表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不吉だと捨てられた令嬢が拾ったのは、呪われた王子殿下でした  作者: 長井よる
エピローグ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/40

39話 勘違い

 


 王宮から少し出たところに、国営の森林公園がある。オースティンはあの騒動から王宮に滞在しているが、よくこの場所で休んでいる。彼が、いつも住処として森や山の奥を選ぶのは、こうした緑あふれる場所を好むからだ。


「あれ、マチルダは帰ってしまったのですか?」


 レティシアは、自室から見える森林公園で、マチルダらしき龍が現れているのを見てやってきた。しかし、そこにはオースティン一人だけがいた。


「お前が来る気配を感じて去ってしまった」


「え!?」


 レティシアは少なからずショックを受けた。確かに、マチルダは以前から頻繁にオースティンと会っているのに、レティシアの前にはなかなか姿を現さない。まさか、嫌われていたのか。


「……あいつはお前に合わせる顔がないんだ」


「……え?」


「妹の不始末と、自分に似た容姿を引き継いだことで、お前に苦労をさせてしまったと言っていた」


「……そんな……」


 レティシアの心は沈んだ。マチルダに罪はない。むしろ、彼女こそ被害者だ。


 落ち込んでいると、ふいにオースティンが口を開いた。


「レティ、これからどうする?」


「え?」


「マチルダの冤罪が世間に発表された今、お前を容姿で差別する者も減っていくだろう。お前は俺の弟子だが、貴族の娘でもある。……どう生きるかは、お前が決めろ」


 彼の言葉は、レティシアの心に重く響いた。


 レティシアは心鼓動が早まるのを感じながら、緊張でスカートを掴んだ。手のひらが汗ばんでいるのを自覚し、期待と不安が胸のうちに広がる。


「し、師匠……そのことなんですが……師匠は……私のことをどう思っていますか?」


 

 


「師匠は……私のことをどう思っていますか?」


 レティシアの声が耳に届き、アンドレアスは思わず足を止めた。


 王宮の外にいたアンドレアスは、偶然、そこから出ていくレティシアを見かけた。気になり、そのまま森林公園に足を向けた。そこで目にしたのは、オースティンに真っ赤な顔で問いかけているレティシアの姿だった。


「はあ?」


「お、教えてください。師匠は昔からずっと、私に一際優しく接してくれました。私のことを……弟子以上に思ってくださっているのではないですか?」


 アンドレアスは続くやりとりを聞きたくなくて、踵を返した。


 だが、思わず振り返ると、二人が抱き合っているのが視界に入り、深い絶望に襲われた。


 ――アンドレアスは、レティシアのことが好きである。


 このことはシャーロットにもイザベラにも最初から見抜かれていたし、グレンにも少し遅れて気づかれた。自分でも、ロブ村で出会った初期のころから自覚していた。


 彼は、生まれたときから成人まで生きられない運命を背負った存在で、当然自分は恋などせずに、死んでいくのだろうと思っていた。グレンから婚約者のクレアの話を聞いたときも、どこか別の世界のおとぎ話でも聞いているような感覚だった。


 しかし、レティシアに出会ったことで、その思いはあっさりと瓦解した。彼女のことを考えると苦しくて、それでも楽しくて、ずっとそばにいたくなった。


 まだレティシアが貴族令嬢だと判明していなかったころ、シャーロットが気を利かせてレティシアに後ろ盾を作ろうとしたことがあった。妹であるマルティネス公爵夫人に、養女にできないかと交渉したのだ。


 レティシアの気持ちも考えずに勝手なことをしてはまずいのではないか、と思ったが、自分も片棒をかついでしまった。レティシアを手に入れたかったのだ。


 ヌマイではそんな状況ではなかったはずなのに、キスもしたし、告白もした。レティシアも同じ気持ちなのではないかと、自惚れていた。たった今まで。


 どうやら自分の勘違いだったようだ。


 それ以来、アンドレアスはレティシアが訪ねてきても、忙しいという理由で断り続けた。これまではどんなに多忙でも、時間を作って自分から会いに行っていたのに。


 レティシアもきっと不審に思っているだろう。


 だが、どうしようもない。レティシアの口から、「アンドレアスではなく、オースティンを想っている」と、断固として聞きたくなかったのだ。


 王宮の庭園のベンチに腰を下ろしたアンドレアスは、穏やかな午後の陽射しを浴びていた。


(もう何も考えたくない……)


 アンドレアスは初めての失恋に、うなだれていた。世間の人々はこんな思いをしてもまた立ち上がり、また次の恋へと進むのか。尊敬するほかない。


 そのとき、不意に目の前へ影が差した。顔を上げると、そこにはレティシアが立っていた。


「アンディ様」


 レティシアがにこりと笑う。


「レティシア……」


「最近お忙しくて全然お会いできませんでしたね。お体壊していませんか?」


「ああ……大丈夫だ」


「お隣、よろしいですか?」


「うん」


 レティシアがアンドレアスの隣に座った。


 これまでもこのベンチで並んで雑談することはあったが、今日はいつもより距離が近いように感じた。すぐ横にいるレティシアの体温が、じかに伝わってきて、胸の鼓動が早くなる。


「アンディ様。あの、今さらになってしまうのですが……」


「……ん?」


「ヌマイで……私のことを……す、好きと言ってくださったじゃないですか」


「……!」


「そ、その返事なのですが」


 緊張した面持ちで言葉を紡ぐレティシアに、アンドレアスは顔を青くする。聞きたくない。


「いや、いい。君の気持ちはわかっている」


 アンドレアスは本当に聞きたくなかった。


「……え?」


「先日、森林公園で君とオースティン殿との会話を聞いてしまった」


「え!! ……そ、そうなのですか……?」


 途端にレティシアは顔を赤く染めた。アンドレアスは頭が痛くなるのを感じつつ、溜め息を吐いた。


「ああ、君がオースティン殿のことを好きだということを」


「師匠にアンディ様との結婚の許可を得たこと、聞かれていたのですね」


 二人の言葉は同時に発せられ、重なった。


「……ん?」


「え?」


 お互いに目を丸くして見つめあう。


「私が師匠を好き……? なんのことです?」


 レティシアは頭に疑問符を浮かべて首を傾げているが、混乱しているのは、むしろアンドレアスのほうだった。


「いや、君……オースティン殿に自分をどう思っているか訊いていただろう! 真っ赤な顔して。……しかも、抱きしめ合って…………」


「え? あ……! ちが……そ、それはですね……」


 話はレティシアとマデリーンの会話へと遡る。


 

次話でラストです!



下の☆☆☆☆☆から作品の評価をいただけると励みになります。

また、ブックマークもしていただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ