31.『協力』
何故か緊張している様子の生徒会役員――クランタ・メーテクツに率いられ、生徒会室を訪れたカムイとアリス。いくつかの質疑応答の予想を行い、心の準備は万端の状態で挑む。
扉を抜けた際に、全身に妙な違和感があったが、とりあえずは気にしないことにした。
「――待っていた」
組んだ手の上に顎を乗せ、厳かな表情のミリーナが待ち構えていた。
部屋には副会長以外に、赤銅色の長い髪を後ろで編み込んで束ね、眼鏡をかけた女子生徒――リリアン・ド・クランウィードと、目付きが悪い小柄な男子生徒――キアトース=クノマルスが客人の顔を窺う。ふたりも生徒会役員で、カムイらよりふたつ上の学年である。
「副会長、この方が例の……」
「へー。こんなひょろいヤツがミリーナ先輩とやりあったなんて信じられんね」
各々が好き勝手にカムイに対しての感想を言う。それらを半ば聞き流し、生徒会長の姿がないのを不思議に思う眼帯少年だった。
「生徒会長かい? あの人は気分屋でね、滅多に顔を出さないんだよ。まずは座ると良い」
「そうなんですか……。ありがとうございます」
クランタに促されて机を挟んでミリーナの正面に座るカムイとアリス。そんなふたりが座ってから、副会長は目を細めた。
「早速だが、呼ばれた理由はわかっているか?」
「先日、副会長に攻撃を仕掛けた件かと」
「もちろん、その件も含んでいる。しかし、本題は別だ」
落ち着いて答えるカムイに、ミリーナは少しだけ間を置いてから口を開いた。
「私はお前たちが何者なのか知っている」
「どういう意味ですか?」
今度はカムイが目を細めて問いを返した。
「言葉通りの意味だとも――〈隻眼の銀狼〉と〈黒の黄泉姫〉」
戦場でカムイとアリスが呼ばれていたふたつ名を告げられ、誤魔化そうかと逡巡する。
なるほど――腰の本に手を添え、カムイは心の中で呟く。部屋に入った時の違和感の正体に気付き、相手は万全の態勢で自分たちを招いたのだと理解した。
「久しぶりに聞きました」
「お前が言った、先日の件は私にも落ち度があったと自負する。友人が血を流し、私の槍にも血が付着していた。あの状況なら、お前でなくとも私がやったと判断するのは当然だろう」
ミリーナの言葉通り、あの時の状況だけ見るなら彼女が犯人だと言えよう。しかし、今のカムイは違った意見を持っていた。
「既に気付いているようだな。そうだ――私ではない。と否定してはみたが、賊を取り逃がしたのは私の失態だ。生徒会副会長として生徒を守れず、あまつさえ賊を逃がしてしまい、申し訳ないと思っている」
「副会長!?」
「先輩!?」
謝罪するミリーナに目を見開くカムイ。責められる準備はしてきたが、謝罪されるのは想定外だったので反応に困る。
眼帯少年と同様に、生徒会役員であるリリアンとキアトースも驚きの声を上げた。
「顔を上げてください。俺が勘違いしなければ、副会長なら追い付き、無事に倒したでしょう。邪魔をし、攻撃してすみませ――」
「それは違うのだ、スメラギ」
顔を上げたミリーナはカムイの謝罪を遮った。どういうことだと眉を潜める眼帯少年だったが、すぐに結論にたどり着いてハッとする。
「お前が来た時点で、既に取り逃がしていたんだ」
「――っ!」
相対したカムイであれば、彼女の実力がどの程度のものかを知っている。だからこそ静かな驚愕が彼を襲った。
無理もない話かもしれない。
先日、バンとメルトの決闘を邪魔した者ならば、魔族の手がかかった人物なのは間違いない。その者と同一人物なら、隠密行動に秀で、勘が鋭いミルキーから逃げられるほどの逃げ足だ。
いくら序列3位と言えど学園生徒である以上、追跡に関してはまだ未熟な面があるのだろう。
「強さは大したものではなかった――が、逃げ足だけは相当なものだ。恥ずかしい話だ、副会長たる私が、手傷を負わせるのがやっととはな」
自嘲するようにミリーナは吐き捨てる。
校内で不穏な動きを見せる者がいることを掴んでいた生徒会は、授業の合間をぬって役員を巡回させていた。そこで偶然、バンとフィリアを襲撃した者とミリーナは遭遇し、戦闘を仕掛けるも傷を負わせたものの逃がしてしまったのだ。
序列3位の彼女から逃げ切れる者は、数えられる程度であろう。
「話を戻す前にひとつだけ訊かせてほしい。スメラギ。私と戦った際、お前は何故、能力強化の魔法を使わなかったのだ?」
やはり気付かれていたかと悩ましげな表情のカムイ。数秒の思考の後、隠さずに真実を話すことを決めた。
「特異な体質でして、この体は魔法を無効化するんです」
「魔法を無効化なんて、ほんとに珍しい体質をしてんなぁ」
言いながらキアトースが腕を組んで頷き、特異な体質のカムイを見やる。眼鏡をくいと上げて、リリアンも興味深そうにカムイの身体に視線を送っている。
「そういうことか……。強化魔法を使わずにあれだけ動けるとは大したものだ」
「いえ。師匠の教え方が上手だっただけです」
返答を聞いて納得するミリーナ。強化魔法を使用しなかった点ともうひとつ、大槍に付与されている魔法が効果を発揮しなかったことも含まれていた。
謙遜するカムイも内心では、ミリーナも相当な実力者であると認めていた。
「校内に怪しい輩が潜入しているのは明らかだ。生徒会だけでは人手が足りなくてな、可能ならばお前たちの手を借りたい。具体的には賊の捜索と捕獲。先の襲撃の件で察していると思うが命の危険も伴う。その上で頼みたい。もちろん、報酬は出す。もし引き受けてくれるなら――」
廊下からドタドタと騒がしい足音が聞こえ、
「――失礼しまーす!」
勢い良く扉が開き、開口一番にフィリアが声を上げた。駆け込んで来たのは彼女だけではなく、バン、ケイ、メルトを入れて4人だった。
突然の来訪者に呆然とする一同。カムイとアリスだけは笑っていた。
ふたりが罰せられると勘違いした彼らは、友人は悪くないと言うために、生徒会を知る生徒ならまず入りたくない生徒会室に殴り込んだのだ。
「彼らも一緒なら。報酬は俺たちに与えるはずだった分を山分けしてください。あともうひとつ。先輩方に戦闘の御指南をしていただきたいです」
「クッフフフフ。まったく……予想を越えてくるな、お前たちは。まずは彼らへの説明からだ」
肩を震わせるミリーナ。それが珍しいことなのは、他の役員たちの反応で察しがついた。




