『一条山開拓記』第十五話:本日はお給料日どすえ〜✨️
【前書き】
※本エピソード(一条山開拓記)は『Bar風花』本編の設定をベースにしたスピンオフ/パラレルストーリーです。
※本編との時期・時系列に一部独自のアレンジやIF要素が含まれますが、白黒赤三人娘と結社長の賑やかな開拓スローライフをお楽しみください!
※土木・重機・林業・労務制度、そしてお酒やお料理に至るまでプロの描写にこだわっておりますが、まずは肩の力を抜いてお付き合いいただければ幸いです。
秋の青空が高く澄み渡る、一条山の朝。
ピカピカに磨き上げられた重機たちの前で、残高三十八円の遥花が祈りを捧げ、二十歳の現場監督・葵が息を呑む。
泥にまみれ、汗を流して山を拓いてきた少女たちへ、歩くスパコン社長・一条結が手渡す「正当な労働の対価」とは——。
昼のホームセンターでの豪快な爆買いドライブから、夜の『Bar風花』で味わう極上の和牛と蜜焼き芋まで。
一条山農林が誇る、どこよりも真っ当で、どこよりも温かい「お給料日」の物語をどうぞお楽しみください。
第一章:運命の朝
どこまでも澄み渡る秋の青空が一条山の稜線をくっきりと切り取っていた。
梢を渡る風はすっかり涼やかで山肌からは乾いた落ち葉と針葉樹の清々しい香りが心地よく降り注いでいる。
プレハブ事務所の前には機能美を湛えた広々とした敷地が整然と広がっていた。
足元を彩るのは歩行者の動線に沿って敷き詰められたテラコッタ調のカラー透水コンクリートである。
その隣の重機ヤードにはキャタピラの旋回荷重やダンプの据え切りにも耐え抜く頑丈な高強度土間コンクリートが堂々と打設されていた。
土間コンの上には朝陽を浴びて鏡のように磨き上げられたコマツの中型油圧ショベルと狭小地用のミニバックホウが並ぶ。
その脇にはいすゞのエルフダンプがまるで出撃を待つ騎兵のように誇らしげに佇んでいた。
「……うう、いよいよこの日が来たっすね……!」
ピンク色のヘルメットを胸に抱きしめ黒木葵がごくりと喉を鳴らした。
黒髪ウルフロングの毛先が秋風にさらさらと揺れている。
二十歳を迎え現場監督としての頼もしさが板についてきたものの地雷系の華奢な佇まいと作業着のギャップは健在だった。
「あはは! 葵、そう緊張しなさんな。給料袋は足が生えて逃げたりしないよ」
オンロードカスタムを施した愛機ホンダ・XR400Rのシートに腰掛けたまま白石まひろがカラカラとハスキーに笑った。
二十一歳。
資材運搬のない晴れた朝は決まってこの単気筒の太い鼓動とともに山を駆け登ってくる。
オリーブドラブのミリタリータオルで首筋の汗をぬぐいながらも頼れる最年長の切れ長の瞳には期待の色が滲んでいた。
その隣で生まれたての子鹿のように膝を震わせ天を仰いでいたのは赤城遥花だ。
十九歳、現場の切り込み隊長である。
「神様……仏様……美和様……! ウチの財布も銀行口座も、残高はいま正真正銘の三十八円なんッスよ! コンビニのおにぎり一個すら買えないどころか、駄菓子屋のうまい棒三本買っただけで全財産が吹き飛ぶ完全な限界突破状態ッス! 今日の昼メシがかかってるんスよーーー!!」
「ふふっ、みなさま、今月も本当にお疲れ様でしたえ」
プレハブの木製デッキからバインダーを胸に抱いた一条結がおっとりとタレ目を細めて降りてきた。
ふわりとした京言葉の柔らかな響きが場を包む。
その後ろからはエプロン姿の櫻庭美和と淹れたての温かいコーヒーを手にした櫻庭天が穏やかな眼差しを浮かべてついてくる。
結はバインダーの金具を静かに緩めた。
ずっしりとした厚みのある特注の和紙封筒と緻密に印字された給与明細書を取り出す。
「お待たせいたしましたねぇ。本日は……一条山の開拓を支えるみなさまの、記念すべきお給料日どすえ〜♪」
第二章:一分単位の正当な対価
「テンゲキーーーーーッ!! 給料日きたーーーーーッ!!」
遥花が両手を突き上げて秋空へ絶叫した。
葵が胸を撫で下ろし、まひろも嬉しそうに口元を綻ばせる。
「それでは一人ずつ、今月の完全明細と共にお渡しいたしますねぇ」
結が最初に手招きしたのは現場監督の葵だった。
「まずは葵ちゃん。基本日当に加え、全自動タイムカード記録による一分単位の正規早出・残業手当が計三十二時間分。中型油圧ショベルおよびフォークグラップルの高度操作に対する重機特殊技能手当、さらに二級土木施工管理技士と車両系建設機械の資格保持手当を付与いたしましたえ」
手渡された和紙の封筒は指先にずっしりとした確かな重みを伝えてきた。
明細書に目を落とした瞬間、葵の大きな瞳がこぼれ落ちそうなくらいに見開かれる。
「て、手当が……! 特殊技能と資格手当だけで、うちの前職の基本給くらいあるっす……!? それに、一分単位の時間外手当が、一円のズレもなく全額入ってるっす……!!」
「当然どすえ。一分たりとも切り捨てるなど、我が社の辞書にはありませんのや。労働の対価は、流した汗の粒の数だけ正確でなければなりません。……次は、まひろちゃん」
結がさらに厚みのある封筒をまひろへと差し出した。
「まひろちゃんには、基本日当と残業手当に加え、一条山の植生管理および水脈再生における環境緑地技術手当。さらに……『道の駅かざはな』へ出荷した完熟丹波栗やむかご、ワイルドミント、天然クレソンについて、道の駅の委託手数料を除いた販売純益を全額還元する『出荷利益百パーセント還元手当』を上乗せしておりますのや」
「あはは! おいおい結社長、これ本当かい……!?」
封筒の口を覗き込んだまひろが思わず口笛を鳴らしそうになって息を呑んだ。
「こんなに還元されたら、XR400Rのハイコンプピストンどころか、ジムニーのブロックタイヤ四本履き替えて、土佐の手打ちナタが何本買えるか分からないよ……!」
「そして……最後は遥花ちゃん」
「ウ……ウチの番ッス……! 緊張で心臓が口から飛び出そうッス……!」
「遥花ちゃんには、加工部責任者としてのHACCP品質管理・役職手当、しいたけホダ場整備の特用林産物手当、そして今月の『桜印のマーマレード』大ヒットに伴う特別業績インセンティブをお渡しいたしますえ」
ごくりと喉を鳴らして封筒を受け取った遥花。
震える指先で明細の『差引支給額』の欄を凝視した。
「んぎゃぁぁぁぁぁッッ!!?? 桁が……桁が四つも五つも違うッスーーー!!?? ゼロが四つも増えてるッスよーーーー!! 三十八円からの大逆転大富豪ッスーーーー!!」
遥花はその場に崩れ落ちた。
高強度コンクリートの上に額を擦りつけて歓喜の涙を流す。
第三章:損益ゼロ・従業員第一主義
「結社長……」
封筒を胸元にぎゅっと抱きしめたまま葵が恐縮と戸惑いの入り混じった声を上げた。
「うちの会社、中古とはいえピカピカの重機を何台も揃えて、アタッチメントも買って、ヤードのコンクリート舗装までやったじゃないっすか。それなのに、うちらにこんな桁外れの手当を払って……会社、潰れたりしないんっすか……!?」
結はおっとりと微笑み小脇に抱えたバインダーを心地よい音を立てて閉じた。
「ふふっ、ご安心なさってくださいな、葵ちゃん。これこそが一条山農林の理念——透明な『損益ゼロ・従業員第一主義』どすえ」
結の頭脳に構築された緻密な財務モデルが淀みなく滑らかな言葉となって紡ぎ出される。
「今月は、国の『中小企業省力化投資補助金』、『林業イノベーション推進補助金』、『地域水生保全助成金』、『農業用ため池防災交付金』、そして『特用林産物対策事業補助金』など、うちと橘先生で事前に申請していた公的支援が、すべて満額で交付されましたのや。ルール通りに獲得した支援金によって、重機の導入費やインフラ整備費の自己負担分は最小限に抑えられておりますのえ」
「設備投資にかかる持ち出しを賢く圧縮できたからこそ、山で生まれた利益が手元にしっかり残る、というわけだね」
天がマグカップを傾け誇らしげに目を細めた。
「行政の制度を正当に使い倒して、会社の足腰を固める。だから、栗や山菜、マーマレードを売って現場のみんなが稼ぎ出した利益は、どこにもピンハネされず、丸ごとみんなの手当や賞与へ還元できるんだよ」
「適切な制度を活用して会社にしっかり残した正規の利益は、現場で泥にまみれて汗を流す葵ちゃん、まひろちゃん、遥花ちゃんの正当な対価として還元する。資本の論理で人を買い叩くような真似は、うちが絶対に許しませんのや」
「「結社長……っ!! マジで神どす……じゃなくて、神社長ッスーーーー!!」」
葵と遥花が揃って拝み倒し、まひろも深く感服したように頷いた。
その様子を後ろで見守っていた美和がふふっと鈴を鳴らすように笑う。
「結ちゃんが社長で、本当にみんな幸せねぇ」
第四章:プロショップの爆買いドライブ
午後。
給料日の恒例となった現場三人衆による資材調達とお買い物のドライブが決行された。
事務所の前に滑り込んできたのは遥花が大切に乗り倒しているスバル・サンバーディアスクラシックだ。
丸目二灯のクラシカルで愛嬌のあるフロントマスクが秋の陽射しを浴びて艶やかに光っている。
「さあ乗った乗った! ウチのディアスクラシックで爆買いドライブ出撃ッスよーーー!!」
助手席にまひろ、広々とした後部座席に葵が収まる。
軽快な四気筒エンジンの唸りとともに山を駆け下りた。
目指すは職人のワンダーランドである大型ホームセンター『コメリパワーPRO』、そしてプロユースの殿堂『ハンズマン』だ。
「よーーーし! 今日は気合い入れて買いまくるっすよーーー!!」
ハンズマンの工具コーナーに足を踏み入れた瞬間、葵の瞳に獲物を狙うスナイパーのような鋭い光が宿った。
「出たッス! 葵先輩の悪癖、名付けて『三個買いの法則』ッスね!」
遥花がカートを押しながら指差す先で、葵は手際よく商品を棚から引き抜いていく。
現場猫の新作耐水ステッカー、そして毎日現場で湯水のように消費するワコーズのブレーキ&パーツクリーナーのケース箱(三十本入り)だ。
「ステッカーみたいな消耗グッズは、迷わず三個買いが鉄則っす! 一個目は現場でヘルメットや工具箱に貼る実用! 二個目は泥やオイルで擦れた時の予備! そして三個目は、自宅の自室に設えた祭壇に飾る永久観賞用っす!!」
「パーツクリーナーを豪快に箱買いした横で、ステッカーはしっかり三個買い……! あ、良かった……! さすがにそのガラスケースに入ってるKTCの高級デジタルトルクレンチは、三個買いしないッスよね……!?」
遥花がおそるおそる尋ねると葵は胸を張った。
「バカ言え! 数万円もする精密測定工具を三個も買えるわけないでしょ! デジラチェは現場監督の一生モノの相棒っすから、この最高の一丁だけを入魂買いして、魂込めて使い倒すの!」
「あはは! さすが現場監督、そこはちゃんとお金の使いどころを弁えてるねぇ」
最年長のまひろは刃物コーナーのガラスケースの前で足を止めた。
以前から目をつけていた土佐手打ち・青紙二号の特製枝打ちナタをじっくりと品定めする。
職人の槌目が残る無骨な刃を光に透かし、握りの重心を確かめた。
さらに愛機XR400R用のモチュール製高級化学合成オイルを選ぶ。
使い込んだジャングルブーツに塗り込む純度百パーセントの保革油も迷わずカゴへ投入した。
そして所持金三十八円の極貧生活から一転、大富豪へと返り咲いた遥花はといえば——。
「まずはスマホで、CBR900RRの残りローンを三ヶ月分前倒し一括返済完了ッス!! さらに隣の大型書店でアルフォンス・ミュシャの超豪華ハードカバー画集を即買いして、楽器屋で愛機レスポール用のベルデン特注シールドケーブルを一本釣りッスーーー!! もう脳汁が止まらないッスよーーー!!」
それぞれが自らの腕と流した汗で勝ち取った至高の戦利品。
愛車の広い荷室へ隙間なく積み込み、夕暮れに染まる風花町へと誇らしげに凱旋した。
第五章:和牛と生のすりおろしワサビ
夜の八時。
風花町の静かな路地の奥。
街灯の灯りに照らし出された重厚なオーク材の扉を押す。
冷え始めた夜気を遮るように澄みきった静寂と遠くの春を思わせる微かな桜の花の香りがふわりと鼻腔をくすぐった。
入って右手には樹齢数百年の鉄刀木の一枚板を磨き上げたカウンターが横たわっている。
頭上の直接照明と間接照明が織りなす琥珀色のグラデーション。
正面の戸棚にはリーデルやバカラのクリスタルグラスが整然と並び虹色の微光を放っていた。
「いらっしゃい、みんな。今月のお給料日、本当におめでとう」
カウンターの奥で凛とした佇まいの美和が出迎えてくれた。
右目は深みのあるワインレッド、左目は神秘的なアンバー。
その美しい異色瞳が妹たちを迎える柔らかな慈愛に細められている。
「美和さんッッーーーー!! 今夜も神々しすぎて直視できないッスーーー!!」
ワークマンプラスを脱ぎ捨てて黒い地雷系私服に着替えた葵。
黒のノースフェイスをざっくり羽織ったまひろ。
ヴィンテージアロハにジャラ付けのシルバーリングを輝かせた遥花。
三人が吸い付くような本革張りの黒いローチェアーに並んで腰を下ろす。
美和が奥の厨房から絶妙な余熱で温められたシックな黒陶器のプレートを静かに運んできた。
今夜の給料日特別メニュー——『和牛の極上サイコロステーキ〜一条山特製わさび醤油添え〜』、そして『美和特製・厚切り和牛カツサンド』。
カウンターの静けさを汚さぬよう奥の厨房で完璧に火入れされた角切りの九州産黒毛和牛。
温められた黒陶器の上で絶妙な余熱によってジュワと食欲をそそる脂を艶めかせている。
その傍らには一条山の清らかな湧水地で手塩にかけて育てた本わさびを、美和がカウンター越しに鮫皮おろしで円を描くように丁寧にすりおろした翡翠色の山が贅沢に添えられていた。
「今月のみんなの素晴らしい頑張りへ、お姉ちゃんからの特別なお祝いよ。温かいうちに召し上がれ」
「いただきますっす……!」
二十歳の現場監督として葵が背筋を伸ばした。
震える箸先で九州産黒毛和牛の上質な赤身肉を一片持ち上げ、すりおろしたての生わさびをたっぷりと乗せて口へ運ぶ。
歯を当てるまでもなく極上の肉質が体温でふわりと解けていく。
噛み締めた瞬間に溢れ出す和牛の上質な旨味と甘み。
それを鮫皮おろしによって空気を含んでクリーミーに泡立った本わさびの鮮烈で爽やかな香りと品格ある辛みが鮮やかに引き締める。
「……美味いっす……!! 肉が、舌の上でとろけて消えるっす……! ワサビのツンとくる辛さが信じられないくらい澄んでて、脂の甘みを引き立てて……無限に食べられるっす……!」
「……ッハーーー! こりゃあ極楽だねぇ!」
まひろが目を細め、カツサンドを豪快に頬張った。
衣のサクサクとした香ばしさと分厚いヒレ肉の柔らかな旨味が口いっぱいに広がる。
「自分の手で山を拓いて、自分で稼いだお金で食べる肉は、どんな高級料亭の飯より美味いよ」
「脳汁ブースト限界突破ッスーーーー!! 美和さん、マジで世界一のバーテンダーにして最高の料理人ッスーーー!!」
第六章:特製モクテルと幸福の乾杯
「お肉を味わったら、喉を潤してね」
美和がカウンターの上に三つの異なるクリスタルグラスを音もなく滑らせた。
一人ひとりの好みと今夜の喜びに合わせて特別に調合されたスペシャル・モクテルだ。
まだ十九歳で未成年の遥花はもちろん、明朝から重機を動かす葵やまひろの安全、そして何より全員で同じ乾杯の幸福を分かち合えるよう美和が趣向を凝らしたノンアルコールの逸品である。
遥花の前にはブラッドオレンジの鮮烈な深紅に木苺のピューレとトニックウォーターを重ね、仕上げに金箔をひとひら浮かべた『クリムゾン・ゴールデンスパークリング』。
葵の前には高知県産の親生姜を黒糖とともにじっくり煮詰めた自家製辛口シロップを強炭酸水で割り、すだちを絞った『プレミアム・辛口ジンジャー』。
そしてまひろの前には一条山で朝摘みしてきた野生のワイルドミントを惜しみなく使い、自家製ライムコーディアルと合わせた『特製一条山クラフト・モヒート』。
「みなさま、本当にお疲れ様でした。乾杯どすえ〜♪」
カウンターの端に座る結と天が静かにグラスを胸の高さへと掲げた。
繊細なクリスタルグラス同士をカチンと打ち合わせるような真似はしない。
アンバー色の照明の下で琥珀や真紅に輝くグラスをスッと掲げ、互いに微笑みを交わしながら目礼する。
これこそがBar風花に流れる凛とした乾杯の作法だった。
柑橘の爽やかな酸味と生姜の心地よい刺激。
そしてミントの清涼な香りが喉を滑り降りていく。
「あおい……まひろ……はるか……きゅうりょうび……おめでとう……」
ふいに隣のローチェアーから小さな声がした。
見ればローチェアーにちょこんと収まった深雪が、黄金色の瞳をパチクリと瞬かせながら熱々の焼き芋を両手で大事そうに抱えて覗き込んでいた。
一条山で収穫後、定温でじっくり寝かせて極限まで糖度を引き出した安納芋を、奥のオーブンで天がじっくり蜜焼きにしてくれた特製のおやつだ。
「深雪ちゃん! ウチら、今日から大富豪ッスよ!」
遥花が破顔すると深雪はこくりと満足そうに頷いた。
手元にあった一番太く蜜がじっとりと溢れ出ている黄金色の芋をふたつにパキリと割る。
その半分をそっと三人の真ん中にある取り分け用の小皿へ差し出した。
「……みんな……がんばった……。ごほうびの……あまいお芋……あげる……」
「……っ〜〜〜〜!? 深雪ちゃん……! ありがとうッスーーー!!」
遥花が身悶えするように感激し、葵とまひろも顔を見合わせて黄金色に輝く温かな芋を大切に分け合った。
第七章:正当な対価と家族の絆
自分の手で重機を操りチェーンソーを振るって山を拓く。
額に汗を流して働き、法律と制度に基づいた寸分の狂いもない正当な対価を受け取る。
そしてそのお金でずっと欲しかったプロの道具や愛車のパーツを買い、夜には世界で一番温かい止まり木で大好きな仲間たちと最高の食卓を囲む。
不正も搾取もなく、誰かの犠牲の上に成り立つのではない。
これこそが一条山農林と『Bar風花』が守り続ける、どこよりも真っ当で、どこよりも誇り高いスローライフの姿だった。
「ふふっ、美味しいものをたくさん食べて、明日からも安全第一でね」
美和がカウンター越しに愛おしそうに手を伸ばした。
葵、まひろ、遥花、そして深雪の頭を順番に優しく撫でる。
「「「ご安全に!!!!」」」
三人の威勢のいい唱和が柔らかなアンバー色の光の中に溶けていく。
カウンターの奥で鉄刀木の天板が温かな光を吸い込み、グラスの氷がカランと心地よい余韻を鳴らした。
秋の夜風が静かに路地を吹き抜ける風花町で、満ち足りた笑顔と小さな乾杯の温もりは夜が更けるまでどこまでも穏やかに続いていくのだった。
【あとがき】
第十六話をお読みいただき、本当にありがとうございました!
今回は現場三人衆が待ちに待った、記念すべき「お給料日」のエピソードでした。
理不尽な搾取や中抜きのない、流した汗の粒の数だけ一分単位で正当に報われる会社。
国の制度を正しく使い倒して現場へ還元する結社長の信念と、自力で稼いだお金で胸を張って欲しいものを買い、最高の食卓を囲む葵、まひろ、遥花たちの弾けるような笑顔を描きたくて筆を執りました。
昼間のハンズマンでの「三個買い」の熱気から一転、夜の『Bar風花』でいただく九州産黒毛和牛のサイコロステーキに鮫皮おろしの本わさび、そして深雪ちゃんが分けてくれた安納芋の蜜焼き芋……執筆中、自分でもお腹が鳴って困るほどでした(笑)。
もし「三人娘の買いっぷりにスカッとした!」「こんなホワイト企業で働いてみたい」「夜のBar風花の料理やモクテルに癒やされた」と感じていただけましたら、画面下の【ブックマーク追加】や、評価の【☆☆☆☆☆】をポチッと押して応援していただけますと、日々の執筆の大きな励みになります!
感想やいいねもいつでもお待ちしております。
次回も一条山の仲間たちと一緒に、ご安全に!
天照(Bar風花)




