『一条山開拓記』閑話:ちゃっかりルポライター天ちゃん
【前書き】
※本エピソード(一条山開拓記)は『Bar風花』本編の設定をベースにしたスピンオフ/パラレルストーリーです。
※本編との時期・時系列に一部独自のアレンジやIF要素が含まれますが、白黒赤三人娘と結社長の賑やかな日常をお楽しみください!
※第十六話のアフターとなる今回は、現場の汗を言葉に乗せて届ける、ルポライター天ちゃんのちょっとちゃっかりしたお話です。
夜の『Bar風花』、琥珀色の柔らかな光が満ちる静かなカウンター。
美和の前に置かれた一枚の決定通知書から、一条山の夜がまた賑やかに転がり出します。
全国誌のカラー見開きに色めき立つ三人娘と、すかさず完璧な契約書を差し出す敏腕社長。
グラスに浮かぶ丸氷のように、澄みきっていて、少し可笑しくて、じんわり温かい。
愛する妻と仲間たちを巻き込んだ、頼れるルポライターの「四方よし」な晩酌をどうぞごゆるりとお楽しみください。
第一章:カウンターに届いた新連載
「美和さん、見てごらん。大手出版社から、来期スタートの新連載の正式な執筆依頼書が届いたよ」
夜の『Bar 風花 -kazahana-』。
アンバー色の照明が優しく照らす鉄刀木の一枚板カウンターに静かな紙擦れの音が落ちた。
天が少し誇らしげに差し出したのは業界で高いシェアを誇る『月刊 建設&山林イノベーション』の連載企画決定通知だった。
表題——
『十三トン油圧ショベルと一分単位残業手当で拓く! ゼロから始める完全ホワイト山林開拓記』
(著:櫻庭 天)
「まあまあ……! 天ちゃん、連載決定おめでとう。ルポライターとしての本領発揮ね」
美和がワインレッドとアンバーの異色瞳を優しく細めた。
お祝いとして天の前に大ぶりの丸氷を浮かべたバカラのロックグラスを音もなく滑らせる。
注がれているのは豊かなピート香と甘やかなシェリー樽の余韻が立ち上る極上のシングルモルト——『ボウモア18年』だ。
第二章:三人娘の熱烈アピール
その様子を隣のローチェアーで美和特製辛口ジンジャーエールを飲んでいた葵がガタッと勢いよく身を乗り出した。
黒髪ウルフロングを揺らし二十歳の現場監督の瞳が爛々と輝く。
「マ、マジっすか天さん……!? うちのコンマ四五の爪バケットの操作テクや、高強度土間コンの打設と金鏝仕上げの手順も全国誌に載るっすか!?」
「もちろんだよ、葵ちゃん。葵ちゃんのミリ単位のレバー操作の写真が見開きカラーで載るし、現場監督としてのインタビューも入るよ」
「……っ〜〜〜〜!! 現場猫ステッカーを貼ったうちのDioと、専用社用車のモモタロウサンバーも写真の端っこに写り込ませてほしいっす!!」
「あはは! いいねぇ天ちゃん。あたしの愛車の整備や、ナタのライン読みも一ページもらえるかい?」
ポニーテールを揺らした最年長二十一歳のまひろがハスキーに笑った。
すると十九歳の遥花も負けじと両手を大きく広げて声を張り上げる。
「ウチのCBRと、特用林産物加工におけるHACCP衛生管理の鬼指導も全国デビューッスよーーー!! 脳汁ブースト止まらないッス!」
第三章:完璧な契約と四方よしの美酒
賑やかな歓声に包まれるカウンター端の席からバインダーを抱えた一条結がおっとりとタレ目を細めた。
上品な身のこなしでふんわりと歩み寄ってくる。
「ふふっ、天さん。我が一条山農林の現場ノウハウと企業秘密の取材執筆にあたりましては、正式な社外広報業務委託契約に基づき、情報開示および取材協力費として原稿料の十五パーセントを会社へ還元していただきますのえ〜♪」
「ははは、さすが結社長、契約管理も完璧だね。でも会社の正式なPR事業として取材にかかる燃料代や愛用の一眼レフの機材費を業務経費として計上してもらえるから、個人として持ち出しゼロで動けるのは本当に助かるよ」
「……てんちゃん……みゆきも……きじに……でる……?」
冷ました焼き芋をモグモグしていた深雪が黄金色の瞳をパチクリと瞬かせた。
天は温かく微笑んで小さな頭を優しく撫でる。
「もちろん。一条山の『名誉現場監督兼焼き芋大臣』として、巻末のコラムに可愛く載せるよ」
「……ん……! みゆき……むてき……」
「ふふっ、原稿料が入ったら、またみんなで美味しいものでも食べに行きましょうね、天ちゃん」
「そうだね、美和さん。最高のルポを書くよ」
現場の取材費は会社の広報費として綺麗に処理される。
連載原稿料はしっかり手元に入り会社の知名度が上がって補助金申請の信用度も跳ね上がる。
美和への美味しいご褒美スイーツの原資も確実に増える仕掛けだ。
柔らかな光の層が仄かに浮かび上がらせる店内の静寂。
頼もしいルポライターは愛する妻と仲間たちの笑顔を見つめながら静かにグラスを傾けた。
【あとがき】
閑話をお読みいただき、本当にありがとうございました!
第十六話のお給料日エピソードの裏で、「そういえば天ちゃんは何をしていたんだろう?」と思われた方もいらっしゃるかもしれませんが……ご覧の通り、本業であるルポライターとしてしっかりちゃっかり腕を振るっておりました(笑)。
現場で泥にまみれて働く三人娘の技術や愛機を全国誌の舞台へと押し上げ、結社長と隙のない広報契約を結んで会社にも正規の利益を落とし、しっかり手元に残した原稿料で最愛の美和さんへ極上のスイーツを持ち帰る——。
誰も傷つかず、誰も損をせず、関わった人たち全員が誇らしく笑顔になれる。
そんな天ちゃんならではの、穏やかで抜け目のないプロフェッショナリズムと愛妻家ぶりをお届けしたくて筆を執りました。
深雪ちゃんの「みゆき……むてき……」コラムも、きっと読者のハートを撃ち抜いてくれるはずです。
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それでは、次回も一条山の仲間たちと一緒に、ご安全に!
天照(Bar風花)




