第14話 人生の終着点
シヅキがロキの思考が読めるようになったと予測していたロキ
場所はトイレ、シヅキとアリアは恐る恐るロキからのメセージが書かれたカードを見た。
そこに書いてあったものは、
――『あたり』
それだけだった。
「はい?」
「……」
アリアは硬直し、シヅキは押し黙ってしまう。
「シヅキさま、これはいったい」
「わからない」
「そう…ですか」
たった一言しか書いていない、シヅキがわからないならもうお手上げ――
「ねえ、これ何て書いてあるのな、わからないんだけど」
「え?あっ」
アリアはそこで、はっとした。
(そうでしたわ……シヅキさまは……)
そういえば以前、本を渡した時も、彼は開こうとすらしなかった。
読めないのだ。
文字を。
山で生きてきた彼には、
それは必要のないものだったのだから。
「えっと、これは『あたり』と読むのです」
「……あたり?」
「ええ、全く意味がわかりません――」
「『よかった』、むしろわかりやすい」
「え!?」
「僕は謎解きとかは得意じゃないから、こういうのが一番やりやすい」
シヅキはむしろすっきりした顔で頷いた。
「ロキが作った手がかり、『あたり』という事は、僕の推理は間違ってなかったことの裏付けだ」
「え?」
「要するに、ここまで推理したなら次の行動も推理してみろって事だ」
ロキが行きそうなところは――
この家で、
最も情報を持つ場所。
最も核心に近い場所。
そして――
最も、触れてはいけない場所。
ブツブツとまた考えだしたシヅキを見ながら、
アリアは驚愕していた。
何故なら――
シヅキの言う事を間に受けるなら、ロキは自分達の行動を最初っから最後まで予測していたという事ではないか。
(人の行動をここまで正確に予測できるものなんですの!?)
シヅキは当然のような顔をしているが、それは異常な事なのだ。
(ロキさまはいったい――)
どこまで予測しているのか?どこまで考えているのか?
「わかった!!」
「ひゃい!」
アリアのそんな思考は、シヅキの大声で半ば強引に打ち切られた。
「多分ロキは、アリアのお父さんで現当主のリュミエール・アレキサンダーの自室に向かったんだ」
「そ、それは本当ですの?」
「うん、ロキならこの家の現当主は見過ごせないし、一番情報を持ってそうだから優先的に調べると思う」
「確かにそうかも知れませんね!お父様の自室は、代々の当主が自室として使われていらっしゃった特別なお部屋らしいですから」
「え?そうなの?」
「はい、我がリュミエール家の祖先にして国の英雄が直々に作らせたと言われる由緒正しいお部屋ですから、当主以外が立ち入るのは基本厳禁らしいですわよ?」
「なるほど、ますますロキがいそうだね」
向かうべき場所は決まった、あとは行くだけだ、シヅキは一気に駆け出す準備をする。
「よし、アリア行こう」
「あ、ちょっと待ってください、シヅキさま」
「……なに?」
「お父様のお部屋はここからでは結構遠いですから、その、歩いて向かいません?」
どうやらアリアは、トイレに向かう時の競争で疲れ果ててしまったのが相当お嫌だったようだ。
「……まあ、いいよ、わかった」
「ありがとう御座います、何分か掛かりますので少し歩きながらお話しましょう」
スタスタ
「それにしても、当主の部屋に入ること厳禁ってルールがあるんだね」
「いえ、具体的にはそんなルールはなくて、英雄が生きていた頃、使用人達が自室ではせめてプライベートを守ろうって自分達から暗黙のルールを決めたらしいんです」
「へえー、英雄って慕われてたんだね、まあ、国を救ったらしいから当然かあ…あれ?そういえばその英雄の武勇伝とか聞いたことないけど、何をしたの?」
「そ、それがよくわかってないんですよ」
シヅキが思い出したかのように聞いてきたが、アリアは何故か微妙そうに髪をいじりだして、そんな事を答えた。
「え?国を救った英雄なのに?」
「ええ、圧倒的なカリスマで人民を導き救ったとしか歴史に書かれてなかったんです」
「……どういうことだろ、まあ、今はいっか、まだつかないの?」
「えっと、多分もうすぐ…あれ?ここを右でしたっけ?あれ?」
「ええ、しっかりしてよ」
「うう、そう言われても、お父様の自室に来たのは何年も前で覚えてないんですの」
「え?それってどういう――」
「あ!見つけましたわ、ここです、シヅキさま」
「……本当にここなの?」
そこにあったのは、巨大で優雅で豪華な大扉――ではなく、
むしろ質素で、どの家にもありそうな程に見栄えのしない扉だった。
「……僕、こんな家の当主の自室何だから、てっきり巨人が出入りできるぐらいデカくて金と宝石で作られた扉なのかと思ってたんだけど、なんというか思いの外――」
「『地味』でしょう?」
「い、いや、決してそんな事は」
「気を使わないでいいですよ?私も昔来た時に、幼心に地味な扉だと思いましたので」
公爵の位を蹴るほどに欲がない人が直々に立てた部屋だから当然と言えば当然ですけどね、きっとこういうのがお好きだったのですよ。
アリアは笑いながら言った。
「でも、何故か鍵は随分と凝ってらっしゃったんです……鍵!」
「うわ!?なに」
「忘れていましたわ!お父様の自室は随分と高性能な鍵が賭けられてて、お父様がいつも持ち歩いている鍵でしか開けられない――」
ガチャ
「………」
「開いてるけど?」
「おかしいですわ?お父様、鍵を賭け忘れたのかしら?スペアキーはない筈なんですけど」
何故か錠前には濡れていたのも相まって、アリアは不思議がるが、今はそれどころではないので勢いよくドアを開けた。
ガチャリ
部屋の中も随分と質素だった、何処にでもありそうな部屋で、家具も普通の物ばかりで、なんの異常もないように見える。
――ただ一つの部分を除いて。
隠し部屋だ、とても使い古された類の壁の一部分に四角く穴が空いており、薄暗いが奥には階段があるのが見える。
そんな古典的な隠し部屋がそこにあった、それは別にいい、シヅキもアリアも当主の部屋ならそういうのがあるかもしれないと予測していたのだから。
――そう、それだけなら別によかったのだ、本当に『それだけなら』。
「……アリアさん」
「……何でしょうか」
「……これ、僕の目がおかしいのかな?」
「……奇遇ですわね、私もちょうどそう思っていましたの」
2人は現実逃避しかけていた、それもそのはず。
隠し部屋があった、それは問題ではない。
問題は、その隠し部屋がどう見ても謎解きや正攻法で開けられたものではなく――
どう見ても――
どう解釈しても――
隠し部屋の辺りから見て、無理矢理、力付くで隠し部屋の部分を氷でぶん殴って侵入したようにしか見えないところであった。
「なに、これ?」
「わかりません」
「考えたくないんだけどさあ、氷が辺りに散らばってるのからさあ」
「やめてください、聞きたくありません」
「ロキがこれをやった風にしか見えないんだけど、どうすればいい?」
「………」
隠し部屋の入口はところどころ濡れていた。
「……行こっか」
「……ええ」
「ロキがまた何かをやらかす前に」
「そうですわね」
シヅキとアリアは隠し部屋の奥に入り、階段で下に降りる。
さっきまでとは別の目的を持って。
神様、お願いします、どうかロキがこれ以上やらかす前に止められますように。
シヅキは切にそう願った。
――しかし、そんな願いは淡く散る。
降りた先は、おそらく『元』は書斎だったであろう場所。
焼け焦げた机、
炭になった本、
溶けた金属、
煙の匂い。
焦げた本の残骸が床に散らばっていた。
……
その場所は、
焼け野原になっていた。
「もう帰りたい」
「し、シヅキさま、お気を確かに!?」
シヅキは崩れ落ち、アリアももう泣きそうだ。
「こ、これをやったのはロキさまであると確証はないじゃないですか!」
「そ、そうだね、希望を捨てちゃ駄目だよね」
「とりあえず、なにか探しましょう」
「でも、何かって何を探せばいいの?」
「えっと、それは何か異変とか」
「異変?あの変な穴とか?」
「ええ、そういうのですわ、あの変な穴とか……穴?」
そこには穴があった、穴と言っても不思議なものではなく、四角い落とし穴に見える。
「これ、なんですの?」
「わからない、えっと、どうしようか」
その穴は何故か少し湿っていた。
しばらく2人は悩んでいたが、シヅキは意を決したように鞄を外した。
「飛び込んでみよう」
「え?」
「この穴に飛び込んでみよう」
「き、危険なのでは?」
「危険は承知だ、こんなとこでグズグズするより自分から動いたほうがいい」
「で、ですが」
「アリアはここで残って、そもそも護衛任務だったんだし、危険な目に合わせるわけにはいかない」
シヅキのその言葉で、アリアも覚悟した顔で首を振る。
「シヅキさまが行くと言うのなら、私も付いていきますわ」
「!そ、それは――」
「駄目だというのなら、シヅキさまが飛び込んだ後に私も飛び込みましたわ、それに言いましたわよね」
アリアは真剣な目でシヅキを見て言った。
「足手まといにはならないって」
「……わかったよ、ただし僕にちゃんとしがみついてね?」
「はい!」
そうして2人は穴に飛び込んだ。
――瞬間、何かに当たったような気がした。
(なに?この感触って糸?)
シヅキが違和感を感じた瞬間。
――地獄が現れた。
「え?」
視界が埋め尽くされる氷の柱が伸びだし、的確に2人を串刺しにしようとしてくる。
(つっっっっ罠!?)
シヅキは壁を蹴って跳ねた。
避ける、避けて、避けて、避けまくる。
ギリギリなんとか避けられる。
それもそのはず、何故かこの罠は大人を想定したものだから、子供のシヅキの体長は想定しておらず、空白が産まれる。
――避けられる隙が産まれる。
だが、酷くいやらしい罠が連鎖してくる。
着地場所を狙ってるような罠ばかり。
どう見ても急所を狙ってるような罠ばかり。
殺意満々だ。
「シヅキさま!!」
なんとかアリアを背負い、避けまくる。
(一発でも当たったら死ぬ――)
「こ、」
蹴ろうとした場所が――凍る。
タイミングが遅ければ滑り、 早くても凍結して拘束される。
どちらにしても終わりだ。
悪意しかない罠だった。
「こ、」
一気に凍結して氷の柱が突き出てきた、壁を蹴りまくって安全そうな場所に感で避けて移動する。
「こ、」
安全そうな場所だったところが時間差で凍結して氷柱が飛び出てきた。
悪意を感じた配置だ。完全に狙ってる。
「こ、」
ギリギリ避ける。ギリギリかすって擦り傷ですむ。
一歩間違えたら串刺しで即死する罠が、一息で何発も放たれる。
「こ、」
初見殺しのオンパレード。重ねていうが、シヅキが子供だったが故に体格差で隙が産まれただけであって、大人なら微塵も避けれる隙がない。
「殺す気かああああああああああああああ」
シヅキは堪らずに全力で絶叫した。
「この罠を!」
避ける
「作ったあ!」
避ける
「奴はあ!」
避けまくる
「絶対にい!」
神回避を連続で連発する
「性格が悪いいいいいいい!!」
死にかけて、死にかけて、死にかけまくる
穴に飛び込んで数分
しかし、シヅキの体感時間は数時間――
アリアは最初の頃ぐらいから気絶していた
――ようやく終わりが見えた。
光が漏れる目的の場所に繋がった。
(よかった、助かった――)
刹那、安心し油断した隙を付くが如く――否、完全に狙ってたとしか思えない。
落下してようやく見えた着地場所には。
――何故か大きな尖った氷山があった。
このまま落下すればトゲに直撃して串刺しだ。
(あ、これ死――)
シヅキは時間がゆっくりになったかのような気がした。
このままゆっくりと串刺しに――
「なってたまるかあああああああああ」
瞬間、シヅキは剣を抜き、全力で氷塊を叩き壊し、着地した。
「はあ…はあ……ぼ、僕…い、生きてるの?」
死にかけながらたどり着いた穴の先はどうやら地下牢のようだ
静かだった。
さっきまでの地獄が嘘のように。
「は!!…こ、ここは何処ですの?」
アリアも気絶から覚めた
ほっと一息つこうとしたその瞬間、誰かが話かけてきた
「やあ。」
「つっ!?」
その声は何故か憎たらしい程懐かしく感じた。
シヅキは罠を仕掛けた犯人であろうその声の発生源を見て。
――停止した。
(は?)
そこには寝藁で寝転がり、偉そうにふんぞり返って、やけに清々しい顔で笑っているロキがいた。
「ようこそ、人生の終着点へ。」
第一声に意味不明な言葉を言い出して久しぶりにロキ登場!!




