シャナノフ・ヒューガスト・前
名鑑・十九
サテライトシールド
ミーセ・ラブゼアンが開発した幻術。
対象の周囲に五つの電気で出来た丸い盾を生み出す。
初期位置は頭上、右手側、左手側、前面、背面。
対象は自分以外にも設定出来、使用者から十二メートル以内なら盾を付与出来る。
五つの盾を複数人で分けるように付与したり、盾の数を増やしたり減らしたりする事は出来ない。
盾は対象を守るように自動で動く。
防御範囲に入った物が攻撃か否かは蓄積されたビッグデータによって判定され、学習が進むとより高精度の防御が可能になる。
盾は対象から一メートル以上離れる事は出来ないが、複数の盾が効率的に攻撃に対処するため大きな問題は無い。
同時に複数の広範囲攻撃を捌くのは苦手であり、対象を守りきれない事もある。
その場合は、盾による防御に頼りすぎず速やかにその場から離脱する事が推奨される。
盾の強度は電力の使用量によって変わる。
強度を上げるためには電力が必要であり、その電力は盾を出現させる際に使用者から譲渡される。
電力が尽きるか使用者の任意のタイミングの強制終了で幻術を終了する。
使用者はミーセ・ラブゼアンである。
シャナノフ・ヒューガストは所謂、良い人だった。
困っている人がいれば助けるし、悪い事をしている人には注意した。
さらに頭も良く、国内トップクラスの大学に入学した。
「ヒューガスト君。君は科学に興味があるかね?」
学長の誘いを受け、幻想科学の研究に加わる事になった。
しかし、才能は足りなかった。
「これ、読めるか?」
「いえ、何も分かりません」
ため息の意味が分からなかったが、落胆だけは分かった。
「いや、良いんだ。そう簡単には行かないって分かってたから」
一つ上の先輩に当たる、男性の研究メンバーは失望をシャナノフから隠すように言った。
「幻術はな、本当に賢いやつにしか作れないんだよ。努力じゃなく、才能の量で決まるんだ」
「私が卒業するまでに見つかれば良いんだけど」
最高学年のこの女性は選ばれた側だったらしい。
ただ、大学である以上ずっとはいられない。
きっとこの女性にも進みたい道があるはずだ。
「シャナノフくんにはこれを」
手渡されたのは一枚の紙。
中に意味不明の文字が記された円が描かれている。
「これは、、、何ですか?」
「これは式陣って言うんだ。幻術を作れないやつが幻術を使うための図形」
つまり、シャナノフにも幻術が使えるという事になる。
先輩が見せてくれた破壊の式や強化の式は非常にすごかった。
あれを自分も出来るなら、と期待が膨らんだ。
「流石に何でも出来る訳じゃないけど、まぁ使い方を教えるぞ」
「おおう!すげぇじゃんか!」
「わ、わっ」
不安定な体勢のまま地面から三メートル以上飛び上がる。
靴底に強いジェット噴射がぶつけられた。
「転移の式でロケットエンジンの噴射口を靴底の下に繋げたのよ」
着地は人任せ。
強化の式で身体能力が上がった先輩に受け止めてもらう事となった。
「ありがとうございます」
降りしてもらいながら礼を言う。
金色の長い髪から花のような香りがふわっと鼻の中に入っていった。
「お願い出来る?」
「えっ、は、はい!」
一瞬ぼんやりとしている間に何かを頼まれたようだ。
やや慌てた様子に男性の方の先輩は気付いたらしい。
さりげなく補足した。
「でも、その靴を履いたまま生活って重くて大変そうだな。三日間ずっとなんだし」
シャナノフは賢かった。
何を言おうとしていたのか即座に理解する。
「あ、ええ。ですが、これも研究のため!頑張ります!」
その日は、特殊な靴を履いたまま帰路についた。




