24.『本番』
「相当な自信家みてえだなぁ。カムイの前にオレっちの相手をしてくれねえか? オレっちを倒せなきゃ、カムイには勝てねえぜ」
煽られたのに対して挑発を返すバン。
彼らの後ろで見守るケイは、良くも悪くもカムイに影響されているなと苦笑い。
「アンタが先に……仕方ないわね。相手をして差し上げますわ。ですが、この方の次はアンタであることをお忘れなく」
先程バンに言ったのと似た内容をカムイに言い、足早にその場を去っていった。
「ふたりとも大丈夫?」
「あのツイン黒ドリルはなんなのさ。パンツ見られたからって怒りすぎだよ」
カムイが手で制止していたため、遠目で見守っていたケイとフィリアが駆け寄った。
「ドリルて……。男子と違って、女子はデリケートなんだよ」
独特な呼び名をつけたフィリアに、やれやれため息混じりにバンが説明する。
小さな騒ぎはあったが彼らは学園生徒。急がねば授業に遅れることを思い出し、詮索は早々に切り上げて教室へと向かった。廊下を足早に歩きながら、カムイはひとり首を傾げていた。――あの子、何処かで見たような。
学園で過ごしている以上、1度や2度はすれ違ったりして見覚えがあるのかもしれない。が、カムイが感じた既視感は少し違う。印象深く記憶に焼き付いているのに、何故か思い出せないというもどかしさがあった。
彼が既視感の他に違和感も抱いていた。メルチェリーダを魔法で転ばせた本当の犯人が興味深い人物だったからだ。
◆◆◆
放課後、メルチェリーダ本人がカムイらを呼びに来た。その足で闘技場に向かった。まるで事前にこうなると予期していたのか、と疑いたくなるほど用意周到である。
カムイとケイ、バンの3人は決闘があるからと部長に連絡を済ませてあるので心行くまで行える。
「ルールは降参を宣言、または戦闘不能に陥った場合に終了でいいわね?」
観客席にはカムイたちだけなのか、他には誰も座っていなかった。トッドの時は見せしめの意味があり、たくさんの生徒が観客席を埋めていた。同じようになると構えていたバンは、肩透かしを食らった気分だ。
「あ、ああ、それで良い」
「上の空とは余裕なのかしら。観客席に人がいないことがそんなに意外?」
「正直に言うとそうだ」
正直に答えられたメルチェリーダは、額に手を添えてため息をひとつ。
「ワタシを見くびらないでほしいわ。アンタみたいな破廉恥な男子への制裁に、人を呼ぶ必要はないでしょう?」
破廉恥な男子への制裁に、闘技場で決闘をするだけでじゅうぶんな気がするバンだったが、決して口にはせず胸に秘めた。
「バンー、頑張れー。ツイン黒ドリルなんてやっつけちゃえー」
「誰がツイン黒ドリルよ!」
聞き流さずにしっかりと言い返すメルチェリーダ。
お茶目な性格の人だなとカムイはふっと笑う。すると、彼女は目を見開いたかと思えば、決闘相手のバンに向き直った。
「コホン。早速始めるわよ」
「ああ、いつでも良いぜ」
メルチェリーダは槍型の〈ブレイヴ〉を、バンは弓型の〈ブレイヴ〉をそれぞれ起動して構える。
対象的に近距離武器と遠距離武器の組み合わせ。それぞれ有利な距離が異なるため、如何に自分の距離で戦えるかが勝利の鍵となろう。
しかし、武器での近距離攻撃が可能で、離れれば魔法を用いれるメルチェリーダの方が有利だと言えるかもしれない。が、それを容易く覆すのが魔法使いなのだ。
「メルチェリーダ・プラニスリンテ」
「バンデス=デルカ」
互いに相手の目を見据えて名乗った。
始まりの合図は不要。ふたりがその時だと思ったら開始である。
「〈シャイニング・アロー〉」
「ふっ――」
魔力で生成した矢をバンが構えたのを確認してから、一気に踏み込んで距離を詰めるメルチェリーダ。
「〈強化/ブースト〉」
接近してくるのは予想出来たバンは矢を放ちながら、身体能力強化を施して後方へ跳ぶ。放たれた矢は3本に増え、3方向からメルチェリーダに迫る。
「こんなものっ」
足を止めず槍を振り回して矢を弾き飛ばし、衰えない勢いを乗せて突きを放つ。
「〈幻影の歩法/ファントム・ステップ〉」
残像を残す魔法で攻撃を鈍らせ、メルチェリーダとは全然関係のない方向に矢を射る。
「何処を狙っているの?」
「さあてね」
問いにはまともに返答せず、不敵な笑みを浮かべる。再びメルチェリーダの接近を許すが、矢を駆使して巧みに槍を往なして絶妙な距離を保つバン。
離れれば矢を射る。近付けば矢で往なす。数度の攻防を経て、ただのへらへらした奴ではないとメルチェリーダは悟る。
それもそのはず。彼は幼い頃から共に育った幼馴染みによる、猛攻を受け続けて来たのだから。ここであっさりと押し負けたら笑われてしまう。
「ハァアッ――くっ!」
メルチェリーダの足が地を蹴ったのとタイミングを合わせ、彼女の後ろから矢が迫る。間一髪、魔力を感じ取ったのか槍の先端を当てて打ち消した。
ちらりと周りを見やると、無意味に放たれたはずの矢が壁に当たらず、宙に浮いたまま留まっているではないか。
「準備万端という訳ね」
自身の置かれた状況に気付き少女は自嘲する。攻めていると思っていたら、追い詰められていたのは彼女の方だったのだ。
勝負を焦って、周りへの注意を怠っていたと反省する。
「アンタを倒せなければあの人には勝てない……。悔しいけどアンタを認めてあげる」
顔つきと共に構えが変化する。
「……っ」
纏う雰囲気すら変わったメルチェリーダを目の当たりにし、バンの脳裏をひとつの疑問が過った。彼女が一度でも魔法を使っただろうか、と。
心の中で問答を済ませたバンも、相手に負けじと深呼吸を行い気を引き締めた。ここからが本番なのだと。
構えから察する攻撃は突きの一撃。対処を事前に脳内で整理し、いつでも待機中の矢を放てる状態。お互いに開始時のように視線だけで牽制し合う。
「空駆けよ、我が雷の槍――」
突きの姿勢から槍を回して持ち手を変え、投擲の姿勢へと移行する。まずいと判断したバンが待機中の矢を、一斉にメルチェリーダに放った。
「〈ライトニング・ランス〉」
直後、周囲に突風を巻き起こす勢いで雷を纏った槍が投げられた。それに引き寄せられるように、メルチェリーダに向かうはずの矢が槍へと方向転換。
「其は立ちはだかる壁を打ち砕く者なり――〈破岩晴流弓〉」
光を放つ矢が弓から放たれ、真正面から槍と対峙すると衝撃波が闘技場全体へと広がった。次の瞬間、圧縮された魔力同士の衝突により爆発が生じ、砂埃が舞い上がり視界を遮った。




