稲畑栄樹・前
名鑑・二十一
五指登録・下の弐・火炎
炎を放射する幻術が登録されている。
構造は非常にシンプルで、発生した炎に制限の式で方向を指定しているだけである。
円が手の正面に浮かび上がり、その円から炎が噴き出す。
手の位置を参照して円を作り出すため、放射方向を調整するのは容易である。
火力や炎の性質は式に指定されてあるため、その場で変更出来ない。
攻撃に用いる幻術であり、数秒間でも焼かれると対象は死に至る。
秋野イズが最初に開発した幻術で、ほとんど解理に教わった基礎で構成されている。
秋野イズが両親を殺害した炎は幻術ではなく、ただの炎を登録した物である。
「はい、ですから次の特集は若き美貌の持ち主特集を!」
「却下」
「ええっ!?」
熱意ある若者。
有能で、力強い。
それなのに。
「どうしてですか!これほどまでに素晴らしい企画は無いでしょう!?うら若き少女達の元気な姿!この美しさを世に広めるチャンスじゃないですか!」
「あのねぇ、稲畑くん。この雑誌は二十代の女性がターゲットなの。その特集はどこの需要に応えた物なの?」
「もちろん、生きとし生けるものです!」
編集長はため息で酸素を補給する。
「はぁ、とにかく、却下。次は予定通り夏にぴったりの髪型アレンジで行くわよ」
踵を返して自分のデスクに帰っていってしまった。
「、、、はい」
「どうして、、、」
稲畑栄樹は実家暮らしだ。
ただ、両親は早くに亡くなり、二つ上の姉と二人で暮らしている。
「企画を通してもらえるくらいには実績を積んだと思っていたのに」
「アンタまた少女愛を見せちゃったの?」
「少女愛なんて単純な物じゃないっ!僕は究極の美を愛しているんだ!」
姉はソファに寝転がってスマホをいじっている。
「はぁ、仕事にそういうのは期待しない方がいーよ?趣味のための資金稼ぎだと割り切っちゃえば余計な事考えなくて済むし」
栄樹はまだ納得出来なかったが、姉の言っている事が間違いであるとまでは思わなかった。
「ま、合わない会社なら辞めちゃえば?どこかにはアンタを受け入れてくれる場所があるでしょ」
「、、、そうだね。色々考えてみるよ」
自室で一人、考える。
壁の少女達がにこやかに見守ってくれている。
「世間、需要、一般、美、女性」
思考の渦の中を編集長や姉、愛しの少女達が流れていく。
世の中の女性は様々だ。
編集長は仕事が出来、好かれているが、全盛期をとうに過ぎてしまっている。
姉に異性としての魅力は全く感じないが、家族としては尊敬しているし、信頼している。
この少女達はとても美しいが、ポスターなので直接触れる事が出来ない。
「、、、そう言えば」
スマホで検索し始める。
「うん、花屋。ここなら良いかもしれない」
噛み締めるように何度も頷く。
「次は先生だ」
電話の相手は大学時代に世話になった学者。
栄樹の才能を発掘し、幻術という技術も教わった。
「、、、先生。いくつか知りたい幻術があるのですが、、、はい、では明後日の十五時にそちらへ、、、はい、、、いや、今度」
稲畑栄樹に、やりたい事が出来た。
「プリザーブドフラワーを作ろうと思いまして」




