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誰も悲しませないバッドエンド  作者: 二重名々
or truth

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244/307

石見海乃・前

名鑑・二十七


五指登録・上の参・刀剣


転移の式で左手の中に日本刀を転移させる。

通常、転移の式が空間を繋ぐ時に開く穴は円形だが、この幻術では日本刀の形状とほぼ同じ形の穴を開ける。

よって、日本刀以外の余計な物まで転移させる事がほとんど無くなる。

また、転移の式は電力を多く消費するが、この幻術は穴が最低限の大きさである分消費量を削減出来る。

ただし、通常の転移の式と同じように繋ぐ座標間の距離が長くなるにつれて消費電力は増える。

五指登録で呼び出す場合、消費電力を気にする必要は無い。

開発者、使用者は秋野イズ。

転移の式を開発する際には絶対座標や空間の代入法に関するテンプレートが必要である。

解理は秋野イズに初めて触れてから幻術を扱えるようになり、幻想科学の研究機関から奪った情報の意味を理解する事が可能になった。

奪った情報の中に幻術の仕組みについての説明や転移の式のテンプレートが含まれており、解理は転移の式を作る事が出来るようになる。

解理が秋野イズに幻術の基礎を教え、テンプレートを提供した事で秋野イズは転移の式などの幻術を独自に開発していった。

秋野イズは自己流で幻術を作り出し、アポトーシスの幻視者に与えた。

この幻術も独自に開発された物である。

叩きつけるように、繊細に、高らかに、沈み込むように、鍵盤を指で押していく。


「全国ピアノコンテスト六歳以下の部、最優秀賞は、石見海乃さんです!」


両親は喜んだ。

五歳の少女にはとても出来ないような演奏をミス一つ無くやり遂げたからだ。

それは才能と努力の証明であり、我が子が優秀であると世に知らしめた事である。


「ウミノ!よくやったわね!」


「本当によくやった!流石俺の子だ!」


父はピアニスト。

母はバイオリニスト。

父の兄は有名なロックバンドのボーカル。

その息子、海乃の従兄弟はドラムの名手として注目されている。

そして海乃。

海乃は親族全ての才能を上回っていた。

扱える楽器は十数種類、歌も上手く、頭も良かった。

まさに期待の星。


「おかあさんやくそくおぼえてるよね?」


「ええ。昆虫図鑑でしょ?明日にでも買いに行きましょうか」


「うん!とびでるずかんシリーズの!」


海乃は音楽が嫌いな訳では無かった。

それ以上に科学に興味があっただけだ。


「はっはっは、海乃は本当に図鑑が好きだな。もう三十冊は超えてるんじゃないか?」


「さんじゅうにさつだよ。えっとねほにゅうるいとーはちゅうるいとーきょうりゅうとー」


「さ、さぁ、帰ろうね」


三十二種類言う前に手を引かれて歩き出した。


「はーい」




「それでね、今日はいよりがプリンをゲットしてね、食べようとしてたんだけど、隣の子がプリン落としちゃってね、いよりがプリンあげたんだよ」


「へぇ、優しいのね」


小学三年生の海乃は仲の良い友達二人の話を良くする。

その友達二人が賢い事は話を聞くだけでも分かった。


「今度二人が家に来たいって言ってるんだけど、良い?」


「良いわよ。でも五時までだからね?」


「うん!」


「それとお父さんとお母さんのスタジオには行っちゃだめよ?壊れやすい物がいっぱいだから」


「はーい」




「合唱には指揮者が必要です。クラスで一人、選ばなければいけません。さて、誰かやりたい人はいますか?」


「はいはーい!わたしやりたーい!」


海乃は率先して手を挙げた。


「はい、石見さんですね。他には?」


海乃の音楽の才能はクラス中、学校中が知っていた。

音楽系のコンクールや大会は全勝、家族は有名な音楽家。

とても他の者が立候補出来るとは思えない。


「では、石見さんに決定です。頑張って下さい」


「はーい」




「ウミノ!またこんなに汚して!」


「あははー、、、今日は山に行ったから」


「もう!泥だらけになるまで何したのよ!」


高校生の海乃は非常に活動的だった。

いつもの三人で実験、探索、研究の日々。


「、、、いい加減音楽か研究か選びなさい。どっちも出来るほど、仕事は楽じゃないわよ」


音楽の才能はとにかく磨かれている。

科学の才能は荒削りのまま。

どちらの良さも捨てがたい。


「うーんもうちょっと考えさせてー」


両親は道を選ばせてくれる。

だからこそ、どちらにも傾けない。


「もう三年生なのよ。いつまでそうやって先送りにするの?よく考えたいのは分かるけど、そうやって時期を逃しちゃ意味無いんだからね?」


「はーい」




「俺は研究者になろうと思う。科学を究めたい」


睦規は道を決めた。


「いーじゃないの、研究者。ワタシもそれにしよぉ」


伊寄も決めた。

音楽と科学。

どちらも好きだ。

上手く演奏出来て褒められるのは好き。

では、何故好きなのか。

褒められるから、それで嬉しいから、それでまた褒められたいから、それで喜んで貰えるから。

人に喜んで貰えるから、、、。

人に。

では、自分は。

思えばいつも受け身だったのかもしれない。

才能に導かれ、友人に背中を押され、進んできた。

自分の気持ちは、どちらなのか。


「、、、自分で決めないとだね」


無謀にも思える挑戦。

自分の気持ちに従い、人生を決める。

人のためではなく、自分のために。


「わたしも研究者になる!楽しそうだから!」

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