8.『笑み』
カムイが傷を負いながらも、ふたりを倒す少し前。
謀らずも2対1の状況に持ち込むも、ケイとバンは攻めきれずにいた。いじめの主犯であろうと、相手はやはり名門の嫡子。生まれる前から実力に差があるのかもしれない。
「ぐっ!」
「そんな細い棒切れで、受け止められるわけねえだろうが!!」
振り下ろされたハンマーを、棍棒で受け止めたケイ。まるで鉄が軋むかのごとく腕が悲鳴を上げる。
「――させっかよ!」
迫りくる矢を躱すべくトッドが距離を置いたことで、盤面は仕切り直しとなった。
「ケイッ、大丈夫か」
「なんとか……」
作戦通りにカムイの強化魔法を施されていれば、受け止めるのは難しくなかっただろう。が、相手の分断でそれは叶わなかった。
幸い、トッド以外の攻撃が来ないことを鑑みると、反対側で引き留めてくれているのだ。
「チラチラと鬱陶しい野郎だ」
接近戦が苦手に見えるバンを先に攻めたいが、前衛のケイが間に立ち塞がって踏み込めない。かといってそちらに集中すれば、先程のように援護が入ってしまう。
「けど意外だったぜ、ケイ。オマエがオレの一撃を受け止められるなんてなぁ」
ケイとバンからすればそれは皮肉にしか聞こえなかった。
しかし、トッド・レイモンにとっては素直な称賛であった。
物陰でビクビクして、教室の隅で静かにしているだけの奴が、自分の予想を上回ってきたのだ。
――強者たるもの、弱き者を守らねばならない。
幼かったあの日に悟ったこと。彼はその信念に付き従ってきた。次第にやり方が変わっている事実に気付きながらも、それこそが最善だと信じて少年はやめない。
「だから、どこまで耐えられるか見定めてやるよ」
鉄槌を握る手に力が籠もる。
どうか、壊れてくれるな。どうか、屈してくれるな。正しき道への標となるまで――。
◆◆◆
胸の傷を手を添え、眼帯の少年は口を開く。
「…………」
傷の数なら圧倒的にふたりのほうが勝っている。故に、戦況で見れば彼らは追い詰められていた。なのに、だというのに――、
「笑って……いる?」
ケイとバンは笑みを浮かべていた。決して自暴自棄になったのではない。息が絶え絶えになりながらも、彼らは勝負を諦めてはおらず――楽しんでいるのだ。
全力で、死力を尽くして戦うことを楽しいと感じているのだ。
「あぁ――」
カムイは目を閉じて懐かしい光景を思い浮かべる。友と何度も行った剣戟を。
――いつか、ぜってえ追い越してやっからよ。
そして、彼もふっと口角を上げ、前を向く。素晴らしいものを見せてもらったからにはお返しをしなければ、と。
「ぐっ――ああ!!」
カムイが思い出に浸っている間に、ケイが力負けして吹き飛ばされ、その隙にトッドがバンに迫った。
遠距離ならともかく、近距離では分が悪い。本人がそれを一番理解しているので、後ろに飛び退いて距離を取るが……
「甘いな!」
そうすると予測していたと言わんばかりにトッドが地面を踏みしめ、窪みを作るほど力を込めた跳躍で後退をなかったことにする。
「これで、終わりだあ!!」
「諦めっかよ!」
「――〈プロテクション〉」
突然の第三者の声に意識を削がれた瞬間、トッドとバンとの間に障壁が隔たる。斜めに角度を調整された障壁により鉄槌は受け流され、当然体勢は崩れるというもの。
「ケイッ!」
「ハアアアアアッ!!!」
体勢を崩すも足をいち早く地面につけて、無理やり立て直そうとしてバンに背中を向けたトッド。そんな彼に全力を込めてケイが棍棒の大振りをお見舞いした。
「ガッ、はっ――!!」
文字通り吹っ飛ばされたトッドだが、額から血を流しながらも彼は立ち上がった。
「こんなのでやられてちゃ、レイモンの名が廃る。だからオレは勝たなきゃいけないんだよ――いや違ぇな。勝つんだよ」
ケイとバンを捉えるその瞳にはまだ、闘志が宿っていた。
「ケイ。まだ行けるか?」
「正直言って、もう魔力がなくなりかけてるんだ」
「んじゃ、最後のひと暴れと行きますか」
魔力を高めるトッドに対し、最後まで戦って、やり切って勝つと2人も覚悟を決める。
バンが先手として3本の矢を射り、途中でそれぞれが3本に増え、合計9本となってトッドに迫る。その後ろからケイが追従する。
「オラァアッ!!」
鉄槌を思い切り振り上げてからの振り被りで、3本の矢を風圧と直撃で壊す。その隙を見逃さず、何かを口ずさみながらケイが距離を詰める。
「まだまだァァァッ!!」
鉄槌の重さを利用して一回転。遠心力が乗った一撃がケイを仕留めんとするが、
「――〈強化〉」
先に詠唱を済ませておいた身体強化魔法を使用。間一髪で鉄の塊を避けて、みぞおちに棍棒の全力突きをお見舞いした。
「カハッ――」
この一撃をもって、カムイたちの勝利は決したのだった。




