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誰も悲しませないバッドエンド  作者: 二重名々
or truth

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235/307

比田井分吾・前

名鑑・十八


エレクトリックロープ


ミーセ・ラブゼアンが開発し、使用している幻術。

掌から電気のロープを伸ばす。

エレクトリックナイフの応用であり、式の構造は近い。

エレクトリックナイフと異なり、触れても電流は流れず、形状パターンも一種類しか無い。

このロープは伸縮性があり丈夫である。

他の幻術と組み合わせて使う事も可能であり、ナイフ同士を繋いだり、コアとなる光球に接続して幻術に用いたり出来る。

この幻術をメインにして使う事は少ないが、一応同じように名前は付けられている。

幻術名を口に出して宣言するのは、幻術のイメージをより強固にし、素早く幻術を発動させるためであるが、逆に言えば口に出さずとも即座に集中してイメージ出来れば不要である。

そもそも、幻術に独自の名前を付けるのは幻想科学界では珍しく、ミーセ・ラブゼアンも便宜上名前を付けただけで、宣言してから使用する事はほぼ無い。

「お前は破門だ!二度とこの道場に足を踏み入れるな!」


師範は怒り、怒鳴り、追放した。


「俺も学び終わったからその必要は無い」


比田井分吾は様々な流派、様々な武術を学び、会得しながら旅を続けていた。

そして毎回他の弟子や生徒、さらに師範クラスにまで戦いを挑み、全員を会得した武術で半殺しにし、破門になる。

あまりに容赦の無い戦い方故に人道上勝ちを認められない。


「国内の武術は一通り揃った。次は海外か」


分吾がここまで強さにこだわる理由は一つ。

真剣勝負に勝ちたい。

勝つ喜びを知っていたからだ。

真剣勝負は自分と相手の力、技、心のみで戦う。

それらの中には生まれ持った特殊な能力、視界泥棒も含まれる。

見た相手の視点から見られる。

自分と相手の視点、二つを同時に処理しながら戦う術を身に付け、大抵の攻撃は読めるようになった。

もはや自分に勝てる者はいない。

そこまで考えて、一度試したくなった。


「いや、まずは闘技大会に出るか。レベルの高い、裏の大会に」


相手は平気で武器を使うかもしれない。

卑劣な技を使うかもしれない。

それでも分吾が真剣勝負で勝てば、間違いなく強さの証明になる。




「さぁ続きまして今大会が初参加!デビルトーナメントを生き残る事は出来るのか!はたまた無惨な死体になるのか!ひだいィィィィィィ!ぶんごォォォォォォォッ!」


やかましい紹介と共に入場する。

野次か罵声かも分からない怒号が鳴り響く中、リングに降り立つ。

ボクシングやプロレスのリングに近いが、レフェリーはおらず、ラウンド制でもない。

ただの殺し合い。


「その名を継ぐ者はアマゾンの覇者!受け継がれてきた暴力をここで途切れさせる訳には行かないぞ!デワンダ・チクリゴ・カワルチィィィィィィィィィィィィィィッ!」


対戦相手は南米系の男。

日本で行われる大会だが、海外の戦士も多い。


「マエはヨンイだった。キョウはユウショウするよ!」


分吾は何も返さない。

ゴングが鳴る。

どちらかがギブアップするか戦闘不能になるまで終わらないバトルの始まりだ。


「ヒヘッ!アラパイマソウコ!」


低い姿勢で両手を素早く突き出し、攻撃する。

手には獣の骨で出来ているようにも見える鋭い爪。


「分かりやす過ぎる」


相手の視界が使える分吾はそれを腕でいなし、伸びきった肘に膝蹴りをお見舞いする。

出来た一瞬の隙を使って上げていた右脚で踏み込んで距離を詰め、左手の掌で相手の顔を突き押す。

派手に転がったカワルチだが、すぐに体勢をたてなおし、ロープの跳ね返りを使って突進してくる。


「ジャガーインフリンター!」


ジャガーのように飛びかかる。

分吾はすぐさま伸びた腕を掴み、身体を反転させる。

相手の勢いを利用しつつ、一本背負いで叩きつける。


「ギヤハッ!?」


「この程度で四位か」


「くっ!?マケるワケにはイカない!」


「負けるだけで済むとでも?そういう所が甘いんだよ」


カワルチは最後の力を振り絞り、仰向けのまま分吾の脚を腕で締め付ける。


「アナコンダイストランぐ、、、」


分吾は相手が脚にしがみついているのを良い事に、後転をするように後ろに倒れ込んだ。

並外れた力と技術が無ければ成立しない技。

脚を締め付けたままのカワルチの身体が宙を浮き、反対側に叩きつけられた。

分吾は背中をリングにつけたままエビのように身体を折っている。


「脚だけの巴投げか。即席にしては派手なフィニッシュホールドだな」




優勝は簡単だった。

対戦相手は身体の骨を何ヶ所も折られたが、比田井分吾にまともなダメージを与える事は出来なかった。


「裏でもこの程度か」


比田井は軽く失望していた。

しかし、それも長くは続かなかった。


「比田井分吾と言ったね」


背後からの声に振り返ると、立っていたのは、、、男か女か分からない、人だ。


「誰だ」


「失礼、私は解理。幻視者だ」


分吾は一瞬立ち去ろうとしたが、解理の独特な気配が気になり、話を聞いてみる事にした。


「幻視者?何の事だ」


視線に不自然な所は無い。


「常人には無いおかしな能力を持つ人の事だよ」


常人には無いおかしな能力、心当たりがあった。

まさに自分の能力がそうだった。


「君は強い。だから新しいステージを知ってもらいたくなった。一つ上のステージ、一つ上の科学を」


「偉そうに。俺はもう誰よりも強い。その新たなステージとやらでは足りないくらいに」


解理は息を吐いた。

まるで子供が食事をこぼしながらぐちゃぐちゃと食べるのを見た時のように。


「は」


次の瞬間、分吾は尻もちをついていた。

理解が追いつかず、意味のある言葉を発せなかった。


「これは認識遅延という幻覚ですのよ。わたくしはただ貴方の身体を押しただけでも、それを認識するのに時間がかかるのです。大変な事でしょう?」


急に解理の雰囲気が変わった事や自分が遅れを取った事を忘れ、期待が膨らんでしまった。


「解理、俺を連れて行ってくれ。新たなステージに」


解理は上品に微笑む。

裏の世界の闘技大会にいるとは思えないほど、上品に。


「ええ。喜んでお連れいたしますわ」

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