あるはずだった存在・後
名鑑・十三
アブソリュートタクト
指揮棒の強度を上げる幻術。
鋼鉄よりも硬くなるが、重量は変わらない。
指揮棒のボタンを押すと棒が伸び、幻術が発動する。
もう一度押すと幻術が停止し、棒が縮む。
また、使用者が幻術を使用可能であれば、指揮棒を振ると同時に風の刃を発射する事も出来る。
風の刃は破壊の式と制限の式で作られていて、ほぼ無色、半透明である。
使用者、開発者は石見海乃。
彼が進学したのは工業高校だった。
育ての親は高校にすらもったいないと思っていたようだが、今時中卒ではまともな仕事も無いので、仕方なく就職に役立ちそうな学校に行かせたのだ。
無難な高校生活を送り、約一年。
彼は街を歩いていた。
何の目的も無く、ただ暇を潰すために。
「なぁ、おい」
「あれって、、、」
騒ぎの方向を見ると、銀行に強盗が押し入っていた。
三人組の男で、黒い面を付けている。
一人は拳銃を振り回して客や職員を脅している。
一人は裏で金をバッグに詰めさせている。
一人は客の一人である少女を人質に取り、銃口をこめかみに押し当てている。
「早くしろ!死にたいか!」
銀行の外まで聞こえてくる怒鳴り声。
隠すつもりは無いらしく、中の様子が通りからはっきり分かる。
彼は思わず立ち止まり、遠くから見物していた。
すると、サイレンの音が近づいてきた。
「チィッ!第二プランにするぞ!」
パトカーが銀行の近くに停車し、警察官がぞろぞろと出てくる。
「おい警察ども聞け!人質を今から三人殺す!若いやつからだ!殺して欲しくなかったら要求を聞け!」
それから、何度も交渉が行われたが、人質は解放出来ない。
野次馬は現場から離され、彼も中の様子はよく見えなくなってしまった。
「今車が到着した!だから人質を解放してくれ!」
強盗からは見えない位置に機動隊員が何人も待機している。
建物から出た瞬間を狙って突入するつもりなのだろう。
「よし。一人ずつ解放してやる。おかしな真似はするなよ」
まだ少女は捕まっている。
表情は見えないが、きっとまだ恐怖で歪んでいるだろう。
一人ずつ人質が出てくる。
最後の一人、少女を連れ出すその瞬間に。
「ぐっ!?」
突入が開始され、建物の中では強盗達は取り押さえられていっただろう。
「うああああああああああああああああああっ!」
咆哮の後、銃声が一発。
遠目で見えたその光景は野次馬達全員に見えてしまっただろう。
「し、失敗だ」
人質にされていた少女は助からなかった。
それから、彼は何度も事件に遭遇した。
校内で起こったいじめと、それに伴う自殺。
育ての親が上手い話に騙され、有り金のほとんどを失った。
何とか最低限の生活をするのが限界だったが、彼は不自由を感じなかった。
不自由に慣れすぎて感覚が麻痺していた。
同時に、人が簡単に死ぬ事を知ってしまっていた。
こうなってしまったのは、全て人という存在のせい。
彼は人に罰を与えたくなった。
「もっと危機感を持てよ。だからオマエらは死ぬんだよ」
手作りの爆弾。
街中に仕掛け、準備完了。
「ま、オマエらの自業自得。オレは捌きを下しただけだ」
周防頼我は、笑いながら消えた。
「これはもう要りませんから、書き換えた後の事に戻りましょうか」




