第13話 お城の探検ごっこ
何故かロキは帰ってこなかった………
朝日が昇っても、ロキは帰ってこなかった。
ロキは、帰ると言ったら必ず帰ってくる人だ。
一度も例外はなかった。
どれだけ遅くなっても。
どれだけ危険でも。
必ず。
だから――帰ってこない今が、異常だった。
「……流石におかしい、いくら何でも遅すぎる」
シヅキは、眉を寄せて考え込む。
――まさか、ロキに何かあったのでは?
あの、ロキに?
(でも、一晩中帰ってこないのはどう考えてもおかしい)
――探しに行くべきか?
しかし、あのロキが危険に陥る状況に、自分が行ってもいいのか?
むしろ足手まといになりかねない。
シヅキは険しい顔で悩み続ける
(どうする?そもそもアリアさんもいるのに行っていいのか……いや、このままここにいるべきか――)
「シヅキさま探しに行きましょう」
アリアが真剣な顔でシヅキを見つめた
「私、こう見えて結構お転婆ですの。昔、敷地内で木に登ったり筏を作って湖を渡ったりしてよくお父様を困らせていました」
「え?」
突然の告白に、シヅキは目を丸くする。
「私の祖先の英雄に憧れてお父様に秘密で木刀を買って振り回したりもしましたわ。今もたまに振り回してますの」
「えっと……つまり?」
「で、ですから」
アリアは一度、深呼吸して笑いながらこう答えた
「私、足手まといにはなりませんわ」
シヅキの視線を読み、微笑むアリア。
彼女は、すべて理解した上でそう言った。
「ロキさまを探しに行くのか悩んでいらっしゃるのでしょう?」
「ち、ちが――」
「――私に嘘は通用しません。分かっておいででしょう?」
反射的に否定しようとするシヅキ。だがアリアの目は真剣そのものだ。
「……あはは、アリアさんは強いなあ。僕よりずっと」
「それでは――」
「でも、危ないから駄目だ」
だが――
それでもシヅキは納得できない
「アリアさん、いや――君を助けるって君のお父さんに約束したから、それだけは駄目なんだ」
それは、シヅキにしては珍しいほどの完全な拒絶だった。
「つっ!」
「だからそれは駄目だ。
そもそもロキが何らかの罠に引っかかったと仮定するなら、僕は引っかからない保証がない。
だってロキは、僕よりずっと凄いから、だから――」
「ここでアリアさんを守るのが『最善』なんだ」
シヅキは苦しそうに笑った
――本当は、今すぐにでも探しに行きたいのに。
アリアはその顔を見て
――更に強い決意をして言葉を紡いだ
「ですが」
「そもそもこの部屋が安全だと保証できますの?」
「え?」
それはあまりにも予想外の話だった
今までの話を崩すそもそもの大前提
「ロキさまに何かがあった。
それは、この家が安全ではないという証明です。
そして何より――この部屋も安全ではない」
「あっ」
シヅキは思わずアリアを見た
「ならばシヅキさまより凄いロキさまを取り戻すのがもっとも『最善』で安全なのではないですか?」
――そもそもの大前提
ロキを襲ったかもしれない何かからシヅキ1人でアリアを守りきれるのか?
――答えは否
出来るはずがない
「そうだ、何で気づかなかったんだ?こんな少し考えたら考えなくても分かることを」
「――簡単です。ロキが消えたことに動揺して冷静ではなかったからです」
「つっ!」
「ですから探しに行きましょう。探すのも籠るのもどちらにしろ危険な事に変わりないならば、したい事をしましょう」
決意に満ちた顔をしてアリアはシヅキに手を差し出す
「あははアリアは強いなあ」
「……行こう」
シヅキはアリアの手を握り、立ち上がった。
一度だけ、ロキがいない部屋を見た。
「ロキを、連れ戻す」
アリアと同じように決意に満ちた顔でシヅキはそう言った
そうして2人は
探査を開始した――
「それでどうする?」
真剣にシヅキがアリアに聞く
「これから――」
「これから?」
「……どうすればいいと思いますか?」
「ちょっとアリアさん!まさかのノープラン!?」
……台無しである
さっきまでかっこよかったが為に尚更台無しである
「さっき、あんなにロキを探そうって言ってたのに何も考えてなかったの?嘘でしょ?」
「だ、だってさっきはシヅキさまをどうやって連れ出すかばかり考えておりましたからその後の事はあんまり」
「うん、まあそういう事もあるよね?あるかな?ないような気がするけど」
「シヅキさま!?」
アリアのポンコツ思考を見たシヅキはため息を付いた
アリアは涙目だ
「とりあえずロキはトイレ行くって言ってたからトイレ言ってみよう」
「そ、そうですわね!私も今そう言おうとしたところでしたわ」
「……ねえ本当に?それ本当に?」
「さ、さあ行きましょう。きょ、競争ですわあ」
突然アリアは焦ったかのようにそう言い出し走り出した
……シヅキとアリアは走りながらトイレに付いた
「…ゼエハア…ゼエ…ハア…ヒュー」
「だ、大丈夫?」
アリアがその場で倒れそうな程に疲弊しているのと対象的に
シヅキは全然疲れてない
「ハア…ハア…お、お強い…ハア…ですの…ね」
「うん、まあ鍛えてるからね…水飲む?」
シヅキは水を差し出しアリアは思いっきり一気飲みして呼吸を整える
「ふう、それでは入りますわよ」
「うん、そうだネー」
まるで何もなかったかのようにキリッとアリアがそう言い
シヅキは微妙そうに頷いた
シヅキとアリアはトイレに入った
そこには――
「……あのさあ、言っていいのかわからないけど」
「はい、なんですか?」
「…この家ってもしかして成り金?」
「何がですか?」
……そこには体育館ほどの広さと、大理石でできたトイレがあった。
シヅキ、思考停止。
アリア、本気で首を傾げる。
「いや、まあ家中に金とかダイヤとか高そうな壺や絵画がそこら中にあったから薄々気づいていたけど」
「はあ」
「いくら何でも流石にこれはないんじゃなの?」
「?」
シヅキはあんまりにもあんまりな成り金トイレに思考停止してアリアはそんなシヅキを見て本気で疑問そうに首を傾げた
「別にこれくらい当たり前ですわよね?」
「当たり前じゃないというかこれが当たり前だと価値観がおかしくなる」
「何をおっしゃってるのかいまいちわかりかねますがロキさまの手がかりを探すのでしょう?
こんなところで立ち止まらないでください」
「うん、まあロキを見つけた後で当たり前の金銭感覚という物をじっくり教えるよ」
「だからどういうことですの?早く探しますわよ」
シヅキは何やらボソボソと呟くがひとまず手がかりを探す事に専念する
とりあえずトイレの個室を開け始める
ガチャ
「……これなに?」
「何とは何ですか?」
「なんか便器の素材が変なんだけど」
「ああ、それは有田焼きですわ」
「有田焼き……ここで用をたしていいの?」
「?勿論ですわよ」
「あの、他の便器も有田焼きで作られてるの?」
「違いますわよ?」
「あ、そうなんだよか――」
「有田焼きだけではなく古今東西の珍しい焼き物で便器を作られているらしいですわ」
「……そっかあ古今東西の珍しい焼き物でかあ。そっかあ」
「さっきからどうなされたのですか?熱でもあるのですか?」
「いや熱なんかないよ。原因はそんなんじゃないから。
有田焼きって超高い焼き物で断じて便器に使うものじゃない筈なんだけどなあ」
「まあ、シヅキさまは冗談がお上手で」
「いや冗談じゃなくて」
「ところで高いってなんですの?」
「は?」
空気が凍った
「……ねえアリアさんお金分かるよね?
まさか金貨しか見たことないとか言わないよね?」
「お金って、なんですの?」
「嘘でしょ…想像を超えてきたんだけど」
シヅキは遂に本当に頭を抱えて絶句した
しかも冗談やら嫌味で言っているのではなく素でしかも本気で疑問そうに言っているのがひたすら達が悪かった
……数十分後
「シヅキさま、やっぱり手がかりありませんわ…
シヅキさま?どうされたのですか?」
「いや、何でもないよ。
ただ貧富の差って度が過ぎるとここまで価値観が歪むことがあるんだなあって」
「?」
遠い目をしているシヅキは酷く疲れた声音でそう言った
「話戻しますけどロキさまの手がかり見つかりませんでしたわ。ここには何もないと思いますわ」
アリアがシヅキにそう言った瞬間――
「そう、何もないんだ」
突然、空気が変わった
「……シヅキさま?」
「誰かを探すにはその誰かがどう考えるかを想定すれば良いんだ」
旅の途中にロキがそう言っていた事を思い出す
「ロキはどう思い、どう思考するんだ?」
「思えば入った時から違和感はあった。このトイレにはあまりにも何もなさ過ぎる」
シヅキは目を細めてブツブツと独り言のように呟き始めた
「ロキはトイレに行くと言った。その言葉は嘘だったのか?いや違う。
その時アリアがいたのだから嘘を見破られて言及される可能性があった。それをロキが想定してない筈がない」
一つ一つロキの思考をトレースするかのように
「だったら警戒して嘘ではないが本当ではない言葉しか言っていないはずだ。
少なくともアリアの前では。だからトイレには行った筈なんだ」
自分の記憶にあるロキは本当はどう思考していたかを考える
「でもトイレはあまりにも何もない、綺麗すぎる。
そしてロキは罠にかけられたら僕に少しでも手がかりを残すはずだ。でも何もないということは――」
少しづつロキの思考にたどり着いていく
『ロキはここでは襲われていない。別の場所でトラブルがあったと考えるのが自然だ』
ロキはここではない何処かで異変に襲われた
「じゃあ何で帰ってこないんだ?
僕たちがいた部屋からトイレまでそう遠くない。しかも通路にも異変はなかった」
思い出してくるロキが元来どんな人なのかを
「ロキはトイレに行ったあとまた別の場所に移動した?」
なんの為に?それは簡単な事だ。シヅキには分かる。
――そもそもロキはこの家を
『信用してなかったからだ』
「シヅキさま?それはどういう?」
「そうだ、ロキはそういう人だ。もともとこの家を信用してなかった。
いや、それ以前に警戒していた」
そう仮定するならロキの今までのロキらしくない行動に説明がつく
「ロキが信用できない家の中にいたらどうする?
この家を秘密裏に調べるに決まってるじゃないか」
シヅキの思考は加速する
「この家を信用してないロキならそもそも手がかりを残すわけがない?
いや違う。ロキは用心深いから自分が罠に嵌った場合を想定して故意的に手がかりを残すはずだ」
シヅキはロキの思考が分かる。
今まで一緒にいて、自分はロキの事をちゃんと知っていると言えるのだから
「ロキが手がかりを隠していると仮定するなら、故意的に僕だけが分かる手がかりという限定的な隠し場所は何処だ?ロキならどう隠す?」
決まってる。
シヅキだけが分かる隠し場所。それすなわち多少なりともロキの思考が分かる者にのみ理解出来るであろう場所に隠す
「ロキが隠すであろう場所は?
それも決まってる。普通じゃわからない場所。盲点を付いた。
そこに隠すという発想自体わかない、いやらしい場所に隠す筈だ」
はたして
その場所とは――
「わかった」
「何がですの?」
「ロキの手がかりの場所が」
シヅキは歩く、さっき入ってきたばかりのトイレの出入り口のドアに
「ここだ、ここしかない」
シヅキはしゃがみ、ドアの下すなわち中に浮いていてギリギリ指が入るドアの裏下に指を当てる
「シヅキさま!汚いですよ」
シヅキは裏下に突っ込んだ指に伝わる冷たい物質を触り、嬉しそうに笑った。
「見つけた」
手応えに満足し、力を入れると何かが剥がれ
――シヅキはつんめって転んだ。
「シヅキさま!?」
「いてて、でもほら取れたよ?」
シヅキが嬉しそうにアリアにそれを見せる
それは何かが書かれた小さな白いカードらしきもの。
それは何故か一部分が凍っていた
「それは……何かのカードですの?何故凍っているんでしょうか」
「これはロキ手作りのカードだよ。頑丈で水に強いから結構使い道があって売れるって言ってたんだ」
シヅキは笑顔で説明する
「一部が凍ってるのはドアの裏下に氷で無理矢理くっつけてあったからだよ」
「な、なるほど。しかし出入り口のドアの裏下にはくっつけるとはなかなかわかりにくい隠し場所ですわね?」
「まあロキらしいと言えばロキらしいね」
「まあ確かにそうですわね」
シヅキは嬉しそうに笑い、アリアは微妙そうに頷いた
「……それじゃあ、見ようか」
「はい」
ようやくロキの手がかりを見つけたシヅキとアリアは息を飲みながらカードに書いてある文字を追った
シヅキがロキの思考が分かるようになってきましたね……良いことなのか悪いことなのか、いやどう考えても悪いことな気がしますけどね




