34.『選定』
「幸い、スメラギとヴェンツェルが、隻眼の銀狼と黒の黄泉姫と気付いている生徒は少ない。広めるつもりもないのか、噂すら聞かないのが現状だ」
彼らのふたつ名の知名度は高くとも、名前と姿を知る者はそもそも学園にほとんどいない。万が一、カムイらの正体が知られれば、学園どころか国を巻き込む騒ぎになりかねない。
学園長と教師陣はもちろん、生徒会長と副会長は事前に彼らの入学を知らされていた。話を聞いた際、己が耳を疑うほど驚いたのは言うまでもないだろう。
「スメラギとヴェンツェルは、学園に必要な人材だ。彼らは恐らく、この学園を変えるだろう。入学後数日で決闘騒ぎを起こした食わせ者。今後、どのような事態を巻き起こすにせよ、我々は心と体の準備をしておかねばならない。生徒会役員全員にそう伝えておけ」
返事を聞いてからミリーナは席を立ち、項垂れるクランタを見下ろす。
「お前はどうするのだ?」
「叶うなら恩返しをしたいと思っています」
「では、その日が来るまでに決めておけ。我々生徒会は、学園に害成す存在には容赦しない。もし、スメラギたちがそうなった場合、お前がどちらの側につくのかをな」
「……肝に命じます」
かつて人類最後の砦と呼ばれたカムイらに対し、ミリーナたち生徒会は学園最後の砦なのだ。
教師陣は生徒同士の争いには関与しないのが学園の方針だ。何故なら一流の魔法使いとは、自らが欲するものは自らの手で入手、勝ち取るのが当たり前。
仕方なく他者を頼るとしても、端から上級者の教師に頼るのは甘えだとされる。そのため教師は生徒同士のいざこざに介入することは滅多にない。
「スメラギたちの件はともかく、学園に魔族の手が回っている可能性が浮上したのだ。現状、そちらの方が留意すべき事態なのは間違いない」
「副会長。両案件に、会長はどのようなご意見を?」
生徒会の頭脳に相応しい凛々しい面持ちになったリリアンが尋ねる。
「うむ。会長は魔人との決闘で負った傷がまだ癒えていないのでな。治り次第手伝うと言っていた」
「あー、アンブレの野郎ですか……」
面倒くさそうにキアトースがため息をつきながら、ひとりの人物の名前を口にする。
「キアも頼もしくなったものだ。まあ、厄介なのは確かだ。会長さえ許してくれれば――」
「言うな、クランタ。奴は序列10位で甘んじているが、実際はその枠に収まる輩ではない。下手に刺激すれば生徒に被害が出る可能性は必至。よって、生徒会では会長以外が彼の魔人には手を出さない、そう決めたのを忘れたか?」
復活を果たして後輩を弄るクランタを、ミリーナは容赦なく一刀両断するかの如く意気込みを遮り、会長からの指示を復唱した。
序列10位――〈魔人〉ヴァロン・アンブレ。
幾度となく生徒会長に勝負を申し込み、悉く敗北しているのだが、その実力はミリーナが言ったように10位では物足りない。
なら何故、10位で留まっているのか。理由は単純で、会長との勝負以外では手を抜き、決して本気にならないのである。
序列選定に大きな影響を及ぼすプレアデスで、彼は他の生徒と異なり優勝など目指していない。強者が集う、新たな獲物を見つける場でしかないのだ。
本気を出さずとも10位になれる実力は、それだけで危険を孕んでいるとも言える。クランタが早めにどうにかしたいと思うのは、彼の恐ろしさを知る者にとって不思議ではなく当然の意見なのだ。
「良くも悪くも会長以外には興味がない。会長に勝つことに全力を注いでいますからね……」
「……副会長」
「懸念事項があるようだな、聞こう」
言い辛そうな、でも言わなければならないと葛藤を、自分でも気付かない内に表情に出してしまったリリアンに、ミリーナはあえて話すように促す。
悩み続けさせるのは彼女に良くないと、数年の付き合いで知っていたからだ。
「ヴァロン・アンブレが会長に固執するのは、彼が会長に敗北した。それは強さを認めたからだと思います。なら、数多くの魔族と実際に戦ってきた英雄――カムイ・スメラギの強さの実力を知った場合、興味の対象が移る可能性があるのではないかと」
「否定出来ぬな。会長に伝えておこう。感謝するぞ、リリー」
「いっ、いえ、わたしはただ、疑問を言っただけで、はい……」
謙虚過ぎるのがたまに瑕だなとミリーナは後輩の一面に苦笑する。しかし、彼女が述べた可能性は大いにあり得る。
「本日はここまでにする。各々の意見を明日、また聞かせてほしい。あとはスメラギたちがどのような返答をしても良いように準備を怠らぬように。解散」
新入生が入学してくる毎年恒例とはいえ、ただでさえ忙しいのに、さらにやることが一気に増えた生徒会であった。




