あるはずだった存在・前
名鑑・十二
ブレイズフィスト
石見海乃が作った幻術。
使用者の右の拳に炎を纏わせる。
使用者の意思を検出し、燃やしたい物以外に炎が燃え移らないようになっている。
炎が発する熱は、燃え移らせるかどうかと別に判定され、対象に熱だけ与えたり、熱を感じさせずに燃やしたりする事も可能である。
しかし、出力は小さいため、主に威嚇や護身のための幻術である。
使用者は能登時晴。
能登時晴は、炎が格好良いという理由で石見海乃に作成を依頼した。
日常生活における実用性は低い。
彼は両親の声を覚えていない。
産まれて間も無く両親は交通事故で他界。
運良く生き残った子供は、本当に運が良かったのだろうか。
親戚に引き取られ、育てられたがお世辞にも可愛がってもらえたとは言えない。
子供の彼でも分かる、嫌な家庭。
暴行こそ無かったが、暴言など、かなりの不当な扱いを受けた。
いつも学校から帰ると逃げるように外出し、出来るだけ遅く帰る。
十四歳の時だ。
夜七時頃、公園で口論をする女二人を見かけた。
「元はと言えばあんたのせいでしょ!あんたがあんな所で急ブレーキ踏むから!」
「はぁ!?あそこでブレーキ踏まなかったら右にぶつかってたでしょ!?そうなってたらアタシ死んでたんですけど!」
次第にエスカレートしていき、ついには取っ組み合いになった。
彼がちょうど公園を通り過ぎた時聞こえたゴツンという音。
振り返ると女は一人しかいなかった。
「はぁ、はぁ、やった。やっちゃった」
息が上がり、肩を上下させている女と目があった。
「み、見た、見たの?見られたっ!」
女が飛ぶように向かってくる。
急いで逃げる。
一瞬見えたのは、もう一人の女が鉄棒近くの砂場に倒れているという光景。
とにかく急いで逃げる。
体力的に有利な彼がどんどん距離を離していくが、相手はまだ見えている。
次の角で曲がる。
「待ちなさい!待て!」
女の気配がより危険な物になったのを感じ、スピードを上げる。
点滅する青信号を渡り、人通りの多い道に。
「待ちなさ」
遅れてやってきた女は、赤信号にも関わらず躊躇せず飛び出した。
生憎、通りかかったトラックに轢かれ、吹き飛ばされた。
騒ぎが起きつつある中、彼はとにかく歩いた。
人が人を殺すのを見た。
その人も轢かれて重症か、死。
心がざわざわとして、正気を保っていられなかったので、真っ直ぐ家に帰るという、普段なら絶対しない選択をした。




