『一条山開拓記』閑話:白石まひろ 〜山親方と仲間を支える、ハスキーボイスの温かな誓い〜
【前書き】
※本エピソードは、一条山農林の頼れる副長・白石まひろの視点で描かれるスピンオフ閑話です。
※本編のサイドストーリーとなりますが、単体でもお楽しみいただけます。
※澄み切った秋空の作業道から、『Bar風花』へと繋がる温かな日常をお届けします。
澄み渡る秋空のもと、一条山の作業道にぽつんと佇む一台のジムニー。
かつては爆音と尖った孤独の中にいた少女が、泥と樹液の染み込んだ掌に見出したのは、山を愛し、仲間を守る確かな誇りでした。
温まりきったエンジンの熱気と、眼下に広がる風花町の街並み。
どうぞ、そっとカウンターの向こう側を覗いてください。
第一章:秋空と相棒の熱気
澄み渡る秋空がどこまでも広がる一条山の作業道。
作業を一段落させたところでディープグリーンと艶消し黒のジムニーからは温まりきったエンジンのかすかな熱気と機械油の匂いが心地よく立ち上っていた。
愛車のボンネットに体を預けた白石まひろは首元のオリーブドラブのタオルで首筋の汗を拭うとまるで秋風に問いかけられたかのようにハスキーな声で嬉しそうに笑った。
「あはは! あたしの今の気持ちかい? んー……そうだねぇ」
ポニーテールを秋風にそよがせながら彼女は眼下に広がる風花町の街並みと自分たちの手で育んできた山肌を愛おしそうに見つめた。
その瞳にはかつての刺々しさは微塵もなく澄み切った秋の陽射しのような温かな光が満ちている。
第二章:泥と樹液に宿る誇り
「……昔のあたしと言えばさ。バイクの爆音で自分のイライラを誤魔化して誰にも弱みを見せないように突っ張ってただけさね」
ぽつりとこぼした言葉が秋風の中に溶けていく。
「山や草木のラインを読むのは昔から好きだったけどさ。そんなオタクみたいな知識が世の中に認められるなんて思ってもみなかったよ」
まひろは懐かしむように目を細めると使い込まれた革手袋を脱ぎ自分の大きな掌を見つめた。
泥と樹液の匂いが染み込んだその手は今や一条山の自然と対話し大切な仲間を守るための確かな力となっている。
「でも今はどうだい? あたしが山に入って読んだ水脈や草木のラインがそのまま畳石のワサビ田になり原木しいたけのホダ場になりみんなが安全に作業できる道になってるんだ」
自分の指先を見つめながらまひろは口元に誇らしげな笑みを浮かべた。
「自分の大好きな農林と草木の知識が仲間を守って誰かの役に立ってる。……こんなに誇らしいことはないさね」
第三章:信じる仲間と正当な評価
そして山から目を転じ寄りかかっている相棒へ視線を戻した。
「それにさ……結社長の凄さには毎日感服させられっぱなしだよ。あたしたちが流した汗や培った知識をただの泥臭い労働じゃなく『高度技術手当』として正当に評価してくれてさ。このODのジムニーやマキタのチェンソーだって『仕事にも普段使いにもどんどん使ってくださいねぇ』なんて笑いながら全額経費と補助金で用意してくれるんだからねぇ」
まひろはジムニーのボンネットをポンと優しく叩き悪戯っぽく綺麗な八重歯を覗かせた。
「天ちゃんの書くルポだってさ。あたしたち現場の仕事を本当に格好良く誇らしく描いてくれるんだ」
ふっと呼吸を置きまひろの声が一層やわらかく深みを帯びていく。
遠く風花町の街並みを眺めるその眼差しは頼もしい副長としてまた温かなお姉ちゃんとしての情愛に満ちていた。
第四章:かけがえのない家族の笑顔
「だけどさ……あたしが今一番胸がいっぱいで嬉しいのは……葵ぼうや遥がここで自分の居場所を見つけて心から笑えてることさね」
作業道の静けさの中に彼女のハスキーな声がじんわりと染み込んでいく。
「あんなに大人を警戒してた葵ぼうが『重機の腕で一生恩返しする』なんて真面目な顔で言ったりさ。残高三十八円だった遥がHACCPの鬼になってドヤ顔決めてたりさ。あいつらがあんなに活き活きと自分の仕事に誇りを持ってる姿を見るのがあたしにとって一番の酒の肴なんだよ」
山を下りた後の情景を思い浮かべまひろの目尻が優しく下がる。
「夕方になって仕事を終えたらみんなで相棒たちを洗ってさ。夜になれば『Bar風花』の重厚な扉を開けて美和さんや千草お姉ちゃんが作ってくれた至高のご飯を味わいあたしたちが採ったハーブや果物を活かしたカクテルやモクテルのグラスを傾ける。深雪ちゃんが温かい焼き芋を半分こしてくれる……」
まひろは一度そっと目を閉じアンバー色の優しい光が満ちる店内の光景と大切な家族たちの笑顔を胸に抱きしめた。
「……あはは! 最高の人生すぎて笑いが止まらないよ!」
まぶたを開いた彼女の瞳には一切の迷いも曇りもない。
「あたしはね、この一条山農林と『Bar風花』に集まるこの家族が大好きさね。あたしの持ってる山と草木の知識そしてこの腕を全部使ってこれからも山親方や美和さんたちそして葵ぼうと遥を支えていくよ」
ジムニーのボンネットから軽やかに身体を離すとまひろはジャングルブーツの底でしっかりと一条山の地を踏み締めた。
首元のオリーブドラブのタオルをキュッと巻き直し眩しい秋空に向かって不敵で可憐な笑みを浮かべる。
「よしっ! 明日も気合入れて山を最高に磨き上げてやるかねぇ! ——ご安全に!!」
【あとがき】
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます。
今回は一条山農林の副長であり、葵や遥にとって温かなお姉ちゃんでもある白石まひろの閑話をお届けいたしました。
トゲトゲしていた過去を背負いながらも、自分の知識と技術で仲間を守り、居場所を作り上げた彼女の誇らしげな笑顔を描くことができ、執筆しながら私自身も温かい気持ちになりました。
昼間は泥と樹液にまみれて山を磨き、夜は『Bar風花』で大切な家族とグラスを傾ける——そんな彼女たちの愛おしい日常が、少しでも皆様の心に届いていれば幸いです。
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天照(Bar風花)




