第22話 腹が減っては戦はできぬ
また、久しぶりに作品出しました〜今回はアリアと執事の復活回です〜
この部屋で最初に動いたのは、ただの空腹ではなかった。
『ただいま』
ドアが開くと同時に、そんな愚かで呑気な言葉が重なって聞こえた。
この場所は安全だと油断しきってる忌々しい敵に不意を突くために、ドアの横に隠れ潜んでいた黒い影は――
死角から、その間抜けな顔を拳で持って撃ち抜く。
「死ねええええええええ!!」
「え?執事――」
叫び声が先に届いた瞬間、相手の肩がわずかに動いた。
ブオン!!
「うおっ!?危な!?」
不意打ちであったはずの殺意がこもった拳は、殺意のこもった雄たけびが原因で失敗した。
具体的に言うと、叫び散らかしながら殴りかかったせいで拳が当たる前に気付かれ、難なく躱された。
「………」
躱された拳を戻し、真剣に自分の拳をじっと見つめる。
舌打ちが聞こえたと思ったら、ギロリとロキを睨みつけてきた。
「へえ?元気になったじゃん、いい夢見れた?あ、無理か(笑)」
「ちょっとロキ!?なんでこの状況で煽れるのさ!!」
「………」
怒り心頭の執事を前にしたロキの第一声がこれである。あまりにも酷すぎる。
ギスギスとした空気の中で煽り散らかすロキ、頭を抱えながら突っ込むシヅキ、幽鬼のごとく佇まいで無言で睨みつける執事、未だに立ち直れていないのか無反応なまま虚空を見つめるアリア。
場は一気に地獄絵図と化した。この時シヅキは現実逃避も含め心からこう思った。
――これが本当の修羅場というものだと。
「……貴様だけは許さん、許してなるものか」
執事は一切声を荒げず、静かにだが確実な意思を持って断言した。
「し、執事さんちょっと落ち着いて」
「は?落ち着けるとでも思ってるんですか?」
「思わないけど!!」
しばし放心した後、我に返ったシヅキは慌てて執事を止めようと声をかけるが、怒りを押し殺すような執事のあまりにも正論な一言で一蹴された。
「ハッハッハ、お嬢様の前でゲロ撒き散らしたのがそんなに屈辱だったかい?(笑)それはごめんねえ?」
「ロキは本当に黙ってて!!」
そんな執事をロキはアメリカンジョーク風に笑い飛ばしたあと、触れられたくないであろう箇所を的確に抉っていき、ニヤけながら謝罪をする。どう考えてもわざとだ。
「ハッハッハ……クソガキが」
「そのクソガキに手玉に取られてる老人がいるようなんだけど、どう思う?」
そんな会話をした瞬間、執事はのっぺりとした顔になり、ロキもその顔を見て身構える。
「――殺す」
「やってみろ」
「やめてええええええ!!」
シヅキの絶叫を開戦の合図とし、執事とロキの仁義なき戦い(少なくとも片方はない、絶対にない)が始まろうとしたその瞬間――
ぎゅるるるるるるるるるる
辺りに猛獣の唸り声のような音が鳴り響き空気が凍りついた。
「……」
「……」
「……」
「……私です」
恥ずかしそうに俯きながらアリアが手を上げる。
「……え?まさか今の腹の音?」
「ロキ、言わないであげて?頼むから」
「お、お嬢様?」
アリアのもとに一気に視線が集まる
一人は戸惑いの視線、一人は若干嘲笑が混ざった視線、一人は驚愕と哀れみが混ざった視線
アリアは3方向からの責められてるがごとく(アリアの認識)視線にこう思った
「………死んでしまいたい」
「だ、大丈夫だから!お腹鳴ることなんて誰だってあるから!!」
「そ、そうですぞお嬢様!どんな状況でも腹は減るもの、何も恥じらうことなぞ一切ありませぬぞ!!」
「うっわ〜好きな人の前でお腹なっちゃうとか、マジで消えたくなるやつじゃん……まあ強く生きなよ本当に死なれたら僕が困るし」
「うわあああああん!!」
3人の励まし(一人を除く)を前にして遂に限界を迎えたのかベットの枕に顔を埋めて足をばたつかせた
――三十分後
「すみませんでした」
立ち直ったアリアは開幕早々土下座した
「だ、大丈夫だよアリアさん僕は何も聞いてないから」
「いくら貴族とは言え生理現象には抗えぬものこの場にいた全員忘れることにしましょう」
「たっく三十分も待たせんなよ、そりゃあ生粋のお嬢様の腹の虫が爆音だったのは置いといても、その後、場を乗り切るでもなく駄々っ子とかもはや乙女としてモガ」
「黙っててロキ」
シヅキと執事がなんとかアリアを慰めようとする前で、ロキが更に追い討ちかけようとして来るが、流石にこれ以上言わせるのは不味いと判断したシヅキは、ロキの口を力づくで塞いだ
「い、いえそれじゃなくて、いやそれもあるなんですけど」
アリアは恥ずかし気に口ごもりながら言葉を選ぶ
「さっきまで放心していた私を見捨てなかったことに対してです」
――頭を深く下げて言葉を紡いだ
「本当の本当に今まで迷惑をかけてしまい、すみませんでした」
生粋のお嬢様が地に頭をつけるほどに深々と謝罪した
「お嬢様……」
「アリアさん……」
そんなアリアを見て執事とシヅキは複雑そうな顔をして部屋は静寂に満ちた
はああああああああ〜〜〜
次の瞬間デカデカとしたため息が静寂をかき消した
「わかってねえなあ〜〜〜お前」
「ちょっロキ――」
「あのさあ確かに世話も迷惑もかけまくったけど執事とシヅキがそのことに対しての謝罪を喜ぶと思ってんの?」
「え?」
「こいつらが、ここまでやったのは、求めてるのは謝罪なんかじゃないそれがわからないとか本当に重症だな」
「あの、何を――」
「もしもの話だけど……お前はシヅキが倒れて、甲斐甲斐しく世話やいて治った直後に謝罪されて嬉しいの?どう考えても違うだろ?」
「――あ、」
「この状況では謝罪は自分の為でしかないぞ?本当に悪かったと思うんなら、せめて相手が報われる言葉と行動を示せ」
「………」
アリアはその言葉で何かに気付き姿勢を正しもう一度やり直し言葉を紡ぐ
「迷惑を……世話を掛けました、でも、ここまで助けてくださり、本当の本当に」
みんなの目をきちんと見て立ったまま
「ありがとう御座いました」
顔を上げ笑顔を向けて心からの感謝を告げた
「そう、それでいい」
そんな様子のアリアを見てロキは満足したように笑ったが次の瞬間服をシヅキに掴まれる
「さっきまで暴言を誤魔化そうとしても無駄だよ?さっき『執事とシヅキが』って言ってたよね?自分のこと入ってないじゃん?」
「……ちっ」
「舌打ちしたよこの人!?」
満足そうなふりをした顔を剥がして苦々しそうにして指でお金の丸のマークを作って叫ぶ
「当たり前だろ感謝の言葉じゃなくて誠意で示せや!!」
「え、えっと、すみません?」
(やっぱ、こいつ殺そっかな……)
ロキの発言を聞いたアリアはとりあえず謝罪をしてしまい執事はまた殺意が湧いてきた
「ま、それはこの件が終わったらたっぷり請求するつもりだから一旦置いといて」
「だったら最初っから最後まで置いといてくれない?」
「はあ?掘り返したのお前だろ」
あんまりな発言にシヅキが呆れた目で責めてきたその様子にめんどくさそうに頭を乱雑にかく
「それにしても生粋のお嬢様でもあんな爆音なるもんだなあ」
「い、いつもは、こんな音しませんよ?こんな音なったの初めてで私も動揺してるんですよ?」
その言葉を聞いた瞬間、急にロキは真剣な顔でアリアの両肩をつかむ
「アリア」
「な、なんですか?」
「すでに食いしん坊と駄々っ子属性なのにそ更に嘘つき属性までついたら本当に乙女として死ぬぞ?」
「本当ですってば!?」
ロキが清々しいまでに嘘だと断言してきてアリアは絶叫した
「嘘なんて言ってませんよ!!こんなデカい音鳴ったの本当に初めてなんですって!!」
「え〜怪しいなあ〜」
「シヅキさまグレン信じてください」
「大丈夫、僕は食いしん坊な人は嫌いじゃないよ?」
「シヅキさまーー!?」
ロキどころかシヅキまで嘘だと思われてる事実にアリアは遂に頭を抱え始める
「シヅキ殿、ロキ殿、弁明をさせてください私はお嬢様が生まれた時から仕えておりますがお嬢様からこのような腹の音は本当の本当に聞いたことがありません」
「……ふ~ん?」
「………」
執事の弁明にロキは未だに疑わしそうに見てくるが、シヅキは何故か考え込むように黙り込んだ
「………」
「どした?シヅキ」
「……ねえ、アリアさん、ご飯食べたの……いつ?」
「え?いつって……」
私が乗ってた馬車が暗殺者に狙われて、シヅキさまが助けて、お礼に晩餐会に招待して食べて……あれ?
その後はゲームしてロキのこと探して、見つけて本の中に吸い込まれてショックで食欲ないまま上に上がってまたゲームして、父親死んで馬車に乗って日をまたいで……あれれ?
「……もしかしてアリアさん昨日の朝からから碌な物食べてない?」
「は?今、夜だぞ?それじゃあ丸2日食べてないってことになるんじゃあ」
「え……私、6回もご飯抜いてたんですか……?」
………通りで生粋のお嬢様がデカい音鳴らすわけだよ
その場にいた全員がそう思った
「いや、むしろシヅキさま達は何故お腹鳴らないんですか?」
「僕らその日暮らしの旅人だから空腹には慣れてるんだよねえ」
「僕はそもそも少食だし晩餐会を多めに食べたのは毒味の為だっただけだし」
「リュミエール家は最近人手不足で書類仕事をやって食事を食べ損ねる事がざらにありまして」
アリアに聞かれて三人はそれぞれの理由を答えた
「……なるほど、とりあえずグレンはこの件が終わったら私と食事に行きましょう」
「いえそのような気遣いは執拗ありませ――」
「行きなさい、命令です」
「………はい」
最後の執事の発言にアリアは有無を言わせぬ声音で命令した
「ロキ、毒味ってどういう事?」
「それは後で話すよ今は腹に入れる物を探さなきゃ」
「でも今、夜でお店閉まってるよ?それに僕ら一応お尋ね者だからこれ以上外に出るのは」
「そうなんだよなあ……なんか持ってるものに都合よく食材でも……あったよ」
バックから八百屋で情報聞くために買った白菜が転がり出した
………
「と、言うわけでロキの三分クッキング~パチパチ〜」
「何が、というわけなの?真顔と平坦の声で言われても怖いだけだよ?」
「しかも、パチパチと口で言ってますし、ふざけてらっしゃるのか真剣なのかわからなくなりますね……いや十中八九悪ふざけしてるんでしょうが」
真顔で平坦な声でパチパチと口で言い始めたロキにシヅキと執事は戦々恐々と後ずさった
「執事さん気をつけて、変なテンションのロキは基本的に碌な事しないから」
「わかりましたシヅキ殿も何かあったら止めるのに協力してください」
「聞こえてんぞ〜?」
小声で話し合うシヅキ達にロキがじろりと睨みつける
「ったく、とりあえず材料と調理器具と調理方法、紙に書いておいたから」
「紙に書く必要あるの?僕文字読めないんだけど」
「あ~それはあれだ紙持ってきたけど使う機会がないのと書き心地を確かめるためだ文字読めないのは執事に読んでしまえ」
「2度手間になるから普通に説明すればいいじゃん何でわざわざそんな事をしたのさ」
( ……もしかして、こいつ料理する手間を押し付けようとしているんじゃ?……)
ロキとシヅキが言い合う中、執事はこれまでの行動と言動でロキの考えている事を察した
そうして紙を渡された、というか押し付けられた瞬間何故か部屋の隅に引っ込んだ
「仕方ありませんね、えっと材料は……」
白菜
…
……
………
材料のページに書いてあるのはそれだけだ他には何もなく真っ白な紙の色が続くだけ
「……え?」
誰も、すぐには次の言葉を出せなかった。思わず2度見した執事は困惑の視線をロキに向ける
「……えっと白菜以外の材料は?」
「ないけど?」
「………」
執事は気を失いそうになるがなんとか立て直し次の調理器具のページを開くそこには
シヅキの剣
「いや、せめて包丁使えよ!?」
執事は限界に達したのか全力で絶叫した
「包丁ないんだから仕方ないじゃん」
「しかもこれも一つだけじゃないですか何考えてるんですか!?」
「とりあえず最後までみてから突っ込んでこいよ」
ロキのその言葉を執事は渋々聞き入れて調理方法のページを開く
白菜を四等分に切る
名付けて白菜の四等分
「………は?」
執事はそれを見て全てを察した、そしてなんとか耐えようと努力した……努力はした
――だが無理だった
「ふざけんなゴラアアアアアア!?」
執事はロキに向かって襲いかかってきた
――三十分後
「…ぜえ…はあ…あんた…最初っから…逃げ切る為に私から…離れてたのかよ」
「襲いかかってくるの予想できたんだからその前に体勢を整えるのは当然でしょ?わざわざ紙に書いて時間稼ぎしたかいがあったよ」
「あんた、そんなに頭が回るんだったら、最初っから人を怒らせないように立ち回る方向には行けないのかよ!!」
「……あのお〜できれば、そろそろ状況を説明してくれれば嬉しいんだけど」
ロキと執事が言い合ってる最中であることに気が留めながら
文字が読めなくてロキが渡した紙を読めず何故こうなってるのか置いてけぼりにされていたシヅキがおずおずと手を上げた
「……この紙にはこんな事が書かれているんですよ」
「……え?」
執事の説明を聞いてお貴族相手に出そうとした料理と言ってるものの招待を知り、あんまりにもあんまりな酷さでシヅキはドン引きした
(正気かこの人?)
「顔にまるまる出てんぞ?」
「白菜しかないのは仕方ないとしてせめて焼いてよ!?」
「宿屋でボヤ騒ぎとかシャレにならないだろ、そんな器具もねえし」
「うっ、それを言うなら剣で切るほうが危ないでしょ!!」
「じゃあお前が剣の金属を操作して小さくさせれば解決じゃん」
「そ、そもそも僕の剣は敵切ったりしてて、衛生上よくないじゃん!」
「それも金属操作で内側の鉄を持ってくればいいじゃん」
「〜〜っせ、せめて調味料は」
「持ってると思うか?そんなもん」
(だ、駄目だ、この人基本的に合理で動いてるから反論できる余地がない)
シヅキが駄目な理由を思いついた側から反論しようとするがそのつど正論でぶん殴られる
「……あの~私は別に気にしませんけど、こんな状況で拘っててもいいことありませんし、それで険悪になることこそ避けるべきだと思いますし」
「お嬢様……」
「アリアさん……」
「ほらほらアリアもこう言ってるんだからお前らも拘るなよ」
((お前が言うなよ!!))
ロキの言葉にシヅキ達は心からそう思った
…
……
………
シャクシャク
「……えっと…あ、甘いですね?」
「……アリアさん無理しなくていいよ?」
「ふ、ふふふ、仕えるべきお嬢様のお食事に生の白菜しか出せないとは……私の存在意義は何処に?」
「まあ2日間断食した人の食事が白菜でよかったんじゃない?水分含んでて胃に優しそうだし」
シャクシャクと部屋に音が鳴り響くロキ以外はみんな虚ろな目で生の白菜をかじる姿はまるで何かの儀式に見えるだろう
「 「 「 「 ごちそうさまでした」 」 」 」
そうして四人は白菜を食べ終わり唐突にロキが真剣な表情でアリアを見つめる
ロキは紙を畳みながら、視線を外した。
「じゃあそろそろ、本題に入ろっか」
「……はい?」
「君はこれからどうしたいの?」
「――っ」
ロキがアリアを見つめて確認するかのようにそんな事を言い出した
「君はさっきまで放心してたから言えなかったけど……君はこれからどうしたいんだい?このまま逃げるか父親の敵を取るか……」
空気が一瞬で変わった
さっきまで白菜をシャクシャク噛んでいた間の抜けた時間が嘘みたいに、部屋の温度が下がる。
アリアはゆっくりと顔を上げた。
「………いえどちらでもありません」
「……へえ?」
「私は未だに父親が死んだという実感がありません……ですから父親を殺した相手の憎しみも未だに湧き上がってきてません」
「……」
アリアはゆっくりと今の自分の状況を整理するかのように
「……ですけど、逃げるというのも嫌です」
「…いや……ねえ……」
――ええ嫌なんですよ
アリアは小声でそう呟きロキの目をしっかりと見据えた
「私は何も知らないままでいつの間にか父を殺され、免罪で追われたのに何も納得なんてしてないのに、このまま逃げ出すなんて絶対に……嫌なんですよ……」
せめて真実を知りたい、そして真実を知ったあとで自分でどうするのかを決めたい
「そして私が何をすべきなのか、父がよく言ってました貴族に生まれたのならその義務を果たさなければならないと」
アリアはまるで泣きそうな顔で苦しそうな顔で、しかししっかりと現実を見据えた目でロキを見つめる
「なすべきことを……なさなければならないと、なんにも知らない子供のままじゃ何をすればいいのかわからないんですよ」
「……お前はまだ子供だろ?そこまでする理由なんてあるのか?」
ロキは少しだけ指先で紙を弄びながら、視線を逸らした。
「……理由とか……そういうんじゃないですよ」
ただ、ただ私が
「私が納得したいんですよ!私は私の為に全てを知りたいんです!全部知って理解して納得した上で――」
――自分でどうするかを選びたい
アリアのその言葉聞いたロキは今初めて本当の意味でアリアを見た
ロキは一瞬だけ、ふざけた顔をやめた。
「――合格だ」
「……え?」
「だから合格だって認めるよお前のこと少なくとも人間として個人として見てやるってこと」
「待ってください、その言葉を正面から受け止めると今まで認めてなくて個人として見てなかったってことですか!?」
「え、うん」
「あっさり認めないでください!!」
「それじゃあ本当の本題にはいるけど」
「これが本題じゃなかったら今までの時間本当になんだったんですか!?」
ロキの理解不能の言葉にアリアが絶叫する
「じゃあまずはお前の家の違和感の事だ」
「え?」
「単刀直入に言うし、絶対に嘘は言うなよ?もしも嘘ついたら僕はお前置いて逃げ出すことにするから」
「つっ!!」
「まず最初の質問だ、お前に兄は本当にいるのか?」
ロキはアリアに向かってそんな事を言い出した
アリアが正気に戻ってようやく本題にはいれますね




