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第18話 権力ってめんどくさい

権力は便利ですけどめんどくさいんですよね〜



「伯爵家当主にしてアリア様のお父様リュミエールアレキサンダー様が……お、お亡くなりに…なりました」


――執事の言葉で世界が凍った。


「――え?」


理不尽な孤独が胸を締め付けた。


「……う、嘘です…よね?だ、だってお父様は昨日はあんなに……」


執事は苦しそうに目を伏せて首を降った。本当は分かっている……


執事のグランがそんな笑えない酷い冗談を言う人では無いということを。


……だが、信じたくなかった。信じるにはあまりにも……


「……あっ」


アリアが耐えきれたのは……ただひとえに現実感がなかったからだ。あまりにも唐突すぎる知らせで世界があまりにも遠く感じてどうしようもなく感情がわかない。ひらすらに空虚な気がした――まるで夢かのように。


「……っ」


アリアは唇を噛み締めた。夢にいる感覚に溺れない為に、今すべき事をちゃんと考えられるようになる為に。


「……グラン、私は何をすればいいんですか?」


アリアは真っ青になった顔で。


――だが、気丈に振る舞ってしっかりと世界を見た。


「!!アリア様……ご無礼を承知でお申し上げ申します! 当主様がお亡くなりになった今、伯爵家の後継者であるアリア様が家を継がねばなりません。そのために王都へ趣き、当主様の葬式に参加して王様の謁見に訪れるべきです」


執事は決意に満ちた表情でそう言った。


「伯爵家の当主無き今、アリア様の立場はこれ以上ない程に不安定になっております。シヅキ殿、ロキ殿――お二人にも護衛として付いていただきたい!」


「わかった! アリアさんの為にしっかり護衛するよ!」


「……まあ、今ここで抜けたら完全にタダ働きだし、精算が合うまではつきまとうぜ?」


シヅキは胸を叩いて一切の迷いのない声音でそう言い、ロキは渋々でめんどくさそうにそう言った。


「今は夜ですが、朝日が登ってる時に付きたいので早い内に参りましょう! 馬車で半日で到着します!」


執事はそう言って、馬車の準備をするべく外に赴いた。


「アリアさん、ロキ、出来るだけ身軽に準備をしとこう。何を持ってく? 僕は少量の食糧と水と剣を持っていく」


「私はご先祖様の本と……後は衣服でしょうか」


「う〜ん、とりあえず王都の地図と紙とペン……後はお金かなあ? 準備してくる」


そうして3人は素早く荷造りをして馬車に乗った。


「ねえ、僕の見間違い? なんか馬車の馬が馬じゃなくて小柄なドラゴンに見えたんだけど?」


「ん〜多分気の所為じゃねえな。ここって辺境なのに、たったの半日で中心の王都につくって計算合わないし、多分走るのが超早い魔物が引いてるんじゃない?」


「ええ、そうです。我が家自慢の竜車と呼ばれた馬車です。今すぐ行かなければならない特別な時にしか出せないのですが……今回は本当に特別なので出せます。時速百キロ出るほどです」


「時100キロ!? それ僕ら死なない!?」


アリアがそんな説明をしてきて、シヅキが焦ったように叫ぶ。


「大丈夫です! 内部には結界が張っており、衝撃はないように作られております! というわけでハイヤー!!」


執事がそう説明の補足をして、一気に竜車を走らせる。外の景色は一気に変わり、とんでもないスピードで走ってるのが分かるが、結界の効力なのか全然揺れない。上に音も聞こえない。


「す、凄い……ロキ、馬車ってこんなに早く走れるんだね――」


「ところで執事はどんな荷物持ってきたんだ?」


「あ、洗剤などの身を綺麗にするものですぞ。執事たるもの、いつだって自分と主人の周りの汚れを気にするものですから」


「……さっきの煤のこと気にしてんの? ……まあそれに、洗剤で誰かを毒殺とかも出来るしね!」


「しませんぞ、そんな物騒なこと!? まださっきの事を怒ってるのですか!」


シヅキが竜車のスピードに感心してるが、ロキと執事は全く感心を持たず、執事は何故か葬式に向かうのに洗剤を持っていき、ロキは執事に未だに根に持っているのか、延々と弄っている。


「あの、ロキ……」


「まあ、偉いお貴族の執事が家を守るって、誰の暗殺者だってのは物語では定番だから、そういう訓練してても驚かないけどね」


「そういう訓練って何ですか! そのような冗談はおやめくださいませ。そろそろ泣きたくなって来ましたよ?」


「僕は君が泣いても一切どうでもいいけどね。度が過ぎるほどに喚いたら、まあいろいろされてもいいなら別に止めないけどね?」


「わ、私に何か恨みでもあるんですか? いくら何でも扱いがひ、酷すぎます」


「う〜ん、単純に君が気に入らないからかなあ?… あ、ところでシヅキなんか言った?」


「……何でもないよ」


「?そう?」


シヅキはロキと執事を虚無の目で見ていた。


「……お戯れはそこまでにして、それよりも今日は寝て明日に備えて置くべきだと思います……私も今日は…少し疲れてしまって、おやすみなさい」


アリアは笑いながら――酷く疲れたように作り笑いを浮かべてそう言って寝転がり、そうしてすぐに寝息を立てた。


シヅキはそんなアリアに毛布を掛けて、ロキと執事を責めるような目で見た。


「……ロキ、グランさん」


「……面目ありません」


「いやあ、場を和ませようと思ったんだよ」


シヅキは怒った顔をし、執事は申し訳なさそうに項垂れ、反対にロキは全く反省してない様子だ。


「僕もさっさと寝よ〜。シヅキも寝てね」


「あ、ちょっと!」


シヅキの説教から逃げるように、ロキはさっさと毛布を被って寝てしまい、仕方なく執事とシヅキも寝転がり眠りについた。


ーーーーーーーーーーー


カンカンカンカンカンカン


突然やかましい音が鳴り響き、四人は一気に飛び起きた。


竜車の外からは、城門の鐘の音と兵士たちの号令が響いていた。


「こ、これなんの音? すっごくうるさいんだけど!」


「あ~うっせえ、寝かせろよなあ」


シヅキさま、ロキさま、ついたようですわ。


シヅキが混乱したように耳を塞ぐ。化け猫特有の聴覚が裏目に出てしまい酷く辛そうだ。ロキも酷く不機嫌に耳を塞いで悪態をつく。


「……つきました、ここが王都です」


シヅキとロキが外を見た瞬間――そこにはとても広くて豊かな王国があった。


「うわあ、広いなあ。それに何だか空気が綺麗」


「ふ~ん? 思ったよりちゃんと王国してんだなあ? ラグリスがいた時代とは大違い……いや、あの時代の方がおかしかったのか……」


シヅキが王国の広さと豊かさに感心し、ロキは皮肉まじりに上から目線で評価する。


「……あの〜お二人とも、当主様の葬式に来たことを忘れてませんか?」


『忘れてないよ?』


「ならいいのですが……」


執事が2人にそう聞いてきたが、2人はハモった否定をする。そんな執事の裾をアリアは引っ張り、真剣な顔で質問する。


「……あの、グラン……お父様の死因はなんなのですか?」


「そ、それは……」


「おいおい、やけに言い淀むじゃあないか? 言ったら不都合なことでもあるのかい? 当主の後継者に言えない程の事情とは相当だなあ?」


アリアの質問に、何故か執事は言い淀む。そんな執事にロキはねちっこく絡んできただが、その時アリアに話しかける声が聞こえてきた。


「あ! リュミエール伯爵家御一行様ですか? 当主様のお葬式会場はこちらです。お早めに」


衛兵がそう言って、葬式の場所に案内する。


「すみません、少し遠くて時間がかかるんです」


「……いえ、大丈夫です」


「……この度は本当にご愁傷さまでした」


衛兵と会話しながら、ようやく付いた葬式会場はとても広く豪華で――


――そして何より数え切れないほどの人達がいた。


「……アリアさんのお父さん慕われてたんだね」


「……ええ、自慢のお父様でしたので」


シヅキがしんみりと言い、アリアは未だに現実感がないように言った。


「……いや~本当に慕われただけかねえ?」


「え? ロキ、それってどういう――」


シヅキが問いただそうとした瞬間――


辺りが一気にざわめきだした。神父がアレキサンダーの閉じられた棺桶を引っ張り出してきた。


「………」


「……あれがアレキサンダーさんなの?」


「う〜ん……棺桶閉じてて中身見えないなあ。普通葬式では土に埋めたり火葬させる前には開けてある筈なんだけどなあ……ちょっと聞いてみよ。お~い、そこの神父さーん!」


アリアは黙り込んでしまい、シヅキも神妙そうに小声で話す。ロキは呆れるほどいつもどおりに、葬式会場の場所で大声で棺桶を引っ張り出してきた神父に。


「……何ですか? 葬式なのでお静かにしてください」


「いや~すみませんねえ、僕の悪い癖です。細かいことが気になってしまって周りを見なくなってしまうんですよ」


「……まだ子供のようですし、一回だけ見逃して起いてあげましょう。以後お気をつけてください」


「ご厚意痛み入ります。ところで聞きたい事があるんですけど……」


「……何でしょうか」


神父が随分と大仰に言い、ロキは全く凝りても反省してもないように厚かましく質問してきた。


「何で棺桶閉じてるんですか? 普通の葬式ではまだ閉めませんよね? 何か理由があるんですか?」


「それは……すいません。誰にも死体を見せるなと言う命令でして」


「……実は僕はリュミエール・アレキサンダーさんの御息女のリュミエール・アルトリアのご友人なんですよ……一緒に来たんです」


ロキがアリア達に向かって手を振る。アリア達は不思議そうに訝しげにしながらも手を振り返す。


「ご遺体の親族のアルトリアさんのお願いでも、見せられないんですか?」


「……すみません、私も見せていいなら見せたいのですが」


神父はご遺体の親族の要望に答えられないこと――本当に申し訳なさそうに、本当に見せれるものなら見せてあげたいという内面が外にも出るほどに。


(ふ~ん? 伯爵家直当主で遺体の娘にすら見せられないねえ?……十中八九、伯爵家よりも位の高い貴族が命令してんなあ?)


「ちょっとロキ! 神父さんを困らせないで!」


シヅキが焦れてこっちに来た。


「もう、……あれ? この棺桶黒っぽい植物が引っ付いてない?」


「え? あ、本当だ。何これ?」


ロキが神父の反応を探るのに夢中なのもあったが、黒い棺桶に黒い藻のような小さい植物が引っ付いていたため、近づかないとわからない。


「ああ、これはグモというものですよ。かつて森の賢者と言われた魔術師が錬金術で作ったものです。空気中の不純物だけを吸収するという性質を持っているんです。魔素溜まりで遺体がアンデット化しないように、空気を浄化するのに使うんですよ」


「魔素溜まりってなに?」


「シヅキ、魔素溜まりってのは、魔道具が効果を発揮するために空気中の魔素を吸収して吐き出す時に発生する、純度が濃い魔素が一部分に固まる場所の事だよ」


ロキがそう答えるが、シヅキはまるで分かってないように首を傾げた。


「? 魔道具って魔素を吸収するの? 魔力を入れて効果を発動するんじゃなくて?」


「……そこからか。詳しい原理までは長くなるから言えないけど、そもそも魔道具ってのは魔術を使えない人達が魔術のような力を使う為に作られたものなんだよ。だから魔素を吸収して効果を発揮できるんだ」


「え? それは何で?」


シヅキはまだよくわかっていない。


「前に言ったでしょ? 空気中の魔素は魔力とは違うから、濃度が薄いのか濃いのかわからない。だから魔術師は魔素を直接吸収しない。ただ、魔道具は生物じゃないから吸収できる。でも塩梅がわからないから吸収しすぎる。そうして発生した余分な魔素を外に吐き出す。その濃い魔素が溜まる。それが魔素溜まりだ」


「それまずくないの?」


シヅキはそう聞いてきた。


「まずいよ? ……魔素溜まりは厄介でね。死体をアンデット化したり、下手したらダンジョンを生み出したり、災害を起こすかもしれないんだ」


「な、なるほど……ロキの話だとここって魔素溜まり多いって事だよね? この国って相当魔道具が盛んなの? 神父さん」


シヅキが納得したように頷いた。神父は即答した。


「いえ、全然」


「全然!?」


「魔道具のまの字もないのに、他の国より多く魔素溜まりが発生してしまうんですよね、この国」


「なにそれ!?」


「いや、それはおかしくない? 確かに複雑で強力な効果を発揮する魔道具であればあるほど、使う時に魔素溜まりが発生するけど、魔道具がないのに魔素溜まりが発生する? そんな不自然なこと、調べなかったの?」


シヅキが驚愕し、流石のロキも意味がわからないように聞いてくる。


「調べようとしたんですが、何故か調べる人が原因不明で調べられなかったんですよね」


「怪談じゃん!?」


「……普通におかしいでしょそれは」


シヅキが怯えたように、ロキの背に隠れ、ロキはますます首を傾げた。


「まあ、この国では魔素溜まりを浄化する為に使ってますが、グモはもともと空気を正常化する為に作られた物なんですよ。毒ガスすらも短時間で吸収して浄化してくれるから、ガスマスクにも使われてるんです。この国では何処でも売ってて、子供の小遣いで買えますし」


「そんな物があるんだ……」


3人が会話している瞬間――


――一気に辺りが騒がしくなった。


「国王陛下が来たぞ!!」


「本当に来てくださるとは、なんと慈悲深い」


そんな声と共に、豪華な王冠とマントを被った威厳のある一人の男が来た。


その男の姿は白髪が混じった黒髪で黒目でヒゲが生えており、50歳前半に見える。その男――この国の国王である。国王が来た瞬間、周りの貴族達が畏怖を持って頭を下げた。神父とロキとシヅキも頭を下げたが、ロキの心中は微塵も畏怖しておらず、不遜にも大分失礼な事を考えていた。


(おいおいなんで1貴族の葬式にこの国の国王が乱入するんだよ。話ややこしくなるだろ!!)


あ~もう嫌な予感しかしねえわ。さっさと報酬もらってトンズラしてええ〜


ロキはただただそんな事だけを考えていた。

伯爵とはいえ1貴族に国王乱入嫌な予感しかしませんね

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