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誰も悲しませないバッドエンド  作者: 二重名々
or truth

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233/307

田島数沙・前

名鑑・十六


フローズンスフィア


破裂すると周囲を凍らせるボールを作り出す幻術。

ゴム製のボールは野球の硬球とほぼ同じ大きさで、重さは硬球の約半分である。

周囲の温度を急激に下げ、空気中の水分を氷にする。

範囲は広くなく、着弾地点を中心に半径五十センチメートル程度の円形に凍らせる。

本来、急激に温度を下げるだけでは氷を大きな結晶には出来ないが、ボールの中に特殊な薬品が封入されているため、可能になっている。

凍らせるボールに幻術は用いられておらず、幻術の本体はボールの複製である。

幻術の名前はあくまでイメージに基づいて後から付けた物なので、本質や性質を必ずしも名前に含める必要は無い。

主な使用者は武蔵野睦規で、開発者は石見海乃。

白衣の内ポケットから、転移の式でボールを取り出したり、専用のバズーカから発射したりして使用した。

主な用途は対象の拘束だが、即席で氷を生み出すのにも使える。

「じゃあねー!」


走って家まで帰る。

早く帰って限定三百個の鉄拳粉砕饅頭を買いに行かなければならない。


「鉄拳!粉砕!鉄拳!粉砕!」


カバンを置き、財布を握りしめ、制服のまま飛び出す。

自転車で行くと混んでいる店の迷惑になるので己の足でダッシュする。


「「うわっ!?」」


曲がり角から男の人が飛び出してきた。

いや、飛び出したのはカズサの方だった。


「ご、ごめんなさーい」


立ち止まっている暇は無い。

身を華麗に翻し、巧みなステップで再び走り出す。


「もうすぐでお店!」


角を曲がると行列が見えてきた。

ざっと見て二十人。

最後尾も見えた。


「ふぅ!セーフ!」


前に並んでいた若い女性二人組にくすっと笑われる。

独り言が大きすぎたようだ。




「ゲットー!」


ゲンコツのような形の大きな饅頭。

お一人様一つまでだが、これほど大きな饅頭は何個も食べられまい。

振り返って列を見てみると、ちょうど今締め切られたようだ。


「あれ?」


ベンチに座り、包みを開け、まさに食べようとしたその時、目に入った。


「さっきの人」


ついさっき角でぶつかりそうになった男の人が列の最後尾にいたのだ。

正確に言うと、最後尾の一つ後ろ。

自分の前でちょうど締め切られた悲しい存在なのだ。

目に見えてがっくりと肩を落としている。

しかも、よく見たら自分と同じ服、つまり制服を着ている。


「あぁ、ついてない」


とぼとぼと歩き、近くのベンチに座ろうとしている。

カズサの座っているベンチの隣のベンチに座った。


「ゲッ!?濡れてる!?」


座ってすぐに飛び上がる。

茶色のベンチなので分かりにくかったが、何らかの液体がこぼされていたようだ。

しかも、結構な量である。


「あぁーっ、コーヒーか!」


よりによって制服のスラックスはシミが目立つグレー。

尻の部分の色が完全に変わっている。


「あの、これ使う?」


カズサは見ていられなくなって、スカートのポケットの中に入っていたハンカチを手渡した。


「え、あ、ありがとう」


ハンカチを受け取った男は濡れた部分拭き出したが、一通り拭いた後にぴたっと動きを止めた。


「あ、ごめん!人のハンカチで尻なんか拭いて!ごめんごめんほんと!洗って返すから!」


「いやいやいや、気にしなくて良いって!」


「いや!洗わせてくれ!ほんとに申し訳ないから!、、、あれ、そう言えばうちの高校の生徒じゃん!一年生?」


カズサは身長が低い。


「二年生ですーっ!、、、てことはそっちは三年生?」


「そう。田島淡二だ。それより、明日二年の教室にハンカチ返しに行くから、ほんとに洗わせてくれ!」


「ま、まぁ、そこまで言うなら」


カズサの方が熱意に折れる事になった。

ハンカチを大切に握りしめ、濡れた尻を気にしている淡二。


「ねぇ、鉄拳粉砕饅頭、買えなかったんでしょ?半分あげるよ」


「え、、、良いのか?じゃなくて、それは流石に申し訳ないって。買えなかったのは自分の責任なんだし」


淡二が覚えているのかは分からないが、カズサの方は覚えている。

自分がぶつかりそうになった事で淡二が後ろに下がった事を。

つまり、行列にギリギリ並べなかったのは、ぶつかりそうになった時のタイムロスが原因なのだ。


「、、、ワタシの責任も、ちょっとあるしね」


「え?」


聞こえない独り言に、淡二は思わず聞き返す。


「ほら!はい!」


手で大きな饅頭を半分に割り、淡二の方に差し出した。

有無を言わせぬ仕草だ。


「じゃあ、ありがたく」


二人一緒に饅頭にかぶりつく。

中にはさつまいもの餡が入っており、とてもボリューミーで満足感がある。


「もぎゅ、うん。食べるのは初めてなの?」


口に入れた瞬間の驚きの表情から、そう推測する。


「ああ。友達に教えてもらって。すごい美味しいよ、これ」


尻が濡れているからか立ったまま、美味しそうに饅頭を頬張る淡二を見て、カズサは笑みがこぼれる。


「な、何だ?」


「別に?表情がころころ変わって面白いなーって思っただけだよ」

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