NO WAY!
新しい学校!
今日から始まる高校生活!!
僕は今までの殻を破って、新たな形に生まれ変わる!
そして僕は、運命の人と出会う。
襲い掛かる様々な試練!
波乱万丈な学校生活!
全てを乗り越え、相思相愛となる僕と、運命の女の子。
そうして楽しく3年間を過ごして、大学へと進学する2人。
だが、大学でも新たな出会いがあって、彼女とは少しばかり倦怠期に突入する。
だけど、そんなモノは、僕達の愛の間には、何の問題にもならないハズさ。
そして大学卒と同時に、新入社員。
彼女とは、疎遠になるのが嫌で、同棲開始。
そして生まれる愛の絆っ!!
ハロー、ベイベェッ!
なーんて、高校デビューを考えていた。
でもね。
嫌だね、田舎って。
僕の通う高校は、地元からの進学率が異様に高い。
地元中学に通っていた同級生の約半分以上が、この高校に来るんだ。
中学の卒業式の時にも、言ったものさ。
「さらばだ、友人A、友人B。
次に会うときまで……死ぬなよっ!」
「おおう、和田ちゃん。
次に合う時は、入学式だな!」
「あんま変わんねぇよなぁ……
実質、エスカレーターだしな」
はぁぁ。
これじゃ高校デビューした瞬間に、皆から笑われるだろう。
っと。
考え事をしている内に、僕が自己紹介する番が来た。
席を立ち上がり、その場で軽く話す。
「ぼ、僕の名前は、和田崎進です。
前の人と同じ中学出身で、クラスは2組でした。
し、趣味は読書、好きな食べ物はマヨネーズ、よ、洋楽とか、じぇ、じぇーぽっぷなんかも聞きます。
こ、好物はマヨネーズ、よ、みょろしくお願いします」
噛んだーッ!
教室中にクスッとした笑いがもれる。
恥ずかしさで、穴に入りたくなった。
僕が終わると、そこから先は女子が自己紹介する番だ。
耳をそばだてて、1人1人を窺い見る。
○、×、○、◎、×、○……
当たりが多い。
うん、このクラスは割りと良い感じだと思う。
ガタッ
真っ黒の髪の長い美人が立ち上がった。
誰だろう、見た事が無い人だ。
引っ越してきた人か、それとも別の学校から来た人なのか……?
どっちにしろ、美人だ。
これは“◎+花”だろう。
大本命だ。
「私は日本人だ。
名前は、戸隠伊織と言う。
出身などの経歴一切は、黙秘権を行使する。
尚、素性を探る者が居た場合、それは敵対行動と判断し、速やかなる対処をする所存だ。以上」
「「「「?」」」」
変わった子だ。
でも、そこがいい。
普通と違って、オンリーワンなのは素晴らしいと思う。
しっかりと自分のアイデンティティが確立されている証拠だと思う。
「和田ちゃん、ぜってぇそれは目が曇ってるぞ」
「目を覚ませ。
美人でも、おかしいのは勘弁だ」
僕の友人Aと友人Bだ。
判ってないなぁ、2人は。
高校開始から2日がたった。
今も、戸隠さんの側で、男子生徒が一生懸命、話をしようとしている。
「ねぇ、どこの中学なの?」
「……黙秘を」
「何の本、読んでいるの?
面白そうだね」
「……教師用の国語の教科書、読むなら図書室」
「一緒に帰らない?」
「……無理。
方向が違う」
「じゃ、じゃあ、部活は何に入るつもり?
よければ、今日の放課後一緒に」
「……放課後は予定がある」
同じクラスの男子達の、猛烈なアタックにもひるまずに、彼女はひょうひょうと裁いていく。
たった一言二言で、あとは無言を貫く。
凄い。
正に、けんもほろろといった状態だ。
身持ちが堅い証拠だろう。
「いや。ぜってぇソレは違う」
「いい加減、目を覚ませ。
和田ちゃん」
僕の友人Aと友人Bだ。
相変わらず判ってないなぁ、2人は。
4日目。
ついに大物が現れる。
隣の中学だった奴だ。
確か、名前は新田小悟朗と武居一茶だ。
イケメンコンビだ。
甘い顔つきの新田と、チャラ男系の武居……2人が戸隠さんにせまる。
まずい!
きっと言葉巧みに、彼女を悪の道にさそうつもりだ。
「戸隠さん、ちょっと良い?」
「……?」
「うん、実は提出物の事で話が……」
「提出物……!?」
提出物……!
斬新な切込みだ!!
図書室に誘って、相談に持ち込むつもりか?
確かに彼女は、初日から放課後は図書室に篭っていた。
やる!
これだからイケメンはっ!!
「春休みの宿題、プリントって貰ったでしょ?
戸隠さんだけ、あれが提出されてないんだ」
「……!」
「今、持っている?」
「……期日は?」
「んー、実は、期日はもう過ぎているんだ」
「……そうか、ハラキリか」
「あははは、話は最後まで聞いてネー。
だけど、先生の方が忙しいみたいでね。
今日ぐらいなら、待ってもらえそうだよ」
「……判った、善処する」
「よろしく」
良い雰囲気だ……!
まずいよ、イケメンなんて、戸隠さんをボロボロにして、すぐに捨てちゃうような人種だよ!!
「和田ちゃん、帰ってこ~い」
「今回は、いつも以上にトリップ率が高いな」
「あ、もしかして……
妄想列車が暴走し始めている?」
「だな。
一途なのは良いけど、桃色世界の住人だからなぁ」
僕の友人Aと友人Bが何か言っているが、この際はどうでも良い。
彼女に真実を教えないと!
イケメンは……
あいつらは危険だ!
ガタッ!
僕は席を立つ。
真実は、常に正義の味方だ!
だが、僕が席を立った時、それは起こった。
キィーーンコォーーンカァーーンコォーーン
くっ!
無情にも、休憩時間の終わりを知らせる鐘の音が鳴る。
今回は失敗した。
次回にかけよう。
1時間後、僕はチャイムと同時に席を立つ。
今度の休憩時間は食事休憩なので、約1時間、自由になる時間がある。
彼女と一緒に食事をしながら、イケメン達がどれだけ危険な存在か、教えれば良いだろう。
だが、その為には、彼女と2人で話せる状況にならないといけない。
一番良いのは、彼女と2人きりで食事をする事なんだけど……。
なんとかして邪魔者を排除しないと。
皆が、それぞれ食事をしようと動き出している。
気の早い男子は、すでに前の休憩時間に食事を終えているが、僕はまだ食べていない。
チャンスは今しかない!!
一緒に食事をしようと話を持ちかけて、イケメン達の企みを潰さないと……!!
「あ、あの……戸隠さん」
「?」
いそいそと席を立って、何処かに向かおうとしていた戸隠さんが、僕の声に振り向く。
おや?
少しばかり頬が赤くなっている。
「……な、何か用か?」
いや、僕の勘違いじゃない。
少し動揺しているみたいだ。
普段から、彼女の日本語のイントネーションは、少しおかしい。
中国人が、日本語を喋っているような、そんな感じのイントネーションだ。
ただし、彼女自身が多弁でない為に、僕以外には、誰も気付いていないだろう。
そんな彼女の声に、珍しく抑揚というか、感情めいた物を感じた。
……珍しく、焦っているのか、頬を染めてキョドっている。
僕の胸が高鳴った!
まさか、彼女も僕の事を――――!?
「……?
用が無いなら、失礼する」
「あ……うん」
いそいそと僕の前から、廊下へと向かう彼女。
だけど、僕には、それを追いかける事は、できなかった。
珍しいと言うか、いつもクールな彼女が、僕にだけ見せたはにかみ。
いつも彼女は、相手をジッと見て話す。
最近の日本人には、居ないんじゃない?
相手を見て話す人なんて。
そんな彼女が、僕を見ずに恥ずかしそうにしていた。
――――――これは、恋だ。
間違いなく彼女は、僕に好意を持っている。
ドキドキしてきた。
その日も、あくる日も、更にその次の日も、僕は彼女に話しかけてみる。
ポーカーフェイスでクールな彼女は、いつも完璧に感情を隠すから判らないけど、確かに彼女は、僕に好意を持っている。
間違いない。
しかもワリとシャイだ。
僕が一緒に食事を取ろうと話すと、いつも恥ずかしがるんだ。
「……あ、う……そ、その申し出だが、ダイエット中ゆえに失礼する」
あの反応が初々しいね。
だけど、きっと僕もそんな感じなんだ。
彼女と一緒にドキドキしている。
「いや、ぜってーソレって、和田ちゃんの勘違いだから」
「おーい、1人相撲って知ってるかぁ?」
僕の友人Aと友人Bは、そんな事を言うが、そんな事あるはずないじゃないか。
まぁ判るはずは無いだろうけどね。
僕と彼女、愛し合うもの同士のシンパシィなんて。
「「……」」
4月も半ばを過ぎた。
彼女の外見に騙されて近づいた者は、あのクールな切り口の台詞にやられてしまって、スゴスゴと立ち去っていった。
だから、彼女に話しかけている存在は、今では殆ど居ない。
僕が当初恐れていたイケメン2人も、戸隠さんにちょっかいを掛ける事は少なくなった。
先に落としやすい獲物を狙う事にしたんだろう。
実際、おさげの娘と、茶髪の遊んでいる系の女が良く話しかけている。
あーあ。
遊ばれてるだけなのに。
イケメンに、ヤり捨てにされるだけなのにね。
でも、かわいそうとは思えない。
自業自得だ。
そんなある日、嫌な噂を聞いた。
彼女を強姦しようとしている奴が居る。
いつも放課後に、彼女は図書室に向かう。
その後を追う小さい影。
――――アイツだ!!
八代時雨
「や、ヤクザめっ!!」ギリッ
チビで、デブで、醜い顔の、気持ち悪いストーカー。
親がヤクザだという。
その顔には、縦に醜い傷痕がつき、いつも“にちゃあ”って粘着質な笑みを浮かべている。
「ぐひぃ」とか「うぼぁ」といった台詞が似合いそうな、3流悪役。
女子も男子も怖がって近づかない。
いや、気持ち悪いから、近づけない。
マトモに顔も見れないほど、怖いなんて思わない……思ってなんかいないぞッ!!
そんな邪悪が、図書室へと向かって歩き出した彼女の、直ぐ後を追って、ストーキングしている。
許せないッ!
僕は絶対、貴様の邪悪な野望を打ち砕くッ!!
まずは牽制だ!
「あ、あの八代君」
「……?」
「す、少し話したい事があるんだけど良いかな?」
「……た、確か、和田崎くんでしたよね。
何か用ですか?」
奴は下から僕を見上げる様に、睨みつけてくる。
ざまぁみろ。
お前のストーキングを防いでやったぞ。
今日は、戸隠さんをストーキングさせない!
「あ、え、う、えぇっと……
あ、そーだ、部活って、何にするか決めましたか?」
「……部活ですか?」にちゃぁぁ。
「――――ヒッ!!」
あの時の顔を忘れる事が出来ない。
死人の様なカサカサの黄色い皮膚と、焼け爛れた赤黒い皮膚が、顔の継ぎはぎ部分で濃淡を作り、死んだ魚の様な濁った目が、下から獲物を見つけた様に僕を睨む。
そのくせ、口はだらしなく“にちゃあぁぁっ”っと、粘着質に歪んだ笑みを浮かべ、うっすらとだが、顔に血管が浮かび上がる。
―――――化物っ!!
大声で叫びたかった。
謝りたい。
今すぐ「ストーキングの邪魔してゴメンなさい」と謝罪して逃げ出したい。
あれはストーキングを邪魔した僕に、仕返しをする事を決めた顔。
狙いを定めて、ターゲットロックオンした死神の笑みだった。
僕は、全神経を総動員して、強張る顔を、叫びだしたい声を、力が抜けて立てなくなる足腰に、活を入れる。
「あ、じゃ、じゃあ……」
「……うん」
ヤクザの側を離れる。
それでも、あの化け物は“にちゃあぁぁっ”っとした顔で、じっと僕を見ている。
くそっ。
ロックオンされたか!?
僕は、ヤクザの目から逃れたい一心で、その場を離れ、トイレに逃げ込む。
ふぅぅぅぅぅぅ。
恐ろしい敵だった。
今、僕はトイレに居る。
僕は今日、1つ賢くなった。
人間は、恐ろしい目に合うと、脱糞するってホントだったんだ。
次の日。
僕の放課後牽制に強い味方が現れた。
2人のイケメンだ。
新田小悟朗。
武居一茶。
「何だ、もう帰るのかよ、ドワーフ。
部活ぐらいやってけよな」
「あははは、脳筋の言う事は気にしないで良いからね。ドワーフ」
確かに自己紹介の時に「こんな顔、こんな姿でしたので、ドワーフと呼ばれていました」なんて、言っていたけど……。
アレは笑いを取る為というよりも、明らかに「俺をその名で呼ぶな。殺すぞ?」って言う牽制だろう?
恐ろしい。
あの化物をドワーフと呼ぶなんて。
呼べるなんて。
いつの間にか、あのイケメン共とヤクザは仲良くなっているらしい。
……いや、違うな。
2人を舎弟に組み込んだのか?
そうか!
イケメンはヤクザに女を貢ぎ、ヤクザは自分の組を使って、あのイケメン2人に色々と便宜を図るって構図か!!
もしかしたらとてもマズイ事になっているのでは!?
戸隠さんは、僕に好意を抱いている。
それを、あのイケメン2人は知った。
だからヤクザを使う事にした。
強引に彼女をモノにするつもりなんだ!
くそっ!
安心しきっていた!
事態は余計マズイ事になっている。
あのヤクザは、ストーキングをして、虎視眈々と機会を狙っている。
止めないといけない。
どうする?
簡単だ!
僕が、戸隠さんと一緒に行動すれば良い。
「と、戸隠さん」
「……?」
帰りの仕度をして、図書室に向かおうとしていた戸隠さんに話しかける。
「え、えーっとですね……」
「……ん」
「あーっと……」
「……ん」
「その……」
「……」いらっ
「い、一緒に、か、帰りませんか?」
「……確かに君の家は、方角は同じ」
「え?」
「だが、坂の途中、校門より出て約5分後の道で別れるルートが、君が家に帰る一番効率的なルート」
「ええっ!」
「一緒に帰る必要性を感じない」
どうしよう、嬉しい。
ワザワザ僕の家まで調べているなんて……。
間違いない!
やはり彼女は僕の事を……!!
いやいや、それよりっ!
僕は教室中を見回す。
あの化け物は居ない。
やった!
どうやら僕の引止め作戦は成功したようだ!!
ざまぁみろ、化け物め!
お前のストーカー行為は、僕が潰してやったぞ!!
よっし。
後は、戸隠さんと一緒に帰りつつ、彼女に危険が迫っている事を告げるだけだ。
なんなら、自主休学という手もある。
結果として進級できなくても、一生を掛けて、僕が彼女を守るさ!!
「戸隠さんっ……って、あれ?」
「おーぅ、彼女なら急ぎ足で、出て行ったぞ?」
「和田ちゃん、ぜってぇ変な方向に突っ走ってるだろ?
目を覚ませ、世界は君を必要としていないゾー」
相変わらずの僕の友人Aと友人Bだが、友人Bが良い事言った!!
「う、うん、せ、世界は僕を必要としていない。
ぼ、僕を必要としているのは、戸隠さんだから……!」ぐっ
「……おい、また和田ちゃんが変な勘違いしているぞ」
「えっ!?
何でそんな勘違いになるんだ?
おーい和田ちゃん、ちゃんと話を聞けぇ~」
次の日。
放課後が、やってきた。
戸隠さんが助けを求めている……ッ!!
ヤクザの、イケメン共の、野望を僕は食い止めるッ!
ガタタッ
勢い良く立ち上がり、僕は戸隠さんの元へと向かう。
「戸隠s……」
「すまない、急いでいる」
「え?」
彼女は、すぐ僕の脇を通り抜けていく。
教室内にはヤクザもいない。
引止め作戦は、今日も上手くいったみたいだ。
でも、なんだろう。
さっきの戸隠さんは、少しイラついた感じだったけど……。
まー、いいか。
今日も僕は戸隠さんを、ヤクザで、ストーカーで、チビで、デブで、外道で、鬼畜で、ブ男の魔の手から守ったんだ!!
事件は次の日に起こった。
放課後を知らせる鐘が鳴り、ホームルームが終了すると同時に、ガタタッと席を立ち上がる人物達。
ヤクザと戸隠さんだ。
2人は競争でもするかの様に、争って教室を出て行く。
……。
どういう事?
本当に怖れるべきは、事が上手く言ってる時に、気を抜く事なんだ。
あの日、僕は自分の無力を思い知った。
きっと彼女は、ヤクザの昼夜を問わない攻撃にさらされていたんだろう。
学校のストーキングなんて氷山の一角だったんだ。
僕が勝利を確信してから、数日が過ぎ去った日の事だ。
僕の恐れていた事が起きた日は。
――――破局。
僕が敗北した瞬間。
ヤクザの強引、且つ、大胆な攻撃に彼女が陥落した日だ。
僕は彼女を守り抜く事が出来なかったのだ。
4月最後の火曜日。
その日、朝から戸隠さんは休んでいた。
ヤクザは、相変わらず不気味な顔をして登校している。
あの日……。
あの日は、戸隠さんが学校を休んだので、お見舞いに行こうと思っていたんだ。
戸隠さんが休んでいる以上、ヤクザもストーキングできなくて、ザマァミロって思っていたんだ。
何故、それを怪しいと思わなかったんだ?
あの涼しげなヤクザの顔は、悪魔の笑みそのものだ。
勝利を確信した余裕だったのだ。
事件は放課後前、ホームルームで起こった。
戸隠さんが登校してきたのだ。
彼女は悲壮な決意で、ヤクザの前に立った。
その手には、婚姻届。
しかも、夫の欄が空白の……。
彼女の弱みを握ったヤクザは、きっと、こう言ったに違いない。
「お前は俺の愛人になれ、ぶひぃ」にちゃり
あれは……!
あれは、婚姻届なんかじゃない!!
形を変えた隷属契約書だ!
だから、夫の欄が空白なんだッ!!
ああ!
僕がもっと早く気づいていればっ!!
彼女を、あんなにも悲しませないし、苦しませなかったのに!!
僕のバカっ!
「おぅい、和田ちゃん。
壁に頭を打ってないで、現実見ろよ」
「駄目だ、本格的に聞いてない……」
僕の友人Aと友人Bの声が遠くに聞こえる。
「なんだな、あれってやっぱ戸隠さんが、結婚迫ってるんだよな……」
「まさか、ヤクザにレイプでもされたのか……?」
「ストーキングされてたしな……」
「いや、アレって本当にストーキングなのか?
あんなに嬉しそうに、ストーキングされてる人間って、滅多に見ないぞ?」
「あー確かになぁ。
戸隠さんって普段が無表情だから、余計に判りやすいな」
「人には色々な恋の形態があるって事だろ?
変人同士でいーんじゃないの」
僕の友人Aと友人Bは、ヤクザの策略にはまってしまっている。
だからこそ、これだけは言わなければ……ッ!!
「……ふ、普段が無表情だからこそ判るんだ。
か、彼女は苦しい時、辛い時、悲しい時に笑うんだ。
彼女の笑顔は、それら全てを、か、隠すためのものなんだよ!!」
僕はカバンをもって走り出す。
今日はさっさと帰って、明日からの戦いに備えよう!
「あ、をいっ!和田ちゃんっ」
「おぅい、そりゃ思いすごしって、聞いちゃいねーか……」
「……やばいなぁ、本格的に妄想列車が暴走している」
「一途な妄想ほど、個人的趣味が入るからな。
どっかで歯止めできる人が居た方が良いんじゃないか?
……犯罪沙汰になる前に」
その後の騒動は聞いていない。
ホームルームは、その騒動でさっさと終わったらしい。
その日以降、彼女にとって悪夢の日々が始まった。
いつの間にか、戸隠さんはヤクザの恋人として、クラス中が認知していた。
それこそが、ヤクザの策略だってのに!!
クラス中の誰もがヤクザを恐れて、口出ししない。
ヤクザめ。
皆の弱みを握って、脅しているんだろう。
僕が、僕だけが、彼女を助ける事が出来るんだ!
「おぅい、和田ちゃん。
思考が明後日に飛んでいるところ悪いんだけどさ」
「委員長が、さっさと班員1人寄越せって、言ってるんだわ」
「は、はんいん?」
「あ、やっぱり聞いてなったな」
「妄想と現実をコネコネと混ぜるなよー?」
「し、してないよ」
少しドモってしまった。
「オリ合宿の班分けだよ」
「俺達のグループから、1人か2人追い出して、あっちに寄越せって」
僕の友人Aと友人Bがのたまう。
オリ合宿!!
そうか!
その手があったか!!
戸隠さんと、同じ班になれば良いんだ!
「あ、それは無理だよ。
男だけで作る班だからな」
「食事時は合体班にするみたいだけど、基本的には男女別だよ」
「そ、それなら……」
それなら戸隠さんと合体班になる班に入れば良いんだ!!
「お、さすがっ!」
「サンキューな、和田ちゃん」
「……?」
僕の友人Aと友人Bが礼を述べる。
気にしないでよ、僕達は友達だ。
それに、僕の目的と合致しているんだから。
「いやぁ、それでもなぁ……
なんというか、爆弾に向かって突っ走る、暴走列車を見ているとなぁ」
「俺は盛大に自爆する和田ちゃんを見といてやるぜ。
大丈夫だ、骨は拾ってやる……残っていたらな」
「?」
僕の友人Aと友人Bが何を言っているのか判らない。
とりあえず僕は、自分の入る班に向かう。
実は僕はクラスメートの名前を、しっかりと覚えていない。
僕の友人Aと友人B以外とは、あまり仲が良くないからだ。
ぶっちゃけると、顔は見たことあっても、名前は知らない。
そんな人が多い。
「生贄君いらっしゃ~~い。
ようこそ、ヤクザなハーレムへ」
「――――!!」
ちゃらいイケメンだ!
生贄君?
何の話だ?
「大丈夫だよ、お尻を差し出せば君も今日から兄弟さ」
「――――!!」
腹黒イケメンッ!
僕は、尻を押さえる。
いったい、お前達は、何を言っているんだ?
「――――!!」
全身を寒気が襲う。
足が震えた。
何だ?
何だというんだ?
「……」ごくっ
「あー。まぁ、いいや。
実は、まだ全員の名前と顔が一致してなくて……」
「――――」ギリッ
そこにヤクザが居た。
いや、ヤクザと言う言葉すら、表現するには正確さに欠ける。
全身が総毛立つ。
歯がカチカチと鳴る。
な、何だ、コレ……?
この前のヤクザとは別物だ。
雰囲気からして違う。
何かが変わった様に思える。
だけど……ッ
僕の目の前にいるのは、チビで、デブで、ブ男で、ストーカーで、短足で、偏平足で、オタンコナスで、脂ぎってて、キモくて、ぐひぃで、気持ち悪くて、死んだ魚の目で、濁った目で、外道で、鬼畜で、羅刹で、醜悪で、醜くて、醜くて、醜くて、醜くて、醜い人間だったはず……。
だけど、今、目の前にいるのは……。
化け物。
まさに化け物だ。
なんて恐ろしい。
こんな生命体が生きていて良いのか(いや良くない反語閉じ)
くっ。
のまれるな。
呑まれたら、相手の思うツボだ。
思い出せ!
思い出せ!
戸隠さんを助けれるのは、僕だけだ!
恐怖を克服しろ!
怒りだ。
怒りこそが、全てを打ち破る力なんだ!!
怒れ!
奴は何て言った!?
思い出せ!
思い出せ!
そうだ。
あの化け物は、僕の事を知らない。
僕の事を、歯牙にもかけない小物だと言ったんだ!
しかも
しかも
しかも
僕は、戸隠さんを救う、唯一のファクターなのに!!
やれるものなら、やってみろって事か!?
僕なんか、目ではないというのか!!
どこまでも人をバカにする!!
戸隠さんは、お前の物じゃない!!
今は、お前の策略で、大人しくしているのかもしれないが、必ず僕が助け出す!
いいか、必ずだ!!
お前如きの策略で、僕と戸隠さんの仲を引き裂けると思うな!
僕は、想いを目に宿らせて、ヤクザを見る。
「……」
そして、奴が、僕の目を見る。
「……」
ぐっ……!
恐ろしい。
恐ろしい。
何人もの人を殺めてきた瞳だ。
散々いたぶって、玩具にして、壊れていくのを楽しむ、そんな目だ。
「これから、いっしょの班だねぇ」
にちゃり。
奴が嘲笑う。
その笑みの下、何人の犠牲者を出した!?
何人の人を悲しませてきた!?
「僕は、人畜無害だから安心して?
……ヨロシク」
「――――!!」
読まれた?
僕の心が読まれた!?
本当にコイツはニンゲンなのか?
違う
違う!
違う!!
化け物!
本物の化け物だ!!
「ひぃぃぃっ」パシッ
「……」
折れた。
折れてしまった。
完膚なきまでに、僕は敗北を喫した。
無様をさらす。
「ひぃぃぃっ、ごめんなさい!ごめんなさい!!殺さないでッ」
僕は、逃げ出してしまってた。
その後、僕はトイレに篭っていた。
「化け物からは逃げられない!」なんて事は無かったみたいだ。
助かった。
ふぅ。
今回は完全に僕の敗北だった。
すぅ、はぁ~。
1回深呼吸。
気分を、新たにする。
そうだ、どんな名将も常勝無敗だったわけじゃない。
負ける時だってある。
問題は、負けた後に、どうするか、だ。
……徳川家康は偉大だ。
戦上手の彼が、生涯唯一敗北した武田信玄との「三方ヶ原の合戦」では、自身の慢心を諌める為に絵師にイラストを描かせたらしい。
この話で、とある逸話がある。
家康公は、あまりの恐ろしさに脱糞したというのだ。
生涯唯一とか脱糞とか、真偽は置いておくけど、人は真の恐怖に接すると脱糞する。
人類の身体構造上、仕方がない事なのだ。
失禁は軽い症状だ。
普通の恐怖に接すると失禁して、真の恐怖に接すると脱糞するのだ。
僕もそうだ。
少し慢心していたみたいだ。
敵を知り、己を知れば、百戦危うからず。
僕は、便座に座る情けない姿を、自身のケータイで写す。
恐怖に逃げ出すぐらいでは、戸隠さんを救い出すなんてできない。
恐怖で脱糞した僕だが、今日の敗北は明日の糧だ。
克服できない恐怖なんて無い。
僕は、更なる高みを目指す!
戸隠さんを、あの悪魔から救うために!!
コンコン
個室のドアを誰かがノックする。
「おーい、和田ちゃんよ。
脱糞癖は良いけど、若頭さんに謝っておいた方がいいぞー」
「一応、あの後“気にしてない”って言っていたけれど、仁義の世界で生きている人だからな。
キチンとした謝罪と態度は必要だぜ?」
「そ、そうだね、そうするよ……」
「何と言うか、和田ちゃんも内面と外面の差が激しすぎるんだよなぁ」
「若頭と似たタイプかもな」
「「はははは」」
相変わらず、僕の友人Aと友人Bは駄目人間だ。
僕とあのヤクザが似ているなんて、あるわけ無いだろ。
……あるもんか!




