26.『接近』
週明けのカムイ弁当を食べる、いつもの木陰に移動した一行。彼らの前には簡素なティーセットと茶菓子が並んでいた。
よほど茶菓子がお気に召したのか、フィリアはリスのように頬を膨らませるくらい食べるのに夢中だった。
カムイが友人らに分かりやすく説明し終えると、確かめる意味合いも込めてケイが簡潔にまとめた。
「カムイくんが入学式前に喧嘩から守ったのがメルチェリーダさん。そのメルチェリーダさんを狙っている人がいて、メルチェリーダさんを守るのがカルミトスくんとミルキーさん。こういうこと?」
「概ね正解だ」
何度も名前を出されたメルチェリーダ本人は複雑な表情だったが、カムイに引っ付くことで心を落ち着かせた。引っ付かれた側の眼帯少年の抵抗虚しく今に至る。
細やかな抵抗を続ける者がひとり。反対側の腕を抱くアリスである。
両側の女子による火花散らす睨み合いはよそでやってほしいと切に願う少年。あまり長時間続けられると、美少女ふたりに挟まれて理性が保てるか不安だった。
同級生の中では落ち着いた印象を抱かれ、年上に見られやすいカムイ・スメラギといえど、異性に心動かされる多感な年頃の男の子なのだ。
「学園の教師には相談しないのか? 事が事だ。生徒だけでどうにかするのは危ないだろ」
最もなバンの疑問に、残念そうにメルチェリーダは首を横に振った。
「アンタはカムイ様と違ってバカね。魔族が学園への潜入が済んで、なおかつ騒ぎになっていない。学園関係者に協力者がいるのは明らか。考えれば分かることではなくて?」
様付けで呼ばれるのもカムイははっきりと拒んだ。次々と提案される呼び名の中で、まともだと思えたのが他にひとつもなかった彼は諦めた。
未熟者めが、と相棒にはそっぽを向かれる始末。
「ひでー言われようだ……」
「バンくん、ファイト」
「ありがとよ、ケイー」
改めて友情を確かめ合う男子ふたりはさておき、砂糖たっぷりの紅茶を飲み終えたミルキーが口を開いた。
「ウチらだけで片したかったんやけど、相手が一枚上手や。巻き込んでしもて、ほんまにすまんと思うとる」
「きみたちは回りくどくするのが性分なのかい?」
「違う言いたいけど、そうかもしれんな」
「障壁魔法を行使したのが俺か確かめ、敵の正体を掴むためにメルトは自ら囮になったと」
目線を逸らしてあははと笑って誤魔化そうとするミルキー。
問い詰めるまでもなく事情を理解したカムイは、夕暮れの空を仰ぎ見る。
「最初に話してくれていたら捕まえられたのに」
「カムイ、それは本当かいな? ウチかて見うしのうたのにやで」
疑いの眼差しを向けるミルキーの意見は最もだ。彼女の特異な魔法の性質を活かせば、追跡を行うのは造作もないことだ。それなのに逃げられたのに、カムイは捕まえられたとまで言うのだ。
自信家なのか、はたまた大馬鹿者のどちらなのか判断しかねていた。
「数年前に同じ魔法を見かけたことがあってね。既に対処法は考案済みなんだ。〈深層眼/サードアイ〉という探知、感知、透視の効果を同時に行使する魔法。きみたちの狙いは知らなかったけど、念のため発動しておいて正解だった」
「その口ぶりやと、犯人が誰か知ってるようやの?」
「――まだ教えられない」
怪訝そうに眉をしかめるミルキー。協力を断ると宣言したのと同義に捉えられても仕方ない言い方だからだ。
「理由を聞いても?」
「悪く言えば、きみたちの力不足。良く言えば、標的の数が増え、焦る必要がなくなった」




