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『一条山開拓記』閑話:白石まひろ② 本当の家族と、温かな家をくれたひとへ 〜姉貴分の告白と溢れる感謝〜

【前書き】


※本エピソード(一条山開墾記)は『Bar風花』本編の設定をベースにしたスピンオフ/パラレルストーリーです。

※本編との時期・時系列に一部独自のアレンジやIF要素が含まれます。

※白黒赤三人娘と結社長の賑やかな日常をお楽しみください!


夜の十一時を回り、静けさを取り戻した『Bar風花』の店内。

薪ストーブのやわらかな爆ぜる音と、グラスを揺らす透明な氷の音だけが静かに溶けていく空間で、白石まひろは一人グラスを傾けていた。

ずっと妹分の葵を守り続けてきた姉貴分だからこそ抱えていた、小さな悔しさと溢れるほどの感謝。

アンバー色の光の中で静かに紡がれる、家族と絆の温かな物語をどうぞごゆっくりお楽しみください。

第一章:静寂と感謝

 

 夜の十一時を回る頃。

 『Bar 風花 -kazahana-』の店内は、お客様の波が引いてかすかなジャズの余韻と薪ストーブのやわらかな爆ぜる音だけが優しく溶け込んでいた。

 現場事務所の整備場で愛車CBR900RRのメンテナンスに夢中になっている遥花のもとへ、「ウチも手伝うッス!」と嬉しそうに駆け出していった葵を見送ったあとの店内。

 カウンターに座っていたのは美和と、一人静かに琥珀色のカクテルが注がれたバカラのグラスを傾けていた白石まひろだけだった。

 グラスの中で揺れる透明な氷が「カラン……」と静かな音を立てる。

 ノースフェイス製ジャケットのジッパーを少し緩めたまひろはポニーテールを揺らし、柔らかなアンバーの光を受ける鉄刀木のカウンターを指先でそっと撫でた。

「……美和さん」

 ハスキーでどこか照れくさそうな声が静寂に包まれた店内に響く。

 美和はグラスを磨く手を止め、ワインレッドとアンバーの異色瞳を和やかに細めてまひろと視線を合わせた。

「なあに、まひろちゃん?」

 まひろは少し視線を泳がせるようにしてグラスの縁を見つめ、胸の奥の思いを噛み締めるように言葉を紡ぎ始めた。

「……葵のことさね。……あいつが実家のことでずっと苦しんでたのも、居場所がなくて突っ張ってたのも、あたしたちは昔から知ってたんだ」

 美和は何も言わず優しく頷いて耳を傾ける。

「あいつ、強がって『うちの親なんてどうでもいいッス』なんて笑ってたけどさ……本当は誰よりも愛されたがってた。誰かにちゃんと見てほしかったんだよ。あたしも遥も、あっちの世界の繋がりだからさ……仲間として寄り添うことはできても、あいつの根っこにある『家族の傷』までは、どうにかしてやることもできなかった」

 まひろの手が少しだけ強くグラスを握りしめた。

 副長として、そして姉貴分として妹分たちの面倒を見てきたからこそ抱えていた、自分たちの無力さという小さな悔しさ。

 それが彼女のハスキーな声に微かに滲んでいた。

「……あたしたちの手じゃ、あいつの心の穴を埋めてやれなかったんだよ。でも……」

 まひろはふっと顔を上げ、まっすぐな瞳で美和を見つめた。

「美和さんと天ちゃんが……『本当のお姉ちゃんとお兄ちゃん』として、あいつを丸ごと抱きしめてくれた。だからあいつ、はたちになってやっと、子どもみたいに泣いて甘えることができたんだ」

「あいつに本当の家と、温かい家族をくれて……美和さん、そして天ちゃんに……本当にありがとう……」

 まひろはそう言うとグラスからそっと手を離し、深々と心を込めて頭を下げた。

 その言葉と態度には、葵をずっと見守り続けてきた姉貴分としての偽りのない深い感謝と安堵がこもっていた。



 

第二章:温かな家族

 

 美和は愛おしそうに目を細めるとグラスから離れたまひろの手にカウンター越しにそっと手を伸ばし、その温かい手を包み込んだ。

「ありがとう、まひろちゃん。でもね、感謝するのは私のほうよ」

「……え?」

「まひろちゃんと遥花ちゃんが、どれだけ葵ちゃんを大切に守ってきたか。あなたがたの温かい絆があったからこそ、葵ちゃんは投げ出さずにここまで歩んで来られたの。私はただ、みんなが安心して帰ってこられる場所を用意しただけ」

 勝手口から薪を運び終えて戻ってきた天も、カウンターの内側からまひろの近くへ歩み寄ると、その肩をポンと優しく叩いた。

「そうだよ、まひろちゃん。君たちが居てくれたから、今の葵ちゃんがいるんだ。泥にまみれた苦労も分かち合ってきたんだから。それに……まひろちゃんだって、もうボクたちの家族なんだからね。頼もしい妹だよ」

 天の飾らない温かい言葉にまひろは一瞬呆気にとられたように目を丸くしたあと、どこか気恥ずかしそうにハスキーな笑い声をこぼした。

「……あはは。参ったねぇ。二人してそんな顔して言うなんて、ズルいさね」

 まひろは包まれていた手をそっと引き寄せてグラスを持ち直すと、それを軽く掲げ、目元を少し緩めた。

「よし……あたしも、あいつらの頼れる副長として、これからも一条山でしっかり山を磨いて、美和さんと天ちゃんを支えるさね!」

「ふふっ、ええ、頼りにしているわ。でもね、まひろちゃんも甘えたいときはいつでもここへ来てね」

 店内には薪ストーブの暖かさと、どこまでも静かで深い家族の絆が優しく満ちていくのだった。

【あとがき】


最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!

今回は一条山農林の頼れる現場副長・白石まひろの閑話をお届けいたしました。

これまで妹分たちの前で常に強くてカッコいい姉貴分であり続けた彼女が、ふと見せた「本音と深い感謝」。

そしてそれを丸ごと包み込む美和と天ちゃんの温かさを感じていただけたら幸いです。

葵や遥花を守ってきたまひろもまた、風花で温かく迎え入れられる大切な家族の一人です。


作品を少しでも楽しんでいただけましたら、ページ下部の【ブックマーク追加】や評価(★★★★★)で応援していただけますと執筆の大きな力になります。


作品へのご感想や温かいコメントもいつでもお待ちしております!

天照(Bar風花)

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