第15話:世界を救うゴーレム軍団、爆・誕!
「世界各地の古代遺跡が一斉に暴走……それがラムーバ王国の地下から溢れる、凄まじい呪いの波長のせい、ということですか」
ガルディニア帝国の中央魔導工房。
山積みにされた白い球体に流れる映像を、睨みつけながら、私は腕を組んでう〜んと首をひねっていた。
画面の向こうでは、地中から突如として現れた禍々しい黒い巨石が邪悪な魔力を撒き散らし、周囲の魔獣を狂暴化させている。
さらに、旧祖国の王宮地下からは、空を覆うほどの紫黒の嵐が噴き出していた。
私はあまりの惨状にため息しか出ない。
「……はぁ。せっかく耕作クワの量産計画で忙しかったのに、なんて迷惑な人たちなんでしょう」
思わず呆れ顔で言うと、背後からスッと温かい腕が回り込み、ジークハルトにふわりと後ろから抱き締められた。
「怒るのも無理はないな。だが、君の技術を勝手に蔑んで自滅した馬鹿どもは放っておくとして……このままでは我が国の領土と民に被害が出る。リーゼ、どうすればいい?」
ジークハルトの低い、しかし深い信頼を寄せる声に、私はフッと笑みを浮かべる。
「簡単です。あんな古い骨董品の古代遺物なんて、中身の魔法回路の構造が古臭いから暴走しているだけです。要するに、古い魔道システムをハッキングして書き換えてしまう特殊な波長を送り込めば一発で沈黙しますよ」
「さすが我が愛しい天才だ。で、その波長を世界中にどうやって届けるつもりだい?」
「ふふっ、そこなんですよ。私、昨日から考えていたんです。この間のクルクルくんの広域魔導吸引・消去の技術と、空間転送の術式を合わせれば、世界中の遺跡を一網打尽にできる新たな魔導具が作れるなって」
「世界中の暴走を同時に収束させる魔導具か……。常人なら発狂するアイデアだが、君なら本気で作れるのだろうね」
「ええ! もちろん、任せてください!」
こうして、皇帝の後押しのもと、私の世界救済作戦が秘かに発動し始めた。
◇◇◇
それから数時間後。
私の専用工房の巨大なドックには、今までにないほど洗練された、神々しいまでに美しい『純白の魔導人形』の群れが、ズラリと並んでいた。
「リーゼ様……! これが、例の……!」
エレーナをはじめとする帝国の特級魔導師たちが、畏怖と尊敬の混じった目を潤ませてその機体を見上げている。
私はドンッと胸を叩いて、ゴーレムへ手を伸ばした
「はい! 名付けて自律型・環境浄化ゴーレム『ルミエール』です!」
魔導師たちが「おお!」「素晴らしい!」と声を上げる。私はさらに説明を続けた。
「胴体にはオリハルコン、心臓部には私の魔力を極限まで圧縮した永久機関炉を搭載し、背中には浄化魔法のウィングを備えています。これを世界各地の暴走地点に空間転送し、古代遺物のエラー回路を物理的に解体しお掃除してきてもらいます」
私が起動すると、百機を超える純白のゴーレムたちが一斉にカチリと起動し、金色の瞳を輝かせた。
それぞれの足元には各地に転送する魔方陣が、すでに描かれている。
それらに魔力を注ぎながら、ビシッと手を伸ばした。
「さあ出撃ですよ! 世界中のゴミを、綺麗さっぱりお掃除してきなさい!」
私の合図とともに、百機の「ルミエール」たちは光の粒子となって、世界各地の暴走地点へと一斉にテレポートしていった。
◇◇◇
その頃――。
瓦礫の山と化したラムーバ王国の王宮地下。
「助けて……! 誰か助けてぇっ! リーゼぇぇっ!!」
全身の魔力を吸い尽くされ、しわがれた声で叫び続けていたチェルシー。
目の前では、自身が呼び出した『深淵の遺物』が狂ったように紫黒の稲妻を放ち、まさに彼女を圧しつぶそうと巨大な躯体を傾けていた。
死の恐怖にガタガタと震え、涙と鼻水で顔を汚しながら目を背けるチェルシー。
しかし、その絶望が訪れる直前――空から降り注いだ一筋の美しい白い光が、禍々しい暗雲を切り裂いた。
いつまでも来ない衝撃に恐る恐る顔を戻して、彼女は息を呑む。
「……え? なに、これ……?」
チェルシーが呆然と見上げる中、光の中から舞い降りたのは、美しくも無機質で神々しい純白の魔導人形――ルミエールだった。
ルミエールは瓦礫に埋まるチェルシーを一瞥すると、抑揚のない声で告げた。
『――不法投棄された危険なガラクタおよび、環境を汚染する不純物を検知しました。これより、浄化を開始します』
「な、何よそれ……! 私の……私の暗黒魔術をバカにしないでっ……!」
殺されそうになってもなお、ガラクタと呼ばれたことに反応し悔しげに拳を握る。そんなチェルシーの悲鳴を無視して、ルミエールは背中から半透明の浄化魔法のフィルターを展開した。
光を受けて輝くそれは、まるで純白の羽根を広げているかのように見えた。
ルミエールが浄化魔法を発動すると、世界を滅ぼさんばかりに吹き荒れていた深淵の遺物の呪いの嵐が、まるで強力な掃除機に吸い込まれるように、シュウウゥゥゥン……と勢いよくフィルターの中へ吸い尽くされていく。
チェルシーが驚愕したように呟いた。
「嘘……私の深淵の力が……消えていく……?」
さらに、ルミエールは暴走する漆黒の巨石そのものをガシッと大きな手で掴み上げると、超高密度の解体術式を流し込んだ。
バキバキバキバキッ!
「ひっ……!? なにをっ! やめて、壊さないで……っ!」
チェルシーが命を賭して呼び出した最凶の禁忌。それが、ルミエールの手の中でまるで粘土のように捏ね直され、みるみるうちに余分な呪いが削ぎ落とされていく。
ものの数分で世界を恐怖に陥れた古代遺物は、薄っぺらく圧縮された、ただの銀の板へと変えられてしまった。
ルミエールはその板を小脇に抱えると、背中のウィングを羽ばたかせ、空間の彼方へと飛び、現れた魔方陣に吸い込まれて転送されていく。
あとに残されたのは、魔力を完全に失い、自慢の美貌も失い、瓦礫の中に放置された惨めなチェルシーただ一人。
彼女は、ハッとして唇を震わせる。
「そんな……そんなバカな……。私の……私の特別な力が……ただの塊に……っ!?」
己の無力さを嫌というほど突きつけられ、全てを失ったチェルシーはその場に崩れ落ち、二度と起き上がることはなかった。
◇◇◇
帝国の執務室。
世界各地の暴走風景に次々と『作戦完了』の文字が表示されていくモニターの数々を、ジークハルトは感嘆の表情で見つめていた。
「見事だな、リーゼ。世界を滅ぼしかけた古代の厄災が、君の手にかかれば一瞬で銀の板に生まれ変わってしまった」
「ふふん、当然です。古い魔導回路の設計ミスを直して作り直すなんて、職人の基本ですからね!」
胸を張る私を、ジークハルトは愛おしそうに見つめると、スッと腰を炊き寄せ私を自分の膝の上に乗せる。そのまま温かい腕でしっかりと抱き締めた。
「これで世界は救われ、すべての障害は消え去った。……となれば、そろそろ次の公務を始めてもいい頃ではないかな?」
「次の公務って……まだ何か問題が起きているのですか?」
私がきょとんと首を傾げると、ジークハルトは耳元に顔を寄せ、蕩けそうなほど甘く囁いた。
「ああ、世界を救った我が国の英雄であり、私の最愛の婚約者である君と――盛大な『皇宮結婚式』の準備を始めるという重大公務さ」
世界を救った天才錬金術師の少女が、いよいよ世界で一番幸せな花嫁になるために、物語は華やかに動き出す――はず?




