22.『親善』
食堂で集まったカムイ一行。それぞれがどの部活に入ったのかを言い合っていた。
「オレっちは魔獣研究部にしたぜ」
「バンは昔から動物とか魔物とか、不思議と仲良くなるもんね」
幼馴染みのことを嬉しそうに語るフィリアだったが、徐々に表情が曇っていき、やがて俯いて黙り込んでしまった。
背中をさするバンが理由を説明した。
「オレっちは好かれるけど、反対にフィーは嫌われまくってさぁ。まるで天敵に対しての反応だぜ、ありゃあ……」
誰とでも仲良くなれるフィリアの意外な弱点をカムイは知った。物事は正反対の性質と均衡を保っていると言うが、まさか身近に事象を体現する人物がいたとは――と、眼帯少年は顎に手を当てて頷く。
「なるほど。だからテクシア先生の授業の時、妙に張り切っていたのか」
「元気なのはいつものことだけど、珍しく落ち込んでたもんね……」
カムイの言葉にケイが苦笑しながら付け加える。
魔物、魔獣に関しての授業開始前。フィリアはいつも以上に張り切っていた。なのに、授業が終わる頃には、魂を抜かれた人のように生気を感じられなかったのだ。
とぼとぼと次の教室へと歩いていく背中が、見ていてとても悲しくなったのをカムイは思い出す。
「わたしはただ仲良くしたいだけなのに」
「そなたは過度に気持ちを昂らせ過ぎなのじゃ。獣は他者の感情に敏感じゃからの。まずはそなた自身が落ち着くところから始めるのが良かろう」
「アリスちゃん……大好き!」
「こらっ、やめんっ、か!」
珍しくアリスが助言すると、小さくなっていたはずのフィリアは彼女に抱きついた。引き剥がそうとするが、がっしりと抱きしめられており、カムイの分析では簡単に抜け出せなさそうだ。――約束があるからな。
「――相変わらず君たちは賑やかだな」
「ウィッキンドウ先輩。先輩も昼食ですか?」
カムイの問いに、うむと頷きを返すマルセル。隣にはジーデンもいた。武芸部での役職柄、ふたりは一緒にいることが多いらしい。
「ご一緒してもいいかな?」
「はい、もちろんです」
今度はジーデンの問いに、緊張気味にケイが返事した。
しばらくは学園生活について先輩からの助言や、世間話などをして過ごした。
やがて、頃合いだろうと判断したカムイが話題をぶつける。
「――そろそろ、先輩方がここに来た本当の理由を教えてもらってもよろしいですか?」
「カムイくん。本当の理由って?」
「すぐに分かるよ」
一瞬だけきょとんとした顔を見せる先輩ふたり。まいったなと笑みをこぼし、マルセルが本題を話し始めた。
「入学式からそろそろ1ヶ月が経過する。更に1か月後、我々武芸部は、他校の武芸部と親善試合を行う。毎年の恒例行事で、新入部員の紹介や交流、戦闘経験を積ませるのが目的だ」
話を聞いたカムイは唸る。
「各々実力を見定める場であるようじゃの」
「……否定はしない。レギオン所属の人も見に来る、ちょっとしたアピールする場でもあるんだ」
マルセルは真剣な面持ちで説明する。つられてケイまでも背筋を伸ばしていた。
「項目は、まず自己紹介。次に新入生同士の手合わせ。新入生以外の部員同士の手合わせ。最後に、各校の選抜した代表3人による勝ち抜き試合だ。これらを2日間で行う」
「でだ。俺たちがここに来たのは、その勝ち抜き試合が理由だ。レギオンが本腰を入れて見るのもこの試合だ」
そこまで話すと、ふたりは同時にカムイに視線を向けた。話の流れで先の展開は予想出来た。既に言葉も準備済みだ。
「スメラギくん。君にその勝ち抜き試合に出てほしい。オレに勝った君なら、他校の生徒にも引けを取らないと判断した。個人的に君の本気が見てみたい欲求もあるがな」
「……戦闘狂はさておきだ。当然無理強いはしない。そもそも新入生が参加した前例が少ないんだ」
部長の顔を手で横へ追いやり、ジーデンが複雑な表情で付け加えた。
「前のふたつの試合と違い、勝ち抜き試合では皆が本気で来る。さっきも言ったが新入生はほぼいない。毎年、大ケガもあり得る上級生同士の激しい闘いになる。マルセルに勝つほどの実力者だ。出てほしくないと言えば嘘になるが、しっかり考えてほしい」
マルセルだけなら、持ち前の熱意で押して押しまくっていたのだろう。冷静担当のジーデンがいてこそ会話に成り立っていると言える。
「来週末まで待つから、焦らずに答えを出してほしい。――あと、ファルサくん」
「は、はいっ」
若干蚊帳の外になってしまっていたケイに、ジーデンが微笑みかける。
「カムイくんだけ贔屓してすまない。だがこれだけは言っておく。再来年、早くて来年。君にも声をかける。今はまだ足りないが、それだけの実力を秘めているのを忘れないでほしい。もちろん、参加の有無は本人の意思を尊重するがね」
「ありがとうございます。先輩方をぎゃふんと言わせて見せます!」
「それは楽しみだ」
話が終わる頃には、全員の皿から料理がなくなっており、各々の教室へと戻っていった。
「ねえ、カムイくん。僕は本当に強くなれるかな?」
教室へと向かう廊下にて、大見栄きったはずのケイがカムイに問いかけた。
「先輩も言っていたろ。まずはそのネガティブ思考を何とかせねばだな。それに戦いというものは、諦めなかった者が勝つ。心で負けては、誰にも勝てないぞ」
「そういうものかな……」
「レイモンと打ち合ってあれだけの長い時間を耐えた。判断は間違っていなかったと証明したのは何処の誰だったのやら」
「……うん、そうだね。ありがとう。また手伝ってもらってもいい?」
問いかける友人に、当然だとカムイは笑みを返す。
「いつでも鍛えよう」




