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誰も悲しませないバッドエンド  作者: 二重名々
or truth

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237/307

シャナノフ・ヒューガスト・後

名鑑・二十


五指登録・下の壱・氷花


氷の塊を足元から生み出す幻術が登録されている。

複数の尖った先端が攻撃対象に向かって伸びる。

伸びきった氷は巨大な花束のようにも見え、田島姉妹は氷花と呼んだ。

氷を生み出す方向は使用者によって決定出来るので、足裏を押して身体をずらし攻撃の回避に応用する事も可能である。

氷は硬く、大きく、低温で通常の氷の性質と大差は無い。

周囲の空気中の水分を使用して氷を生成するが、不純物や空気も巻き込むため氷の色は透明ではなく、白みがかっている。

攻撃、防御、回避など様々な用途があり、砕けた破片を攻撃に用いるなど応用範囲が広い。

幻術の開発者及び幻覚である五指登録の所有者は秋野イズ。

五指登録の下の壱に登録した後は、元となった幻術自体が使用された事は無い。

シャナノフはいつも通り大学から家にダッシュスクーターに乗って帰っていた。

やや暗くなり、ダッシュスクーターのライトが自動で点灯した。

いつもの平和な夜が訪れようとしている。


「た、け」


何か声が聞こえた。

当然、いつも聞こえている訳ではない。

人通りは少なくない道だが、何故かこの声だけがシャナノフの意識に飛び込んできた。

ダッシュスクーターを停止させ、辺りを見渡してみる。


「気のせいでしょうか」


再び発射しようとしたその時。


「たす、け」


もう一度聞こえた事で確信に変わる。

誰かが助けを求めているのだ。

シャナノフは日常的に人助けをしている。

他の人には聞こえない救難信号が聞こえるようになったのは、使命を果たせと誰かに言われたからか。


「どなたですかー!大丈夫ですかー!」


靴の重さでややよろけつつダッシュスクーターから降り、ヘルメットを脱ぎながら呼びかける。


「どこにいますかー!助けが必要でしょうかー!」


人目も気にせず叫ぶ。


「こ、こ」


微かに声が聞こえる。

耳を澄ませ、声の出どころを探す。


「この辺りから、、、」


何かの会社だろうか、トラックや重機が置いてある。


「失礼します」


人の敷地だが、緊急事態の可能性もある。

勝手に立ち入るのも許してもらいたいと考えた。


「ここ、し、た」


声は近い。

か弱い、か細い声が呼んでいる。

しゃがんで声を探した。


「なっ」


敷地内にある、大きなトラックの下に小さな女の子がいた。

頬には涙の線がはっきりと残っている。


「大丈夫ですか!怪我は無いですか!」


「あ、あ、ああしがいたい」


「脚を怪我しているのですね!大丈夫、今助けますから!」


五歳か六歳くらいの女の子。

金色のボブヘアーは砂で汚れている。


「引っ張りますよ。少し我慢していて下さいね」


「おおおねえちゃん。、、、も、もうひとり、いるの。むこうでね、ふたりでかくれんぼしててね、でもここからでっ、でられなくなっちゃって」


「大丈夫、大丈夫。お姉さんも必ず助けます!」


泣いている女の子をゆっくり引っ張りながらシャナノフは断言する。


「ち、ちがうの。おねえちゃん、おっきいおとこの、おとなのひとにつれていかれちゃって」


それを聞いてシャナノフはぎょっとして引く手が一瞬止まった。


「それはいつの事ですか!」


「え、ええっと、くらくなる、ちょっとまえ」


それはついさっきだ。

その男はこの会社の社員なのだろうか、それとも。


「、、、お姉さんはどのように連れていかれたのですか?歩いてついていったのか、抱き抱えられたり、掴まれたりしていったのか、など」


「ふくのう、うしろをてでつかまれて、それで、おねえちゃんがじたばたしてたんだけど、そのままつれていからちゃって。あたしここではさまってうごけなかったから、あの、どうし」


「あなたのせいじゃありませんよ。きっと助けて見せます。ですから、大丈夫です」


優しく微笑み、安心させる。

完全に身体を引き出し、抱えて道に出る。

たまたま通行人がいた。


「すみません!警察に通報してもらえませんか!女の子が誘拐されたらしいのです!あとこの子の手当てもお願いします!」


「ああ、えっと」


とりあえず何人かの通行人に聞こえるように言った後、シャナノフは走り出した。

女の子の話によると、男はこちらに向かっていったらしい。


「まだ近くにいるかもしれません!」


奥にある倉庫や資材置き場などを探してみるが、見つからない。


「もう車に乗ってしまったのでしょうか」


建物の近くに、タイヤの跡が残っていた。

地面が砂でなければ見つからなかっただろう。

近くに他の跡は無い。

跡を追ってみる事にした。


「あっ!」


タイヤ痕は比較的近くで終わった。

車が止まっていたのだ。

近くには複数の男。

見るからに悪そうだ。

車の中に少女は閉じ込められているのか。


「ちっ、よりによってこんな時にパンクかよ!」


「このっ、役立たずめ!」


パンクしているタイヤを蹴飛ばす。

シャナノフは近くのトラックの陰に身を隠し、様子を窺う。


「仕方ねぇ!車は置いていくぞ!」


車からはもう一人男が出てきた。

スーツケースと、、、銃身が長い銃のような物を持っている。

恐らく武器だろう。

そしてスーツケースの中身は。


「お姉さんはあの中、ですか」


計四人の、屈強な男を相手にする事は敗北に等しい。

つまり、真っ向勝負ではない方法を考えなければならない。


「せめてスーツケースから離れてくれれば」


そこで一つ思いついた。

近くに置いてあった短めの鉄パイプを思い切り投げ、地面に落とした。

大きな音が響き、男達の注目が集まった。


「今しかありません!」


同時に飛び出し、スーツケースに向かって全力で走る。

男達に気付かれた。


「何だオメェッ!」


両足の内くるぶしをくっつけ、直立のような体勢になる。

ただし走る勢いはそのままなので身体全体が地面から三十度くらいの角度だ。

内くるぶしには靴のスイッチがある。

そしてこの靴は幻術が組み込んである。


「何としても!助けます!」


ジェット噴射が靴底に吹きつけられ、身体が真横に吹っ飛ぶ。

重力などを考え、最適な角度を導き出し、幻術でスーツケースに向かって真っ直ぐに飛んだのだ。

ぶつかるように数メートルを飛び、スーツケースを抱えながら地面を転がった。


「がふっ!がはっ!?、、、すみません、痛かったですよね」


スーツケースを開けると、縛られた少女が窮屈そうに入っていた。

九歳くらいで、長いものの金色の髪は妹とよく似ていた。

涙の後までそっくりだ。

口を塞ぐテープや手足を拘束していたロープを外し、スーツケースから出してやった。


「オメェ、よくもやってくれたな!」


「何だ!警察の野郎か!」


シャナノフは少女を背中で隠すように立ちはだかった。

痛む身体を無理に突き動かし、何とか逃がそうとする。


「あなたの妹さんが助けを呼んでくれたんですよ。さ、このまま表通りに」


小声で言うと、スーツケースを盾のように構えながら道を進ませた。


「逃がすか!」


三人が銃を撃ってくる。

何とか掻い潜り、少女を表通りに逃がした。

だが、自分は一緒に逃げない。

少しでも時間を稼ぎたかったからだ。


「ぜってぇぶっ潰す!」


大きな銃を持っている男がその太く長い銃をシャナノフに向ける。


「僕はただの大学生。大した事は出来ません」


撃ち出されたのは銃弾ではなく、大きな矢。

コンパクトになったボウガンだったのだ。


「ですが、人を助けられて、良かったです」


シャナノフの心臓に矢が刺さった。

そのまま後ろの壁に縫い付けられる。


「かはっ!?かっ!?」


薄れゆく意識。

激しい痛みはサイレンを鳴らす。

どんどん近づいてきて。


「、、、つだ!、ご、な!」


「に、るぞ」




「意識、戻りました!」


目を開けると、眩しい光と何人かの声が入ってきた。


「は、は」


まともな声が出ない。


「君は運が良い。あと少し場所が違えば即死だったよ」


「へ、う」


生きていた。

心臓を矢に撃ち抜かれて、まだ。

そう、心臓を。


「どうだね」


自分の身体に違和感があった。

心当たりはある。

最後の瞬間の記憶。


「人工心臓の調子は」

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