サドリア・バナガルト・前
名鑑・十一
エレクトロバブル
田島姉妹が生み出した奥義。
使用者二人の四つの掌の間にシャボン玉を生み出す。
シャボン玉は周囲の電気を吸い取り、専用の幻術による防御がなされていない限り、全ての電気を内に取り込む。
吸収範囲を広げる事で蓄える電力量を増やせるが、円形にしか範囲を広げられないため、不都合が起きる可能性がある。
吸収強度を上げれば、より微弱な電気も吸収出来るようになる。
ただし、強度を上げすぎると、人体に悪影響を及ぼすため、注意が必要である。
電気を溜め込んだシャボン玉は同極の磁石のように掌から強く反発する。
反発を利用し、掌の角度を調整し、前に弾き出してシャボン玉を発射する。
バランスを崩せば誤った方向に発射してしまうため、吸収にかかる時間も含め、ほとんど動けない。
発射速度は最大で約時速百三十キロメートル、最小で約時速二キロメートルであるが、繊細な調整は困難である。
発射するシャボン玉には式を埋め込む事が出来る。
ただし、必要な条件を満たす式でなければならない。
破壊の式や転移の式は埋め込めるが、材料が必要な複製の式は埋め込めない。
座標や強度など、式に必要なデータは使用者の脳波を自動で検知し代入する。
また、発射された後は、衝撃によって展開し溜め込んだ電力を使って幻術を発動するが、使用者が任意のタイミングで強制的に展開する事も出来る。
手元から離れた後も、展開するまでは電力の吸収を続けるため、幻術で防御するのは非常に難しい。
主な使用者は田島姉妹だが、解理は五指登録を用いて現象を登録、式を複製し、双腕追加によってエレクトロバブルを使用した事があった。
「サドリア・バナガルト!イングランド出身!二十二歳であります!」
サドリアは英国軍の兵士になった。
国のため、世界のため、戦いたかったからだ。
戦いの意志の他にも持っている物があった。
その力とは、霊魂の軍隊。
その場にある霊魂を人型にし、動かせるという能力だ。
自分以外にそのような能力を持つ者は一人もいなかったし、その方が良いと思っていた。
強い信念が無いのに力だけを持った者は、愚かだからだ。
「初の戦場はどうだ?バナガルト」
「酷い臭いです。土埃も舞っていて、とても汚らしいと思います」
隊長は失礼にも思えるその発言に笑って返した。
心まで笑っていたのかは不明であるが。
「はっはっ。それは、そうだな。戦場に居心地の良さを感じる奴がいれば、そいつは間違いなく狂人だ」
爆発音や、破裂音が遠くから聞こえる。
電気モーターの作動音は近い。
「大抵の奴は戦場になんかいたくない。だが、大切な人を戦場に行かせたくないから、代わりに自分が戦場にいるんだ」
サドリアは黙って聞いている。
「でも敵も同じ事を思っているだろう。大切な何かを守るために殺しあっている。俺も大切な人がいる。母と父と、妻と息子と娘二人だ。大切な人のために、同じような事を考える敵を殺す。殺す以外の選択肢が無いから戦場は汚いのかもな」
転がっていた歪んだ銃弾が他の兵士に踏み潰され、地面にめり込んだ。
「私は、隊長ほど優れた兵士はいないと思います。敵の将を何人も討ち、味方の被害も最小限に抑えてきました。きっと大切な人を守るという任務も完璧にこなせます」
「はっ。当然そのつもりだ。、、、さ、行くぞ」
サドリアは自身の特殊な能力はほとんど用いない。
人型に具現化する事は無く、霊魂がどこにどれだけあるのかが感覚的に分かるだけだ。
「バナガルト!伏せろ!」
炸裂榴弾が撃ち込まれたが、隊長がいち早く気付いたおかげで巻き込まれずに済んだ。
「あの木の裏だ!撃て!」
サドリアを始めとした数人の兵士が一斉に銃弾を放つ。
一瞬呻き声が聞こえたが、その後は静かだった。
「よし。このまま突入するぞ!量より質だ、七人ついて来い!」
隊長を含む八人で敵が拠点としている建物に踏み込む。
近代の戦いでは珍しい、銃撃戦だ。
「階段だ!」
二階に進む時には四人になっていた。
「五人来るぞ!」
電撃爆弾が飛び交い、また味方の兵士が沈んでいった。
「二人か」
五人を突破した後には隊長とサドリアだけになっていた。
「私は死ぬつもりはありません。ここで殺しきりましょう」
「ああ、行くぞ!」
三階、最上階だ。
敵のリーダーと思われる屈強な兵士が大きな機関銃を構えていた。
「死にやがれ!」
銃弾の嵐。
敵の部下が投げた電撃爆弾に銃弾が当たり、空中で電撃が暴発する。
「おらあああああっ!」
隊長と共に部下を全員殺しきり、後は敵のリーダーが一人いるのみ。
「な!?バズーカ!?こいつ、建物ごと!?」
弾切れの機関銃を捨て、バズーカを机の下から取り出した。
「じゃあなあぁぁぁぁぁぁぁっ!」
位置取りが悪かった。
サドリアに大きな被害は無く、上官と敵は崩れた建物の下敷きになった。
「い、今助けます!」
状況を理解するのに一瞬、動けなかったものの、すぐに救助に向かった。
瓦礫で身体は埋まっており、手しか見えない。
瓦礫をどけ、手を引き、助け出そうとする。
「あ」
引っ張っていたその手は隊長の手ではなかった。
敵のものだ。
すぐに手を離し、他の場所を探そうとする。
しかし、見えてしまった。
「あ、ああ」
霊魂だ。
ついさっきまで無かった場所にある。
逆に今引いていた手の持ち主の所には霊魂が無い。
敵は生きていて味方は死んだ。
「結局、質がどれだけ良くても、死ぬんじゃないですか」
サドリアは霊魂に意識を集める。
霊魂は人の形になるが、隊長の面影は無く、漠然としたただの人の形だ。
「質より、量」
近くにある全ての霊魂を人型にし、まだ生きている敵、たった一人にけしかける。
「私ならそれが出来る」
敵兵は押しつぶされ、同じように霊魂となった。
「サドリア・バナガルト大佐。長らく、お勤めご苦労様でした」
「ああ。、、、最後に一つ言っておく。個の力は非常に小さい。小さい力を合わせて大きな敵に立ち向かえ。圧倒的な量に勝てない物は無い」
サドリアが軍から引退したのは七十歳の時であった。




