38.『交流』
カムイたちのアルドラント学園を筆頭に、聖ゼブリエル学園、魔法學舎ルベリア、ドメケルニア学院、魔法学園ソブリットの計5校の武芸部員がここ、首都ファーセヌの国際闘技場トニスケリオンに集まっていた。
1万人が座れる観客席が備えた中央闘技場を中心に、3箇所に3千人の観客席が用意された予備闘技場がある、1000年の歴史を持つ国内最大の闘技場なのだ。
「かかか、カムイくん……」
「落ち着くんだケイ。学院での決闘と同じ……いや、決闘と違って代償は払わなくて良いんだ。そう考えると、幾分かマシにならないか?」
「うん、そう……だね」
闘技場の熱気に呑まれ、頼りない笑みを浮かべて緊張する友人を励ますも、幾分かマシにはなったが完全にはほぐれなかった。口元は引きつったままだ。
「ふっ……。ひとまず我が武芸部員の1回戦を見よう」
「ミメキスさんと、ドメルケニア学院のテウス・ベッテイヤーくんだね」
彼らが見守るは、カムイより先に入部していたクリシュナ・ミメキス対テウス・ベッテイヤーの組み合わせである。
参加する学校が多いため、複数の闘技場で同時に1回戦、2回戦と言う具合に行われ、観客は自分の好きな試合を見れるのだ。
首都の景気付けの思惑が含まれているが故の処置だった。
お互いに情報が少ない状態で試合を行う。観客に見られながらではあるものの、満足がいく情報がないとは、つまり実戦に近い形での戦いとなる。
戦いの最中で警戒しながら探っていく必要があるので、心身が脆弱な者なら気持ちで負けてしまう。それが実戦の恐ろしさである。
「無粋な質問だけど、カムイくんはどっちが勝つと思う?」
レイピア型の〈ブレイヴ〉のクリシュナと、ナックル型の〈ブレイヴ〉のテウスの順にケイはふたりを見渡してから友人に問いかけた。
1ヶ月以上も武芸部員として一緒に過ごしていれば、自ずと長所や短所、得意不得意が見えてくるものだ。
「ミメキスは器用な人だ。丁寧な立ち回りが出来れば、彼女の有利に持っていけるだろう。だが――」
顎に手を当てて分析するカムイの言葉は途中で遮られた。
「試合、開始!!」
「〈強化/ブースト〉〈魔神拳〉」
文字通り、試合開始の声が闘技場に響き渡り、同時に黒い拳を両側に追従させたベッテイヤーが突進する。
跳躍する少年を見るカムイの目が細くなる。遮られてしまった部分が現実になろうとしていた。
「――ッ!? 我が身を守護せよ――〈プロテクション〉」
「無駄無駄ァア!!」
ベッテイヤーが拳を振りかぶると、それと呼応するように彼に追従する黒い拳が同じ動きをする。溜めの次は当然放出。ふたつの拳が両者の間を隔たる障壁と衝突――パリンッとガラスが割れるかの如く音を立てて邪魔する壁を破壊した。
「えっ!?」
たった一撃で障壁が破壊されるのはクリシュナにとって想定外。驚愕の小さな悲鳴が口から飛び出る。
「これで、終いだ!」
続く二撃目。
予想外の障壁破壊で隙を作ってしまったクリシュナには防ぎようがない――そう思われた。
「――嘗めないで」
当たると思われた追撃を間一髪、軽い身のこなしで拳は腕を掠る程度に終わる。攻められる側から攻める側へと即座に転ずるクリシュナ。避けながら体を回転させ、勢いを乗せた蹴りをテウスの腹へとお見舞いする。
「――鋭い蹴りだが、俺を蹴り飛ばすには威力が足りなかったな」
不敵に口角を上げるテウス。そこでクリシュナは重要なことを思い出す。突進に先んじて、彼は強化魔法を施していたのだ。
反して彼女は防御に気を取られ、強化魔法はまだ発動出来ていない。
「丁寧な立ち回りで、魔力と体力調整を得意とするクリシュナは、長期戦に滅法強い。上級生が相手でも、長引かせれば手こずるほどに。反面、短期決戦は不得意だ。皮肉にも今回の相手、ベッテイヤーやフィリアみたいなタイプとは相性が悪い」
試合状況を冷静に分析するカムイと、そわそわと落ち着かないケイ。
「じゃあ……」
「言わずもがな、相性は勝敗を大きく左右する。自身の不得意と向き合う形になったな。クリシュナがどう立ち回れるかで結果に変わると思う」
口ではクリシュナの勝利の可能性を示唆するも、心の中では敗北すると結論づけていた。
強化魔法を彼女も発動させていれば結果は大きく変わっただろうが、長期戦になった場合を想定する動きが仇となってしまったのだ。
「風よ、突き刺せ――〈風の槍/ウインド・ランス〉」
「おっと」
掴まれた足裏から風の槍を生やし、最悪の状況を打破して安堵するクリシュナ。交流試合の緊張と、度重なる予想外の出来事が、彼女の疲労をいつもより多く募らせた。
「〈影の歩法/ファントム・ステップ〉」
残像を残す魔法を使用して、再び急接近を試みるテウス。何故か目を閉じて微動だにしないクリシュナを怪訝に思いつつも、容赦なく拳を突き出すのだが妙な感覚だった。
間違いなく相手の体に直撃したはずのに、触れた感触が全くないのだ。
「――〈そこに影ありし故/ファントム・ドライブ〉」
まだ使うつもりはなかった。
同じ新入生でありながら名を馳せる人物に使うと決めていた。だが、ここで無惨に敗北してはそれこそ無意味だと判断した。
誓いを破り、苦肉の策としてクリシュナはその魔法を行使する。実像に見える残像。
「ふっ。これが隠し玉か。良いぜ、オレも見せなきゃ不公平だよな」
突進ばかりしてきたテウスが突然の方針変更。自分からクリシュナと距離を取ったのだ。
両の拳を腰まで下げて相手を見据える。
「少しは楽しめたぜ、アルドラント。使う気はなかったもんを使ってやるよ。我が拳に連なるは無数の思いの欠片、ぶつけるは我が思いの具現化、至れ我が拳――〈思念の果ての拳/ドリーム・イン・ナックル〉」
不格好に両方の拳を同時に突き出した。
見た目の格好悪さに反して、攻撃としては高性能。残像のような無数の拳が次々と前方へと伸びていくではないか。
「――さすがに躱せないわね」
実像の如し残像ごと潜んでいた本体のクリシュナをも殴り飛ばした。
これにて決着。勝者――テウス・ベッテイヤー。




