シモン・バルジオキ・後
名鑑・八
インビジブルポケット
基本に忠実な転移の式。
使用者の意志を読み取り、自動で座標を代入する。
二つの座標を繋ぎ、物体が通れるようにするが、消費電力は多い。
穴を大きくしたり、長く開けたままにしたりするとより電力を使う。
穴は円形で、輪郭は光の屈折率が変わるため色が周りとずれている。
主な用途は物体の輸送。
田島姉妹は、倉庫にいくつもの道具を並べて、絶対座標を用いる事で置かれた状況に即座に対応した。
「明日の朝四時にまた来るわ。それまでに支度を済ませなさいね」
「いや、すぐ行く」
「五分で済ませる」
二人は暗殺者に背を向け施設の建物内に戻っていった。
夜の庭に残された女はひどく拍子抜けと言った感じで立ち尽くしていた。
「これも才能なのかしらね」
「ところで、あんたの名前」
「まだ聞いてなかったな」
夜中ではあるが、暗殺者が堂々と表の道を歩いている。
「本名は教えてあげられないけど、通り名なら」
女は目だけで周りを確認した。
「終わり屋」
「オワリヤ、か」
「フリーランスだけどね」
「殺しにも色んな形態があるんだな」
三人は小さな雑居ビルに行き着いた。
綺麗でもなく、汚れてもいない、特徴の無いビル。
記憶に残らないための仕掛けの一つだろう。
「この中に技術者がいるわ。ここで幻術を教えてもらいましょう」
「「分かった」」
バルジオキ兄弟は異常なくらい業界に馴染んだ。
殺しに抵抗が無く、身体能力は高く、センスもある。
心技体を併せ持つ者が二人。
最凶の兄弟が傭兵として名を挙げ始めたのは二人が二十歳の頃だ。
「「アンチメタル!」」
あらゆる、鉄分を含む物質を寄せ付けない幻術。
銃弾、刃物、さらには返り血まで弾き返す。
この幻術であらゆる戦場を駆け抜け、敵を壊滅させ、雇い主を勝たせてきた。
今回の雇い主はヨーロッパを中心に活動する犯罪組織。
その敵組織にも話を持ちかけられたが、報酬が高いこちらに味方した。
「あと二百万ユーロで勝てたのにな、あんたら」
「ケチったヤツが負ける。それが分かっててケチるのはバカとしか言いようが無いよな」
南米系の敵組織のボスが知らない言語でまくし立てるが、命乞いなのか懺悔なのかも分からない。
「そうだ、翻訳機」
上着越しに翻訳機のスイッチを入れる。
「だから三百万出す!だから見逃してくれ!」
「あーいや」
「金自体には興味ねぇんだ。どれくらい出すか試してるだけ」
「や、やめろ、やめろ、やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」
「「悪いな」」
その日、一つの組織が抗争に負け、壊滅したという。




