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「地味で華がない」と宮廷錬金術師をクビにされたので、お隣の魔導帝国に亡命します!〜私が作った魔導具をすべて停止させたら、国の防衛線が崩壊したようですが、そんなの知りません〜  作者: 星海 零
第3章:芸術の国の大公による電撃来訪&ライバル登場!?編

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第16話:蠱惑的な大公は芸術的な愛を語る

世界を揺るがせた古代遺物の暴走から数日。


ラムーバ王国の自壊劇と、ガルディニア帝国による魔導人形(ルミエール)の圧倒的な活躍は、瞬く間に世界中へと駆け巡った。


そんな中、一人の男性がジークハルトの元へと訪れていた。


「んで? いつ、この回路を描く錬金術師殿に会わせてくれるんだ?」


帝国の豪華絢爛な迎賓サロンに、居慣れている彼はソファでくつろぎながら、持っていた銀板をローテーブルに放り投げる。


カランっと音がして、正面に座っていたジークがスッと瞳を細めた。


クロード・フォン・レグザニア大公――芸術と魔導の国として名高い『レグザニア公国』の若き統治者であった。


鮮やかな赤髪を無造作に遊ばせた毛先。だが、どこか計算された隙のあるスタイル。上品な生地の黒いスーツは、身に纏う者のシルエットをどこまでもシャープに引き締めている。


整った顔立ちでいながら、幼げな雰囲気を残す青年はジークハルトを見ると影のある笑みを浮かべた。その切れ長の瞳の奥に、鋭い光を宿す。


「あれだけのものを見せられて、ここにはいない、なんて言わないよな? これだけ美しい回路まで描けるなら、うちの公国にぜひ迎えたい」


クロード大公がフッと口元を緩め目線を動かす。


その先には、テーブルに置いた銀板がある。ルミエールが回収した古代遺物を圧縮して持ち帰った銀の板……ではなく、その加工の際にリーゼがメモとして残した、超高密度・多層式魔方陣のスケッチ。たまたま手元にあった銀の板の欠片をメモ代わりにして記していたのだが、放置されていたものを先ほどクロードが来訪時に見つけた。


彼は優雅にテーブルのカップを取って、口をつける。一息吐いて続けた。


「そこに簡単に記されただけでも幾何学模様の美しさや、無駄な線を徹底的に削ぎ落とした縮小化の極致……これは単なる魔法の理論じゃあないんだ。魂を揺さぶる()()だよ。故に我が国に相応しい」


その言葉に、正面のジークハルトの眉間が深い皺を作り険しくなった。


「……クロード大公。帝都への訪問は歓迎する。だが、言っておくが、私の婚約者であるリーゼを迎えたいなどという冗談は、公式の外交文書であっても聞き流すわけにはいかない」


今回、ラムーバとのやり取りを聞いたレグザニアから、見舞いと表してクロードが訪れていた。だがその本心は、別のところにあったらしい。


少し前、レグザニアの遺跡にも古代遺物が暴走し、ゴーレムが終息させた。そのときに見た魔弾の美しさに目を奪われたクロードがその人物を探していた。


全ての芸術は、レグザニアに集めるとの信念の元に。


向かい合う皇帝ジークハルトの背後から、室内の空気を凍らせるほどの冷たい空気がむき出しになる。彼は静かに立ち上がった。


しかし、クロードは微動だにせず、涼しい顔で紅茶をさらに一口含む。


喉を鳴らして柔らかい声を出した。


「そんなに睨むなよ、ジークハルト。芸術家が美しい作品と、それを生み出す者に敬意を払うのは自然の摂理だろ? しかも、オレとお前の国は長年の重要な貿易パートナー。芸術品や魔導特許の提携において、オレの言葉は無視できないはずだ」


そうだろう?と伺うようなクロードの視線に、ジークハルトは返事をする代わりに、より表情を険しくさせた。


レグザニア公国は、帝国の工業力や軍事力とは異なる「文化・芸術・高級魔導素材」の一大供給源である。無碍に追い払うわけにはいかないのが、皇帝としての悩ましいところだった。


そこに、ガシャガシャと何やら工具類を抱えながら、当の本人――リーゼがサロンに入ってくる。


「失礼しまーす。新しい魔導具の改良案なんですけど……って、あれ? お客さまですか?」


リーゼはそばのテーブルに工具を置いて、煤けた白衣をパタパタと払いながら、クロードの姿を見つけてきょとんと首を傾げた。


クロードは一瞬ぎょっとしたものの、すぐに何かに気づいた様子で咳払いし席を立つ。リーゼのそばに行くと、まるで舞台の王子様のように完璧なエスコートでお辞儀をした。


「はじめまして、美しき錬金術師殿。私はレグザニアのクロード。あなたがあの魔導人形(ゴーレム)の作成者でしょうか。魔法発動時の色鮮やか輝きに惚れ惚れしました。少しお時間をいただけませんか?」


「えっ?! あの色合いに……? 分かってくれるんですね!」


リーゼの目が、一瞬でダイヤモンドのように輝いた。


ジークハルトも魔術師たちも、実用性や効率、そして魔方陣の線の美しさは理解してくれた。けれど、そこをさらに踏み込んで、発動したときの火花の散り方や形を心から褒めてくれた者は少なかったのだ。


「そうなんです! あのゴーレムには二重円の回路が仕組んであるんですが、隙間に微細な魔力チャネルを美しく配置することで、エネルギーロスが限界まで減って、一瞬極彩色の雫が弾けるんです。分かります!?」


「ええ、もちろん。まさに同感です。そしてこの銀板に描かれた流れるようなルーンの配置、ぜひ我が公国の宮廷工房でも――」


二人がすっかり意気投合し、熱い芸術(魔導)トークで盛り上がり始めたその瞬間。


「――リーゼ」


スッと、背後から冷たい影が覆いかぶさった。


振り返る間もなく、ジークハルトがリーゼの腰をガッチリと抱き寄せ、自分の隣に引き離す。その顔は完璧な笑みを浮かべていたが、目の底の笑っていない圧が凄まじかった。


「陛下……? なんかすごい冷たい汗が出るんですけど……」


「気のせいさ、愛しい人よ。……それよりクロード大公、我が国の技術や人材にこれ以上興味を持たれては困る。今日のところは、皇宮の美術品でも鑑賞して、早々にお引き取り願いたいものだが?」


ジークハルトの強い独占欲と牽制に、クロードはふっと妖しく、そして楽しげに笑った。


「ずいぶん嫌われたものだ。だが、諦めるつもりはないな。婚姻してない以上、どうとでもなる。それこそ――オレの妻としても、な」


「笑えない冗談だ」


冷ややかに返すジークハルト。


赤髪の大公の参入により、帝都に新たな嵐の予感が漂い始め、リーゼは困惑を隠せなかった。

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