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誰も悲しませないバッドエンド  作者: 二重名々
or truth

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223/307

無くなった存在・後

名鑑・六


制限の式


何らかの現象を制限する式。

範囲、速度、温度など、様々な要素を制限する出来る。

ただし、この式のみでは機能せず、他の式と組み合わせて使う必要がある。

インパクトオルガンは、音が響く範囲を制限し、制限範囲内に何らかの物体が侵入した際に音の衝撃波をぶつける。

五指登録の上の壱は、一定以上の速度を持つ物体が範囲内に侵入しないように、触れた点のみを高硬度の破壊の式で弾き返す。

応用が効くため、多くの発展的な幻術に使用されている。

データと実際に起こる現象の間に乖離が起こらないようにするため、幻想科学の研究者が配布している世界共通のサンプルデータの使用が推奨されている。

破壊、強化、転移、治癒、複製と並び、幻術の基本式とされる。

絵里は夫を亡くした。

共に歩んだ時間は短く、奪われた未来は長かった。


「こんなの!ひどすぎる!まだあんなに若かったのに!これから、これからだったのにっ!」


絵里は夫の詳しい死因を知らない。

事故から三日経つが、まだ説明が無い。

説明責任を果たしていないのに、世間もメディアも批判すらしない。

おかしい。




「なんで何も教えてもらえないんですか!遺族には知る権利があるでしょ!」


怒りが机を叩く。

夫の勤務先に殴り込んだが、この件の担当者は、説明出来ないの一点張りだ。


「残念ですが、機密事項が含まれるため説明出来ません」


「私が機密事項を言いふらすとでも!?むしろ言いふらされても仕方ないでしょそんな態度じゃ!夫の最期を詳しく教えてくれたら何も言わないから!ねぇ!」


詰め寄られて縮こまる担当の男。

しかし、譲る気は無いようだ。


「、、、もし、あなたがその世界の事を知ってしまえば、彼らを呼ばなければならなくなってしまいます。彼らは手段を選びません。お願いですからここは引いて下さい」


「彼らって誰!人の死より怖い物がまだあるの!?」


「ええ。天才しか知る事が出来ない怖い世界が」




「せめて、子供でもいればね」


絵里は追い出されたが、それからどうやって、どこを、どれだけ歩いたのか覚えていなかった。


「子供が何人欲しいかだって、話したよね、、、」


俯いたまま歩いていると、肩が建物の壁にぶつかってしまった。

弾かれるように下がると、そこが幼児用英語教室だという事に気付く。

中には楽しそうに学ぶ子供達と講師が。


「あるはずだった、けど無くなった幸せ」


また歩き出す。

独りでブツブツ呟きながら。


「短く見積ってもあと四十年。長ければ七十年くらいかも」


大きな川、大きな橋。


「まだ三日前なのに、もう待ちきれない」


いつの間にか降っていた雨で淀んだ水の流れは、ひどく共感出来た。


「来世ではもっと長く、永く」


脚の感覚は無い。

あるのは一瞬の風と、水の冷たさと、期待感。


「一緒に生きたい」


視界はゼロ。

聴覚も機能しない。

もちろん嗅覚も味覚も意味をなさない。

痛みはそろそろ無くなる。


「ハッピーエンドで終わりたかった」

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