シモン・バルジオキ・前
名鑑・七
ナックルエレキ
拳から一、五センチメートル離れた位置に電気でバリアを張る式。
破壊の式の攻撃力を下げ、代わりに硬度を上げている。
主な使用用途は、殴打時の拳の保護や、攻撃からの防御用の盾である。
代入の仕方によって、硬度などを上げたり、バリアの数を変更したり出来る。
応用が効かなくなるが、式陣を使って式を固定する事も可能であり、強化の式や転移の式と併用する事でより高い戦闘力を得られる。
いつか、どこかで生まれ、育った兄弟。
様々な施設を転々とし、たまに引き取られてはまた帰ってくる。
「三日で返品かー。記録更新には届かなかったな」
「ちゃんと日本語で罵ってやったのに」
シモン・バルジオキとダッケルス・バルジオキ。
十五歳の二人だが、いくつもの言語を操る事が出来た。
生まれつき頭が良かったおかげだと二人は思っている。
施設や里親を転々としていてはまともな教育は受けられないが、それでも賢かったからだ。
ただし、世間的には問題児と言われているだろう。
「よし!じゃ始めるぞ!」
「二対十!これならハンデになるだろ!」
他の子供を巻き込んでドッジボールで遊ぶ。
ただドッジボールが強い子供なら問題児とは言えない。
問題はその戦い方。
「おらっ!」
「わあっ!?」
「ほいっ!」
「ぎゃっ!?」
大した言葉も発していないのに究極の連携で一方的に内野を減らしていく。
男子、女子、年上、年下、関係なく蹂躙する。
誰もバルジオキ兄弟に遊びで勝った事は無い。
「うああぁぁぁぁぁぁん!」
幼い男の子にも全力でボールを当てる。
大人達に何度叱られたか。
ただ、いじめているつもりはない。
「オレたちに勝てねぇのが悪ぃんだよ!」
「弱いヤツが負けるのは当然だろ?」
そんな問題児に転機が訪れた。
施設の門の近くから外を眺めていた時に二人は見てしまったのだ。
異常に速く走る女の掌から電気の剣が飛び出し、高級車から出てきた初老の男の心臓を貫いたのを。
通りを挟んでいたが、パニックになったのははっきりと分かった。
「し、死んだのか」
「日本は平和だって聞いてたけど、今の見たらそうは思えねぇな」
女は去り際に二人の方を見たのだが、見られた二人は視線に気付かなかった。
その日、兄弟は興奮して寝られなかった。
二人は音を立てないように寝室から抜け出した。
どうしても暗殺の現場が気になったからだ。
「あのおっさん、政治家だと思うぜ。汚職とかしてそうな顔だったからな」
「いや、資産家かもな。金持ちってだけで狙われる理由になるし」
静かな夜の庭。
前触れは無かった。
「「な」」
二人の目の前に昼間見たあの女が現れた。
音は無く、どこから出現したのかも分からなかった。
「静かな夜ね」
素人のシモンとダッケルスにも分かる、殺気。
「叫んだりして邪魔しちゃだめよ」
その女の顔は吸い込まれるような美しい笑顔だった。
「口止め、いや口封じか」
「見ちまったからな、がっつり」
ただ、二人とも生を諦めた訳ではない。
「それよりも、オレたちもさ、あんなカッコいい武器欲しいんだけど」
「どうやったら手から剣が出るんだ?」
死よりも先に、好奇心。
初めて勝てないと思った相手。
「これは幻術と言うのよ。頭が良い人にしか使えない殺しの技」
女は掌から青白く光る細い刀身を出した。
「おおっ!頭の良さなら自信あるぜ!」
「なあっ!一回やらせてくれよ!」
「ふふ、肝が据わった双子くんね。気に入ったわ。簡単な適性診断だけはやらせてあげる。適性があれば殺さないで取っておく事にしましょう」
「よっしゃ!」
「早く早く!」
明かりがほとんど無い中で開けられた電子機器の画面だけが光を放つ。
浮かび上がった、画面を覗き込む二人の顔はまさしく子供。
画面には無数の数式が並んでいる。
「これが読める?適性が無い人は理解どころか、読む事すら出来ないらしいんだけど」
「えーっと、破壊?あと制限、かな?」
「何語なんだこれ?知らないのに読めるぞ?」
女は一瞬驚いたが、すぐに顔を戻した。
「、、、おめでとう。生きて、殺す権利を得たのよ」




