15.『鉤爪』
放課後。様々な部活を見て回り、しばし休憩中のカムイたち。
「かーっ、個性的過ぎるだろ!」
「僕もバンくんと同意見だよ。改めて魔法使いがどんな人たちなのかを知った気分……」
「鍛えが足りないなー、ふたりともー。なんならわたしが鍛えてあげようか?」
先輩方の態度が悪かったとか、決してそうのではない。むしろ、その方が楽だったのかもしれないとさえ思える。
親切な先輩方に、とても手厚い歓迎をされたが故に、彼らの体と精神をここまで疲弊させた。
時に善意は悪意よりも人を貶める――。
問題は人物ではない。その者たちが行う内容である。
「……実に面白い」
「その顔でよう言うわ」
疲れて項垂れるふたりまではいかなくとも、顔から生気が抜けかけている少年。そんな彼に容赦ない言葉を突き刺すアリスだった。
「何でおめえらふたりとも平然としていられるんだよ!」
半ば八つ当たりのバンが、平然と紅茶を啜るアリスと、元気が有り余るフィリアに問いかける。
「だって、どこも楽しかったじゃん」
聞いた方が馬鹿だったと思ってしまう、清々しいまでの分かりやすいフィリアの返答だった。
「わらわも同意じゃ。珍妙なものが多かったが、なかなかに楽しめた」
少年たちの疲労の原因たる光景を思い出して、仄かな笑みを浮かべるアリス。
少女たちを眺める少年たちは思う。――女子強えぇ、と。
「――お、いたいた」
カムイ一行を見つけ、駆け寄ってくる男子生徒がふたり。眼帯少年たちが、休憩後に立ち寄る予定の部活の人たちだ。
「君がカムイ・スメラギくんだね。で、君がケイ=ファルサくん」
「いえ……逆です。僕がケイ=ファルサで、こちらがカムイ・スメラギくんです」
自信満々でよろしくと挨拶する髪をオールバックにした男子生徒の間違いを、ケイが申し訳なさそうに訂正する。
いつ気付くか待つつもりだったカムイは、友人の優しさに苦笑した。
「こうして声をかけたのは他でもない。君たちの噂、聞かせてもらったよ。ぜひ、我らが武芸部に入ってほしい」
「こら、マルセル。まず名乗るべきだろうが。突然すまない。俺は武芸部の副部長ジーデン・ブランツ。こいつが部長の――」
「マルセル・ウィッキンドウだ。よろしく頼む!」
後先考えず突っ走るマルセルと、その後始末担当のジーデン。少ないやり取りでカムイはそう解釈した。
そして、武芸部とマルセルという名に聞き覚えがあった。今日回る部活について、事前に調べておいたがそれとはまた別にだ。
「マルセル・ウィッキンドウって言えば〈鉤爪〉の人だなぁ」
答えは少年よりも先にバンが言った。
武芸部部長マルセル・ウィッキンドウ。彼が使用する〈ブレイヴ〉に因んで通称〈鉤爪〉と呼ばれる、トップ10位以外でふたつ名がつけられた数少ないネームドのひとりだ。
世界には人間以外にも知性を持った生物が多数存在する。エルフ、ドワーフなどが有名である。彼らと人間は条約つきではあるものの、長い年月をかけて良好な関係を築けている。が、未だに敵対する種族もいた。それが――魔族だ。
「魔族に対抗する組織――レギオン。そこに所属するのに一番の近道と言われる武芸部の部長と副部長さんが、わざわざここまで勧誘ですか」
いつもより語尾が荒いカムイ。少々気が立っている相棒が暴走しないことをアリスは静かに祈る。
「その通りだ。しかし、その前に噂の実力が本物かどうか確かめたい。オレと一度、手合わせをしてほしい」
「お断りします」
「そうだろうそうだろう。君もオレと――何だって?」
持ち前の熱量が強すぎて、カムイの言葉を理解するのに時間がかかった。
「俺はレギオンになるつもりはありません。よって、武芸部に入るメリットがないんです。お誘いしていただいたことは感謝します。ですが、その上でお断りします。申し訳ありません。では、失礼します」
頭を下げるカムイに、マルセルは何も言えなかった。立ち去る少年の背中を求めて伸ばした手は虚空を掴む。
「――ごめんよ、ケイ。せっかくのチャンスだったかもしれないのに、きみには悪いことをした」
「ううん。何か理由があるんでしょ、仕方ないよ」
八つ当たりだと頭では分かっていても、納得出来ないことが人にはある。カムイが過去に経験した出来事は、人類を救う者たちの集まり――レギオンを嫌いにさせたのだ。
「ごめん。今日は先に部屋に戻るよ。残りの部活についてはこの紙に纏めてあるから……それじゃ」
回る部活の詳細を記した紙をバンに渡し、相棒を待たずにひとりでそそくさと帰っていった。
「そなたらには迷惑をかける」
「良いってことよ。誰にだって好きなものがあれば嫌いなものがあるさぁ」
「僕もバンくんと同じだよ」
「わたしもー」
心優しい友人たちに囲まれて、アリスまで嬉しくなるのだった。




