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黄昏の銀月~Until my Life runs out~  作者: 入山 瑠衣
第二章『部活動』
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18.『苦笑』

 開始の合図が、相対するふたりの間を駆け抜けた。


「ふんっ――」

「――っ!?」


 鉤爪を装備した右手を振り上げて、勢いよく斜めに振り下ろす。

 本能が警鐘を鳴らしたカムイは、当たるわけがない距離にも拘わらず避けるように体を捩らせた。


 マルセルの接近武器を考慮して、強化魔法を使用すると考えていた眼帯少年の予測は外れた。それだけなら彼は冷静さを崩さず、冷や汗を流す羽目にはならなかっただろう。


「……なるほど」


 ちらりと背後の壁を見やると、しっかりと刻まれた引っ掻き跡。もし当たっていれば死にはせずとも、致命傷は免れない威力だと壁の跡は物語る。


「初撃で躱されたのは久しぶりだ。いやぁ、実に悔しい。ますます武芸部に入ってほし――」

「〈グレイブ〉〈突出する大地/グレイブ・ニードル〉」


 とても悔しがっているとは思えない笑顔で、距離を詰めるべく走ろうとした一歩目をカムイは阻止する。バランスを崩して顔面から地面に衝突しかける。が、彼の顔が当たるであろう部分の地面が盛り上がり、鋭利な棘となって待ち受けた。


「あっぶな」


 倒れながら体の向きを変えて棘が刺さるのを回避し、その動きの中で鉤爪を振り払い、カムイの魔法追撃を妨害する。


「〈グレイブ〉〈瞬速/ソニック〉」


 今度はマルセルが地面に盛り上がりを施し、そこを足台に弾丸の如く真っ直ぐカムイ目掛けて跳んだ。


「やっば!?」


 カムイは横に移動して、背後に忍ばせていた3本の〈火炎の矢/フレイム・アロー〉を放った。3本なら打ち落とすのは簡単だと判断したマルセルの視界に、眼帯少年が手を頭上に上げる姿が入る。


 下へと振り下ろす予備動作だと考え、着地してまずは3本の炎の矢を鉤爪で掻き消す。が、彼は予想が外れたのだとすぐに思い知った。


「〈障壁となる大地/グランド・ウォール〉〈放射する炎熱/ブレイズ・ブラスター〉」

「壁? 後ろか!」


 振り上げた手を胸の辺りで下ろすのを止めて詠唱。するとカムイとマルセルの間に土の壁が生成される。


 咄嗟には意図を図りかねて首を傾げる武芸部部長。背後からの何かの気配を感じて身を翻す彼の目に、最初の〈グレイブ・ニードル〉を起点に展開された赤い魔法陣が映った。


 魔法陣を破壊しようにも一手間に合わず。マルセルは燃え盛る炎の柱に包まれた。


「…………」


 対人になれているであろう武芸部部長でも、二段構えは食らうのかと少しばかりの落胆を込めて分析する。


 早合点する眼帯少年の目を覚ますように、炎が進む方向を途中で変えて天井に向かう。しかも渦を巻いて。


「――〈炎ノ舞〉」


 自分で造り出した壁で姿が見えなくとも、誰が何をやったかは分かる。

 まだ終わりではないと、本を掴むカムイの手に力が入った。やる気を取り戻した彼を歓迎しようと、炎の渦の進行方向が再び変わる。天井の次はカムイの番。


「さて、どうしよう」


 迫り来る炎の渦を眺めながら呟く。


 そして、意を決して本を閉じると……突然走り出した。土の壁の反対側にいるであろうマルセルが見える位置に。


「〈爪空(そうくう)〉」

「〈風の刃/ウインド・カッター〉」

「……ありかよ」


 カムイの動きを先読みしていたマルセルの、空を切り裂く爪撃が炎の中から襲いかかるが、それら全てに風属性の衝撃波をぶつけて相殺した。


 目の前で起こった信じられない出来事に、炎が消えて姿を現したマルセルは思わず苦笑い。


 目視出来なくはないとしても、目を凝らしてようやく細い景色の揺らぎを確認可能な程度。見えてもその頃には飛ぶ爪撃が到達しているだろう。


「他の人より少しだけ戦闘経験が豊富でして」

「――心配無用みたいだ。ここからは本当の本気で行く」


 顔つきが明らかに変化し、今まで見せていた笑顔が消え去った。


「〈限界突破/リミット・ブレイク〉」


 心臓に集約した魔力が全身を駆け巡る。さながら高速で血液が体内を走っているようだ。


 ――まずい。


 危機を察したカムイが心の中で呟くのと、マルセルが大地を蹴るのは全くの同時だった。


「――なっ」

「フゥゥ」


 疾風の如く勢いで距離を縮めたマルセルが驚愕で目を見開く。鉤爪を振り下ろす途中で、本を頭上に投げたカムイが止めたのだ。


 空を切る音を鉤爪が奏でる。が、その全てが演奏を中断する――否、させられた。振り下ろせば確かに手痛い傷を与えられる鉤爪も、当たらなければただ鋭いだけの硬いものに成り下がる。


 手首や腕に、タイミングよく手を当てられて動作の悉くを阻む。どのように攻撃するかを、文字通り手に取るように把握しているかのようだった。


「しま――」


 近付けば何とか出来ると思っていた己が驕りを反省し、マルセルは距離を取ろうと後退りしようとした視界が揺らいだ。


「〈破裂する風撃/ウインド・インパクト〉」


 投げられていた本が丁度カムイの手に戻り、柔らかい地面に足を取られたマルセルを見据える。


 油断が招いた大きな隙。そんな相手に眼帯少年は容赦なく風の一撃をくらわせた。


「ぐっ、くぅ――ハアア!!」


 吹き飛ばされるも空中で体勢を立て直し、爪撃を飛ばして相手を牽制しながら再度接近を試みる。爪撃の迎撃に乗じて攻撃しようと言うのだ。


「〈竜爪撃〉」


 先程までとは異なり、今度の爪撃は青い色で視覚化された。つまり、目に見えるほどの濃密な魔力が込められた攻撃である。


「生半可な風では、俺の爪は止められないぞ!」

「これは厄介な」


 相殺させようと放った風の刃は意味を成さず、煙のように掻き消された。その光景に目を細めるカムイ。


「〈竜爪槍旋〉」


 爪が青白く光り、それは爪を包み込んで纏わせ長さを増した。

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