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誰も悲しませないバッドエンド  作者: 二重名々
or truth

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239/307

稲畑栄樹・後

名鑑・二十二


五指登録・下の参・裂風


鋭い風を発生させる幻術が登録されている。

破壊の式によって風の切れ味を強化している。

視認は不可能だが、手の位置からある程度方向を予測する事は出来る。

生まれた複数の風の刃は遠くまで飛ばず、基準点である手から二メートル程しか届かない。

風は粗く球状に破壊する。

大きな透明の球体の中をランダムに刃が飛ぶような状態に近い。

破壊力はそれなりに高く、下の壱で生成した氷や木材などは容易く切り刻む事が出来る。

生身でこの裂風を受ければ、即座に重傷を負い、戦闘不能に陥る。

開発者、使用者は秋野イズ。

「先生、お久しぶりです」


「卒業以来ね。七、八年くらいかしら」


六十歳を超えた女性。

幻想科学の研究をしていたのだが、栄樹が卒業した年に引退した。

学生時代の縁で幻術について助言を貰おうと連絡を取ったのだ。




「なるほど、脱色、脱水してから着色。、、、という事は幻術で水分を一度抜いて、、、」


「わざわざ幻術を使わなくちゃならないなんて、随分と特殊な花なのね」


プリザーブドフラワーは専用の液さえあればさほど難しくない。

ただ、栄樹が本当に作りたいのは枯れない花ではない。

もっと美しく、もっと永続的な物だ。


「ええ。人生をかけた一大プロジェクトなんです」




「ありがとうございました」


「力になれたようで良かったわ。あなたが私を頼るなんて事あんまり無かったもの」


稲畑栄樹は賢かった。

幻術を使えるくらいなのだから、賢いのは当然かもしれない。

それでも、賢い研究メンバーの中で人を頼らない者はいなかった。


「すみません、今回はかなり大変だったので」


謝る事ではないと老人は思った。

むしろ頼る事こそ誇るべきだろう、とも。




「冷凍保存とプリザーブドフラワーの組み合わせ。幻術があれば簡単だ」


外の空気を吸いながら駅に向かう。


「美しい存在を見ながら暮らす。とても、良い。家に帰れば麗しの女性が出迎えてくれる。ああ、とても幸せだろう。きっと姉さんも許してくれる」


何人かが鉄道の写真を大きなカメラで撮っている。

その界隈では有名なスポットなのだろう。


「おおっ、並んだ並んだ!」


二つの車両がたまたま横並びになった。

レールはこの後左右に分かれるためこの地点がベストらしい。

そんな集団を横目に見ながら少し歩いていく。


「やはりこの路線は完璧だ!俺史上一番!」


「何だ?」


さっきまでの幸福な想像はその声で完全に途切れた。

フェンスに近づいてみると、線路内に銀色のフレームが特徴的な眼鏡をかけた男が立ち入っている。

もちろん立ち入り禁止の場所だ。


「来た来た来たーっ!」


よく見ると、カメラは持っていない。

それどころか荷物らしき物は何一つ持っていない。

鉄道ファンだと分かるのは鉄道の絵が背中にプリントされたシャツを着ているくらいか。


「出発!進こぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」


この駅を通過する列車なのか、あまり減速していなかった。

この男は飛び出して、行ってしまった。

あの世という終着駅に。


「じ、自殺、、、」


しばらく呆然と立っていた。


「あ」


やっとの事で歩き出したが、すぐにある物が見えてしまい、また立ち止まった。

さっきの男の眼鏡だ。

フレームは歪んで、レンズは割れている。


「汚い物を見てしまった。早く清め、、、」


急に、目眩が。

意識が朦朧として、全身の力が抜けて。




「はい。ありがとうございました」


次に目を開けた時、最初に見たのは姉の顔だった。


「あ、起きた」


「お、ぼ、僕は」


「大丈夫?急に倒れたんだってね、アンタ。珍しい事に」


倒れた。

だが、ここは病院ではない。

事務所か、控え室のような場所のようだ。


「熱中症じゃないみたいだし、例の自殺を見たのが原因じゃないかって」


身体を起こし、原因を自分なりに考えてみる。


「、、、僕もよく分からない。そんなにショックでは無かったんだけど、、、」


「ま、大事には至ってないし、さっさと帰ろっか。車で来てるから」


姉は立ち上がり、ドアを開けた。


「、、、あんまり、心配させないでよ?今じゃアンタしか家族いないんだから」


姉に計画を話すのはやめておこうと栄樹は思った。

計画を実行する事に変わりは無いが、姉に心配はかけたくない。


「、、、自分だけの秘密にしておこう」


稲畑栄樹は呟いた。

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