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「地味で華がない」と宮廷錬金術師をクビにされたので、お隣の魔導帝国に亡命します!〜私が作った魔導具をすべて停止させたら、国の防衛線が崩壊したようですが、そんなの知りません〜  作者: 星海 零
第3章:芸術の国の大公による電撃来訪&ライバル登場!?編

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第17話:大公の罠と、爆発する皇帝の独占欲


「――それじゃあ、我がレグザニア公国とガルディニア帝国との魔導芸術共同プロジェクトを提案するよ。その中で一つ勝負をしないか?」


翌日、皇宮の謁見の間。


突然現れたクロード大公は、赤い髪をかき上げながら、何かを含んだ笑みでそう切り出した。


玉座に腰掛けるジークハルトは、頬杖をつきながら冷ややかな視線を向ける。淡い金色の髪が一房、肩に落ちていく。


「勝負……だと? 外交の場で、大公は何を寝ぼけたことを言っている」


「オレが? 寝ぼけてなどいないさ。我が公国が誇る最高峰の魔導美術品『精霊のオルゴール』。お前も知っているはずだろ?」


そう言われてジークハルトは、眉間のシワを深めた。


公国の中心に据えられた精巧な建造物――精霊のオルゴール。様々な宝石がちりばめられ魔導の媒体となり、それはそれは美しい音色を奏でる。


遥か昔、エルフ族が携わり手掛けたとされるものだが、連動し音楽を奏でるための鍵となる小型のオルゴールは、大公家に預けられていた。


思い起こすのを見透かしたかのようなタイミングで、クロードが従者へ合図し、何かを持ってこさせる。


両手で抱えた紫色の布をめくると、今しがた考えていた小型のオルゴールがあった。


クロードがフッと口元を緩める。


「ちょうどこの件も話そうと思ってたんだ。ジークハルト、覚えてるか? この古代の複雑な暗号回路、いまだに国の学者たちでも解読できていない。これを――リーゼ嬢に解き明かしてもらいたい」


繊細な金銀細工と美しい宝石で彩られた、芸術品のようなオルゴール。それを撫でるように触れたクロードが続ける。


「もし、リーゼ嬢がこれを解き明かし、修復してみせたなら……」


パッと顔を上げるクロード。その表情はすでに国を統べる者の顔となっていた。


「我が公国は帝国との貿易関税を今後十年間、大幅に引き下げると約束する。もちろん、共同プロジェクトとして大々的に帝国の名も広げる。どうだ? 願ってもない好条件のはずじゃないか?」


「関税の引き下げか……」


ジークハルトの目がかすかに細められた。


関税の大幅引き下げ――それは帝国の経済にとって計り知れない莫大な利益だ。加えて、レグザニアで名が知られれば魔導具の仕事が山のように入ってくる。皇帝として、安易に突っぱねるわけにはいかない強力なカードだった。


しかし、だからこそ軽率な返事も避けたい。ジークハルトは訝し気に返した。


「……だが、条件が甘すぎる。私のリーゼにリスクがないわけがないな?」


クロードはふっと妖しく微笑み、切れ長の目を光らせる。


「もちろん。もし解き明かせなかった場合は……リーゼ嬢にレグザニア公国の客員研究員として、一年間うちの国に移住してもらう。仮にこの件が無理だったとしても、頼みたいことはいくらでもあるからな――ああ、生活のことは気にしなくていい。オレの邸宅で、手厚くもてなしをさせてもらう」


「……なんだと?」


片眉がピクリと動く。ジークハルトは鋭く睨み付けた。その背後からは殺気さえも沸き上がっているようだ。謁見の間の重厚な空気が一瞬で凍りつく。


完全にリーゼを自国へ連れ去る気満々の条件。クロードは作った笑みの下で、確実にジークハルトを揺さぶりにかかる。


当然、彼は突っ跳ねようとした。


「そんな条件、飲むわけが――」


だがその時、後ろで静かに控えていたリーゼが方手を上げて身を乗り出した。


「やります!!」


「リーゼ!?」


ジークハルトが勢いよく顔を向けると、リーゼは目をキラキラと輝かせ、オルゴールに吸い寄せられるように近づいていた。


実物を前にした彼女は伸ばした指先を震わせる。


「な、なんですかこの美しすぎる多重魔導回路は……! 外側の装飾と内部の歯車が同期して、魔力を音色に変換する構造……! すごい、凄すぎます! 私、これ絶対に直したいです!!」


「ふふ、気に入っていただけて光栄ですよ、リーゼ嬢。あなたなら、この繊細な美を理解してくれると思っていたからね」


クロードは大公としての気品たっぷりに手を取り、リーゼの甲にそっと唇を寄せようとした。


――バシッ!


「私の婚約者に軽々しく触れるな」


クロードの手首を掴んだのは、突き放すような冷たい目をしたジークハルトだった。


いつの間にか傍にいた彼は、すぐにクロードの手を乱暴に離す。


その冷徹さは、最近見ることのなくなった表情で、周りの侍従たちも昔を思い出し身を竦めた。その空気は、一歩間違えれば大公の首すら斬り落としかねないほどの勢いすらあった。


しかしクロードは全く意に返さない様子で返す。


「たかだか挨拶だけに大袈裟な奴だ。それともなんだ……自分の婚約者が奪われるかもしれないと、恐怖しているとでも? 大国の皇帝陛下が?」


ハハッ、と笑ってクロードは煽るように挑発的な笑みを浮かべた。


その目論見は明白だった。ジークハルトを感情的にさせ、判断を誤らせること。そして何より、リーゼの興味を、自分と自分の国の技術に向けさせることだ。


そして思惑通りか、ジークハルトは酷く不快そうに低い声で答えた。


「……良いだろう。その勝負、受けて立つ。私のリーゼならその程度、すぐに解き明かしてみせるだろう。だからさっさと国に戻る準備をするんだな」


「え? もう帰るんですか? これすっごく素晴らしい構造だから、ぜひもっと聞かせて欲しくて――」


「リーゼ、その話は私が聞く。もうその声すら他の男に聞かせるな」


「ジーク……?」


珍しくジークハルトに強引に腰を抱かれ、リーゼは戸惑いながらクロードの方を見る。


けれど、それすら許さないと言わんばかりに、さらに抱き寄せられた。


普段はどれほど理不尽な状況でも冷静沈着な皇帝が、完全に余裕を失い、嫉妬と独占欲で理性を失いかけている。


ジークハルトは低く冷たい声を残した。


「勝負は明日の朝までだ、クロード大公。……貴公が泣いて帰ることになるのを楽しみにしているよ」


「ああ、構わないよ。ジークハルト。オレも、楽しみにしているさ。新たな客人に、な」


「……」


火花を散らす二人を余所に、当のリーゼは途中で受け取ったオルゴールを持ち上げ……。


「ふむふむ……この3番目のギアの摩擦係数が微妙にずれてますね。……あ、でもこのルーン文字の組み合わせ、ちょっと可愛い……」


と、自分の世界に没頭し始めていた。


◇◇◇


その夜。


皇帝の私室にて。


「リーゼ……本当に大丈夫なのか? 昼間は咄嗟にああ言ってしまったが、正直あの男は底が知れない。君の技術と存在そのものを狙っているんだ」


ジークハルトは、作業机に向かってカチカチと精密ドライバーを動かしているリーゼに声をかける。少しして、落ち着かない様子で背後から、すがりつくように抱き締めると、首筋に顔をうずめた。


少ししてようやく、リーゼが手を止める。もぞもぞと体を動かした。


「ジーク、くすぐったいですっ……! あの、ごめんなさい、返事をした気になってました。でも大丈夫ですよ、もう修復の目途は立ちましたから」


ジークハルトに向き直して、ニコっと笑う。だが彼は酷く複雑そうな顔のまま、リーゼを強く抱き締めた。


「よくやった、と言いたいが……不安が消えないんだ。君がもしあんな男の国へ行ってしまったらと思うと……私は……」


皇帝としての威厳も何もなく、まるで大好きな玩具を奪われそうになった子どものようにしがみついてくるジークハルト。その姿に、リーゼも瞳を瞬き、やがて頬を緩めた。


「……ジーク」


リーゼは、ジークハルトの頬を両手で優しく包み込み、額を合わせる。そして、そっと目を閉じた。


「私はどこにも行きませんよ。だって、私の大好きな魔導具たちも、私のいちばん大切な場所も……ぜんぶ、ジークの隣にあるんですから」


「……リーゼ……」


ゆっくり開かれる純粋無垢な瞳で、真っ直ぐに見つめられたジークハルト。その胸が熱く締め付けられ、鼓動が全身に響く。


その衝動のまま、顔を寄せようとした。


けれどリーゼは、ニヤリと悪戯っぽく笑うと、パッと離れてオルゴールに手を伸ばす。裏蓋をパカッと開け、ジークハルトに見せた。


支えをなくしバランスを崩しそうになるジークハルトが、慌てて机に手をつく。リーゼは得意気に話し始めた。


「それにね、ジーク。あの大公様、私に解けるわけがないと思ってこのオルゴールを持ってきたみたいですけど……この構造、実は私が昔試行錯誤した道具と全く同じ構造なんですよ」


「……同じ?」


「ええ。ずいぶん深刻な顔で持ってきましたけど、これ古い知識で作られているだけですから。明日の朝は修理するだけじゃなくて、新しい機能でも追加してドッキリでも仕掛けてあげましょう?」


ニコッと笑うリーゼ。どこまでもマイペースで、そして愛らしい婚約者の言葉に、ジークハルトは驚き……そして、心底愛おしそうに瞳を細めると緊張が解けた様子で笑みをこぼした。


「ハハハっ……! なるほど、さすがは私の婚約者だ。……そうだな。いつの間にか臆病になっていたようだ」


そう言って微笑んだあと、ジークハルトは彼女の額に口づけを落とした。

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