょ、そーでしょ。
さっすが、ヴらえもんね。」
にんまりと、雲雀は笑顔を浮かべる。
じーーー。
伊織が、妾をみておる。
明らかに何かを期待しておる顔じゃ。
その期待に応えようぞ。
これ以上の赤味噌は嫌じゃ。
(……ん)
なんじゃな。
初めて伊織と理解し会えた気がするの。
妾もニュータイプになった様じゃ。
「ただのぅ、まろやかな味じゃが、妾や伊織にとっては、濃すぎる味は後になるときつくなるのじゃ。
たまには変えるというのも、悪くはなかろ?」
「う、ま、まぁ、それは確かにあるわね」
「同じ食事は飽きる……
適度な変化も必要」
「おお、伊織も妾の意見に賛成してくれるかや。
少しばかり微妙だが心強いの」
ふむ。
まさかココで援護射撃とはの。
「赤味噌は塩分濃度が高い。
次の食事はサプリとゼリー飲料を勧める」
「ぐぬ……」「うぇ……」
なんじゃと!?
あのゴブリンですら逃げそうなクソ不味い餌かや!
まだ味噌の方がマシじゃ!!
「の、のう……ココは、クリームシチューやコーンポタージュ、カレーなんぞが良いと思わんかや?」
「栄養はバランスが大事。
全て筋力維持に掛かる規定値を上回りすぎる」
「ポ、ポトスも良いと思うのじゃ……」
「……コレまでの運動量から考えて、サプリだけで充分」
まずい!
味方のはずが、最大の敵じゃった!!
ぐぬぬっ!
かくなる上は……!!
「の、のぅ、雲雀よ……
なんなら……
なんならポリッジやオートミールで我慢するのじゃ」
「あの牛乳をぶっ掛ける、お茶漬けもどき?
ダメよ!
ココはご主人様を待つハーレムメンバー団らんの場!
ならば鍋の一卓!」
「「……」」
「……ならば、アニメのOPとEDを飛ばす事を進言。
3分間の時間短縮による効率化が見込める」
「それもダメよ。
製作スタッフの意気込みを見る為と、OPもEDも作品の一部なんだから、飛ばしてみる事は赦されないわ!」
「……そう」
「女狐、そんな事だとアンタ、映画館でEDが始まると席を立つ外道と呼ばれて、後ろから刺されるわよ!?」
「――――!!」
様相は3つ巴の戦いとなって来たのぅ。
「でも、流石にダレてきてるのは確かね!
じゃあ次の御飯は、闇鍋と我慢大会にしましょう!」
全然関係ない話で、強引に自分の論調に従わせて、その後に相手の提案に乗りつつも肝心の自分の意見を押し通す……。
ぐぬぬぬ……
勢いだけはあるから「まぁ、それで良いじゃろ」と考えてしまう。
何故、妾はこの時に反対しておかなんだのか……。
正に、後悔先に立たずじゃな。
こうして妾等は、最後の狂宴と向かうのじゃった。
暑い。
暑い。
暑い。
なるほど、我慢大会とは良くいった物じゃ。
とりあえず暑いっ!
まさか、こんなに苦戦するとはのぅ。
ふはははは、雲雀め。
人の子の分際でやりおるわ。
妾をここまで追い込むとはの。
「うううう……」
妾の隣に座っていた伊織は、既に目がうつろじゃ。
心ココにあらずといった感じじゃの。
元々の文化が“人前で食事をする事はとても恥ずかしい事”という、かなりぶっ飛んだ世界の出身者じゃ。
今回の闇鍋我慢大会が始まる前、最初の日に炬燵で鍋を囲んだ時も「乱交パーティー」や「スーパーフリーッ!」と叫んで逃走しようとしておったしのぅ。
恥ずかしい上に、灼熱地獄、延々と続くアニメ……。
心身ともに削られておるのじゃな。
だが、逃げるわけにはいくまい。
これは“八代時雨”をかけた戦いなのじゃからの。
「くふふふ、伊織、我慢できぬならば脱いだらどうじゃ?
確か服に関する規定は、1枚でも脱いだらその時点で失格だったかや?」
「むむむ……」
「頑張るわね、女狐……」
「雲雀、そういう御主も頑張るのぅ、いい加減に諦めたらどうじゃ?」
「はは、まさか。
私が負けるわけないじゃない」
「ん、コレくらいの苦しみは、時雨の痛みの半分にも満たない」
「自罰的じゃの、じゃが今はその想いは捨てるのじゃ。
それは、妾等すべての想い、御主1人で背負うのは許さん」
「そうよ、いおりん!
いやさ女狐!
そうやって落ち込む前に私達と戦いなさい!」
「……ん」
「その通りじゃな!
妾の魔法と、雲雀の力、御主の再生医療があるのじゃ。
妾等の主様が、あれぐらいで倒れたままのワケがあるかや。
それよりも“帰還後に誰が最初に抱かれるか”の勝負をつけるのが先じゃ」
「ん!」ふんぬーっ
妾達は今、暑き戦いを繰り広げておる。
雲雀が言い出した地球の奇習、ヤミナベとガマンタイカイ。
ガマンタイカイとは、雲雀の話だと「己の肉体と精神の耐久力を誇示する地球の競技」という事じゃ。
昔、ラパ・ヌイであった鳥人レースと似た様なものじゃな。
今回は、暑さに対してのレジスト能力をかけた争いじゃ。
暑くした室内で、熱い鍋を食して「あつい」「ぎぶあっぷ」「もぉダメ」「まずい」と言わず、最後まで残った物が勝者という事らしいのぅ。
ワリと簡単そうじゃが、地球では死人が出るほどの過酷な競技という事じゃ。
ヤミナベとは、なべ料理を使用した儀式じゃ。
翻訳するなら文字通りダークネスなべ。
魔人召喚儀式に使えそうなほどオドロオドロシイ名前じゃな。
暗くした室内で、持ち寄ってきた食材を鍋に投入していく、という簡単ながらも奥の深い所作を基本としており、投入される物によって、その儀式の難易度は易くもなるし、難くもなるという話じゃ。
何故そこまで儀式の難易度が変わるのかというと
「投入された食材は全て残さず食べるべし。いただきますを忘れるな」
という事らしいの。
ココまで来れば判るかと思うが、基本骨子は、何を投入するか……という事じゃな。
面白そうだからと言ってケーキや大福、みかんの皮などは、自分も被害をこうむる覚悟で投入しなければならんと言うことじゃ。
雲雀から出された提案は、常識的に人間が食べれる物である事と言う事じゃった。
乾電池や鉱物、人骨、排泄物、食す事によって5日以内に死に至る毒物、等の禁止。
加えて、ガマンタイカイでもあるので、服を脱ぐ、トイレに行くという行為でも失格。
スープは昆布出汁の醤油ベース。
タレの類は、個人の自由裁量で2つまで用意して良いとの事じゃ。
そこで妾は、冒険者の必需品カレー粉と、ゴマダレで戦いに挑むのじゃ。
これで、どの様な不味い物が来ても食す事は可能じゃろう。
戦いの流れは、1巡目は普通の鍋を食べる。
2巡目からは、暗闇の中、時計りに雲雀、妾、伊織の順番で、第一ダークネス具材を投入する。
投入後、豆腐、大根、葱、人参、鶏肉、糸こんにゃく等を入れて、第二ダークネス具材投入という流れじゃ。
その後、出来上がった後に、順番でそれぞれのお椀によそい、1巡したら、3回目のダークネス具材投入という流れじゃ。
1番目は、煮込む必要のある物
2番目は、様子見
3番目は、本命
と言う事じゃな。
問題はココからじゃったの。
「さて、じゃあ、次は禁止事項ね!」
「そうじゃな。
まずは最初に“神の奇跡”とやらは、禁止じゃろう」
「えーっ!?」
「ん。当然、魔法、魔術、呪法、呪術、仙術、魔導学も含む」
「な、なんじゃとっ!?」
「ならなら、サイキック、バイオテック、サイバーテック、毒物、感覚遮断、食材アイテム以外の使用だって禁止ぃ!何が何でも禁止ぃっ!」
「む」
さて、ココまでの取り決めで、ガマンタイカイ開始後は妾達それぞれのアドバンテージは潰された。
くふふふふ。
そんな取り決めで大丈夫かや?
大丈夫じゃ、問題ない。
妾はの。
雲雀、伊織、御主等は妾を甘く見たのぅ。
真なる吸血鬼[ムロゥイ]の体温調節能力、闇を見通す魔眼、共にスルーとはの。
それに祖竜喰らい[ドラコエド]たる妾が、たかが数度の温度変化如きで「熱い」と口にしたり、服を脱ぐとでも思うたか。
環境変化に、もっとも適応できる生命体・竜族の、その中でも最も究極にして全能なる始祖の竜の一族じゃぞ?
所詮は人間風情じゃな。
くふふふふ。
猿知恵じゃの。
室内は、アニメの画面以外は暗く、人間の目には何が何処にあるのか判るまい。
じゃが、妾にとって闇夜を見通す事なぞ、赤子の首をひねるが如きこと。
危ない食材は食べねば良いのじゃ。
スルーじゃ!
妾の勝ちはゆらがぬの。
そんな風に思っていた時期があったのじゃ……。
1巡目はそれぞれが具をよそい、最初の味を楽しむ。
すでに鍋を食べ飽きた、妾や伊織には少々苦痛じゃったが、仕方ない事じゃ。
1杯目を全員が食べ終える。
そして本番。
それぞれが闇の具材を投入する。
第1具材、そして第2のダークネス具材。
「もぅそろそろいーかな?」
雲雀が鍋の蓋を取る。
「うぇっ」
「……!」
「くっ」
闇の中、雲雀が蓋を取ると同時に、嫌な臭いが室内に充満する。
「……雲雀、逝きマース!」
雲雀がそれぞれのお椀に、ヤミナベの具と汁をよそう。
2杯目じゃ。
このお椀を全員が食べた後に、伊織がよそい、その次に妾の番じゃ。
それで1巡。
2巡目は、伊織からじゃ。
「じゃあみんなそれぞれに行き渡ったわね?」
「ん」
「くふふふふ」
「では、頂きますっ!」
「板。抱きます」
「イタダキマスじゃ」
ぱくっ
ごふぅっ!
に、ニンニクじゃとっ!?
それも丸ごとっ!?
それに、醤油ベースのスープだったはずなのに、何故に味噌味!?
あ、からっ!!
辛いッッッ!!
舌がっ
舌がっ!!
痛いぃぃぃッ!!
ぬかった!
醤油ベースなら、カレー粉でもある程度対応できると時雨知識にあったから、辛いものは大丈夫と思っていたのじゃが!!
「み、水っ!」
正確には、ラベルをはがした500mlのペットボトルから、コップに注いだ液体じゃ。
とてもではないが、皇國代理天の水は、不味すぎて飲めんのじゃ。
しかも、飲む事ができるのは、1巡で1杯までじゃ。
大事に飲まねばならんが、しかしこれは堪らんッ!
ゴクゴクゴクゴクゴクゴク
あ
甘イッ!
何じゃコレは、砂糖水!?
「くっくっくっく、ヴラドさん、あんた背中が透けてるぜ?」
見ると、雲雀は新造人間エヴァンゲルオンの登場人物、怒りゲンドウの様に手を顔のまで組み悪そうな顔でニヤリと笑っている。
勝ち誇った笑みを浮かべる雲雀。
「雲雀、泣きの竜は“煤けている”では?」
何事も無いように、辛そうな汁をすする伊織。
ば、ばかにゃっ!
だ、ダメージを受けているのが妾だけ……じゃとッ!?
「ヴラドさん……
その、甘くて、甘くて、甘ったるいジュースを飲んで、再び刻み唐辛子のプカプカ浮いたスープ……
チャレンジできるのかい?」にやそ
「子供舌……大丈夫?」
雲雀はニヤリと笑い、伊織は獲物を見る目で妾を観察しておる。
な
ななな……。
「けっこうヴらえもんって優しいよね。
あ、おいしいよ、このシュールストレミング」
「ん」
「な、何故、妾の入れた物が……」
「そりゃ、入れる時にあれだけ酷い悪臭を放てば、何を入れたかなんてすぐに判るし、判っちゃえば心積もりができちゃうし……」
「―――なッ!」
「酷いのは臭いだけ。
味は……食べれない事は無いレベル。
もう1つの、梅干もそう」
そう言って伊織は梅干を食べる。
無表情じゃの。
この味覚音痴め!
「それよりも酷いのは女狐よね。
正直、辛すぎて舌が痛いんだけど?
銘柄は何よ?」
「ブレアのサドンデス」
「アンタ、そんなネタ調味料を持ってきて……。
どれだけ入れたのよ?」
「たいした量ではない」
「そんな辛さで大丈夫か?」
「大丈夫だ、問題ない」
「毒物に耐性のある、女狐の言葉は信用できないわね」
「大丈夫、問題ない……ホントに」
「のぅ。
確かそれは、主様が“危険。触るな”と言った調味料じゃな?」
「そそ」
「劇薬相当。
闇鍋規定には従っている」
「まぁ、確かに毒ではないけどねぇ……
コレに加えて唐辛子も入れたんでしょ?」
「……ん」
雲雀の言葉に伊織がうなづく。
「やってくれおったのぅ……」
「ふふん?」
どや顔で伊織が、妾を見る。
くっ、ぐぬぬぬぬぬぬ……。
おのーれおのれ、忍者体っ!
刻み唐辛子や葱ラー油も御主の仕業じゃなッ!!
「あ、私は八丁味噌とニンニク爆弾よ」
ココで暴露。
「ぐっ、あの様な臭いものを入れるとは……っ!」
「えー、シュールストレミングと梅干もなかなかだと思うけど?」
「はてのぅ~♪」
「さぁ、ちゃっちゃと食べて、銀髪ロリ!」
「くっ!」
ぐぬぬぬ……辛ッ!
涙目になりながら、妾は2杯目を食べる。
どこかで侮っておった。
じゃが、良く良く考えれば、こやつ等も一騎当千の猛者。
手を抜いて良いわけが無い。
味噌ジャンキーに味覚破壊者。
くふふふふ。
ならば、本命の第3ダークネス具材で、地獄を見せてやろうぞ……!!
「じゃあ、みんな2杯目は食べ終えたわね?」
雲雀がお椀の中身を見せる。
妾と伊織もそれにならう。
もう舌が馬鹿になっておる。
何の味も感じないのじゃ。
「ヴらえもん、いおりん、3杯目前に提案があるんだけど?」
「む?」「ん」
「うどんを投入したいんだけどいい?
ワリと汁が少なくってきているから、汁を継ぎ足さないといけないんだけど……」
「ふむ……」
汁を継ぎ足せば、辛さは抑える事が出来るのぅ……。
それは助かるのじゃが……それだけかや?
「うどんは最後に入れる物と、マニュアルにはあった」
伊織が反対意見をだしてきた。
まぁ、もっともじゃな。
自らの攻撃手段がなくなるのだから。
「うん。汁を継ぎ足しちゃうと、薄くなるじゃない」
「ん」
「だから、どーせ継ぎ足すなら残った汁をたっぷりうどんに吸わせて、新たな味で第3具材の投入よ!」
「……激辛うどん?」
「そそ」
ぐぬっ!
なんじゃと!
更なる灼熱地獄を味合わせるつもりかや!?
「わ、妾は、うどん投入には反t」
「うどん投入に反対すると、第3具材の投入時に、もっと凄い味になると思うけど……
今の所、辛くて難儀しているのはお子ちゃま舌のヴラドだけよ?」
「ぐぬっ!」
「うどんを入れれば、次の継ぎ足しで他の味に変える事が出来るけど……どうする?」
「……その条件を呑むのじゃ」
「ん」
3杯目、地獄の激辛うどんを食した妾達は、ついに運命の第3ダークネス素材投入と相成った。
すでに次の食材は、伊織の仲間の109とやらが、地球から購入、もしくは八代家の手荷物から持ってきてくれた。
くふふふふ。
御主達がその気なら、こちらもそうするまでじゃ!
4杯目、妾が投入するダークネスな素材は、媚薬!
妾が丹精込めて作成して、裸になる事を極度に怖れる、愛しの我が君に使うはずだった物じゃ。
さて問題は、雲雀の精神耐性と、伊織の毒無効化能力じゃが……。
雲雀には、媚薬そのものに耐性はなかろう。
問題は、折れる事無き不屈の精神力じゃが、言葉で揺さぶる以外は手は無いのぅ。
次に伊織じゃが、こちらもまた面倒じゃ。
毒を無効化する、その特異な能力。
じゃが……
くふふふふふ。
地球には、雑草などと言う草は無いという名言があるらしいの。
ならば、毒薬などと言う薬は無いと言っておこうかの。
一口に毒と言っても、呼吸しただけで死ぬ物から、触れば効果を発揮する物、経口せねばならぬ物、直接血流に流し込む物……
毒の形態や使用方法、効果、持続時間……それは多岐に渡る。
人が人である前から、毒は使用されていたのじゃ。
その悠久の歴史を、たかが10数年ほど生きただけの小娘が、その身に宿して無効化できるなぞ、思い上がりも甚だしいのじゃ。
薬がその身に効くのならば、毒も通す事ができよう。
くふふふふ……。
鍋の中に媚薬を投入する。
見た目は、薄桃色の花の蕾と刻んだ葉物にしか見えぬであろう。
じゃが、鍋にした時点で、御主等の敗北は必定だったのじゃ。
やっておる事は、ミリンや料理酒同様の事じゃ。
水よりも沸点の低いアルコール漬けの花の蕾は、鍋の中で盛大に咲き乱れようぞ。
そこから空気中に媚薬の元が散布され、後は妾の吐息、体臭と混ぜるだけで、全ての王侯貴族を虜にした傾国姫の媚薬が完成じゃ。
もしくは口に花弁を含んだのなら、尚の事じゃ。
くふふふふ……。
「じゃあ、次は銀髪ロリ、アンタの番よ」
「くふふふ、ならばよそおうぞ」
第3具材は、妾が全員分をよそおう事になっておる。
慎重に妾は、目の前にある鍋の中から、お椀に中身をよそう。
闇を見通す魔眼によって、鍋の中の具材が手に取るように判る。
そこで妾の椀には、危険で無い物を選択して入れる。
思わず、笑みも漏れようと言うものじゃ。
ごつっ
お玉が、何かが硬い物に触れる。
なんじゃ?
ごつっ
何を入れおったのじゃ!?
―――――まさかっ!!
蟹!!
まるごとの蟹!!
主様が、高級素材として持てはやすが、ゲテモノじゃろ、これは!
背筋に悪寒が走る。
口から漏れそうになる悲鳴を飲み込む。
妾に蟲を喰えというのかや!?
何と恐ろしい物を入れるのじゃ!!
……これは、雲雀の仕業かや?
そうじゃな、伊織には無理じゃろう。
この様なゲテモノ素材は。
雲雀っ!!
フグや生魚、蛸にウニ、ナマコ、生卵、納豆、この国に住む者の悪食を、知識として知ってはおるが、ココでコレとは……!
おちけつ!
いやいや、おちつくのじゃ。
いまだ天命天理、妾に有りじゃ。
これは好機なのじゃ!
諸悪の根源を、おたまに入れると伊織のお椀によそう。
くふふふふ……。
食らうが良い!
次は、伊織の入れた物じゃが、見つからんの……。
また液体かや?
――――!
しまったのじゃ。
うかつ!
「同じ物を入れてはならぬ」と規定はされておらん。
誰もそれを言っておらなんだ。
ぐぬぬぬ。
食事関係は、何処よりも貧困な文化の皇國代理天じゃ。
もうネタは尽きたと見て良いじゃろ。
何より、最強種たる妾に対して、かなりのダメージを与えた食材じゃ。
ブレアのサドンデス。
次も使うのは必然……。
ぐぬぬ、液体では防ぎようが無いのぅ。
仕方あるまい。
じゃがの、伊織よ。
「聖闘士には同じ技は2度通用しない」と言うぞ。
妾も同じじゃ。
同じ攻撃を受けたならば、すでに対策の1つぐらいはあるのじゃ。
すでに、この味にも慣れた。
次は水を飲まずとも、耐える事もできようぞ。
見くびるでないぞ!!
伊織用にはゲテモノ丸ごと。
雲雀用には、先ほどの残りの汁をタップリと染み込んだうどんに、新たに投入された野菜や、ダークネスな素材の残りを入れておく。
最後に妾用には、無難な野菜と里芋を盛る。
妾は、全員分のお椀をよそうと、それぞれに配る。
「では食べるかの?」
「よっしゃあっ!」
「ん」
さて、どんなに舌に痛い味でも、同じ攻撃は聞かぬぞ、伊織!!
ぱくっ
―――――くぁwせdrftgyふじこlp!?!
つ―――――んッ!!
鼻の奥から脳天を貫く衝撃。
あああああああっ!
ぬかった!
WA・SA・BI―――――っ!!
おのれっ!
やってくれたな!!
のたうちまわりながらも伊織を睨む。
「くっくっくっく、ヴラドさん、あんた背中が透けてるぜ?」
見ると、雲雀は新造人間エヴァンゲルオンの登場人物、怒りゲンドウの様に手を顔のまで組み悪そうな顔でニヤリと笑っている。
な、なん、じゃと……!!
ココに来て、雲雀にノーダメージじゃ。
はよう、媚薬の効果を表さねば、妾がワサビにやられるのじゃ……!!
つ―――――んッ!!
あああああああっ!
まずい、まずいのじゃ!!
食べる度に……!
つ―――――んッ!!
あああああああっ!
何故、雲雀は大丈夫なのじゃ!?
「これは大会既定に反するのでは……?」
横から伊織の声。
伊織は蟹をしげしげと眺めている。
「え?それ、おいしいよ?」
「まぁ、喰えん事はないのぅ。
実際にバーベキューの時に、生臭坊主が甲羅を裏返して、酒を注いでたじゃろ?
……うぅ、正直思い出したくもないのぅ」
正に地球の感性で言う処の、酒が“勿体無い”じゃろ。
「あー甲羅酒っ!
思い出させないでよっ、ああああ涎が……」
「……雲雀、確か日本の規定では“お酒は20歳になってから”のはずだ」
「そんな事はどーでもいいのよ!
うううう、もう2匹入れておくんだった。
私のお椀に蟹が入ってないじゃない!!」
「……トレードする?」
「それは認められんのぅ」
あの様なゲテモノでも旨そうに食べる種族もいるという事じゃな。
じゃが、伊織は苦手と見た。
ならば、畳み掛けるまでじゃ。
「出されたお椀の中身は、全て食す事が大会規定じゃ」
「……ん」
「ううううう、私の蟹ぃぃぃぃ」げっそ
「……無理。
リタイアする」
「「―――!」」
よし!
1人脱落じゃ!
脱落した伊織は、炬燵から出て、涼む為にイソイソと薄着になる。
下着が透けて見えるほどの、薄いシャツ1枚だけになると、雲雀は横になって倒れた。
すでに羞恥心も無くなっておるのは、致し方あるまい。
祖竜喰らい[ドラコエド]たる妾とて、この暑さに我慢できん状態じゃ。
暑さへの耐性は、こんな物では無かったはずなのじゃが……。
雲雀めが、何か仕込んだんじゃろうか?
ま、良いじゃろ。
どちらにしろ、勝つのは妾じゃ!
「頂上決戦ね!」
「そうじゃな、どちらが真の勝者か決めようぞ……!」
伊織のワサビも、雲雀の蟹も撃退してきた妾じゃ。
くふふふふふ。
ならば、次は妾のターンじゃな!
最後の締めじゃ、妾の罠を喰らうてもらおうかの!!
妾の吐息と、鍋の中に咲いた花弁から漏れ出した香りが、混ぜ合さり、部屋中へと満ちていく。
雲雀の目が、トロンとしていくのが判るのぅ。
媚薬の効き目が出てきた様じゃ。
やはり精神系の効果には強いが、肉体に作用する効果は、常人並の抵抗力しかもっておらん様じゃな。
「そろそろ服を脱いで降参したらどうじゃ?」
「何を言ってるの?
銀髪ロリ、アンタこそ敗北を認めたら?」
「くふふふ。何を言うかと思えば……。
妾の勝ちは揺らがぬのじゃ。
今なら御主は、恥もかかずに済むじゃろ?」
「クカカカカカカカカーッッ!!」
突如、不気味に笑い出す雲雀。
ぐっ、なんじゃ、その気迫っ!
妾の媚薬で判断能力すら低下しておるはずなのに!
地球にある媚薬とは、存在そのものが違うのじゃ!!
まがりなりにも、マジックアイテムじゃぞ!?
「な、何か秘策があるようじゃな、雲雀」
「ふふん、月見里の魔法をとくと味わえ!」
「――――なっ!!」
地球は魔法文化レベルが低いのは判っておったが、存在しないと言う事は無いじゃろうと思っておった。
妾の魔法とて発動するのに難易度が上がるだけで、使用できないという事はおこっておらん。
だとしたら、考えられるのは術方に関する事は、地球では秘匿された技で、特殊な地位にいる者のみが使用できるという事じゃ。
月見里雲雀……やはり、只者ではないのぅ。
「……雲雀、魔法は大会規定で使用は禁止」
「そういえば、そうじゃったの。
雲雀、お主が言い出した事では無かったかや?」
ぐて~とねっころがりながら、団扇で自身を扇いでいる伊織がつっこむ。
今の今まで、妾も忘れておったのは内緒じゃ。
「クカカカカカカカカーッッ。
闇鍋は勝負だ!勝てばいいんだ!」
「―――――!!
……それは本気で言っておるのかやっ!?」
ぐぬぬ、雲雀め。
自らが劣勢になれば、ルール無用とは……。
思っていたよりも下種であったかや。
「これがッ!これがッ!これが月見里の魔法だっ」
「っぐぬ!?
――――この臭いッ!?」
「こいつにふれることは、死を意味するッ!!」
「そ、それは、まさかッ」
「「味噌にんにくッ!!」」
ドロロロォォッ
やおら雲雀は、瓶を取り出すと空だったタレ用のお碗に、黒いペースト状の物を流し入れる。
溢れ出す臭気。
ニンニク臭い。
こんな物を食べたら、1日はニンニク臭を漂わせておかねばならないじゃろう。
雲雀め、人を捨ておったか!!
「あ、ヴラド、ちなみに魔法も何も使ってないからね?
言葉のあやとノリで言ってみたけど」
「ふぅぅぅ、それは見て判るのじゃ。
妾は、お主が自分の不利を知って、ルール無視に出たのかと思ったがの」
「そんな事するわけないでしょーッ!
戦う時は戦士、俺の誇りさ」
「……先ほどから聞いておると、なんじゃ、もしかして御主の話し口調は、アニメや演劇の口調を真似しておるのかや?」
「そそ」
なんじゃ、どっと疲れたのぅ。
それにしても……
「臭いのぅ」
「ふふん、取り出しましたるはニンニクの味噌付け。
味噌と申しましても、只の味噌とはワケが違う。
ココより遥か異世界、異世界は地球、地球の日本国、日本国は東海、岡崎の豆味噌、3年の長きに渡り、熟成に熟成をかけた八丁味噌ッ」
「……またかや」
「この八丁味噌に入れたるは、青森はブランド、国産ニンニク!
この国産ニンニクをスライス、微塵に切っては漬け、切っては漬けたる優れ物!」
芝居がかった口調で、ニンニク味噌を解説する雲雀。
まずいのぅ。
これでは媚薬の効果が、消えてしまうのじゃ。
「そして出来たるは、最高級味噌ニンニク!その効果たるやm」
「雲雀、時間稼ぎは良くない」
「……ばぁーれぇーたぁーかぁー。
でも時間稼ぎじゃないわ!
戦略的休憩よ」
「いや、そろそろ降参したらどうじゃ?
さすがの御主でも、妾の入れた具材で少し体温が上がってるじゃろ?
ほれ、伊織のように横になって、涼んだらどうじゃ?」
「く!まだよ!!
私はラスト5秒の逆転ファイターなんだから!!」
「ふぅ、ただ“暑い”と言うだけじゃろぅ?
どうじゃ、今言えば妾が調合しt」
「「あ」」
「?」
「勝った気がしないわ……!
納得できないっ!!」
「ラスト5秒の逆転ファイター……」フルフル
「バカな……バカな……
妾が、この様な失態を……」
「ふふふふふ」
「くふふふふ」
最初に笑い声が漏れたのは、雲雀か妾か。
何とも情けない事じゃ。
言ってはならぬ言葉を自ら言うとは……!
「お主の勝ちじゃな、雲雀」
「そんなの認めない!
勝利ってのは、もっと甘い美酒なの!!
努力、友情、そして勝利なの!
こんなヌルイ友情、ムダな努力、ムナシイ勝利は要らないっ!!」
「なんじゃの、御主のその清々しいまでの態度には、敬意に値するがの……
そこまで言い切られると、妾も意地にならざるをえんのじゃ。
勝ちは勝ちじゃ、くれてやる。
持っていくが良い!」
「ムキーーーーッ!!」
「ぐぬぬぬぬぬ……」
「飲むわ!」
ドンッ!!
雲雀が取り出したるは純米大吟醸。
「おお、日本酒か!!
良いのぅ。
敗者たる妾は、酔うてウサを晴らすとしようぞ」
「ナニイッテンノ?」
「うぬ?」
「……お酒は20歳になってから?」
伊織が炬燵の遥か彼方、裸になりながらつぶやく。
「違う、違う。
でも一応、聞いとこっかな?」
「なんじゃ、雲雀、伊織、酒を嗜むのに、なんぞルールでもあるのかや?」
「そそ」
「……ん、20歳未満は飲んではならない」
「でもさ、いおりん、それって日本の法律じゃん?
皇國代理天ではどーなのよ」
「……」
「?」
「……ん。皇國代理天には、飲む事に関する規定は存在しない。
アルコール……酒精に分類される物体は、暗殺用の毒薬としての用途以外では、非効率な薬物として麻薬認定されている。
飲むではなく、打つが正しい用法」
「ならば良し!」
「なんじゃ、本当に夢も希望も無い世界じゃの……」
「ヴラド!」
「何じゃ」
「再戦よ!」
「うぬ?
もしやと思うが……」
「おおよ!
次はコレよっ!!」
雲雀は、純米大吟醸をコップに注ぎ、妾の前に差し出してくる。
旨そうじゃな。
「くふふ……」
思わず笑い声がもれる。
そこまでして、妾を完膚なきまでに、打ちのめしたいかや。
愛しい男に関しては、一歩も退かぬその覚悟、見事じゃな。
だが、それはこちらも当然の事。
妾同様、胸を張って勝利を謳いあげたいのじゃな。
なんとも気持ちの良い奴じゃ。
楽しいのぅ。
ならば応えようぞ。
「妾は“最初に抱きつく権利”を掛けるのじゃ」
「はははははは!
そんなモノ、愛人には最初から無いわよ!!
でも、いーわ、乗った!!
私が掛けるのはさっきの勝利の権利よ!」
「伊織、御主は何をかけるのじゃ?」
「……敗北者に鞭打つ?」
「はぁ?ナニイッテンノ。
さっきの勝負なんてノッカンよ!
棚ぼたなんて要らない!
私が望むのは、圧倒的勝利よ!!」
並々と注がれたコップが伊織の前にも突き出される。
「……アルコールは毒物」
「酒は百薬の長よ!」
「くふふふふ。
酒の神[バッカス]は海の神[ネプチューン]よりも、ずっと多くの人間を溺死させたと言うがの?」
「ん……静脈注射する事で、自然な溺死を偽装さs」
「そうは言ってもな、伊織。
天国に酒はないそうじゃ、生きている内に呑むんじゃな」
「……」
「覚悟決めて2回戦よ。
いおりんは何を掛けるの?」
「ならば……」
戦いは続く。
屍どもが夢の後。




