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世界の 法則が 乱れる!  作者: JR
第07話 非日常な常識と非常識な日常
104/169

予定調和の毎日、みたいな?


もしも~~っし。雲雀ぃ~~。



雲雀と心話が繋がらない。

おかしいな。

睡眠や気絶は感覚的に判る。

世界樹[ユグドラシル]との、リンクが切れているわけでない。

切れた時点で、世界樹[ユグドラシル]の呪いが発動するから、死んだり別世界に行っているわけではない。


じゃあ、いったい……?



心話が出来ない状況にあると考えるのが妥当だ。


伊織の言葉が蘇る。

“雲雀の精神は破壊されて、肉体は天使の物となっているはず”

“精神寄生体”

“ある一定条件下で肉体を完全に乗っ取り操作をする”

嫌な単語しか浮かばない。



武居とヴラドは、オカルトの話で盛り上がっている。

できれば、ヴラドの邪魔はしたくない。

いやいや、武居にヴラドの笑顔を見せるなんてもったいない。

邪魔するのは当然。


僕の心で邪魔する正当性が見つかったので、邪魔をする事にする。

っていうか、雲雀がやばいんです、ヴラドさん。


僕は、かくかくしかじかと、ヴラドに心話する。




(可能性として、お主様の懸念しておる状態だとしようかや。

 雲雀が精神崩壊しておったのなら、パトリオットと心話ができるはずじゃ)

うぅうぇぇぇぇっ!?

嫌だよ、そんなの!

(くふふふ……案ずるな。

 心話が出来なくなったのならば、要因は2つじゃ。

 内的要因と外的要因じゃ、当たり前じゃがのぅ)

外的要因?

心話をどうやって阻むんだろう?


(まずは、内的要因じゃな。

 この場合としては、雲雀の肉体に魂や幽体と言った、精神や意思を司る部位が宿っておらぬ状態じゃな。

 地球で言うなら脳死の状態じゃ)

いやいや、待って。

それは……考えたくない。


(ならば、外的要因じゃな。

 お主様が皇國代理天に行った時の事を思い出してみるのじゃ)

うん?

皇國代理天?


……。


あ、そうか!

世界法則[リアリティ]の変化か。

(そうじゃ。お主様は一般の地球人じゃからのぅ。

 言いたくは無いが、体現者[シュトゥルム]と同じ事はできんのじゃ。

 まぁ、少々変わった事に、他の世界の世界法則[リアリティ]を取り込んではいるようじゃがの)


と言う事は……?


(おそらくじゃが、ニューエルサレム側の世界法則[リアリティ]が、地球の世界法則[リアリティ]を侵蝕しておるのじゃろうな。

 ココから先は妾の勘だが、ニューエルサレムは呪法が効きづらい世界法則[リアリティ]なのじゃろう。

 正確には、神の奇跡以外の技術は発展しない世界法則[リアリティ]なのではないかと思うのじゃ)

そうなの?

でも、神の奇跡って?

そもそも、神ってなんだろう?

(ふぅむ)





ヴラドは、少し考え込むと心話で語りだす。

(難しい話じゃのぅ。まず姿、形は色々じゃな)

うん。


(一致しておるのは、どのような形態であれ、複数の知性体より崇められ、何らかの超常的な力を発揮する事ができると思われている存在……かや)


難しい定義だね。

(簡単に言うとじゃ、無意識に集団の心の依代(よりしろ)となる対象じゃな)

余計難しくなったよ?

(うぅむ)




まぁいいや。

その、神の奇跡って言うのはなに?

(その説明は簡単じゃ。

 神の力を借りて行う魔術だったり、呪法だったり、錬金術じゃ。

 神の力を借りると言う、その一点だけがあれば、神の奇跡と呼ばれるのじゃ)

へぇ、判りやすいね。


(神に供物を捧げ、祈る。その時に、神の事をどれだけ信じておるか、信心深さがに応じて威力が変わるのぅ。

 一般的には神の力とは、同じ物を崇める信徒集団が集団無意識に溜めた魔力素じゃと言われておる)

それはヴラド説?

(いや、ラパ・ヌイでの説じゃ)



(魔法が発達した分、神とは霊的に進化した生命体ではないかと言う説が、主流になりつつあってのぅ。

 じゃから、無神論者と言う者が多くなってきておるが、反動勢力もまたあるのじゃ。

 真知者というんじゃが、そn)

じゃあ、今、言ったニューエルサレム側の世界法則[リアリティ]が、神の奇跡以外の技術は発展しないっていうのは?

僕はヴラドの言葉をさえぎって話を戻す。


(いや、あくまでも、この世界のキリスト教から感じたイメージなんじゃがの。

 キリスト教にせよ、イスラームにせよ、他者を排斥する事によって力をつけていく宗教じゃろ) 

うん。少しでも違う所を見つけると攻撃対象にするね、プロテスタントもカソリックもその他の有象無象も。

イスラームは、他宗教には寛容だけど、入信するには物凄く高いハードルが設定されているって聞いた事がある。



(他者の排斥というのは重要での。

 ある一定の範囲にどれだけ同じ信徒集団を作るかが、奇跡発動のポイントじゃ。

 相手を改宗させて、強引に信徒集団に組み込むか、狂信者を作り出して集団無意識を強化するかするのじゃ。

 さすれば神の奇跡は、高い確率で効果を発揮するようになるのじゃ)

そうなんだ。



(ニューエルサレムの場合は、それを世界法則[リアリティ]からして積極的に行なっているんじゃろう)

うーん。

皇國代理天の歴史を改竄する世界法則[リアリティ]みたいなものなんだろうか?




ふむ、と少しヴラドは考えると

(例えばじゃ……地球や皇國代理天の世界法則[リアリティ]は、科学という技術があるじゃろ?)

僕は肯定する。

科学=技術ではないけど、今はそんな話は後回し。


(この2つの異世界に共通するのは、科学が発展すると同時に、それ以外の魔法や奇跡などの発展を阻害するという、変わった世界法則[リアリティ]を持っておるみたいじゃ)


まぁ、確かに、科学の発展と共に魔法や神の奇跡は迷信として駆逐されてきたけども……。

現在みたいな世界の謎や不思議を、科学によって解明しようと言う風潮になったのは、実際には20世紀に入ってからだ。


(その科学の部分を神の奇跡に交換すると、ニューエルサレムみたいな異世界になるのではないかと思うのじゃが……)


それで呪法が阻害されていると言う事?

(うむ。呪法に限らず、魔術や科学、学問なども変質していると思うのじゃが……

 少々気になる事もあっての。

 以前に妾が魔法を使ったを見て、雲雀が襲い掛かってきた事があったじゃろ?)


そういえば、最初、ヴラドと雲雀があった時に

“悪しき邪教徒は成敗”

“魔女”

“魔族と契約”

なんて、らしからぬ事を言っていたな。

(そうじゃ、まだ何かあると思うのじゃがのぅ……)

ヴラドが頷く。


(さて、長々と話してしまった。

 お主様が雲雀の心配よりも、妾の説明を聞いてくれた事が非常に好ましいの)


あ。


(くふふふ、お主様は妻より愛人を取る薄情者じゃ)

ええ~~。

(愛しいのぅ)




そんなヴラドとの心話の途中で、何かのスイッチが切り替わるような、そんな感覚がした。

その瞬間に

(御主人様ぁっ、聞っこえる~~?)

妙にハイテンションな、雲雀の声が聞こえた。


あれ?

聞こえる。


雲雀!そっちはどう?

大丈夫?

何もされてない!?

助けは要るの!?


矢継ぎ早に僕は質問する。


(ヘローヘロー。御主人様っ、応答せよっ)

あれ?

雲雀?


聞こえてないのかな?


(ノックして、もしも~~~し)

僕がどんなに心話で話をしようと思っても、僕の声は雲雀に届かない。


(やはり一方通行の様じゃな。

 お主様の入力が出来ないのじゃ。

 呪法【純潔の誓い】の様に、雲雀の方がお主様の心を拾いに行かねば、会話がなり立たんのじゃな。

 お主様、今から妾が雲雀に状況を説明して話せるようにするので、しばし待つのじゃ)

うん。

どうやら、ヴラドが僕と雲雀の間に入って、中継をするみたいだ。




すぐにヴラドを経由して、僕に2人の心話が判るようになる。

雲雀とヴラドが色々と話をしている。


(ダメだよ、ヴラド、御主人様に通じない)

(嫌われたのじゃ、諦めてハーレムから去るが良かろ)

(かーっ、ぺっ!

 千葉オメガトロン様風にっ!)

(良く判らんが、下品じゃのぅ)

(フンだっ!!どんなピンチの時も、絶対あきらめない!

 そうよ、それが可憐な乙女のポリシーっ!)

(そうかや。漢気(おとこぎ)あふれるのぅ)



あ~~。

ヴラド、もうそろそろいい?

(おお、そうじゃ。

 妨害する事ばかり考えておって、本来の話の事を忘れておったのじゃ)

ひどっ。





雲雀は僕の予想していた様な、大変な目にはあっていなかった。

良かった。

溜息と共に、腰が抜ける。


雲雀の無事が判った段階で、一旦、伊織の車コソボイに頼んで、武居を送ってもらう事にする。

「今日はありがとうな、キチーフ」

「うん、なるべくこっちも情報収集をしておくよ」

「おう、頼んだ」






結局、原因は不明だが、ニューエルサレムの異界門[ゲイト]が本格的に開放され、地球にニューエルサレムの世界法則[リアリティ]が流入してきたからではないか、とヴラドは考えているみたいだ。

特に地球の世界法則[リアリティ]は、侵入者全てに対して存在否定を促すから、何らかの方法を使用して、流入したニューエルサレムの世界法則[リアリティ]を強化したんだろう、とも。


世界法則[リアリティ]の濃度が変化すると、当然、その地域一帯で働く世界法則[リアリティ]が変化する。

この場合、地球でありながら、地球の世界法則[リアリティ]が働かず、ニューエルサレムの世界法則[リアリティ]が働く異世界となる。



それで、呪法が使えなくなったというワケだ。


僕の方から、雲雀に対しては、入力も感覚同調も出来なくなってしまっている。

丁度、ニューエルサレムの世界法則[リアリティ]が、バリアーの様に雲雀を覆っていると考えれば良いだろう。

コレを破る為には、体現者[シュトゥルム]能力が必要と言うわけだ。


反対に雲雀の方からは、僕に入力できるし、感覚同調も可能だ。

(覗き放題っ!!)

雲雀のテンションが更にあがっている。

ストーカーは止めて下さい。


(ん、ストーカーは私)

伊織がログイン。


(おへろー、いおりん)

(ん、雲雀も、お勤めご苦労様)

(サウジにはいけそうかや?)

(難しい)

(ちょっと聞いてよ、奥さん、あのね……)

井戸端会議が始まった。

久しぶりに僕の脳内で、女3人、なんとやら、だ。






ひと段落ついた段階で、現在の状況について、伊織に話しかける。


(ん、皇國代理天で情報を入手した。

 本国までは行ってないので、呪いの影響は出ていないはず……出たか?)

あー、そういえば、皇國代理天によって行くって言ってたもんね。

こっちは何も無し。


今は何処なの?もうサウジ?

(飛行機に乗っている、日程は不明だが1週間以上は確実。

 通常手段は取れないので紅海を渡る事にした)

え?


(状況は最悪。やはり裏切り者がいた)

そういえばそんな事も言っていたな。


(研究所より、熾天使[セラフ]の天使の卵[エンゲルアイ]が奪取されていた。

 モスク襲撃に使用された物である可能性が高い)

そうなんだ。

誰がいったい……。


(108、トーヤが犯人……の可能性)


―――え、嘘?


アイツは嫌いだけれど、五十鈴さんを裏切りそうには見えなかったよ?



(裏切りに理由は必要ない……漢の浪漫)

そんな漢の浪漫は嫌だなぁ。

あ、でも忍者の浪漫……かも?


(“風が吹いたから反逆した”と“明日に向かって裏切る”はカッコイイと思う。ぞくぞくする。

 最近ではコレに“対価として恋人(うらぎりもの)になれ”も加えて良いと思う)

最後の台詞は、僕が言った奴じゃん。

うぅ、自分の最低っぷりに哀しくなる。


(人は誰しも、どこかで裏切らなければ上達は望めない。

 いかに効率よく裏切って蹴落とすかが、下克上のコツ)

少し饒舌な伊織の話を聞いておく。

出発する時、震えていたのは、コレを予感していたのだろうか?


108は伊織に対して執着している……。

認めたくないけど、恋敵でもいい。

もしかしたら伊織とは、アダムとイブの様な関係を望んでいるのかもしれない。


どちらにしても伊織にとって108は、幼馴染や兄弟の様な、近い間柄だったんだろう事は理解できる。

そんな人が裏切り、それを追跡して捕縛したり抹殺する様な任務だったりしたら……。


「伊織、大丈夫かい?」


思わず口に出してしまっていた。

まずっ、耳と眼が監視用だから、少し誤魔化しておく。


(時雨、大丈夫だ。108はまだ討つ段階ではない。

 今回は対処が先、現地スタッフと近しい人を選別して、組織に組み込むのが仕事)

そうなんだ。


(同時に、熾天使[セラフ]について情報収集を行う。

 盗まれた天使の卵[エンゲルアイ]かどうかも含めて)

それで、時間がかかるんだ。


僕は伊織に頑張ってと月並みなエールを送って心話を止める。






それから1週間は、テスト勉強で忙しい日々を送った。

テストが終了しても、答案の返却、水曜日からはオリエンテーション合宿になる。

休まる暇の無い毎日が続く。



忙しいのは、伊織も雲雀も同じだった。

雲雀は、ニューエルサレムで毎日が忙しいらしい。

お勤めから誰も帰ってこないので、日に日にやるべき事が溜まっていくのだという。

自身の勉強のほかにも、食事の仕度や掃除などをこなして、その上で1週間に1回行なわれるミサの準備などの見習い仕事をしているみたいだ。

「ハードすぎる、ブラックすぎる、ロードーホーは適用されないの!?」とは雲雀の弁だけど、宗教じゃあねぇ。



伊織も珍しく愚痴るようになった。

2日目には、少々強引な手法だが、船便と一緒に紅海を渡り、無事サウジアラビアのヤンブーという都市に入り込んだ。

その後、宗教警察の目をあざむいてマディーナに侵入、色々と動いているみたいだが、思うようにいってないみたい。

宗教という理解できない壁が、大きく立ちはだかっている様で、いつもヴラドにアドバイスをもらっている。

(この地方の民族服は非効率。とても動きづらい。

 日に何度かある礼拝という敵性分子判別方法は効率的だが、30分の拘束はいささかうっとうしい。

 イスラム歴がメンドクサイ……暦は統一すべき、非効率)

淡々と、彼女が寝る前に定時報告がてら喋る。

その時間は、だいたい日本の5~7時ぐらいなので、気持ちの良い朝を台無しにしてくれる素晴らしいモーニングコールだ。



たまに情報を持って帰ってくるフギンとムニンによれば、3E(エジソンの技術帝国)はラパ・ヌイとの和平条約を受け入れたという。

ラパ・ヌイ全土に向け、撤退を宣言、次元回廊[コレダー]を破壊して帰還して行ったらしい。

どんな魔法を使ったんだろう、ヴォータンは。


尚、竜大陸に開いた異界門[ゲイト]については、ラパ・ヌイ軍[クンガヌ・マヌイ]と竜人の連合軍が少しずつ敵軍を押し返す事に成功し、次元回廊[コレダー]の半分以上を取り戻したとか。

このまま、打って出るらしく、軍団の再編成を行なっている模様。

悪魔城の異界門[ゲイト]に派兵するかどうかは、微妙な所だが予断を許さない状況ではある。

竜大陸の異界門[ゲイト]側の敵については、どのような世界法則[リアリティ]なのかは不明。

フギンとムニンに軽く偵察してもらったところ、魔法を使う事ができないラプラドル型の敵らしいが、数が多いとの事。

あー、そうですか、ロボットですかぁ、欲しいなぁ。



リュネットさんとグレイブさんは、ドラコニーと交代でラパ・ヌイ側の異界門[ゲイト]の守護についてもらっている。

こっちに来てからというもの、ラパ・ヌイの食事を食べるのが苦痛になったらしく、食事だけはきっちり僕の家で取ると宣言された。

ちなみにドラコニーも同意見らしい。

おかげで、エンゲル係数がうなぎ上りだ。



ジョフクさんは旅に出たと言っていたけど、この前、裏が写真の絵ハガキが来た。

どうも、ラパ・ヌイに帰ったんじゃなくて、徐福伝説を追って日本横断をしているらしい。

緊急避難先に、この家を設定しているので、何かあったら転移して戻ってくるとか。

金づかい粗そうだけど、どうやってお金を得ているんだろう?

まさか、錬金じゃないだろうな。



赤スライムは、風呂場で溶解アカナメをしている。

溶かし過ぎないようにさせるのがポイントだ。



テストあけの土曜日、現役自衛官の高科(たかしな)さんと、自称・枢機卿[カーディナル]の沖津(おきつ)さんのロリコン2大巨頭が家を訪ねて来た。

新田とドラコニーが揃うと四天王だ。

ぶぶ漬けを出そうとしたら、焼肉で結構と言う我が侭っぷりを発揮したので、素材持ち込みで許可した。

おいしいです。

2人の目当ては祖父なんだろうが、相変わらず連絡が取れない。

正直、相談したくは無かったけど、ある程度は祖父の事情を知っていそうだったので、捜索願いを届け出るべきか相談にのってもらう事にした。


「自分は止めた方が良いと思うであります」

「私も止めた方がいいと思いますね、時雨くんの判断は正しいと思いますよ」

どうやら2人も僕と同じ意見みたいだ。


「でも、それだと祖父の手がかりが、何も出てこないわけですし……」

「自分に良い案があります。

 警察を使うのでしたら、秋霖(しゅうりん)さんの部屋を見せれば、信じられないほど親身になって探してくれるであります!」

「それは銃刀法違反の重要参考人じゃ……」

「いや、多分、被疑者でしょうね」

「うわぁぁぁ」


「妥当な所では探偵でしょうが、多分止めた方が良いでしょうね」

「お金がかかりそうだしなぁ」

「それもありますが、国外となるとそこらの探偵では無理ですよ。

 それなりの大きい所でないと……」

「うぅーん、本当に祖父は何処に行ったのか……。


僕は手掛かりになるか判らないが、祖父が出かける朝の時の事を話す。

“早ければ夕方には戻れる”

“長くて4日ぐらいはかかる”

と言った内容だったはずだ。


「他には何か言っていたでありますか?」

高科(たかしな)さんが、焼肉を食べる手を止めて話しかけてくる。

これ幸いとばかりに、沖津(おきつ)さんはガツガツと焼肉をかっこむ。

「うーん。“世界中の美女といちゃいちゃしてくる”ぐらいかな?」

「そうですか、ではやはり国外……」


「そういえば、高科(たかしな)さんと祖父の接点が判らないんですが、どのような御関係なんですか?

 祖父がロリコンである可能性は認めたくないんですが……」

「は、説明いたします。

 実は自衛隊の中でも、対異世界戦闘を考慮に入れた新部隊設立の要望というのが昔からありまして……」

「え、そんなのが……?」

「正式な発足は2007年、中央即応集団の発足と共にです。

 その際に対異世界戦闘のスペシャリストとして、講師にお迎えしたのが、地球の守護者[ガーディアン]の秋霖(しゅうりん)さんであります」

なんだそれ。

何で祖父がそんな事に?



「事実上、今回の魔狼事件が初の本格的な仕事であります。

 その反省点として、お膝元である豊川駐屯地に部隊を駐屯する事になったので、その事を一報する為にであります」

「あ~~すいません、1から全部話して下さい……」

取り合えず、さじ投げた。


2人に僕が記憶喪失で、地球の守護者[ガーディアン]の事についてほとんど覚えていない事、祖父が何をしているか知らない事を話す。

沖津(おきつ)さんには最初に会った時に、ヴラドと僕が地球の守護者[ガーディアン]関係全般で嘘を言っていた事を謝罪しておく。

その上で、僕は自分の知らない祖父の話と、異世界の話、高科(たかしな)さんと沖津(おきつ)さんの知っている話、全部を教えてもらう事にする、


僕1人で抱え込むには、もう無理だろう。

どうこう出来る話を超えている。


公的機関をアテにできないと思っていたが、祖父は自衛隊と繋がりがあったらしい。

ならば、そっちにまる投げだ。

その為にも、現状を理解しないと話にならない。





その結果、やはり地球の守護者[ガーディアン]とは、世界法則[リアリティ]体現者であるという事が判った。


その上で、僕達が地球と呼んでいる世界は、体現者が産まれない特異な世界なんだと言う。

理由は不明だ。


先天的に地球の世界法則[リアリティ]を持って生まれた者には、体現者[シュトゥルム]は存在しない。

だから、地球の世界法則[リアリティ]を持った体現者[シュトゥルム]は、他の世界法則[リアリティ]で生まれ、後天的に地球の世界法則[リアリティ]を獲得した者だけなんだそうだ。


で、八代の一族は、自らを地球の守護者[ガーディアン]と呼び、この世界を守る事を至上命題にした一族なんだとか……。

うわぁ、なんかここら辺から嘘臭い……、眼や腕からビームを出せそうな話だ。




実際、祖父は(あえて言うなら)裏の世界では、それなりに有名らしい。

宮内庁から外務省へ出向した外交官として行動するらしいけど、キリスト教圏ならバチカンの奇跡認定委員会の力添えをしてもらえるとか。

ああ、それで沖津(おきつ)さんとの面識があるんだ。

無茶苦茶だな。

しかも外交官って事は特権を使って色々と……あの魔窟はもしかして外交郵袋で……うぅ、いや考えるのはやめよう。




その祖父の裏の顔って言うのが……異世界に対するゴルゴ13ならぬスーパーマン。

実は祖父は色々と正義の味方ちっくな事をやっているらしい。


高科(たかしな)さん曰く、

特殊潜入技能訓練において、現役隊員と寝食を共にするタフさ。

武器、兵器からサバイバルに関する高度な戦闘知識。

異世界のスペシャリストらしい即応能力。

素手で戦車を止める人間離れした力。

どれをとっても素晴らしい人物です、と祖父への心酔っぷりを披露した。




あれぇ?

おかしい、僕の祖父像がどんどん歪んでいく。

ただのエロじじぃなんじゃ?


いや、その前に何処までが冗談なのか対応に困る。

ただまぁ、その日は、祖父が人知れず正義の味方ぷっをしていたらしいのが、判ったのでよしとする。




2人は、今回起こったマディーナのモスク破壊事件は、異世界が関っているという事で認識は一致していたが、それ以上は不明だという。

ファティマの事については、すでにバチカンの奇跡認定委員会が動いているので、情報待ちとの事だった。


どうやら僕が思っていたよりも世界は異世界からの侵略の事を認識していたみたいだ。

バチカンもそうだけど、良くオカルトで言われるネバダ州の基地とか、黒い服の人、イギリスの特殊機関など、一般には知られていないけれども、機密情報としては色々と出回っているらしい。


僕の1人相撲だったわけか。

今回の魔狼事件は、高科(たかしな)さんと沖津(おきつ)さんから、上の方に話は行ったみたい。






そんなこんなで、今日は火曜日。

明日からオリエンテーション合宿だ。

テストの答案が、昨日、今日と大急ぎで返ってきた。

平均より少し上は確保しているけど、相変わらず応用問題がダメだなぁ。


ブルーになっていても仕方ない。

良い事もあった。


昨日、伊織からの心話で、明日の昼過ぎに、地獄のサウジから日本に帰って来ると言われた。

結果として、オリエンテーション合宿の宿泊先である、愛知県旭草原少年自然の家に現地集合するらしい。





そんな学校帰り。

遂に捕まってしまった。

今までは上手い事、伊織が僕を誘導して遭わない様にしてくれていたのかもしれない。


マスコミ。




1人のところを狙い撃ち。

駅前のちっこいロータリーを越えて、駐輪場に向かう僕に声をかける人物。

「ちょっと、すいません!」



振り返ってしまったのが不味かった。

「こんにちわ、ちょっといいですか?」

「ダ、ダメです」

不味い。

身体がブルっている。


ここは36計―――!!


逃げられなかった。

カメラを担いだ人物が、回り込んでいる。

しかも、明らかに風景を撮っている最中に、僕が映りこんだ様な感じに。



「実は今、色々な方からお話を伺っているんですけども……」

これから始める嗜虐を想像したのか、悦楽に顔を歪ませて、リポーターらしき人物が僕に話しかけてくる。


「実は近くの村で起こった謎のUMAによる虐殺事件について、色々な方からアンケートをとっているんですよ」

うわぁ。

「ま、まだやってたんだ……」


僕にマイクを向けながら、リポーターの女性は話しかけてくる。

僕はアンケートをやるとも言ってないし、話をする気も無い。

その場を後にする為に、カメラマンの脇を通り過ぎようとするが、今度は2人の高校生が行く手をさえぎった。

中学時代の同級生だろう、顔に見覚えがある。

そのまま2人の高校生は馴れ馴れしく僕の両脇に並ぶ。

まるで僕達、友達ですって感じで。


やばいやばい。

身体の震えが止まらない。

マイクを向けられるのが怖い。



「じゃあ、すいませんがアンケートお願いします」

リポーターが回りこんで話しかけてくる。

カメラは完全に3人の高校生を映している状態だ。

「いいぜ、いいぜ」

隣の馴れ馴れしい高校生が答える。



「謎のUMAによる虐殺事件は知っていますか?

 村人の死体の過半数が、何者かによって食べられた痕がある事件なんだけど……」

答えるつもりが無いので黙秘を。

男達は僕を両脇からがっちりホールド。

「俺達、友達だしぃ」とアピール。

リポーターに対しては「知ってる知ってる」「まじかっけぇ」「すげぇすげぇ」と馬鹿ッぷりをアピ-ル。



「あの事件の犯人は誰だと思いますか?」



犯人、ね。

誰、ね。


すでに人型である事を前提とした質問だ。

馬鹿馬鹿しい。


僕の横では、狼だろ、熊だろと意見を言いあっている2人。


逃げよう。

急いでこの場を離れよう。

そう思って、急いでその場を去ろうとしたら、リポーターがくらいついてきた。


「じゃあ、あの村に宇宙人と呼ばれる一家が居るって知ってる?」

「オー知ってるぜ、有名じゃん。変態の巣窟だ」

2人の高校生はゲラゲラ笑いながら答える。


むか。

そりゃ知っているだろう。

閉鎖的な村なんだから。



どうやらアンケートとやらは、本命に入ったらしい。

まずいなぁ、逃げたいんだけど……

いっそのこと振り切って逃げようか?

でもそうすると思う壺なんじゃ……。


「実は、その一家についての噂なんだけど、昔は毒薬とか麻薬を作っていたらしいって、知ってる?」

「し、知りません」

僕は答える。

いや、マジで。

祖父は母の趣味は植物栽培って言っていた。

証拠として裏庭に畑を作って色々と植えていたみたいだけど……まさか、ねぇ?



「じゃあ、コレも噂なんだけど、あの家の周りで拳銃の音がしたりとか、爆音が聞こえたりしたって話だけど……知らない?」

「知りませんっ」

僕は答える。


身に覚えがありすぎるぅぅ。

雲雀VS伊織の時のだ。

やばい、手がプルプルしてきた。



「ではですね、もう1つ、これを……」

携帯か何かで撮った動画を見せてくる。


「実は事件の前日ぐらいに取れた映像なんですよ」


その動画には、武家屋敷のような玄関門と、物々しい壁を備えた、僕の家が真正面から映っている。



スーツ姿の1人の男性が玄関門の所にある呼び鈴を押している。

僕の家を訪ねて来る人では、非常に礼儀正しい行為だ。

はて、誰だっけ?


『がう』

玄関の中から、巨大な金色の獣が現れたかと思うと、門の呼び鈴を押した人に噛み付く。

『ぎゃあぁぁぁぁーーっ!!』

夕闇に暮れる村中に響き渡る、男の断末魔。


あ、あれぇ?

この光景は……。

なんで、こんな所がジャストタイミングで撮られてるんだ?

確かに僕の家は少し高台になった所だから、ズームを駆使すればこういった動画は取れるけど……。


この場面は、初老のロリコン、自称・枢機卿[カーディナル]の沖津さんが、初めて僕の家を訪ねて来た時のものだ。

今から2週間以上も前の話が、今更、蒸し返されるように、別視点で映されている。


この時は、ドラコニーが雲雀の殲滅命令を受けて、沖津さんの咽喉笛を噛み千切ったんだ。

正確には噛み千切る寸前でストップが入って、仮死状態にする事で即死を免れたわけだけど。


金色に輝く巨獣は初老の男の首筋を咬んだまま、玄関門の中に姿を消す。



しばらくすると、中から、小太りの醜い男と和服を着たスレンダーな美女、メイド服のグラマラスボディな美少女が現れて、血痕を掃除し始めている。


うわぁ。

証拠隠滅までバッチリ撮られています。




「実はこういう映像が巷で流れていまして……どう思います?」


覗き込む様な眼で、リポーターは僕を見る。

後ろの2人は「グロっ」とか「ひっぃぃ」と言っている。

何というか、わざとらしい。


しかし困った。

ここまで精密な映像を撮られてるなんて……


「よ、良く出来てますね。最近の映像技術は、す、凄いなぁ」


そう答えておこう。

あくまでもアンケートとして聞いているんだから。


ただ、多分、この動画はこの駅を使用している人達全員に見せているんだろうなぁ。


仕込みが終わったから、僕のところへと来た……?

何で僕にアンケートなんて言って引止めを?


そもそもこの画像が出回っているって事は、警察も?





警察は未だに、惨殺事件の犯人を捕まえていない。

そりゃそうだ。

魔狼は知性ある獣だ。

隠れるにしたって熊や猿、猪を相手にしているのとは違う。


人間と同じ様に悪巧みをするんだ。

魔法だって……。


ん?


んんん?



……。


…………。



――― あ!!


人化の魔法【モンキーミミック】だ。

もしくは、それに類する……何か他の術だ。




「ちょっとすいません!最後のアンケートいいですか!?」

っとっとっと。

今はそれよりも、目の前の敵をどうにかしないと。

まだ身体が震えている。

けど、目の前にマイクを突き出されても、恐慌状態にはなってない。

まだ大丈夫だ。

深呼吸を2回。




「ま、まだ何か?」

声が震えているのが判る。

情けない。


「実はその宇宙人の一家には、人肉喰らい[マンイーター]と呼ばれる人物が居るのですが、今回の事件と関っていると思いますか?

 噂では、人を食べるのが生き甲斐みたいな人物の話がですね……」

「関ってないと思います!」


充分関わって入るけども真実を言った所で仕方ないだろう。

こっちが不利になるだけだ。



それよりも、魔狼の事だ。

武居とヴラド、沖津さん辺りに相談すれば、良い案が浮かぶかもしれない。




僕は急いでマスコミ関係者を引き離すと、逃げるように駐輪場へと向かった。

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