解理・後
名鑑・十五
パイルアップ・ドキュメント
転移の式を使って大量の紙を封筒から吹き出させる幻術。
紙には式陣が描かれており、簡単な幻術を発生させられる。
式陣が描かれた紙には少量の電気を纏わせており、幻術を使用する際に消費するが、持続時間は非常に短い。
ただし、式陣自体は残るので、外部から電力を送り込めば幻術を使用出来る。
紙に描かれる式陣は数種類あり、複製の式で複製し、倉庫から転移させている。
使用する幻術の種類ごとに封筒が必要になり、臨機応変に対応するのにはあまり向いていない。
日常生活ではほぼ役に立たず、戦闘においても攻撃力、防御力共にやや不足しているので実用性が高いとは言えない。
使用者は滝井伊寄だが、開発者は石見海乃。
紙を好む能登時晴が紙を使った幻術を石見海乃に勧めた事によって開発された。
解理は一般家庭に引き取られ、心理的な成長を観測される事になった。
六歳、小学校に入学する時期である。
一般的な学校の、一般的な授業を受けるのだ。
「おいかいり!おまえ、おとこかおんなどっちなんだよ!」
「いや、どっちでも、な、ないって、いうか、、、」
「そんなわけないよ!おとことおんないがいきいたことないもん!」
「だ、だって」
「へんなのー」
「へーん!」
「「へーん!」」
「「「へーん!」」」
「「「「へーん!」」」」
子供は非常に残酷だ。
知らない物、知らない事、知らない人。
知らないから、自分とは違うから、残酷になれる。
相手の気持ちを考えるという能力が未発達なのだ。
「だって、だって、、、ほんとに」
「こら!みんな何してるの!解理さんを泣かせちゃダメでしょ!」
解理は涙をぼろぼろとこぼし、教室の床にシミを作っていた。
担任が戻ってくるのがあと少し遅ければもっとシミが広がっていただろう。
「だってかいりがうそつくからー」
「ぐす、う、うそじゃな、い」
「みんな?解理さんは本当に男の子でも女の子でも無いのよ?みんなとはちょっと身体のつくりが違うだけ。でも、ちゃんと一人の人でしょ?お話したり、動いたりできるし、泣いたり怒ったりもするのよ。だから同じように仲良くしてあげてね?」
担任の言葉で児童達は引き下がった。
しかし、解理は人を信用するまでに至らなかった。
「でもさ、あの子なんか怖くないですか?後ろに怪しい研究機関いるらしいですし。出来ればあまり関わりたくないなーって」
職員室の前をたまたま通りかかっただけだが、間違いなく担任の声だと分かった。
「プフッ。十二年ぶりだな。小学校入学の時以来か。どうだ、楽しかったか?」
「ああ。一般家庭を転々としてきたけど、結局一番ましなのはここみたいだ」
解理は全ての家庭で理解されなかった。
常に人から距離を取られていた。
「自分なりに考えたんだ。私は何のために生まれてきたのかって。でも、答えはまだ出ていない」
「プフフッ。そりゃ、この世のほとんどのヤツがそう思ってんだからそうなるだろうな。オレだってそうだ。考えたくもねぇけどな」
「プ、ふ、、、。オマエはちっとも変わらねぇな。性が無いのが若さの秘訣ってヤツか?ああ?」
「そんな若さよりも、私は天寿を全うしたいよ。死にたい訳じゃない。天寿を全うしたいんだ。それが出来る分、島先生の方がよっぽど幸せだよ」
元研究者は病室の窓から外を見た。
「解理、科学にはオマエが知らない側面がある。何十年かかってでも、たど、りつけ。絶対に役に立つ。オマエ、の生き、る、意味を、知る、役に、、、」
「何で死ぬ直前に言うんだ。先生」
もうその男は耳がほとんど聞こえない。
解理の言葉は一つも耳に入っていなかった。
本来なら話す事も出来ないような状態で言い残す。
「解理、お前は、良い実験動物だったよ」
「オレは」
コンビニの店員の手に触れた。
「私は」
会社員が落としたハンカチを拾った。
「ぼくは」
走り回っていた子供とぶつかった。
「あたしは」
ランニングをしていた高校生とすれ違った時に腕が触れた。
「俺は」
転びそうになった老人を支えた。
「何なんだ、これ。私が私じゃないみたいだ」
自分の能力に恐怖さえ覚えた。
最初は自身の能力だという事も分からなかった。
「幻想、科学、、、」
解理は幻想科学を知った。
「教えてほしい、もっと。私の知らない科学を」
あらゆる研究機関を回り、ついに見つけた手がかり。
半分尋問のような形で情報を得ていく。
解理は常人のふりをして生きてきたが、研究者相手なら一切手を抜く必要は無い。
暴行で捕まった男か、パワハラで訴えられた女か。
人格のコレクションから選び抜く。
「教えろ。空っぽの心を満たせるくらいの量の科学を」




